[CML 032418] 集団的自衛権に反対する演説をした後に自殺を図ったとされる焼身自殺未遂事件について

higashimoto takashi higashimoto.takashi at khaki.plala.or.jp
2014年 7月 5日 (土) 22:37:32 JST


先に三重県松阪市の山中光茂市長が集団的自衛権行使違憲確認訴訟を提起した問題について若干の異議を述べましたが、
そのついでにということでもあります。 集団的自衛権に反対する演説をした後に自殺を図ったとされる焼身自殺未遂事件の一
件についてもひとこと私の異見を述べておきたいと思います。

一部の人たち(私は率直なところ「軽薄な人たち」と呼びたいのですが)は集団的自衛権行使容認が閣議決定された日の2日前の
6月29日に新宿の歩道橋で焼身自殺を図ったある初老の男性についても、集団的自衛権行使容認の閣議決定に抗議するため
に焼身自殺を図ったと一義的に断定し、死をもって抗議を表明しようとしたプロテスタントとして英雄視します。

しかし、実のところ、自殺未遂の直前に集団的自衛権に反対する演説をしたとされるその男性の演説の中身についてはよくわかっ
ていません。メディアの記事は私が見る限りすべて「・・・・という」と伝聞調の記事になっていて、実際の事実関係は不明。客観的な
報道とは言い難いものがあります。法政大学名誉教授の五十嵐仁さんはその中でも比較的丹念にメディアの報道を拾って「火を付
ける前、この男性は(略)『70年間平和だった』『戦争しない』『政教分離』などと話し、『君死にたもうことなかれ」と与謝野晶子の詩の
一節を口にした後、火を付けたそうです」(「五十嵐仁の転生仁語」2014年6月30日)と書かれていますが、五十嵐さんの紹介される
自殺未遂者の「話し」を反芻してみても、ほんとうに男性の「話し」が集団的自衛権に反対する演説だったのかどうかはよくわかりま
せん。「政教分離」という言葉が発せられているところをみると、もしかしたら創価学会、公明党批判が主眼だったのかもしれない、
とも読みとれないこともありません。ともあれ、一義的に「演説」の内容が「団的自衛権に反対する演説」だったと決めつけることは
できないでしょう。理由のわからない自殺未遂の原因を「単一のストーリー」として描くことはWHOが2008年にまとめた自殺に関す
る報道のガイドラインにおいても厳しく戒められているものです。
http://www.who.int/mental_health/prevention/suicide/resource_media.pdf

また、THE NEW CLASSIC編集長のKEN ISHIDA氏も「男性が自殺に至った経緯などが不明瞭なままで、報道が先走ることこそが危険
である」と警鐘を鳴らしています(THE NEW CLASSIC 2014年6月30日)。また、左記の記事では、「自殺がメディアなどで報じられるこ
とで模倣を呼ぶこと」の危険性(ウェルテル効果)も指摘されていますが、日本でも1986年にアイドル歌手の岡田有希子が18歳で
自殺すると30余名の青少年の模倣自殺が相次いだという事件がありました。傾聴に値する指摘だと思います。
http://newclassic.jp/16292

この件についてNHKがまったく報道しなかったことについて批判がありますが、NHK新会長の籾井氏が会長就任時に「放送では
政府批判をしてはならない」旨述べた点との関連のみをクローズアップしてNHK批判をするのは自殺報道のありかたの本質に目
をつぶることになりはしないか、と私は危惧するものです。この際、その私の危惧も表明しておきます。

最後に以下に掲げる文章は私は何度も引用しているものですが、「社会は人の死をどんな形でも利用してはいけない」という池澤
夏樹の言葉の要旨を共感をもって再度引用しておきたいと思います。ここで話題になっている「人の死」は直接的には1960年の
安保闘争で死亡した樺美智子の死を指しています。

      池澤夏樹 夏のかたみに10「亡き伯母との会話」:
      「死んだ人はもう死んでいるわけだから、後から出てきて弁明もできない。死んだ者の気持ちはわからない。それなら、
      社会は人の死をどんな形でも利用してはいけないでしょう。もともと人は決して大義のために死ぬわけじゃなくて、それ
      ぞれにひっそりと小さな個人の死を死ぬのよ。そこに生者の勝手な都合を上乗せしてはいけない。誰かの死をテコにし
      て、社会を変えようとしてはいけない。死の瞬間だけでその人の人生を意味づけるようなこともやっぱりいけない。共感
      をもってその人の生を見なおすことしか、残った者にはできないし、それで充分なんじゃないかな。」(朝日新聞文化欄
      1993.8.18)


東本高志@大分
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