[CML 036743] 【日経「経済教室」】 2030年の電源構成(中) 再エネ多面的意義活かせ 目標と手段は一体で 原発は社会的信頼に課題 植田和弘 京都大学教授

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2015年 3月 18日 (水) 17:28:59 JST


極めてまっとうな議論です。ぜひ多くの方に読んでいただきたい記事です!

【日経「経済教室」】 2030年の電源構成(中) 再エネ多面的意義活かせ 

目標と手段は一体で 原発は社会的信頼に課題 植田和弘 京都大学教授

http://www.nikkei.com/article/DGKKZO84493910X10C15A3KE8000/

2015/3/18付日本経済新聞 朝刊

 エネルギーミックスの策定が急がれている。温暖化ガス排出量の2030年削減目標を早期に提出しなければならないからである。年末にパリで開催される国連の会議(COP21)へ向けた国際的な要請である。福島原発事故で原発が停止したことを理由に目標提示を遅らせてきたが、会議が迫り、時間的猶予がなくなってきた。公式には3月末提出だが、6月のサミットがぎりぎりの期限とされる。

 しかし、先送りしたことでエネルギーミックスの最適解を出しやすくなったわけではない。前提として確認しておくべきは、エネルギーミックスの議論が電源構成の問題に限定されてはならないということである。二酸化炭素(CO2)の排出は90%以上がエネルギー起源であり、エネルギー需給の見通しが温暖化防止に決定的な影響を与える。

 だが、日本のエネルギー消費の最終形態を見ると、電気は3割未満にすぎず、熱という形態での消費の方が多く、非電力部門からのCO2排出量が電力部門からよりも多い。温暖化防止目標を設定するためにエネルギーミックスを議論するのであれば、熱利用の再検討は優先的に取り組むべき課題である。熱への取り組みはコージェネレーション(熱電併給)という分散型電源の普及も促すであろう。

 電源構成に限っても、各電源にはそれぞれ質的に異なる課題があり、すべての面で優れた万能な電源はない。

 現状は9割を火力に依存しているが、国富流出抑制や温暖化防止の観点から依存度を減らしていく必要がある。火力の内訳も重要だ。石炭火力は当面安価な電源を確保しようとする動きから、建設計画が目白押しである。3月9日付日経社説によれば、計画は国内で約40件あるとされ、発電能力を単純に合計すると1500万キロワット、原発15基分にもなるという。しかも、半数近くは環境アセスメントを受ける必要のない規模である。

 仮に効率的な石炭火力であっても、CO2排出量は天然ガス火力よりもかなり多い。発電所は一度建設すると長期にCO2の排出が続く。石炭火力抑制という国際的な流れに逆行し、温暖化防止の観点からは、CCS(CO2の回収・貯留)の義務付けや炭素税の強化が不可欠になる。

 原子力発電は、依然として不確実な電源である。政府は安全性が確認された原発は再稼働する方針だが、適合性審査を行うのは原子力規制委員会であり、何基の原発が審査に合格するかを政府が現時点で確定はできない。仮に適合性審査に合格しても、地元同意という難関が待ち受ける。世論の多数は再稼働に反対である。原発再稼働のハードルが低いとは言えず、何基の原発が再稼働するのだろうか。

 原発の事故リスクも課題である。規制委員会の規制基準を順守することでリスクはどの程度低減するのだろうか。政府は世界最高の安全基準としているが、異なる見解もあり、国民が納得する形での共通了解には至っていない。そもそも世界最高水準だったらよいのだろうか。地震大国で福島原発事故も経験した日本の規制基準が、世界最高の厳しさを持つのは当然である。問題はその基準に基づく安全対策が、福島のような過酷事故を再び起こさないのか否かだと思う。この問いに対する明快な回答はまだない。加えて、放射性廃棄物の最終処分、汚染水対策、廃炉など社会的信頼を得る電源になる上での課題は多い。

 再生可能エネルギーに対する期待は大きい。廃棄物の捨て場探しに困る、いわば廃棄制約の時代にCO2も放射性廃棄物も出さないのは、普及すべき根拠になる。「資源のない」日本にとって豊富な国産品であり、エネルギーの安定供給を向上させる。バイオマスなどは地域資源なので地域活性化に貢献し、地方創生の観点からも魅力的である。

 もちろん課題もある。風力は量的拡大が期待されるが、太陽光とともに変動性電源であり、系統安定化への対処が求められている。制度の見通しを明確にすることや系統の広域的運用システムなどソフト的対処が不可欠で効果的である。ITと結合したイノベーション、そして規制改革ともあわせて、再エネの多面的意義を活(い)かす政策が求められている。

 再エネの拡大には当面は固定価格買い取り制度が核になるが、その進行管理を適切に行い、技術進歩やシステムの効率化によって競争力を持つことが基本である。

 コジェネについては言及したが、その潜在力は大きく、系統への負荷は小さい。このほか、エネルギー利用の効率化や節電による創電も位置づけられるべきである。震災後、「節電所」が知られるようになり、実際に大幅な節電が進んだ。発電所は発電によって電気をつくるが、節電所は節電によって電気をつくりだす。物理的な発電所を建設するわけではないので安価である。第四の電源と位置づけるべきだろう。

 電力やエネルギーの消費はそれ自体が目的ではなく、活動を行うための手段であり派生需要である。同じ水準の活動目的が達成できるなら、それに必要なエネルギーは少ない方が望ましい。節電による創電が活発化し、住宅やコミュニティーのスマート化が進行しているのを見れば、現代は電力消費量を減らしながら成長する経済への移行過程にあるといえるかもしれない。

 固有の特徴と課題がある各電源・エネルギー源をいかに組み合わせるべきだろうか。その決め方が問題になる。従来のエネルギーミックスは、供給力整備計画的な要素が強かった。大規模発電所が中心であれば、火力や原発がそれぞれ何基あるかわかれば、設備利用率をかけて発電量を算出し、電源間の比率が導出されるというわけである。

 しかし、30年の電力市場は現在とは様相が大きく異なる。電力システム改革が想定通りに進めば、発送電が分離し市場の自由化が進行している。電力の消費者や需要家は使う電源を市場で選択できるようになっている可能性が高い。その場合、電源構成は先験的に決められるものではなく、消費者や需要家の選択に依存することになる。

 消費者・需要家による電源選択がある世界では、電源構成は供給計画が決めることにはならず、需要側の選好が反映された選択の結果ということになる。30年における電源構成を計画的に決めることは難しいと言わざるを得ない。昨年4月に策定されたエネルギー基本計画も定量的記述は弱かった。政府が何らかの定量的な見通しを示すことは、エネルギー政策の方向性を明確に示すという意味がある。

 安定供給、安価、温暖化防止、復元力、地方創生などを全体として向上させる組み合わせは、どの価値を重視するかによって変化する。また、それぞれの電源が抱える課題をどれだけ解決できるかによって、電源間の相対的優位性も変わるが、この点で政策の果たす役割と影響は大きい。

 ミックスは政策目標といえ、再エネ、コジェネ、省エネ・節電の最大化を掲げ、実現のための手段と合わせて議論されるべきである。つまり、30年という時間断面でのミックスを議論するだけでなく、そこへの移行過程とその後の方向性も明らかにしなければならない。それが事業者や国民に対する明確なメッセージになるからである。

 エネルギーミックスを決めることは、日本の経済や社会の将来ビジョンを描くという作業そのものであり、公共的な選択過程が問われている。

〈ポイント〉
○熱利用形態も再検討し、コジェネ普及促せ○石炭火力発電の増加は国際的な流れに逆行
○将来の電源構成は需要者側の選択にも依存

 うえた・かずひろ 52年生まれ。京大卒。経済学博士、工学博士。専門は環境経済学 		 	   		  


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