[CML 034693] 論説紹介:なぜ今、「イスラム国」なのか 若者の閉塞感とIT革命

uchitomi makoto muchitomi at hotmail.com
2014年 10月 27日 (月) 22:58:44 JST


本日読んだ記事の中で興味深い分析でした。

 かつてスペイン内戦における「国際旅団」のように、「国際義勇兵」は反ファシズムのような進歩的な陣営に共感する若者たちでした。いまや、「イスラム国」のような反動的なイスラム原理主義(ジハディスト=イスラム聖戦主義者、大部分のイスラム教徒の中でもアメリカにおける「ネオコン」のような異端的な潮流)の陣営に取り込まれています。それがなぜなのか、若者がなぜ「イスラム国」に自らの「居場所」を見出すのか、興味深い分析であると思いました。翻って民主主義的・進歩的陣営がこうした若者をどう結集させるのかが問われているともおもいました。


なぜ今、「イスラム国」なのか 
若者の閉塞感とIT革命 本社コラムニスト 脇祐三 

2014/10/27付日本経済新聞 朝刊
http://www.nikkei.com/article/DGKKZO78899180V21C14A0TCR000/

 シリアとイラクで支配地域を広げた過激派「イスラム国」の脅威が、国際情勢の焦点になっている。中東では若年層の失業が深刻だ。欧米では移民社会をめぐる摩擦が強まった。情報通信革命に伴って、宗教と個人の関係も変わりつつある。こうした変化が若者の行動に及ぼす影響から、今なぜ「イスラム国」なのかを理解する手掛かりが、ある程度は得られるだろう。

  イスラム社会は概して出生率が高い。1970年に1億2000万人だったアラブ連盟加盟地域の人口は今、3億6000万人。アジアでもパキスタンの人口は6000万人弱から2億人弱に、インドネシアは1億2000万人から2億5000万人に増えた。

 日本と対照的に若年層が膨張し、上の世代と下の世代が同数になる中央年齢はだいたい20歳代だ。日本でも学生運動が広がった60~70年の中央年齢は25~29歳だった。反体制運動の波は社会の若さとも関係する。

 日本の学生運動は、反帝国主義や階級闘争のイデオロギーの衣をまとった。だが多くの若者が非日常の運動に飛び込むきっかけは、既存の秩序への反発や大人が当然視する人生のレールへの拒否感だったろう。

 イスラム世界では、植民地支配から脱するバネになった民族主義が風化し、社会主義も求心力を失った。イスラムが唯一、広範な影響力を持つ反体制運動のイデオロギーとして残ったと言ってもいい。

 中東・北アフリカは世界で最も若者の失業率が高い地域だ。大学に進む比較的めぐまれた若者も、学校を出たら職がない現実に直面する。不満を抱き、閉塞感にとらわれる若者に、「社会がおかしいのは、政治指導者や社会制度がイスラムの教えに従っていないからだ」とアピールすれば、かなりの訴求力がある。

 イスラム世界では、この30年あまりの間に宗教意識の覚醒が進んだ。たとえばエジプトでは、自発的にスカーフをかぶる女性が増えたと実感する。欧米の移民社会でも、同様な現象が見られる。イラン生まれの米国の宗教学者、レザー・アスラン氏は「グローバル化の中で民族や国籍の違いの意味が薄れ、宗教が最も強い帰属意識のよりどころになった」と指摘する。

 一方、欧米ではグローバル化への反発と重なり合うようにイスラム教徒を嫌悪する空気が広がり、2001年の米同時テロの後にその傾向は強まった。08年のリーマン・ショックの後、欧米でも若者の失業が増えた。差別されているという意識や疎外感も加わり、自分が生まれ育った社会の中に居場所がないと感じるイスラム教徒の若者は多い。

 中東でも欧米でも、ほんとうに生活に困り果てている状態の若者には、外国に渡って戦闘員になるような余裕はない。裕福な家庭に育った高学歴の若者が多いのも、イスラム過激派の幹部クラスの特徴だ。

 「個人の未来は開けていても、彼らが感じるイスラム教徒コミュニティーの屈辱感や痛みが消えるわけではない」「若者たちが過激になるのを理解する最良のツールは、神学ではなく心理学」。著名な心理学者で米政府のテロリズム分析作業にも加わっている米メリーランド大学のエイリー・クルグランスキ教授は、ロイター通信が最近配信した寄稿の中でこう解説した。

 人間には、問題について明快な解を求め、曖昧さを嫌う欲求がある。迷いを断ち切りたい欲求から、あれこれ時間をかけて考えるのをやめ、行動を選択する。行動自体が目的だと感じると、プラスの感情がわく。心理学の認知や動機づけの理論は、「イスラム国」にひき付けられる若者にも当てはまるかもしれない。

 「イスラム国」の戦闘員勧誘文には、「あなたが死ぬのは一度だけ。なぜ、それを殉教にしない」という文言もあった。米外交問題評議会のシニアフェローで中東専門家のエド・フサイン氏は「イスラム過激派は自分たちがノーマルだと考えている。神の期待に沿った活動をしていると信じるからだ」と指摘する。

 過激派の宣伝やリクルートなどの活動の中心は、インターネットのサイバー空間に移った。IT(情報技術)革命は、イスラムのあり方も変える。

 かつて若者は、最寄りのモスクの聖職者にイスラム法の解釈や行動の是非を尋ねた。今はサイバー空間に流布する多様な言説の中から自分の感覚に合うものを選び、それをフォローするようになった。

 そう強調するアスラン氏は、活版印刷の普及がキリスト教の宗教改革を進めた歴史を踏まえて、(1)イスラムが急速に個人化し、既存の宗教権威が崩れつつある(2)現状を宗教原理の復古とみるのではなく、改革の過渡期と位置づけることもできる――と説く。

 ただし、サイバー空間では、先鋭な言説が好まれがちだ。携帯電話やスマートフォンのツイッターのやりとりなどでは、字数が限られるから、ますます主張がとんがってくる。それが日常の中にいた若者にスイッチを入れ、非日常の空間にいざなうきっかけになるかもしれない。

 世界のイスラム教徒のほとんどは穏健な宗教意識を保ち、日常の生活を続けている。その中で今なぜ過激派が台頭しているのか、イデオロギー以外の側面から考えることも必要だ。

 		 	   		  


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