[CML 064947] 「偽情報」のレッテルは、ウクライナの重大な事実を無視するために使われる(下)

yorikazu shimada ningen @ hotmail.com
2022年 7月 18日 (月) 07:56:41 JST


「偽情報」のレッテルは、ウクライナの重大な事実を無視するために使われる(下)

ルカ・ゴールドマンスール 2022年5月18日

https://fair.org/home/disinformation-label-serves-to-marginalize-crucial-ukraine-facts/


NATOを非難から守る

マイダンクーデターと同じように、ロシアの侵略をアメリカ帝国の膨張と無関係に見ようとする企業メディアの主張は、NATOの政策に非難を加えるものをロシアの偽情報と決めつけることにつながっている。

歴史家で作家のイリヤ・ヤボクロフは、「プーチンが武器とした5つの陰謀論」(ニューヨーク・タイムズ、4/25/22)で、クレムリンの最も顕著な「偽情報」シナリオを挙げている。彼のリストの上位にあったのは、「NATOがウクライナを軍事キャンプに変えた」という考えだった。

冷戦の名残であるNATOが明確にロシアに敵対していることに触れずに、ニューヨーク・タイムズの記事はプーチン氏のNATOに対する軽蔑を、ロシアのプロパガンダに都合のいいパラノイアとして描いているのである。

「NATOはプーチン氏の最悪の悪夢である。セルビア、イラク、リビアでの軍事作戦は、ロシアがその軍事同盟の次の標的になるのではないかという恐怖を植え付けたのだ。また、プーチン氏の選挙民の反西洋的な要素を刺激する便利な悪魔でもある。プーチン氏のレトリックでは、NATOは米国と同義であり、ロシアが弱体化すれば息の根を止める「集団的西側」の軍事的手段なのである。」

NATOによるウクライナの軍事化が地域の緊張を高めているという主張を否定しているのは、ニューヨーク・タイムズ紙だけではない。ブルッキングス研究所のジェシカ・ブラントは、CNNニュースルーム(4/8/22)で次のように主張している。「中国がロシアのちょうちん持ちになっているのを見たことがあるのは、2カ所ある。1つは、侵攻のずっと前から、米国とNATOの足元に責任を押し付けていることだ」。ワシントン・ポスト社説(4/11/22)は、中国の「偽情報」には 「戦闘の責任はNATOにある」と主張することも含まれると、ほぼ同じ趣旨で論じている。ニューズウィーク(4/13/22)は、中国の偽情報が「ウクライナやその他の地域の混乱を米国の軍産複合体のせいにしている」と述べ、「ワシントンが「ロシアの安全保障空間を圧迫した」」と虚偽の主張をしているとした。

NATOによるロシア近隣諸国の軍事化が敵対行為であるという主張を「パラノイア」や「偽情報」と決めつけることは、米国のトップ外交官や反戦主義者が、NATOの旧ワルシャワ条約加盟国への拡張主義はロシアとの紛争につながると同様に何十年も警告してきたことを無視するものである。

元駐ソ連大使のジャック・F・マトロック・ジュニアは、1997年の時点で、NATOの拡大は冷戦の敵対関係の再開を脅かすと米上院に警告している(Responsible Statecraft, 2/15/22)。

「私は、この時期に新加盟国をNATOに取り込むという政権の提言は見当違いだと考えている。もしこれが上院で承認されれば、冷戦終結後の最も重大な戦略的失敗として歴史に刻まれるかもしれない。米国、同盟国、そして加盟を希望する国々の安全保障を向上させるどころか、ソ連が崩壊して以来、この国にとって最も深刻な安全保障上の脅威となる出来事を連鎖的に引き起こすことになりかねないのだ。」

ロシアを弱体化させる

こうした「偽情報」の主張は、欧米の当局者がロシアを弱体化させ、プーチン政権を終わらせることさえ明確な意図を持っているという、より現在の証拠も無視するものである。Ukrainska Pravda (5/5/22; Intercept, 5/10/22)によると、最近キエフを訪れたボリス・ジョンソン英首相は、ウクライナとロシアの間で平和協定が成立しようとも、米国はロシアと対峙する意思を保ち続けるとウォロディミル・ゼレンスキーに話したとある。

証拠はこれだけにとどまらない。この数ヵ月、ジョー・バイデンはプーチンが「権力の座に留まることはできない」という願望を漏らし、米国高官はロシアを弱めるという目的をよりオープンにするようになった(Democracy Now!, 5/9/22; Wall Street Journal, 4/25/22)。企業メディアはこうした動きに喝采を送り、ウクライナの防衛を越えてロシアへの攻撃につながる政策を支持する論説を掲載し(Foreign Policy, 5/4/22; Washington Post, 4/28/22)、「宮殿クーデター」への期待さえ表明した(The Lead, 4/19/22; CNN Newsroom, 3/4/22).

有名な反体制派のノーム・チョムスキーがインターセプトのジェレミー・スケーヒルとの対談(4/14/22)で述べたように、

「私たちは、私たちの明確な政策が、いかなる形の交渉も拒否するものであることを理解できる。この明確な方針はずっと以前に遡るが、2021年9月1日の共同方針声明で決定的な形となり、11月10日の合意憲章で再確認され拡大した。」

「その内容は、ウクライナにNATO入りのための強化プログラムと呼ばれるものに向かうよう求めており、交渉を殺しているのです。」

メディアがウクライナの戦争の炎をかき立てるNATOの責任を否定するとき、アメリカ人は、さらなる大惨事を防ぐための最も効果的な手段について知ることはできない。すなわち自国の政府に交渉を台無しにすることをやめさせ、交渉のテーブルにつくよう圧力をかけることである。こうした選択肢を無視すれば、ウクライナの戦争はいつまでも長引く恐れがある。

反対意見の封じ込め

バイデン政権がネット上の言論を取り締まることを目的とした新しい偽情報統制委員会を立ち上げるなか、アメリカの公式なシナリオに反対する発言をする人々を黙らせるという傾向は、さらにひどくなることは明らかである。
Russia Today、MintPress News、Consortium Newsなどのメディアは、Googleやその子会社であるYouTubeなどのプラットフォーム、あるいはPayPalなどのサービスによって、禁止されたり悪魔化されたりしている。MintPress News(4/25/22)は、YouTubeが「1000以上のチャンネルと15000のビデオを永久に削除した」と報じた。その理由は、それらが「十分に記録された暴力事件を否定、最小化、矮小化」しているというものである。同時に、そうしたプラットフォームは、ウクライナの極右を賞賛したり、ロシア人の死を呼びかけたりすることへの制限を緩めつつある(Reuters, 3/11/22)。こうした非対称的な検閲政策は、米国のプロパガンダを助け、反対意見を封じ込めている。

Consortium Newsの支持者から苦情の嵐を受けたペイパルは、コンソーシアム・ニュースのアカウントの削除を撤回したように見えたが、後になってこの撤回は「誤り」であり、コンソーシアムは実際には永久に禁止されたと表明した。コンソーシアム・ニュースの編集長であるジョー・ローリアは(5/4/22)、PayPalの禁止措置に反論している。

「政治情勢を考えると、ペイパルはコンソーシアム・ニュースのウクライナ戦争に関する報道に反応したと結論づけるのが妥当である。ますます流されている主流の言説とは合わないのだ」

欧米の報道機関は、新しい冷戦の枠組みを受け入れるとともに、かつて米国で反対意見を根絶やしにした冷戦下のマッカーシー的戦術を受け入れている。大国間の対立が激化する中、「支配的な物語」を守るためにメディアが議論を抑圧していることを米国の人々が理解することは、より一層重要なことである。チョムスキーの言葉を借りれば、

「アメリカには検閲の長い記録があります。公式の検閲ではなく、知識人が「困惑した群衆」「庶民」と呼ぶ人々が惑わされないようにするための、単なる装置としての検閲です。彼らをコントロールする必要があるのです。それが今、起こっているのです。」





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