[CML 031424] Re: 放射能事故の影響による「鼻血」はあるのか、ないのか。行政、国際機関・学術機関、大学・研究者・医師、識者・評論家、市民の意見まとめ ――「美味しんぼ」鼻血描写問題(4)

Ken Masuoka kmasuoka at jca.apc.org
2014年 5月 19日 (月) 08:25:34 JST


東本様・皆様

益岡です。なお、私は、内冨さんがおっしゃられた、

「なぜ安倍政権が官房長官談話まで出しているのか、マスコミがここまで
原作者を叩いているのか」

という問題がやはり一番大切なところだと思っていますので、東本さんの
「ことは「医学」という科学の問題」ということに賛成しないのですが、
それとは別に、「医学」という科学の問題ですから」と言ったときの「科学」
の問題というところの扱いに、科学的な観点から少し危惧を覚えましたので、
それを書くことにします。

> マンガ「美味しんぼ」鼻血描写問題に関連して「鼻血」に放射能事故の影響はあるのか、ないのか。行政、研究者、評論家などそれぞれの立場からの意見表明と議論が続いています。「鼻血は出る可能性はある」とする肯定派と「鼻血が出る可能性はない」とする否定派のそれぞれの意見をまとめてみました。もちろん「熱く」てもよいのですが、ことは「医学」という科学の問題ですから、客観的で科学的な議論こそが「福島」のいまと今後のためにも望まれます。

長文失礼いたします。

ここで、「「医学」という科学の問題ですから」と言ってしまうことが現在の
日本において意味する問題が、少なくとも2つ見落とされていると思います。

第一に(こちらのほうがより技術的なものですが論理的な順序を考慮しこちら
を先にあげます)、「「医学」という科学の問題」と言ってしまったときの、「科学」とは何か、
という点です。鼻血の多発の程度について、きちんとした調査はなされていません。
「医学」の見地と称して発言している人たちは、単にこれまでの知識をそれぞれなりに
使って発言しているだけで、この事象そのものを科学的手続きに従って扱っている、というわけでは
ありません。ですから、「「医学」という科学の問題」であれば、鼻血が報告された、人によっては
多発とも言う、さて、それでは、科学的な手続きにしたがって調査を、という提案が、現時点で
「科学の問題」としてこれを扱う提案になります。

これを提案していないなら、医学者でも医者でも、科学的な提案はしていない、科学の問題
として扱っていない、ということです。

なお、蛇足ですが、日本の医学は要素還元主義的な思考に束縛されていて、因果関係や
相関関係についても科学としての医学の世界的現状に充分ついていけていないことを、
津田さんなどは指摘しています(津田さんはこの問題について意見を発表しているので、
バイアスがかかっているのではとのご指摘もありそうですが、因果性についての世界の
潮流から日本の医学が遅れているのはどうも事実のようで、例えばパールはおろか、
確率統計の初歩さえわかっていない医師が接する範囲ではほとんどです)。

第二に、東本さんもご指摘なさる通り、現在の見解には賛否両論あります。ということは、仮に「「医学」
という科学」がきちんと参考になるかたちで機能していると仮定しても(これについては第一点
も参照してください)、賛否両論ある、ということですから、その時どうしよう、と考える
問題は、「科学が(すぐに)答えを出せないときにどうするか」という問題となるということです。
ここで「科学」の結果を待つ(しかも要素還元主義的な科学的「メカニズム」という今は
廃れた考えに束縛された人がいまだ少なくない「医学」の領域で)ことは、被害を防止せず拡大して
しまう恐れがあります。水俣病やカネミ油症などでそれは既に示されているわけで、
そのような場合の(広義の)「科学的」判断、論理的判断は、被害が拡大しないよう予防的な
立場に立つということで、それらを踏まえて、社会的判断として「予防原則」が確立しています
(友人から教わりましたが、その原則は日本の環境基本計画でも確認されています)。

こうした状況を踏まえたとき「「医学」という科学の問題」のみに問題を還元することに対しては、
社会に関する科学的考え方から注意を提起する必要があると思います。

ちょっと話は変わりますが、「デマ」という言葉について、このMLでは、きちんと定義が共有
されずに使われていると思いました。

広辞苑によると、
(1) 事実と反する先導的な宣伝、悪宣伝。
(2) 根拠のない噂話。流言飛語。
とあります。(a)「事実と反する」という点に注目しますと、事実の確認が取れていない
わけですから、どちら側の発言も事実に反しようがない、したがってデマではない、
ということになります(安倍晋三氏の「汚染水はコントロールされている」はこの意味
でも完全にデマですが)。
(b)「根拠のない」を事実的な根拠とみなすと同じですので(狭義の・医学など)「科学的な根拠」としますと、
どちらの方向も「科学的な根拠」がないので、デマと言うこともできます。

(a)に基づいて話すならば、鼻血の話をするときに「デマ」という言葉を使うのは
不適切ということになりますし、(b)に基づくならばいずれも「デマ」という言葉が使える、
さてそうすると、そのなかでどちらか一方の立場のみを「デマ」とするのは、科学的でも論理的でも
実証的でもない態度の表明ということになるでしょう。

なお、私も使っている「みんなの翻訳」サイトに、次のような論文の抄録訳があります。
http://trans-aid.jp/index.php/article/detail/id/40504/at/recent
末尾にリンクされている論文と合わせますと、原発事故後鼻血が出るのことは、
データからも不思議ではないことはわかります(放射線被曝のためかどうかは
また別ですが)。

坪倉さん(の現場の実践には私は敬意を持っていますが)が「噴飯物」
という言葉を使われたとのことですが、「噴飯物」というのは科学の語彙には属して
いません。

また、UNSCEARの「福島での被ばくによるがんの増加は予想されない」は、
本文を読むと"This does not equate to absence of risk or 
rule out the possibility of excess cases of disease due 
to irradiation"といった記述もあります。

科学的議論をするならば、熱くなってもよいので、論文をきちんと引用し、著者が研究者か
どうかではなく(科学者の「エッセイ」というのも沢山あります)、言われたことが科学的
かどうかを、科学の基本的な手続きに従って、きちんと検証してやる必要があるかと思います。


長文、失礼いたしました。

益岡
-- 
Ken Masuoka <kmasuoka at jca.apc.org>


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