[CML 034392] 私戦予備罪について

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2014年 10月 9日 (木) 21:47:55 JST


前田 朗です。
10月9日

以下、あるMLに投稿したものです。

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「イスラム国」なるものをどう評価するべきか判断しかねているのですが、ある
週刊誌記者から取材があったので、少し刑法の話をしておきました。

第1に、私戦予備罪の法的性格です。この罪の保護法益は、学説上、日本国家の
外交上の利益とされています。国家の外交上の利益を損なう程度の行為がなけれ
ば犯罪とならないと理解するべきです。

第2に、予備罪は、殺人予備罪、放火予備罪などの重大犯罪に規定されています
が、既遂や未遂以前の、かなり早期の段階の行為を犯罪とするものです。学説上
の定説である構成要件論に立っても、構成要件的定型・類型を明確にすることが
難しい犯罪です。

典型例は、「AがBを殺そうと思って、お店で包丁を買った」場合です。しかし、
お店で包丁を買う行為は誰でもやっていることで、犯罪とすることはできません。
つまり、「Bを殺したいと考えて」と言う主観的要素の部分がないと犯罪にでき
ません。主観的要素を証明するには、自白させるか、手紙や日記などの証拠が残
っているか、ということになります。また、「いつか誰かを殺したいと考えて、
包丁を買った」のであれば、予備罪とは言えません。

「AがBを殺そうと思って、台所にあった包丁を手にして、Bの家に向かった」
と言う例も挙げられます。学生時代、これが予備罪に当たると教わりましたが、
「Bの家に向かった」とか、「Bを探しに出かけた」程度で犯罪と言えるのか疑
問です。

「AがBを殺そうと思って、台所にあった包丁を手にして、Bの家に向かったと
ころ、路上でBを見つけたので、包丁を構えてBに向かって接近した」というの
が予備罪なら理解できます。さらに接近して、Bを刺そうとすれば殺人未遂です。

今回の件で言えば、連絡をとったとか、応募したことで予備罪とは言えないでし
ょう。成田空港から飛び立ったとか、シリアに入国した段階でも、犯罪と見るの
は疑問です。シリアに入国して「イスラム国」責任者に対して協力・部隊参加を
申し入れた段階でも、まだ怪しいです。「イスラム国」責任者に対して協力・部
隊参加を申し入れて、責任者から了解をもらって、戦闘部隊に入ることを決めた
段階で初めて予備罪と言うべきではないかと思います。

なお、刑法93条は「戦闘行為をした」ことを犯罪とはしていません。実際に戦
闘行為に参加して誰かを殺害すれば、殺人罪(国外犯)となるでしょうが、「日
本人がイスラム国部隊に参加して、シリアで某国人を殺害した」とすれば、それ
はシリアにおける殺人罪でしょう。あるいは、国際法上の戦争犯罪について検討
するべきでしょう。日本刑法の私戦予備罪は、かなり遠い話です。

第3に、国際法の面では、傭兵禁止条約や、ジュネーヴ条約違反が考えられます
が、「イスラム国」戦闘部隊を国際法上どのように評価するかによって結論は異
なります。





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