[CML 054663] 徴用工問題は本当に解決済みなのか?
donko at ac.csf.ne.jp
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2018年 12月 30日 (日) 19:02:39 JST
坂井貴司です。
転送・転載歓迎。
韓国の徴用工判決に対して日本のマスコミと世論は安倍政権と一体化して
「日韓基本条約違反だ!
何回ゴールポストを移動させたら気が済むのだ。
ちゃぶ台返しはいい加減にしろ。
もう、こんな国とは付き合いきれない」
と大合唱を続けています。見事なまでの挙国一致です。
これに対して、極めて保守色が強い自民党王国である熊本県で、長年教科書問
題、日韓市民連帯、従軍慰安所問題、被差別部落解放運動に取り組んできたアジ
ア共同行動・日本連(AWC)会員の田中信幸さんが、
「韓国の主張は本当に不当なものなのか?
日韓基本条約によって全てが解決したのか?」
との疑問から『平和憲法を活かす熊本県民の会』のニュースに以下の文を掲載し
ました。
徴用工判決や従軍慰安所問題などの論点が整理されている優れた記事です。
(ここから)
「徴用工問題は本当に解決済みなのか?」
田中信幸
●吹き荒れる韓国バッシング
戦時中、日本が朝鮮の人々を労働力として強制動員した、いわゆる「徴用工」
問題。韓国の大法院(最高裁)は10月30日、元徴用工が求めた損害賠償について、
新日鉄住金への支払命令を確定させた。
これに対し、「徴用工問題は1965年の日韓請求権協定で完全かつ最終的に解決
している」という立場の日本政府は猛反発。安倍首相は即座に「国際法に照らし
てありえない判断」と批判、河野太郎外相や菅官房長官らは韓国政府が適切な措
置を取らない場合は、国際司法裁判所に訴えると発言した。
いや、日本政府や極右政治家だけではない。国内のマスコミもまた、口を揃え
て反発の姿勢をみせている。新聞では「政府は前面に立ち、いわれなき要求に拒
否を貫く明確な行動を取るべき」(産経新聞「主張」)、「今回の大法廷の審理
でも、反日ナショナリズムに迎合し、不合理な認定を踏襲した」(読売新聞社説)
だけでなく、残念なことに朝日新聞や毎日新聞も「日韓関係の根幹を揺るがしか
ねない」として批判的な論調だ。テレビの全ての報道番組も政府見解の垂れ流し
だ。韓国との親善交流事業を中止した自治体まで現れている。
私は、メディアが本当にしなければいけないのは、「日韓の戦後補償問題は本
当に1965年で完全かつ最終的に解決された」という乱暴な論理をもう一度検証し
直すことではないかと言いたい。これは「慰安婦問題」にも通じる。
●そもそも日韓条約とは
1965年に締結された日韓基本条約について少しふり返ってみる。サンフランシ
スコ条約に参加できなかった韓国との国交回復交渉は、冷戦体制下で日本と韓国
を「反共防波堤」として打ち固めたいアメリカの強い要求によって始まった。十
年以上かかった交渉の中で最大の懸案は三十六年間の植民地支配を「不法」と認
めるのか否かであった。日本政府は久保田発言で「植民地支配は悪い面もあった
が、禿山が緑の山に変り、鉄道港湾の建設、米田の拡大等日本は良いことをした」
などと“植民地宗主国”意識丸出しの主張をしたため、会談が中断される事態を
招いた。しかしベトナム戦争に突入したアメリカの要請で、佐藤内閣と朴正煕軍
事独裁政権との間で65年にようやく締結された。「謝罪」や「賠償」ではなく
「経済協力」を主とした条約締結に対し、韓国国民は「屈辱外交」「韓日癒着」
として大きく反対した。
基本条約第二条では「1910年8月22日以前に大日本帝国と大韓帝国との間で締
結されたすべての条約及び協定は、もはや無効であることが確認される」と書か
れているが、韓国側は「もはや無効」(この言葉は日本側の強い要望で入れた)
という文言を、「過去の条約や協定は、(当時から)既に無効」と捉えたが、日
本政府は「過去の条約や協定は、(現時点から)無効になると確認される」と解
釈した。 つまり韓国側は「(併合条約は)過去日本の侵略主義の所作」として植
民地併合条約がすでに無効と捉えるのに対して、日本政府は植民地併合条約はは
合法であり、1948年の大韓民国の樹立によって無効となったと主張した。
●賠償ではなく経済協力が本質
さらに、基本条約の付属協約として「日韓請求権並びに経済協力協定」が結ば
れたが、これが今回問題になる韓国大法院判決と関連する。この第二条は「両締
約国は、両締約国及びその国民(法人を含む)の財産、権利及び利益並びに両締
約国及びその国民の間の請求権に関する問題が、(中略)完全かつ最終的に解決さ
れたこととなることを確認する。」とある。しかし、日本政府はこれ以降、条文
の「完全かつ最終的に解決された」とのフレーズを印籠のように振りかざし続け
て現在に至る。
はたして、その実態はどうであったのか。、『協定』には、この「供与及び貸
付けは」、 (韓国国民の請求権への支払い等ではなく) 「大韓民国の経済の発
展に役立つものでなければならない。」 (第一条1項)と明記されている。この
ような日本側の立場を、当時の椎名外相は 「経済協力の問題を進め、この問題が
成立すればその随伴的効果として請求権は消滅する」 (衆議院・外務委員会/
1965 年 3 月 19 日)と述べた。 つまり、「請求権」に対する支払等は全くして
いないのに、請求権問題が「完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認
する」(『請求権協定』第二条1項) というのだ。
この「経済協力」は、お金(無償3億ドル、有償 〔貸し付け〕2億ドル)を直
接、韓国政府に渡す形ではなく、「日本国の生産物及び日本人の役務」で支払う
形だったので、そのお金はその「生産物・役務」を提供した日本の企業や商社に
渡された。しかも、このお金を何に使うかについて、韓国政府はその「実施計画」
を作成し、日本政府の承認を得なければならなかった。
軍人・軍属・労務者で死亡した一部の被害者にはわずかな補償がなされたが、
韓国政府(軍事独裁政権)はその「経済協力金」を戦争や強制連行で被害を受け
た自国民への補償には使わず、「漢江の軌跡」と言われる韓国経済の発展に回し
た。
この「経済協力」は、日本企業にとって、利益を求めて韓国へ「経済進出」する
絶好の「引き金」―機会となったのであり、これこそ、日本政府の意図するとこ
ろであった。そして、これ以降の、日本企業の韓国への怒涛の「進出」は、まさ
に、経済侵略と呼ばれる性格のものだったのである。
●大法院判決について
あらためて韓国大法院の徴用工判決の趣旨を点検すると、裁判長を含む多数意
見は「日本政府の朝鮮半島に対する不法な植民地支配および侵略戦争の遂行に直
結した日本企業の反人道的な不法行為を前提とする強制動員被害者の日本企業に
対する慰謝料請求権」は、請求権協定の適用対象に含まれていない(共同通信よ
り)と判断している。請求権協定によって原告の個人請求権が消滅していないの
はもちろん、国が国民に代わって相手国に請求できる外交保護権はこの問題に関
しては適用できないとしつつも、「植民地支配および侵略戦争の遂行に直結した
日本企業の反人道的な不法行為を前提とする」慰謝料の請求権については失われ
ていないという主張をしている。
●日本政府は個人の請求権を認めている
日本政府やメディアはひた隠しにしているが、これまで日本の外務省もまた、国
会で何度も「日韓請求権協定は、個人の請求権そのものを消滅させたものではな
い」と明言しているのだ。
たとえば、1992年2月26日の土井たか子議員に対する柳井俊二条約局長の答弁に
おいて「その個人のいわゆる請求権というものをどう処理したかということにな
りますが、この協定におきましてはいわゆる外交保護権を放棄したということで
ございまして、韓国の方々について申し上げれば、韓国の方々が我が国に対して
個人としてそのような請求を提起するということまでは妨げていない。しかし、
日韓両国間で外交的にこれを取り上げるということは、外交保護権を放棄してお
りますからそれはできない、こういうことでございます。」
土井たか子「結局は個人としての持っている請求権をお認めになっている。そ
うすると、総括して言えば完全にかつ最終的に解決してしまっているとは言えな
いのですよ。」
こうした政府の国会答弁に従えば、韓国大法院の決定は日韓請求権協定を踏まえ
ており、日本政府が「あり得ない判断」などと騒ぐ根拠はどこにもないことがわ
かる。
●和解で解決してきた日本企業
日本の裁判所も戦前のでたらめな法理である「国家無答責」(国家ないし官公
吏の違法な行為によって損害が生じても、国家が賠償責任を負わない)を盾にし
て悉く原告敗訴の判決を積み重ねてきたが、中国人強制連行の西松建設最高裁判
決(2004年)は1972年の日中共同宣言で「中華人民共和国政府は,中日両国国民
の友好のために,日本国に対する戦争賠償の請求を放棄することを宣言する。」
としているから、中国は外交保護権を失ったけれども「中国国民が請求権を放棄
することは明記されておらず,中華人民共和国政府が放棄するとしたのは『戦争
賠償の放棄』にとどまること」という判断を示している。
最高裁は、裁判はできないけど、債務不履行の企業が債務を履行する、つまり、
自主的に支払って清算したらと勧告し、西松建設はそれを受け入れて財団を作っ
て支払いをして清算・和解したのだ。ただし、額は一人当たり174万円と少なかっ
た。最近でも、三菱マテリアルが同様の財団を作って解決する決着をしている。
●安倍が和解をつぶした
こうした流れに危機感を抱いたのが経団連と安倍政権である。11月1日付毎日
新聞によれば、「『あり得ない判断だ』。安倍晋三首相は判決を憤然と批判した。
しかし日本側ではかつて、和解を探る動きもあった。13年7月にソウル高裁が新日
鉄住金に賠償を命じた直後、同社では韓国内の関連資産の凍結を恐れ1確定判決
に従う2判決前の和解―といった選択肢が議論されていた。
元朝鮮女子勤労挺身隊員の韓国女性に日本で訴えられた不二越は、00年に解決
金を支払って和解。さらに公的機関の社会保険庁(廃止)が三菱重工業で働いた
元隊員の女性らに、日本で加入した厚生年金の脱退手当金を支払った経緯もある。
だが新日鉄住金の検討状況が報道で明るみに出ると、日本政府では『協定が骨抜
きになる』(外務省関係者)と反発が強まった」
2013年11月には経団連は元徴用工問題で日本企業へ賠償を命じる判決が相次いで
いることを受けて、「今後の韓国への投資やビジネスを進める上での障害となり
かねず」という声明を出し、これに応じないよう政府にも強く働きかけてきた。
こうした財界からの強い働きかけと、安倍政権の歴史修正主義が合体して、メデ
ィアを巻き込んでの韓国バッシングの大合唱となったのである。安倍政権が和解
への動きをつぶしたのだ。
私は、「挙国一致」で韓国の国民と文在寅政権を叩く日本の空気に強い危機感
を抱いている。歴史認識を怠り、国内のメディアの報道やネットの情報に浸って
いると、知らずのうちにファシズムに取り込まれてしまうのではないかと滅入っ
てしまう。でも負けるわけにはいかない。がんばろう。
(ここまで)
坂井貴司
福岡県
E-Mail:donko at ac.csf.ne.jp
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「郵政民営化は構造改革の本丸」(小泉純一郎前首相)
その現実がここに書かれています・
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