[CML 030556] ウクライナ、クリミア情勢の見方(11)――浅井基文さんが紹介するウクライナ・クリミア問題に対する中国の言論界の百家争鳴の論(そのうち3人の論)を中心に

higashimoto takashi higashimoto.takashi at khaki.plala.or.jp
2014年 3月 29日 (土) 21:27:25 JST


昨日は、「ロシア叩き」とでもいうべき西側メディアの偏頗した情報の受け売り、拡張機関と化したニッポンのメディアをヘンリー・キッシ
ンジャーをはじめとする3人のアメリカの識者の文章を紹介する形で批判する浅井基文さんの「プーチンは大国主義・拡張主義の権化
だろうか?」という論を中心に据えてご紹介しましたが、浅井さんは今日は、「プーチンは大国主義・拡張主義の権化だろうか?-その
2-」としてウクライナ・クリミア問題に対する中国の言論界の百家争鳴の論に焦点を当てて(やはり論者を3人に絞っています)西側メ
ディア報道批判の論を紹介しています。

以下、同論のうち浅井さんの地の文は全文(強調は引用者)、中国の3人の識者の論は浅井さんご自身が太字にしている部分のみに
絞ってご紹介させていただこうと思います。

また、これも昨日ご紹介しましたが、「マスコミに載らない海外記事」の本日付けに掲載されているポール・クレーグ・ロバーツ氏(元経
済政策担当財務次官補、ウオール・ストリート・ジャーナル元共同編集者)の「アメリカはいったいどれ程望んでいるのだろう?」という
論もウクライナ・クリミア情勢の本質に迫ろうとする場合に参照は欠かせません。浅井基文さんの論の後に全文を掲載させていただこ
うと思います(強調は引用者)。長文に渡る点はご容赦ください。

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■プーチンは大国主義・拡張主義の権化だろうか?-その2-(浅井基文 
2014.03.29)
http://www.ne.jp/asahi/nd4m-asi/jiwen/thoughts/2014/590.html

3月27日付の前回のコラムでは、キッシンジャーなど3人のアメリカ人のウクライナ・クリミア問題に対する見方を紹介しました。今回は
中国研究者のこの問題に関する見方を紹介します。

米中におけるこの問題に対する見方を通観してすぐ分かることは、アメリカではこの問題に関するプーチン政権の行動を口を極めて
非難・難詰するものが圧倒的に多く、このコラムで紹介したキッシンジャー以下の冷静な見方はごく少数にとどまるということです。

これに対して中国においては、プーチン政権の行動を全面的に批判するものは、私がこれまでに見てきた限りでは皆無です。中国の
言論界においては、アメリカでは圧倒的に少数派の見方が逆に圧倒的に主流を占めているということです。そのことは、これまでにコ
ラムで紹介した文章からもお分かりだと思います。ここでは、そのごく一例として、文龍杰・李亜南「誰がクリミアをロシアに追いやった
のか」を紹介します。

しかし、そういう主流的な見方とは一線を画した文章も散見されます。中国を専門的に観察している人はともかく、一般的には、「中国
は共産党の独裁国家だから、言論の自由はない」と思っている人がまだ多いのですが、その百花繚乱ぶりはウクライナ・クリミア問題
に関する多様な文章の百家争鳴に現れています。

プーチン政権の行動に対して極めて高い評価を与えているものとして、許華「プーチンロシアに大国としての発言権を回復」を紹介しま
す。また、プーチン政権の行動を極めて批判的に捉えているものとして、趙楚「プーチン主義のピクライマックスと引き潮」を紹介します。
ただし、この2つの文章を読んでいただければお分かりになると思いますが、中国研究者に共通するのは事実関係に対してはあくまで
謙虚に臨むこと(「実事求是」)を心掛ける姿勢と他者感覚が豊かなことです(文中の強調は浅井)。ちなみに、日本のメディアに報道だ
けを見ていると、プーチンのロシアは国際的に孤立に追い込まれているような印象を受けることになるのですが、国際的に言えば、必
ずしもそうとは言い切れないと思います。国連総会が3月27日にロシア非難決議を多数決で採択したことは事実ですが、賛成100に対し
て反対11+棄権58の合計69(引用者注:「加盟193カ国、賛成100、反対11、棄権58、欠席24」(ブルームバーグ2014/03/28)反対11+
棄権58+欠席24の合計93という結果報告を紹介しておいた方がよりシビアに実情が伝わるものと思います)ということは、ロシアが国
際的に孤立していることを表す数字とはとても解釈できません。http://www.bloomberg.co.jp/news/123-N3440Y6JTSFB01.htmlハーグで
行われた核セキュリティ・サミットの際にBRICS(ブラジル・ロシア・インド・中国・南アフリカ)首脳会談も行われ、西側の対露制裁に反
対する声明が出されたそうです。また、アルゼンチンのフェルナンデス大統領は自らのツイッターで、フォークランド(アルゼンチン名は
マルビナス)問題でイギリスを支持し、クリミア問題でウクライナを支持した西側諸国の態度は二重基準だと批判し、電話で感謝表明し
たプーチン大統領と立場の一致を確認したそうです(いずれも私は中国メディアの報道で知りました)。こういう国際的反応から見ても、
私としてはますます『プーチン=大国主義・権力主義の権化』という決めつけには違和感が深まるばかりです。

1.文龍杰・李亜南「誰がクリミアをロシアに追いやったのか」

この文章は3月18日付で中国新聞網「国際観察」欄に掲載されたものです。文龍杰も李亜南も私にとっては初見の人物で、中国の検
索サイト『百度』を調べても、ブロガーという簡単な紹介しかありません。しかし、この文章の内容自体は、中国における主流的な見方
の最大公約数を反映していると思います。

      ウクライナ危機が今日の状況にまで至ってしまった重要な原因は外部の干渉にある。その中でも、西側諸国が関与したこと
      が街頭デモを暴力に走らせた直接の原因だ。(略)西側が推進した「カラー革命」は、実際上は新たな対立ひいては国家の断
      片化という現象の出現を促した。(略) 事態は、ヤヌケヴィッチが追い出された後、2月23日にウクライナ議会がロシア語を
      公用語と定める法律を廃止したことで起こった。(略)

      反対派は2月21日にヤヌケヴィッチ政権との間で署名した危機解決の取り決めを遵守せず、非合法の暴力手段で権力を奪
      取した。このことに対して、クリミアの人々は、極端な民族主義の傾向をもつキエフの反対派はロシア語を話す自分たちにとっ
      て不利になることを恐れたのだ。クリミアの人々が街頭に繰り出したとき、キエフの反対派の極端な民族主義的政策がクリミ
      アの人々をロシアに追いやり、その後のクリミアにおける一連の事態を引き起こす直接の誘因の一つになったことは認めざる
      を得ないことだ。(後略)

2.許華「プーチン ロシアに大国としての発言権を回復」

3月24日付の環球時報に掲載された文章です。許華は中国社会科学院ユーラシア研究所副研究員と紹介されています。恐らく3月
21日のコラムで紹介した、「ウクライナ政権の危機とその'欧州ドリーム'」の筆者である張弘の肩書として紹介されていた「中国社会科
学院ロシア東欧中央アジア研究所」のことだと思います。なぜその点にこだわるかと言いますと、同じ組織に属していてもこれほど異
なった見方をする研究者がいるということ、つまり中国言論界の多様性を確認できる一つの材料だと思うからです。

      2007年のミュンヘン安全保障会議における「一極世界の幻想を打破する」ことを宣言したスピーチから、2013年のニューヨ
      ーク・タイムズでの「懇願」と題する文章、さらには2014年3月のウクライナ情勢とクリミアのロシア編入問題に関するスピーチ
      までにおいて、プーチンの言動によってロシアは再び世界の政治強国として立ち現れた。プーチンは、幾度もの危機におい
      て断固とした姿勢、強硬な手段でロシア国家の戦略的利益を擁護し、その際だった外交的手腕はロシアの国際的影響力を
      大いに高め、西側の道徳的な権威と発言力に衝撃を与え、国際的特に非西側世界でのロシアの威信を高めた。(略)

      中国の格言は「その言うを聞き、その行うを見る」と言う。プーチンの発言及び風格が多くの人を動かす重要なポイントは言
      動と風格とが統一されていることである。10年来のプーチンの行いはロシアの民意に従ったものであり、ロシア人の信任と
      支持を獲得してきた。(後略)

3.趙楚「プーチン主義のクライマックスと引き潮」

この文章は、3月27日付の環球網で私が読んだものですが、もともとは寧夏日報メディア集団が主管する『ブログ天下』という旬日発行
の雑誌の3月25日版に掲載されたものの転載だそうです。執筆者の趙楚は国際軍事問題専門家ということで、2003年に中国共産党の
中央党史文献出版社から出版された『イラク戦争』に共著者として名前を連ねています(中国の検索サイト「百度」)が、私にとっては初
見です。プーチン主義に対しては極めて辛口の評価に徹していますが、見忘れてはいけないのは、その分析内容自体はリアリズムに
徹していて、極めて説得力を持っているということです。

      プーチンを押し上げ、連続して政権を担わせてきたのは、巨大な歴史的記憶に満たされたロシアのエリート階級及び苦難に
      満ちた生活のもとにあった一般大衆であり、そのことがプーチン主義における2つの主題を決定している。対内的には、強力
      な施策によって社会秩序及び国家制度を再建すること、対外的には、グローバルな国際関係に極力参与する以外に、かつ
      てソ連の中にあった地域特にウクライナ、白ロシア、カザフスタンなどの国家において、歴史的つながり、実際的影響力及び
      軍事・経済・政治などの複合的手段を駆使して特殊な地位を保持することである。これらの基本的な政策理念に基づいて見
      れば、プーチンが政権を担って以来、今回のウクライナ及びクリミアに至る様々な動きについて容易に理解することが可能
      である。(略)

      しっかり認識しなければならないのは、ロシアが今日直面している様々な地縁環境上の問題は冷戦の結果であるということ
      であり、したがって、冷戦の勝利者であるアメリカ及び欧州の同盟国のロシアに対する政策は無関係ではないということだ。
      冷戦終結によってアメリカは史上前例のないグローバルな単独覇権国家になったが、そのアメリカにとり、ロシアの復興あ
      るいはグローバル大国として国際システムに再度加わる上で越えてはならない一線がある。それは、冷戦勝利の最大の成
      果である現在の独立国家共同体(CIS)及びかつてのソ連加盟国家の国境は確保されなければならないということだ。EU及
      びNATOの東方拡大というのはこの政策の具体化だ。ここに正に現在のウクライナ危機の深刻さがあるのであって、プーチ
      ン主義ロシアが米欧と対決する焦点もここにある。(略)

      問題の核心はやはりロシア自身のアイデンティティ危機ということにある。力関係に鑑みれば、グルジアにおいても、ウクライ
      ナにおいても、ロシアは袋小路で不利と言うべきだ。グローバルな戦略という点に関しても、プーチン主義に固執することは、
      ロシアが帝国主義的政策を放棄することに対する米欧の不信感を高め、ロシアの隣国が脱ロシア化の足取りを加速させる
      という結果しかもたらさないだろう。これはプーチン主義が今日の世界において必然的に呈する逆説である。この背後にあ
      るのは今日の世界秩序の根本的欠陥である。即ち、ロシアなどの地域大国は現存の秩序の中では納得できる地位を見つ
      けることができない。しかも冷戦後の世界は交通、インフォメーション、利益等の分野で関係が緊密になっているが、信頼が
      置け、かつすべての国々を収容できる大きな枠組みがない。そのためにロシアのように久しく大国としての野心を暖めてきた、
      そして欧米主導の世界に対して猜疑心に満ちている大国としては、国際的な無政府主義という無責任な政策を採用するしか
      ないのだ。そういう政策の結果は、危機が起こる度にすべてのものが敗者となる賭博ということになる。
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以下、省略。下記をご参照ください。

■ウクライナ、クリミア情勢の見方(11)――浅井基文さんが紹介するウクライナ・クリミア問題に対する中国の言論界の百家争鳴の論
(そのうち3人の論)を中心に(弊ブログ 2014.03.29)
http://mizukith.blog91.fc2.com/blog-entry-826.html


東本高志@大分
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