[CML 030535] ウクライナ、クリミア情勢の見方(10)――アメリカの3人の識者のウクライナ、クリミア情勢の見方。ヘンリー・キッシンジャーの論を中心に

higashimoto takashi higashimoto.takashi at khaki.plala.or.jp
2014年 3月 28日 (金) 23:48:31 JST


私はこれまでウクライナ、クリミア情勢の見方に関して、「ロシア叩き」とでもいうべき西側メディアの偏頗した情報を鵜呑みにして、
その偏頗情報の受け売り、拡張機関に堕したジャーナリズムとしての眼のつたなさを示してあまりある経済大国ニッポンのメディア
の無知蒙昧な報道状況に対して、浅井基文さん(政治学者)や田中宇さん(ジャーナリスト)、「マスコミに載らない海外記事」に連日
のように掲載されるポール・クレーグ・ロバーツ氏(Paul Craig Roberts。元経済政策担当財務次官補、ウオール・ストリート・ジャーナ
ル元共同編集者)のリアリティーな(「事実」に即した)論をご紹介してきましたが、その論者のおひとりの浅井基文さんは「プーチン
がクリミアを併合する決定を下した後、アメリカの官民の圧倒的多くはプーチン非難一色です。しかし、(略)2000年以来のプーチ
ンの言動(略)についての私の印象は『それなりに筋の通った言動を心掛ける政治家』であり、世界的な水準以上の指導者という
イメージが強いのです」という認識を示し、その浅井さんのプーチンに関する認識は「あながち的外れではないことを示すもの」とし
て日本でもよく知られているヘンリー・キッシンジャーをはじめとする3人のアメリカの識者の文章を紹介されています。

ウクライナ、クリミア情勢を読み解く上で示唆に富む見解だと思います。以下、そのうちヘンリー・キッシンジャーの3月6日付けの
ワシントン・ポストに掲載された論のみを転載させていただこうと思います。あとのおふたりジャック・マトロックJr.とアンジェラ・ステ
ントの論については下記の浅井さんのブログで直接お読みください。

■プーチンは大国主義・拡張主義の権化だろうか?(浅井基文 2014.03.27)
http://www.ne.jp/asahi/nd4m-asi/jiwen/thoughts/2014/589.html

また、本日の「マスコミに載らない海外記事」は『愚者の十字軍: ユーゴスラビア、NATOと、欧米の欺瞞』の著者であるDiana John
stoneの「ウクライナとユーゴスラビア」という記事を翻訳掲載していますが、そのDiana 
Johnstoneは「スティーブン・コーエン教授か
ら、ポール・クレイグ・ロバーツに至るまで」という言い方でアメリカの識者の名前をあげています。ポール・クレイグ・ロバーツ氏は
いうまでもなく最近連日のように「マスコミに載らない海外記事」でとりあげられているアメリカの識者(元経済政策担当財務次官
補、ウオール・ストリート・ジャーナル元共同編集者))です。同記事も大変参考になりますので下記にURLを示しておきます。

■ウクライナとユーゴスラビア(マスコミに載らない海外記事 2014年3月28日)
http://eigokiji.cocolog-nifty.com/blog/2014/03/post-73f7.html

以下、浅井基文さんの紹介されるウクライナ、クリミア情勢に関するヘンリー・キッシンジャーの論。

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■「ウクライナ危機はどう終わるか」(ヘンリー・キッシンジャー ワシントン・ポスト 2014年3月6日:「プーチンは大国主義・拡張主義の権化だろうか?」所収)
http://www.ne.jp/asahi/nd4m-asi/jiwen/thoughts/2014/589.html

ウクライナについての議論は対決に関するものばかりだ。しかし、そういう議論がどういう結果になるか分かっているだろうか。私の人生において、熱狂と支持で始まった4つの戦争があるが、そのすべてについて我々はどう終えるかについて分かっていなかったし、そのうちの3つについては我々は一方的に退却する羽目に陥った。しかし、政策について問われるのは、どう始めるかではなくどう終えるかだ。

  ウクライナ問題といえば、東側に加わるのか西側に加わるのかという決着のあり方だけが問われる。しかし、ウクライナが生き残り、繁栄しようとするのであれば、いずれか一方にとっての他方に対する前線基地となってはならず、両者の間の橋渡し役として存在するべきだ。

  ロシアは、ウクライナを衛星国にし、ロシアの国境を移動させようとすれば、欧米との間で互いに圧力を掛け合う歴史を繰り返す運命にあることを覚悟しなければならない。西側は、ロシアにとってウクライナは単なる外国の一つではあり得ないことを理解しなければならない。ロシアの歴史はキエフ・ルーシと呼ばれるところに始まった。ロシア正教はそこから広がっていった。ウクライナは数世紀にわたってロシアの一部だったし、その以前にもロシアとウクライナの歴史は絡み合っていた。1709年のポルタヴァの戦いに始まるロシアの自由にとってもっとも重要ないくつかの戦いはウクライナの地で戦われた。黒海艦隊は長期のリース契約に基づきクリミアのセヴァストポリに基地を置いている。ソルジェニティンの如き有名な反体制派ですら、ウクライナはロシアの歴史、というよりロシアそのものの不可欠な一部だと主張した。

  EUは、ウクライナと欧州との関係を交渉する際の官僚主義的時間稼ぎ及び国内政治を戦略的考慮に優先したことが危機をもたらしたことを認めなければならない。対外政策というものは優先順位を決めるアートなのだ。

  ウクライナ人は決定的要素だ。彼らは複雑な歴史と多言語からなる国家で生きている。西部地域は、スターリンとヒトラーが領土を分割した1939年にソ連に編入された。人口の60%がロシア人であるクリミアは、ウクライナ人であったフルシチョフがロシアとコサックの協定300周年のお祝いとして贈った1954年に始めてウクライナの一部になったに過ぎない。西部はおおむねカソリックであるのに対して、東部はおおむねロシア正教だ。西部はウクライナ語を話し、東部のほとんどはロシア語を話す。これまでのパターンどおりにいずれの一方の側が他方を支配しようとしても、最終的には内戦あるいは分裂ということになる。ウクライナを東西対決の一部として扱ってきたために、ロシアと西側、特にロシアと欧州とを協力的な国際システムに導く可能性が数十年にわたって妨げられてきた。

ウクライナは独立してから23年しか経っていない。ウクライナは14世紀以来何らかの外国支配下にあった。同国の指導者たちが妥協ましてや歴史的視野というアートを我がものにしていないのは驚くに当たらない。独立後のウクライナ政治が明確に証明していることは、問題の根っこにあるのはウクライナの政治家が自分たちの意思を反抗する側に押しつけようとしたことだ。ヤヌコヴィッチとティモシェンコとの争いとはそういうことだ。彼らはウクライナの2つの派を代表し、権力をシェアしようとしなかった。アメリカの賢明な政策は両派をして互いに協力する方途を探させるようにすることだろう。我々は、一方の支配ではなく、両派の和解を探究するべきだ。

  ところがロシアも西側もウクライナの各派もこの原則に基づいて行動してこなかった。それぞれが情勢を悪化させてきた。ロシアは、国境の多くの部分がすでに不安定な時に、軍事的解決を押しつけることは孤立を招くだけだろう。西側に関しては、プーチンを悪魔扱いすることは政策とは言えず、政策の欠如についての言い訳でしかない。

  プーチンは、どんなにやりきれない気持ちがあるにしても、軍事強圧の政策は再び冷戦を生むことになることを理解するべきだ。アメリカは、ワシントンが作った行動ルールを辛抱強く教えこむべき異常者としてロシアを扱うことを避ける必要がある。プーチンは、ロシアの歴史を踏まえた真剣な戦略家である。アメリカの価値観と心理とを理解することは彼の得意とするところではない。アメリカの政策決定者もまたロシアの歴史と心理を理解することが得意ではない。

  双方の指導者は強硬さを競争するのではなく、結果がどうなるかを見極めるようにするべきだ。双方の価値観と安全保障上の関心と矛盾しない結果に関する私の意見は以下のとおり。

1.ウクライナは、経済的及び政治的連携(欧州を含む)について自由に選択する権利を持つべきだ。
2.ウクライナはNATOに加盟するべきではない(この問題が起こった7年前に私が取った立場)。
3.ウクライナは、人民が表明する意思と矛盾しない政府を作る自由を認められるべきだ。ウクライナの指導者が賢明であれば、国家の様々な派が和解できる政策を採用することになるだろう。国際的には、フィンランド方式を追求するべきだ。
4.ロシアがクリミアを併合することは現在の世界秩序の諸規則とは相容れない。ロシアはクリミアに対するウクライナの主権を認め、ウクライナは、国際監視のもとで行われる選挙でクリミアの自治を強めることが望ましい。その過程において、黒海艦隊のセヴァストポリにおける地位に関するあいまいさを取り除く。

  以上は原則を述べたのであって、処方箋というわけではない。この地域に詳しいものであれば、以上のすべてがすべての当事者にとって受け入れられるものというわけではないことが分かる。しかし、カギとなるのは誰もが完全に満足するかどうかではなく、各当事者間の不満足度がバランスの取れたものとなるかどうかということだ。これらの要素に基づく解決が得られないとなると、対決に向かう流れが加速するだろう。時間的な余裕は少ない。
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東本高志@大分
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