[CML 039331] 今日の言葉 ――その男もまた、傷ついていることを彼女は感じていたのだろう。そして、手を伸ばそうとしたのだろう。不器用なやり方ではあったけれど。
higashimoto takashi
higashimoto.takashi at khaki.plala.or.jp
2015年 8月 24日 (月) 17:53:05 JST
【あのとき、あの女の子は、なにを考えていたのだろう】
わたしは大学を卒業していない。入学したが、わけあって大学を離れた。親や友人との交際も絶って、肉体労働をしながら、
小さな小さな世界で生きた20代だった。20代の終わり頃、腰を痛め、肉体労働もできなくなった。妻子とも別れ、養育費を送
る身だったのに、金を稼ぐ術を失った。おまけに、ひどいギャンブル依存症になっていた。つてをたどり、やれる仕事は、他
人にはいえないようなものでもやった。その一つが「女衒(ぜげん)」だった。簡単にいうなら、売春の斡旋である。(略)
高校生の女の子がひとり、紛れ込んできたことがあった。学生証を見たから、間違いはなかったと思う。なぜ、そんなところ
にやって来たのかわたしは知らなかった。わたしは、いつものように、ラブホテルの部屋の前まで行き、ドアを開け、金を受
けとった。男は、最悪より少し上という感じだった。わたしは、女の子を男に渡し、すぐ近くの、事務所という名の荷物置き場
のような部屋で待ち、90分後にホテルに戻った。女の子は青ざめた顔つきになっていた。わたしたちは、「事務所」に戻り、
迎えの車を待っていた。そのとき、女の子が、なにかを呟いた。「あたし……」「なに、なにいってんの?」とわたしは訊ねた。
女の子はもう一度はっきりいった。「あたし、魂を殺しちゃった」それから、女の子は、持っていた小さなポーチに左手を入れ、
剃刀を出し、右の手首に当てて引いた。切ったのは静脈で、だから、血は噴出することもなく、けれど大量に流れ出した。わ
たしは、剃刀をとりあげ、ごみ箱に放り込んだ。そして、女の子の右手を持ち、高く掲げ、トイレに向かい、そこまで女の子の
手を持ったまま歩いていって、タオルを見つけ、出血している場所の少し下で固く縛った。女の子は、反抗することもなく、こ
とばを発することもなく、人形のようにおとなしく、わたしについて来た。それから、その縛った手をまだ高く掲げたまま、「上」
に電話をした。すぐに、「上」の連中がやって来て、わたしの不注意を叱りつけ、そのまま女の子をどこかへ連れていった。
その女の子とはそれ以来会っていない。(略)
最近、あの女の子のことを、また考えるようになった。あのとき、あの女の子は、なにを考えていたのだろう、と思う。あの女
の子は、なにを見ていたのだろう。彼女の目に、心を閉ざした、機嫌の悪い、無口で、視線を合わそうとはしない、30歳近い、
男の姿が映っている。彼女は、深く傷ついていたのだと思う。けれど、それにもかかわらず、目の前の、不機嫌な男に、声を
かけずにはいられなかったのだ。その男もまた、傷ついていることを彼女は感じていたのだろう。そして、手を伸ばそうとした
のだろう。不器用なやり方ではあったけれど。残念なことに、男は、なにも気づかなかったのだが。
(高橋源一郎「ポリタス」2015年8月18日)
【“みなさまのNHK”へ要望します】
NHKの番組には優れたものがあっても、ニュースは安倍政権寄りだと視聴者の批判は高まるばかり。この機に市
民団体の「放送を語る会」が、戦争法案をめぐるテレビニュースのモニター報告を発表しました。これまで集団的自
衛権などでもテレビ報道を検証。今回は、NHKのニュースは「安倍首相発言のコピー」となり、多様な批判的言論
を伝えていないと実証的に指摘しました。「戦後未曽有の平和の危機」にジャーナリズムの役割を発揮する覚悟を
求めての中間報告です。明日25日、市民が「怒りの声でNHKを包囲しよう!」と一大行動に出ます。東京・渋谷の
NHK放送センターの門前に集合です。大阪や京都では、呼応する取り組みがあります。“みなさまのNHK”へ要望
します。7時のニュースで堂々と生中継してはいかが。(しんぶん赤旗「きょうの潮流」2015年8月24日2014/04/23)
【山中人間話】
以下、省略。下記をご参照ください。
http://mizukith.blog91.fc2.com/blog-entry-1484.html
東本高志@大分
higashimoto.takashi at khaki.plala.or.jp
http://mizukith.blog91.fc2.com/
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