[CML 031310] Re: 《112》 鼻血漫画をバネにして進めるべきこと 内部被曝通信 坪倉正治医師

Ken Masuoka kmasuoka at jca.apc.org
2014年 5月 13日 (火) 19:52:09 JST


益岡です:

> 週の半分、福島での医療活動を行っている、坪倉正治医師は「(鼻血)噴飯物の話です」と明快に否定しています。ちなみに、噴飯物とは、あまりにばかばかしい話なので、思わず口の中のご飯を噴き出してしまうほどのこと表現のひとつです。そこんとこよろしく。

> ***************引用****************
> 
> >空気中の放射性物質が粘膜に付着することによって起こりうるとか色々おっしゃる方もいますが、いずれにせよ現状の福島県内のダストサンプリング含む被曝線量の検査結果から考えれば、噴飯物の話です。鼻血が医学的に放射線被曝との因果関係を疑う必要のある状況にはありません。南相馬市や相馬市でそんな患者さんが増えていることは、震災直後も含めて全くありません。
> 
> *************************************

坪倉さんは疫学調査の専門ではなく、個別に患者を見ているだけです。
また、専門は内科です。

診療の現場で誠意のある人ではあると思いますが、坪倉氏の「体験談」
「観察談」が、個々の方々の鼻血の証言より優先される根拠は示され
ていません。単に、診療においての体験です。これは、通常の社会調
査方法論に照らして考えたときに、特にデータの根拠として証言より
も適切であるわけではありません。

水俣でも、土呂久でも、わずかな例外を除いて「専門家」は、既存の
知識をもって、現象を調べずに決めつけ、後に誤りであることが明ら
かになるという失敗を繰り返しています。原田正純氏は、それについ
て次のように述べています。

「一般的に定説と言われるものは、多くは仮説である。ある時期までの研究によって得
られた結果でしかない。それは常に、新しい事実によって変革され、書き直されるべき
ものである。しかし、しばしばその定説が権威をもつと、それを守ろうとする権威者が
出てくる。そうした発想は、権威を守ることに執着するだけでなく、新しい事実や発想
に蓋をしてしまう作用をすることになる。何の疑いもなく権威を守り、新しい事実に目
をつぶること、それは真の権威あ(p. 27)る者、医学(科学)するものの態度とは言
えない。とくに、近年発生する公害事件は、水俣病と同様に人類が初めて経験すること
が多い。たとえば、原子爆弾による被害がそれであり、カネミ油症事件、枯葉剤汚染事
件すなわちダイオキシン汚染事件、超音波の影響による被害、アスベスト汚染などがい
ずれもそうである。人類がはじめて経験する事件であるということは、もともとどの教
科書・研究書にも実験データも経過の記録もないということを意味する。したがって、
こうした事態にはじめから対処しうる専門家などはいないはずなのである。新しく学ぶ
とすれば、それは被害者自身からでしかない。教科書は現場にしかない。いや、それが
できなければ専門家【引用者注:本書の言葉では「科学者」】ではない。問題は人類初
の経験であるという謙虚さを、専門家がもっているかどうかである。事実を知らないい
わゆる専門家が謙虚さを失った時、どれほど社会に弊害を残すことだろうか。」

さて、今回の鼻血の話ですが、

(a) 複数の人が、原発事故後これまでなかった鼻血が家族にあったと言っています。
http://kingo999.blog.fc2.com/blog-entry-1708.html
# 他にも
避難した方で、そういう方は私も直接聞いたことがあります。「美味しんぼ」は、
そうしたものの一つで、それについてきちんとした検証は、科学者も行政も行なっ
ていません。つまり、第一段階の、本当に鼻血が出る人が多かったのか、についての
確認もきちんと行われていないのが現状です。坪倉さんのお話しも、上で述べたよう
に、きちんとした調査に基づくとは言いがたいものです。

(b) その第一段階が確認されていないのですから、次の、被曝によるものかどうか
についても、確認されてはいません。そして、この問題については、実はまだ医学的
にはわかっていません。チェルノブイリ甲状腺がんを最初に報告した一人、ビーヴァ
ーストックさんは、原発が爆発したときに他の様々な化学物質も放出されたから、そ
うしたことも考えると鼻血が多発することはありうるが、被曝の影響かどうかはきち
んと調べる必要がある。そのあたりはわかっていない、と述べていました(私信)。
一方、たとえば、Oak Ridge Reportのように、低線量でも出血が認められたとの
報告もあります。
http://www.survivalring.org/classics/ExaminationOfA-BombSurvivorsExposedToFalloutRainAndComparisonToSimilarControlPopulations-ORNL-TM-4017.pdf

では、わからない状況で、どう対応すべきか。一つ指針はあります。これまでの公害
事件は言うに及ばず、原発事故後、行政もメディアの多くも、少なからぬ専門家も、
事態を調べもせずに矮小化してきた、ということです。

「原発は安全」 -> 爆発
「メルトダウンではない」 -> メルトダウンだった
「柏が汚染されているというチェーンメールによるデマ」 -> ホットスポットだった
「海の魚にはヨウ素はたまらない」 -> コウナゴから高濃度のヨウ素検出
「飯舘村は避難するレベルではない」 -> 1月後に避難指示

枚挙に暇がありません。チェルノブイリ甲状腺がんも、最初は、デマだあり得ない
といった否定が累々たる専門家から出てきた歴史があります。
http://togetter.com/li/578876

土呂久でも、素人の教師たちの調査に対して、医師が否定してかかったという苦い
歴史があります。
http://toroku-museum.com/part1/93/

未知の事態でわからないことが報告されたときに、それを、これまでは十分に観察
も研究もされていなかったから専門的な知識に組み込まれていなかったことを利用
して「専門的な知識」によればそんなことはありえない、と決めつけたことにより
繰り返された誤りとそれによる被害の拡大がとても多いことを歴史は示しています。

私達は、少し、冷静に、謙虚になりませんか? 

益岡
-- 
Ken Masuoka <kmasuoka at jca.apc.org>


CML メーリングリストの案内