[CML 064946] 「偽情報」のレッテルは、ウクライナの重大な事実を無視するために使われる(上)
yorikazu shimada
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2022年 7月 18日 (月) 07:55:52 JST
「偽情報」のレッテルは、ウクライナの重大な事実を無視するために使われる(上)
ルカ・ゴールドマンスール 2022年5月18日
https://fair.org/home/disinformation-label-serves-to-marginalize-crucial-ukraine-facts/
偽情報は、米ロの拡大する情報戦の中心的な手段になっている。米当局は、「情報の信頼性と正確性が高くない場合でも、情報を武器として使用する」ことを公然と認めており、企業メディアは、「クレムリンの戦術を先取りして混乱させ、軍事作戦を複雑にする」戦略でワシントンを支援することに熱心だ(NBC、4/6/22).
米国のシナリオ守るために、企業メディアは、米国の情報目標にとって不都合な現実を、ロシアやその代理人が流した「偽情報」と決めつける姿勢を強めている。
ニューヨークタイムズ(1/25/22)は、ロシアの偽情報は明らかに誤った主張の形をとるだけでなく、「真実だが現在の出来事とは無関係」なものも含まれると報じている−−正確な事実を「偽情報」として退けることができるという意味で、都合のよい定義だ。しかし、何が無関係で何が関係あるのかを誰が判断するのか、そしてその判断の指針は何なのか。こうした評価では、西側諸国の視聴者は気まぐれで、自分自身の判断に委ねることはできないのである。
ロシアの偽情報キャンペーンがウクライナ戦争を正当化する鍵であることは否定しない。しかし、こうした判断を欧米の情報当局や兵器メーカーに無批判に委ね、その結果、政治的解決の鍵となる現実を消し去るかわりに、メディアがどの情報が「無関係」であると判断する究極の指針は、ウクライナの民間人がこれ以上苦しむのを防ぎ、世界の二大核大国の緊張を緩和することに関連するかどうかにあるはずである。
欧米の視聴者、特にアメリカ国民にとって、都合の悪い現実に「偽情報」のレッテルを貼ったり、そうでなければ疎外したりすることは、自分たちの政府がいかに地域の緊張を激化させ、和平交渉の可能性を妨げ続け、引退した上級米外交官チャス・フリーマンが言うように、ロシア弱体化のために「ウクライナ人が全員死ぬまで戦う覚悟」があることをはっきりと理解できなくするものだ。
クーデター「陰謀論」
たとえば、ニューヨークタイムズ(4/11/22)は、選挙で選ばれたウクライナのビクトール・ヤヌコビッチ大統領を追放した2014年の「マイダン革命」に対する米国の支持は、中国政府がロシア支援のために広めた「陰謀論」だと主張した。その記事は、中国のニュース番組に出演し、米国がクーデターの指揮に協力したことを論じていたジャーナリスト、ベンジャミン・ノートンの顔を赤い線で消した画像を掲載した (ノートンは2015年から18年まで頻繁にFAIR.orgに寄稿していた)。彼が提示した証拠−−BBCが最初に報じた、当時の国務省職員ビクトリア・ヌーランドが野党指導者アルセニー・ヤツェニュクをウクライナの新首相に選んだように思われるリーク電話−−は、ニューヨークタイムズが自ら複数回(2014/2/6、2/7)報道したと彼は指摘している。
ノートンはタイムズからコメントを求められることはなかったが、自身の記事(Multipolarista, 4/14/22)で、ニューヨークタイムズは「米国政府の情報戦の道具として行動している」と主張した。
ヌーランドの明らかなクーデター計画を超えて、米国のウクライナ不安定化作戦は10年以上前にまで遡る。ロシアを孤立させ、ウクライナを欧米資本に明け渡そうと、アメリカは長い間「USAIDや全米民主化基金(NED)などの機構を通じて反政府感情を煽っていた」(FAIR.org、1/28/22)。ジョン・マケイン上院議員のような有名な米政府高官は、マイダン蜂起のさなかにデモ参加者を結集するまでに至ったのである。
極右が主導し、憲法上も疑わしい打倒の後、ロシアはクリミア半島を不法に併合し、東部ドンバス地域の分離独立運動を支援し、アメリカが支援するウクライナの新政府からの弾圧を促した。それから8年、この内戦で14,000人以上の死者が出た。そのうち3,400人が民間人の犠牲者であり、分離派の支配地域に偏っていることが国連のデータで示されている。ウクライナに残留することについての意見は、ドンバス内でもさまざまだ。
ニューヨークタイムズがロシアのクリミア併合を取材したとき、そこに住むロシア系住民が「先週末のヤヌコビッチ氏追放後に発足したウクライナ政府はファシストによるクーデターの違法な結果だ」と考えていることを認めた。しかし今、この新聞社は記録を変えるために偽情報の疑惑を利用している。
2014年のウクライナの政権交代に米国が関与した証拠の信頼性を貶めるために、この危機の政治的解決を支える可能性のある重要な事実を隠しているのである。危機を単にロシアの侵略という文脈に還元すると、たとえばドンバスの自治権拡大に関する住民投票を含む和平協定は、ウクライナにとって同意するのはとんでもないことのように思える。しかし、米国のクーデターによって引き起こされた内戦という文脈(ニューヨークタイムズはこの文脈を消し去りたがっている)では、この和平協定はより受け入れられやすい解決策に見えるかもしれない。
より広く言えば、欧米諸国の聴衆が自国政府が緊張の火付け役であることを認識すれば、米国の目的に対して懐疑的になり、和平交渉への意欲が高まるかもしれない。
ネオナチの正常化
ウクライナ社会におけるネオナチ集団の圧倒的な影響力(ヒューマン・ライツ・ウォッチ、6/14/18)−−ウクライナ国家警備隊の明確なネオナチ支部であるアゾフ連隊を含む−−も、偽情報として退けられてきた事実である。
欧米の報道機関はかつて、極右過激派を悪化する問題(Haaretz, 12/27/18)であり、ウクライナ政府が「過小評価している」(BBC, 12/13/14)と理解していた。大西洋評議会(UkraineAlert, 6/20/18)は、「ウクライナは極右暴力に本当の問題を抱えている(そしてロシアトゥデイがこのタイトルをつけたわけではない)」という記事で、こう書いている。
「アムネスティ・インターナショナル、ヒューマン・ライツ・ウォッチ、フリーダムハウス、フロント・ライン・ディフェンダーズは書簡で、「愛国心のうわべ」と「伝統的価値」の下で行動する過激派グループが、「これらのグループがさらなる攻撃を行うことを助長する以外にない、ほぼ完全に免罪された雰囲気」の下で活動することが許されていると警告している。」
「はっきり言って、スヴォボダのような極右政党はウクライナの世論調査や選挙で成績が悪く、ウクライナ人は彼らによって支配されたいとは思っていないことがうかがえる。しかし、この議論はちょっとした「論点ずらし」である。ウクライナの友人たちが懸念すべきは、過激派の選挙での見通しではなく、暴力集団に立ち向かい、彼らの免罪符をなくそうとしない、あるいはできない国家の姿勢なのである。」
しかし、今や欧米メディアは、声は大きいが取るに足らない極右を特別視することはロシアの偽情報キャンペーンを利するだけだと主張し、それらのグループの重要性を矮小化しようとしている(New Statesman, 4/12/22)。ウクライナの極右の「本当の問題」について警告してからほぼ3年後、大西洋評議会(UkraineAlert、6/19/21)は「ウクライナに関するロシアの偽情報に共鳴する危険性」と題する記事を掲載したが、そこではウクライナの右翼が選挙で疎外されているという議論が「論点ずらし」であることをまるで忘れているかのようであった。
「現実には、ウクライナの民族主義政党は、多くのEU加盟国の同種の政党よりも支持を得られていない。特筆すべきは、2014年のロシアとの敵対関係勃発以降に行われた2回のウクライナ議会選挙で、民族主義政党は惨敗し、ウクライナ議会入りの基準である5%を下回っていることである。」
「白人種をリードする」
ロシアのプロパガンダは、その違法な侵略を正当化するために、ウクライナ政府の中にあるナチスの要素−−それは「ファシスト」と呼ばれる−−の力を誇張するが、このプロパガンダを捉えて、逆にこれらの要素の影響力と過激さを軽視する(例えば、USA Today, 3/30/22; Welt, 4/22/22)ことは、米国とNATOの軍事援助の延長が、これらの集団に力を与えることになるという重要な議論を妨げるだけである。
フィナンシャルタイムズ(3/29/22)とロンドンタイムズ(3/30/22) は、偽情報というラベルを使って国家警備隊における過激派の影響を軽視するために、アゾフ連隊の評判を回復させようと試みた。フィナンシャルタイムズは、アゾフの創設者アンドリー・ビレツキーと無名のアゾフ司令官を引用して、アゾフのメンバーを「愛国者」とし、「ネオナチのラベルを『ロシアのプロパガンダ』としてはねのける」と報じたのだ。アゾフの政治部門である政党「国民軍団」の政治綱領の起草を手伝った「コンサルタント」であるAlex Kovzhunは、アゾフが「歴史家、サッカーのフーリガン、軍隊経験のある男性で構成されている」と、軽妙な人情味を加えている。
フィナンシャルタイムズが、アゾフがナチスとは無関係だという問題で、かつて国民軍団について「世界の白色人種を率いてセム人〔ユダヤ人〕率いるUntermenschen(亜人)に対する最後の聖戦に臨む」(ガーディアン、3/13/18)と宣言したビレツキーの言葉を信じることは、欧米メディアが、最も基本的なジャーナリズムの責務と倫理を犠牲に情報戦をおこなっている典型例と言えるだろう。
アゾフはボランティアの殺到に隊列を開き、ウクライナの極右運動、それも「投票所で人気を証明したことのない」運動とのつながりを薄くにしているとフィナンシャル・タイムズは続けた。BBC(3/26/22)も、ウクライナの極右についての主張を「虚偽と歪曲の混合」と断じ、選挙での周縁性を挙げている。プーチンの歪曲は論破する必要があるが、どちらの放送局も、これらのグループの突出した影響力が、選挙への参加よりも政治的暴力の能力から来ることを認めることはない(Hromadske、10/13/16; Responsible Statecraft、3/25/22)。
ロンドンタイムズの記事の中で、アゾフ司令官エヴゲニイ・ヴラドニクは、ネオナチとの主張はロシアの偽情報であると断じた。「おそらく(プーチンは)本当にそれを信じているのだろう」「彼は奇妙で歪んだ世界に住んでいるのだから。我々は愛国者だが、ナチスではない」。確かにこの記事では、「アゾフにはサッカーのフーリガンや超国家主義者がそれなりにいる」が、「翻訳家や書籍編集者として働いていたザイコフスキーのような学者」も含まれていると報じている。
このような「愛国者」を支援するために、欧米諸国は、より多くの武器を求める彼らの「緊急の嘆願」に応じるべきなのである。「地域奪還のためには、NATOから車載型対空兵器が必要だ」とヴラドニクは言う。このように、欧米メディアは「ロシアの偽情報」というレッテルを使って、ウクライナの極右の脅威を軽視するだけでなく、欧米に彼らを武装させるようにさえしているのである。
Responsible Statecraft (3/25/22)は、そうしたメディアの矮小化に反発し、「ロシアのプロパガンダは、ウクライナの極右民族主義グループの現代の強さをとんでもなく誇張している」と警告する一方、次のように述べた。
「これらの集団はウクライナ国家警備隊に統合されたものの、自律的なアイデンティティと指揮系統を維持しているため、長期にわたる戦争の過程で、彼らは手ごわい第五列を形成し、ウクライナの戦後の政治力学を過激化させる可能性がある」
軍事援助の長期化がウクライナの政治をネオナチ集団に有利なものに変えかねないという事実を無視することは、ウクライナの民主主義と市民社会にもたらされる脅威を理解する妨げになるのである。
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