[CML 043108] 【高知新聞】日本も経済的徴兵制に? ジャーナリスト・堤さんに聞く+【毎日新聞】特集ワイド 狙われる?貧困層の若者 「経済的徴兵制」への懸念

uchitomi makoto muchitomi at hotmail.com
2016年 4月 25日 (月) 09:41:41 JST


日本も経済的徴兵制に? ジャーナリスト・堤さんに聞く
https://www.kochinews.co.jp/article/14013/

貧困層が支える米の戦争「格差広げるだけでいい」

 安全保障関連法ができると、「徴兵制になる」という声がある。これに対し、2001年の米中枢同時テロ後の米国を取材するジャーナリストの堤未果さん(44)は「米国の戦争は徴兵制など必要としていない」と言う。「格差を広げるだけで貧困層が戦場に向かう。『経済的徴兵制』が今の戦争を支えている」――。日本が軍事協力を深めようとする米国の姿を聞いた。

■「自ら」入隊

 「対テロ戦争」を始めた米国では国防費が増大し、代わりに社会保障費と教育費が切り下げられました。国民皆保険制度がもともとなく、非正規労働者の多い米国では、毎年数十万人が医療費を払えず破産し、格差が広がっています。

 テロ翌年には教育改革法ができ、共通学力テストを義務化し、成績のいい学校には予算を出し、悪い学校は削減しました。大学にも競争原理が導入され、授業料は国立も私立も上がりました。

 医療保険に入れない子、学資ローンを返済できない子が急増し、そこに手を差し出したのが米軍です。

 軍に入れば学費を出してくれ、入隊中に職業訓練が受けられ、兵士用の医療保険に加入できる―。そんな特典で軍のリクルーターが勧誘し、子どもたちは次々と「自ら」軍に入りました。子どもの個人情報が学校から軍に流れる仕組みもできています。

■戦争民営化

 21世紀の戦争は「民営化された戦争」なのです。

 ブラックウオーター社やハリバートン社のように「傭兵(ようへい)」を派遣する民間の戦争請負会社は増えているし、さらに言うと、戦争はドンパチだけじゃありません。

 ブッシュ前政権で、兵士の食料や防弾チョッキなどの装備、資機材、警備、運輸、医療などが次々と民間委託されました。各業界が網の目のように戦争に関わり、戦争が長引けば長引くほど、この市場は巨大化していくのです。

 こうした多国籍企業や財界はいまや米国の政策決定に深く関わっています。だからオバマ政権になっても、戦争も医療も大企業の一人勝ち体制は変わらない。

 米国のある国会議員は私に言いました。「議会制民主主義は『紙くず』になった」と。

■破綻モデル

 今の日本はどうでしょうか。

 小泉政権下で社会保障費はカットされ、非正規雇用が増え、格差が広がりました。大卒者で奨学金の返済を延滞している数は30万人を超えています。

 2014年、文部科学省の有識者会議で、経済同友会の幹部が奨学金滞納者について「警察庁や防衛省でインターンをやったらどうか」と提案しています。

 まさに米国と同じ道を着々と進んでいる。こうした米国型政策がどう決まっていくかご存じですか?

 大きな影響力を持つのが「経済財政諮問会議」という、選挙で選ばれてもいない大企業や財界中心の民間議員の存在。この会議が提案し、政府が閣議決定して、国会の数の力で速やかに成立する―という3段階方式です。

 例えば、5月に成立した「医療保険制度改革関連法」は、未承認薬を保険外で使う規制を緩めました。財界主導で医療や労働政策の骨子が作られ、最後の防波堤である「国民皆保険制度」が崩されようとしている。

 「戦争に行きたくない」と安保法制に反対する世論が高まっていますが、足元では「経済的徴兵制」の環境が着々と整えられています。

 米国で取材した若者たちは奨学金返済などに困って入隊し、イラクやアフガニスタンに派遣され、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を患っていました。帰還兵は自殺率も高い。戦争で関連産業の株価が一時的に上がっても、社会の抱える負のコストは膨大なのです。

 米国は、暴走した資本主義の「破綻モデル」を私たちに示している。同じ道に引きずられてはなりません。

つつみ・みか ニューヨーク市立大学大学院から国連婦人開発基金(UNIFEM)などを経て、証券会社勤務中に米中枢同時テロに遭遇した。ジャーナリスト転身後、「ルポ 貧困大国アメリカ」(岩波書店)で日本エッセイスト・クラブ賞を受賞。ほかに「沈みゆく大国アメリカ〈逃げ切れ!日本の医療〉」(集英社)など。東京都出身。

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【毎日新聞】特集ワイド
狙われる?貧困層の若者 「経済的徴兵制」への懸念

毎日新聞2015年7月23日 東京夕刊
http://mainichi.jp/articles/20150723/dde/012/010/004000c

観閲式で行進する防衛大学校の学生。将来、生活苦から入隊を志願する若者が増える可能性はないのか=埼玉県和光市で2013年10月27日、中村藍撮影
 
 絶対、あり得ない−−。安全保障関連法案の議論で「徴兵制復活に道を開くのではないか」と追及を受けると、安倍晋三首相ら政権幹部は必ず断定調で反論する。だが今、経済的な事情から貧困層の若者が自衛官の道を選ばざるを得ない「経済的徴兵制」への懸念が語られ始めている。これを杞憂(きゆう)と言えるのか。【小林祥晃】

「苦学生求む」自衛隊勤務で学費無料/下位階級は大幅な定員割れ

 「格差社会では、徴兵制は必要ありません。志願兵はいくらでも、経済的徴兵制で集められるのですから」。米国社会に詳しいジャーナリストの堤未果さんは言う。どういうことか。

 貧困から抜け出し、人間らしい生活をするためにやむなく軍に入隊する。そんな実態を、米国では「経済的徴兵制」あるいは「経済的な徴兵」と呼ぶ。堤さんは著書「ルポ 貧困大国アメリカ」で、経済的徴兵制に追い込まれた若者の例を紹介している。

 イリノイ州のある若者は「この国で高卒では未来がない」と、無理をして大学を卒業したが職がなかった。残ったのは奨学金約5万ドル(約620万円)の返済と、在学中の生活費に消えたクレジットカードの借金約2万ドル(約250万円)。アルバイトを掛け持ちして返済に追われたが、そんな生活を変えたいと2005年に軍に入隊した。

 入隊したのは、国防総省が奨学金返済を肩代わりする制度があるためだ。米軍には他にも、除隊後の大学進学費用を支給する高卒者向けの制度もある。「若い入隊者の多くは、こういった学資援助の制度に引かれて志願しますが、入隊期間などの支給条件が厳しく、奨学金や進学資金を満額受給できるのはごく一部」(堤さん)。ちなみに、イリノイ州の彼は入隊直後、イラクに約1年派遣されたが、帰還兵特有の心的外傷後ストレス障害(PTSD)を患い、働けなくなった。

 世界の兵役拒否制度を調べている京都女子大の市川ひろみ教授(国際関係論・平和研究)によると、米国が徴兵制から志願制に切り替えたのはベトナム戦争から米軍が撤退した1973年。その後、フランスも90年代半ばに、イタリア、ドイツは00年以降、相次ぎ志願制になったという。「徴兵制の廃止や停止は世界的傾向です。無人機の登場に象徴されるように、大勢の兵士が総力戦にかり出された第二次世界大戦期などとは、戦争のあり方が激変したのです」と説明する。

 だが、いくらハイテク兵器が発達しようが、敵地を占領するには地上戦は欠かせない。だから軍隊は若い兵士を一定数確保する。米国の場合、ここで経済的徴兵制が機能する。

 堤さんが解説する。「社会保障費や教育費の削減とともに、経済的困窮者の入隊が増えたのです。特に08年のリーマン・ショック以降、軍は入隊の年齢制限を緩め、若者だけでなく中年の兵士も受け入れています」

 日本でも「格差」が問題になって久しい。大学生の半数は何らかの奨学金を受給し、低賃金や失業による返済滞納も増えている。働いていても生活が苦しい「ワーキングプア」がさらに増えれば、米国のような経済的徴兵制の社会になる恐れはないのか。

 労働問題に詳しい熊沢誠・甲南大名誉教授は「自衛隊に入らないと食べていけないという状況には、すぐにはならないだろう」と断りつつ「生活苦の学生を狙った『ブラックバイト』が問題化していることも考えると、奨学金免除などの露骨な優遇策をとれば、志願者は増えるのではないか」と危惧する。

 実際に貧困と自衛隊を結びつけて考えざるを得ない出来事も起きている。

 今月、インターネット上にある写真が投稿され話題になった。「苦学生求む!」というキャッチコピーの防衛医科大学校の学校案内ちらし。「医師、看護師になりたいけど…お金はない!(中略)こんな人を捜しています」との言葉もある。作製したのは、自衛隊の募集窓口となる神奈川地方協力本部の川崎出張所。川崎市内の高校生らに自衛隊の募集案内などとともに送付したものだ。

 防衛医大は、幹部候補を養成する防衛大学校と同じく学費は無料、入学後は公務員となり給与も出る。ただし卒業後9年間は自衛隊に勤務する義務があり、その間に退職する場合は勤務期間に応じて学費返還(最高で約4600万円)を求められる。ネット上では、この背景を踏まえ「経済的徴兵制そのもの」「恐ろしい」など批判が渦巻いた。

 同出張所は「経済的理由で医師や看護師の夢を諦めている若者に『こんな道もあるよ』と伝えたいと思い、独自に考えた」と説明する。とはいえ、卒業生は医官などとして最前線に派遣される可能性は当然ある。ネット上の批判について、担当者は「考え方の違いでしょう」と話した。

 一方、昨年5月には文部科学省の有識者会議で奨学金返済の滞納が議題に上った際、委員を務めていた経済同友会のある副代表幹事(当時)が無職の滞納者について「警察や消防、自衛隊などでインターンをしてもらったらどうか」と発言し、一部の識者らから「経済的な徴兵に結びつく」との声が出た。実際にそのような検討はされていないが、既に自衛隊には、医歯理工系学部の大学3、4年生と大学院生に年間約65万円を貸与し、一定期間任官すれば返済を免除する「貸費学生」制度がある。熊沢さんはこう話す。「若者の学ぶ機会を広げる奨学金はそもそも無償化すべきだ。国が喜ぶことをすれば返済を免除するという手法は、不当な便益供与で好ましくありません」

 自衛隊の定員は陸、海、空合計で約24万7000人だが、実際の人員は2万人以上少ない約22万6000人(14年度末)。少子化の影響もあり、人材確保は常に課題だ。特に若手が担う下位階級の2士、1士、士長は定員の74%しか確保できていない。また防衛大学校では、集団的自衛権を巡って憲法解釈が変更された昨年度、任官拒否者が前年の10人から25人に急増した。

 堤さんは「経済的な徴兵の素地は、着々と整えられています」と力を込める。それは医療や社会保障などの相次ぐ制度改正だ。「安保法制に目を奪われている間に、派遣法改正議論や介護報酬切り下げ、各地を企業天国にする国家戦略特区など米国型株主至上主義政策が次々に進められています。特に心配なのが、日本にとって最後の防波堤である国民皆保険制度の切り崩し。近著『沈みゆく大国アメリカ』にも書きましたが、国内法改正、国家戦略特区、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の3方向から日本の医療は狙われている。戦争は国内からじわじわと始まるのです」

 市川さんは、米国で対テロ戦争の帰還兵に聞き取り調査した経験からこう話す。「犠牲者が出ても、志願制ゆえに一般の人は『自己責任』と考える。派遣された兵士が百数十万人といっても、人口比では1%未満です。多くの人は帰還兵の心の病の問題には無関心でした」。経済的徴兵で傷ついた人たちは、社会からも置き去りにされるのか。 		 	   		  


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