[CML 060658] 「日本語版ウィキペディアで『歴史修正主義』が広がる理由と解決策」の紹介
kodera @ tachibana-u.ac.jp
kodera @ tachibana-u.ac.jp
2021年 1月 13日 (水) 11:16:53 JST
皆様
Wikipediaを使われることもあると思いますが、改めて大きな問題があることを
知っていただきたく、長文ですが投稿します。
米国在住の佐藤由美子さんが「日本語版ウィキペディアで『歴史修正主義』が広
がる理由と解決策」という問題提起を来月、Interaction 21という国際学会で行
うそうです。その要約が日本語で下記ブログにかかれています。
https://sable.madmimi.com/c/7493?id=67304.16085.1.e3ceed32ace1e34e8b0c512058c872d5
佐藤さんは米国でホスピス緩和ケアの音楽療法を実践されている方です。その中
で戦争のトラウマを抱えている様々な方と出会ってこられました。そのことは
『戦争の歌がきこえる』(柏書房)で書かれています。私は直接お会いしたこと
はありませんが、ZOOMでの講演をお聞きし、その真摯な生き方に感銘を受け
ました。
上記ブログのまとめに佐藤さんはこう書かれています。
「日本語版ウィキペディアはディスインフォメーションで溢れています。特に日
本の戦争犯罪などセンシティブな歴史に関するページでは、問題の趣旨を曖昧に
してごまかし、事実を隠す傾向があります。ウィキペディアが歴史修正主義を生
み出したわけではありませんが、それを加速していることは明らかです。日本語
版ウィキペディアは1か月間で10億ページ以上が閲覧されるほどの人気サイトで
あるため、その影響力は計り知れません。」
そのことを佐藤さんは英語版との記述の比較などを通して実証的に考察していま
す。
そもそもウィキペディアを鵜呑みにするべきではないというのは当然ですが、ウ
ィキペディアが目指した「公共圏(public sphere)において社会問題を自由に
議論することによってトゥルース(真実・事実)にたどり着くという考え」には
一定の意味があると私も思います。しかし、佐藤さんが指摘するように、日本に
は「公の場で社会問題を自由に議論する」伝統はありません。ネット上でも実名
でオープンに議論し合う機会はとても少ないのです。そして日本版ウィキペディ
アの編集者も40%以上が未登録で匿名のユーザーで、主要10言語のウィキペディ
アのうちで最も高いそうです。日本語版ウィキペディアは「公共圏」ではなく、
むしろ「匿名掲示板」のようになっていると佐藤さんは言っています。
この問題について佐藤さんはウィキペディアを運営するウィキメディア財団や日
本語版編集者コミュニティに問い合わせ、問題のあるページの間違いを修正して
投稿したそうですが、すべて消されてしまいました。そもそも「南京事件(南京
大虐殺)」のページは編集できないようになっていたのです。このページを編集
できるのは管理者だけですが、多言語版と比べても日本語版はユーザーに対する
管理者数が最も少ないそうです。(登録ユーザー118,000人、「管理者」はわず
か56人0.29%)。ごく少数の人々がプラットフォームをコントロールしているの
です。
佐藤さんは、「テクノロジープラットフォームで起きている事は、最終的にはそ
のプラットフォームを作り、運営している会社や団体の責任であるはずです。ウ
ィキペディアの場合も同じく、日本語版ウィキペディアで起きている問題の責任
は、ウィキメディア財団にあります。まずは私たちがそのことを認識し、財団に
改善を要求する必要があるでしょう」としています。
それと共に日本にいる私たちは、歴史修正主義的記述がある場合、繰り返し日本
版ウィキペディア編集者に是正を求めていくことが必要だと思います。
ぜひ上記のブログをご覧ください。
小寺隆幸
CML メーリングリストの案内