[CML 033739] 憲法九条は武力による自衛権を認めていないというアタリマエの事実について  井上澄夫

井上澄夫 s-inoue at js4.so-net.ne.jp
2014年 9月 9日 (火) 19:20:57 JST



◆ 解説 筆者は本年7月、民衆のメディア『人民新聞』に「非武装原理主義者として考える」を寄せました。本稿はその続編というべきものです。2014・9・5付同紙に掲載されました。拡散にご協力いただければ幸いです。



                 井上澄夫 米空軍嘉手納飛行場・一坪反戦地主





●憲法九条は武力による自衛権を認めていないというアタリマエの事実について



                                 井上澄夫



 先に本紙に寄せた「非武装原理主義者として考える」でこう記した。



 安倍首相は七月一日、閣議決定をもって憲法九条を葬り、現憲法施行以来続いてきた戦後立憲体制を破壊した。痛恨の極みだが、反改憲勢力は歴史的な敗北を喫した。その重い事実を胸に刻みながら、敗因を考える。



 そしてここでいう敗因について筆者は「九条は一項で〈戦争の放棄〉を、二項で〈戦力不保持〉と〈国の交戦権の否認〉を定めている」が、これまでの多くの反改憲運動は九条を主に〈戦争放棄〉の意味だけに切り縮めてとらえ、〈戦力不保持〉すなわち国家非武装を本気で実現しようとしてこなかったのではないかと問題提起した。

 そして吉田茂が現憲法公布前には九条について「自衛権の発動としての戦争」を鮮明に否認しながら、朝鮮戦争勃発直前にマッカーサーの圧力で「戦争放棄の趣旨に徹することは、決して自衛権を放棄するということを意味するものではない」と見解を変えたのだが、それこそが【最初の解釈改憲】であると指摘した。

 問題は吉田のこの九条解釈がそのまま歴代保守政権に長期にわたって継承されたにもかかわらず、戦後護憲運動がその点を徹底的に批判することなく、事実上吉田による解釈改憲を追認してしまったことだ。



 ここ数年の世論調査は改憲一般は世論の過半数に支持されるが、こと九条改定については反対の意見が少なくないことを示している。しかし九条の改定に反対ないし慎重であっても、自衛隊の存在を根本的に否定する人は非常に少ない。つまり大多数が、自衛隊が大きくなりすぎて海外に出かけて戦争するようになっては困るが、専守防衛に徹し、いざというときはがんばってもらいたいと思っているのである。

 現在の護憲運動は運動を広げるためにそのような自衛隊肯定・容認感情に乗っかっていると筆者は感じる。安倍による解釈改憲に反対する世論の基調は集団的自衛権容認は「個別的自衛権を逸脱する」というもので、九条がそもそも武力による自衛権の行使を認めていないという明白な事実に依拠する立論は少なかった。



 渡辺治+三輪隆+小沢隆一編著『有事法制のシナリオ』(旬報社、2002年刊)の「15 平和・護憲運動は有事立法にどう対抗してきたか?」にこうある。

 

 〈要約して言えば、戦後日本の平和運動は、憲法九条の戦力の不保持の規定にもかかわらず日本に存在しつづけていた、在日米軍と自衛隊という軍事力の存在を否定することはできなかったけれども、九条を支え、豊かにしてきたさまざまな取組みは、安保・自衛隊体制にさまざまな制約を課することによってその野放図な展開を阻止してきたといえます。〉



 これは奇妙な自己弁護である。「在日米軍と自衛隊という軍事力の存在を否定することはできなかったけれども」という部分は正確ではない。米軍との闘いは沖縄で激しく展開され、「本土」でも闘われた。しかし「自衛隊という軍事力の存在を否定する」闘いがどれほどあったというのか。総じて反米軍闘争はあったけれども、反自衛隊の営みは細流としてしか存在しなかったのが歴史の事実である。



 安倍の解釈改憲を許したことについて反改憲運動において真摯な自己批判がなされているだろうか。無残な敗北は自衛隊に期待する世論に片足を置いた反改憲運動のありようによるところが大きいのではないか。自衛隊容認はそれ自体が九条違反である。

 「九条を守れ」とか「九条をこわすな」と主張するなら、九条が戦争放棄・戦力不保持・国の交戦権否認の三規定で成り立っている事実をまず凝視すべきである。国家として武装せず交戦権を持たないと自らを縛るからこそ戦争放棄なのだ。

 現憲法が立国の原理とする絶対平和主義は戦力不保持=非武装の実現によって初めて保証される。九条はかつて筆舌に尽くしがたい惨害を与えたアジア・太平洋諸国の人びとに対する〈不戦〉の誓いである。集団的自衛権は認められないが個別的自衛権を持つのは許されると考えるのは、〈不戦〉の誓いを自ら破り捨てることにほかならない。




CML メーリングリストの案内