[CML 032160] 日経電子版 統計軽視の医学界 福島発がんリスクを見誤るな

山田敏正 toshi-y at kids.zaq.jp
2014年 6月 24日 (火) 10:52:15 JST


転送します。

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日経新聞電子版(6月23日)で岡山大津田先生がインタビューに答えてい
ます。
 その中で、津田先生は「福島県内に限らず放射能で汚染されたと考えられる地域で、
小児甲状腺がんの過剰発生がないか監視することだ。また放射線の影響を受けやすい妊
婦や小さな子どもが、なるべく汚染された地域に住まないでいいような態勢をつくるこ
とだ」と指摘しています。
 現在の状況では、メディアは最大限これくらいしか言えないのでしょうが、日経にこ
う掲載されたことは注目すべきと思います。

 以下全文

統計軽視の医学界 福島発がんリスクを見誤るな 
疫学専門家に聞く   編集委員 滝順一     日本経済新聞 電子版   2014/6/
23

 岡山大学の津田敏秀教授は、多数の人間を観察対象にして病気の原因などを調べる疫
学の立場から、低線量放射線被曝(ひばく)の問題を提起する。年間被曝量が100ミリ
シーベルト以下であっても、放射線の影響ははっきりと表れると主張。福島県の検診で
見つかり始めた小児甲状腺がんの増加に警鐘を鳴らしている。

■チェルノブイリ事故直後でも10代の子どもに発症がみられた

 ――低線量の放射線被曝のリスクに関し、「しきい値なし直線(LNT)モデル」で
防護を考えるのが一般的だ。つまり放射線量がどんなにわずかであっても発がんリスク
はある。ただ小さいので喫煙や生活習慣など他のリスク要因と比べて見分けがつかない
とされる。
 「それは誤った言い方だ。放射線の影響をすべてのがん、すべての年齢層の人間でみ
るからで、放射線の影響が出やすい若年層に対象を絞ったり、がんの種類別にみたりす
れば、100ミリシーベルト以下でも影響が出るとした科学論文は海外にいくつもある。
小児の甲状腺がんのように、放射線以外の理由でかかることが極めてまれな病気では影
響はよりはっきりしている」
 「例えばエックス線CT(コンピューター断層撮影装置)で5ミリ〜50ミリシーベル
トのエックス線を浴びた人は、浴びていない人に比べて発がんリスクが高いことがわか
っている。国際がん研究機関(IARC、世界保健機関の関連組織)が約100万人を対
象にする大規模調査をしている。低線量の影響は見分けられないというのは誤った知識
だ」
 ――福島県で、原子力発電所事故のとき18歳以下だったすべての子どもを対象に甲状
腺検診が実施され、がんの子が見つかっている。これを多くの専門家は、超音波診断装
置による精密検査のため触診では見つからないような小さなしこり(結節)まで見つけ
る「スクリーニング効果」の結果だと説明している。
 「スクリーニング効果の結果だとする証拠はあるのだろうか。国立がん研究センター
に登録された甲状腺がんの年齢別の発生データや、福島県内の地域別の被曝量などを相
互に比べて解析すると、原発から離れた中通り(福島県中部)でも統計的に有意な数の
患者が見つかっている。放射性ヨウ素が事故直後に流れ込んだことと、放射性セシウム
による外部被曝が今も続くことが要因とみられる」
 「福島で甲状腺がんが見つかった子どもの平均年齢が15歳前後で、旧ソ連のチェルノ
ブイリ原発事故後の発症パターンと違うとも説明される。だがチェルノブイリでも事故
直後は10代の子どもに発症がみられたという事実を見落としている。検診を担当する医
師らに統計学の知識が不足している」

――製薬大手ノバルティスファーマの高血圧治療薬の臨床試験をめぐる事件では、大学
医学部が製薬会社の社員に統計解析を任せていたことが明るみに出た。日本の医学界は
統計解析に弱いのか。

「日本に近代医学が導入された19世紀後半は、欧州において実験医学が花盛りだった。
フランスの医師クロード・ベルナールが代表的な存在だが、実験から病気が起きる因果
関係を突き止められるとした。欧米では20世紀半ば以降、多数の人間を観察して仮説を
たて病気にかかる要因を突き止めていく疫学の考え方が台頭し、医学を実験室から社会
に戻したとされる。疫学において大事なのは、病気とその原因の間に一対一で対応する
因果関係はないということだ。しかし日本の医学界は実験医学こそが医学の本流だと今
でも信じている人が多い」

■病気とその原因を1本の線で結ぶことはできない

 ――生活習慣病では一対一で対応する特定の病因はないかもしれないが、感染症につ
いての「コッホの原則」はどうか。ある病気から特定の微生物が見つかり、これを動物
に感染させると発症、その患部から問題の微生物が見つかる。その場合、病気はその微
生物が原因で起きたとみるのが普通だ。
 「感染症であっても、自然現象は一般に一対一対で対応する因果関係を言明できない
。ひどい下痢などの症状を呈する病気をコレラと呼び、その患者からみつかる微生物を
コレラ菌と呼んでいるにすぎない。コレラ菌を持っていてもコレラのような症状を示さ
ず、コレラのような症状の患者にコレラ菌が見つからないこともある。病気とその原因
を1本の線で結ぶことはできない」
 ――疫学に対する見方として、集団を相手にするので個別の因果関係はわからないと
の限界が指摘される。
 「調べれば、個別の事象の因果関係がわかるとするのは誤解だ。すべての科学は仮説
に基づき多数のデータを集めて解析、その結果をみて仮説を修正し、再びデータを集め
る。この繰り返しだ。因果関係を明らかにするのが科学の仕事なら、それはデータによ
るしかない。仮説(概念)と観察データ(現実)の間をつないで、真実に迫る上で不可
欠なのが、統計学だ。だから統計学は科学の文法だといわれる」
 「日本の行政はこうした科学的なものの見方ができず、例えば水俣病においても特定
の症状と水銀汚染を対応づけようとしたのが、過ちだった。同じことを福島で繰り返し
てはいけない」
 ――福島ではどうすればいい。
 「福島県内に限らず放射能で汚染されたと考えられる地域で、小児甲状腺がんの過剰
発生がないか監視することだ。また放射線の影響を受けやすい妊婦や小さな子どもが、
なるべく汚染された地域に住まないでいいような態勢をつくることだ」


■取材を終えて

 津田さんは日本の医師のあり方に対し、辛辣な分類を提唱している。自らの臨床経験
だけに頼り海外論文などに疎い「直観派」、生物学的な実験で病気のメカニズムがわか
ると考える「メカニズム派」、疫学的なデータをもとに議論する「数量派」の3つがあ
る。日本では直観派とメカニズム派が主流を占め数量派が極めて少数であることが、水
俣など公害病や放射線問題での混乱の根っこにあるとする。

 昨年来、相次いで明るみに出ている臨床研究をめぐる不正事件をみると、確かに日本
の医学界は統計解析を軽視してきたように思える。

 福島原発事故に起因する放射線影響は、当初心配されたほど深刻ではないとの指摘が
多い。疫学はこうした楽観論が見落としがちな側面を浮かび上がらせる。福島県などは
、同県以外における子どもの甲状腺検査との比較やがんの大きさなどを根拠に、これま
でに見つかった甲状腺がんを事故の放射線の影響だとはみていない。これに対しても疫
学からは反論がある。ここは医学者間でしっかり議論をしてもらいたい。

 また、疫学だけでは特定の個人の発症原因が事故による放射線なのかどうかを明らか
にはできない。津田さんによれば、発症と病因を一対一対応で証明することは原理的に
できないことになる。この指摘は福島事故のこれからを考えるうえで非常に重要に思え
る。


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山田敏正
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