[CML 028972] 映画『永遠のゼロ』についての考察(終)

まっぺん mappen at red-mole.net
2014年 1月 15日 (水) 11:03:46 JST


まっぺんです。No nameさんとのやりとりには
あまり生産性を感じないので議論はいたしません。
そのかわり、文書の補足をして終わりたいと思います。
なお、全体の文書を「ジグザグ会」公式ブログに投稿しました。
http://zigzag.blog.jp/

■300万部突破の超ベストセラー
 私がこの本を購入した時にはまだ100万部も売れてなかったと思いますが、昨年
12月2日には『オリコン2013年年間“本”ランキング』で文庫部門1位と発表
され、12月9日には実売部数(発行部数ではなく)302万7000部と発表され
ました。300万突破は文庫部門では、というより漫画部門を除けば全部門で史上初
めてです。また映画は公開2日で42万人が映画館に足を運び、1月5日までに累計
で259万人がこの映画を観ております。国内映画ランキング(全国観客動員数)で
3週連続第1位。2位がアニメの『ルパンvsコナン』、3位がハリウッド映画の『ゼ
ロ・グラビティ』。
 この作品がこれほどの影響力を発揮したのはなぜでしょうか? 少なくとも多くの
人々にとっては「馬鹿馬鹿しい退屈な作品」ではないからでしょう。では「世の中が
右傾化しているから」でしょうか? 私はそうは思いません。キーワードは2つ。ひ
とつは「零戦へのオマージュ」であり、もうひとつは「夫婦の固い約束」です。しか
し前者はどちらかと言えばマニアックな趣味的領域に過ぎません。鉄道マニアのそれ
と大差ない。戦場という殺伐とした現場が舞台であるにも関わらず、とりわけ後者の
強い男女の愛情のきずなが人々に共感を呼び起こしているのだと思います。しかしそ
のようなテーマでは、「戦争賛美」とも「反戦」とも言えません。

■評価は読者・観客がくだす
 映画『ビルマの竪琴』についてわたしは「観客によって反戦映画となった」と書き
ました。この映画には戦死者に対する鎮魂の気持ちが強く表現されています。そのた
めに一大決心をした水島上等兵への観客の共感がこの映画を大ヒットさせ「反戦映
画」へと押し上げた。しかしもしも鎮魂の気持ちが「ヤスクニ」へと動員されていた
ら、この映画は「戦争賛美映画」とされたかも知れません。「日本軍将兵への鎮魂」
に留まっていてアジア諸国への謝罪が表現されていない事からも、そうした可能性は
あったと思います。しかしそうならなかったのは、やはり観客の圧倒的な反戦の気持
ちからの共感が一定の評価を造り出したからです。
 ひるがえって『永遠のゼロ』も又、戦争についての評価が定まっている作品ではあ
りません。私たちの間に議論が起こったように、観た人々がこれをどう評価するのか
によって、感じ方も違ってくる。だからこの作品が「戦争美化映画」として定着する
のか、それとも「反戦映画」として定着するのかは、読者・観客の評価次第です。そ
のような作品に対して「左翼」を自認する人々はどう対応するべきなのでしょうか?


■感動の内容を明らかにしてゆく
 作品をよく吟味せず、作者の思想性などの外的要素による偏見から自分の感情を前
面に出して「馬鹿馬鹿しい、退屈だ」と逃げるのでは「大衆が感動・共感している」
事実を解明する事はできません。大衆をそのように一方的に突き放すような態度は左
翼がとるべき態度とは思われません。逆に、この作品がこれほどまでに大衆的に支持
されている事実を分析し、感動・共感の理由を明らかにする事が、この映画を「反戦
映画」へと発展させてゆくカギになると考えます。
 この作品が大衆的に共感をもたらしたキーワードは2つあると書きました。その後
者である「どんな逆境にあっても絶対に生きて帰る」という約束こそが共感の源泉で
す。その約束を断ち切った「逆境」とはアジア侵略戦争とそれに続く太平洋戦争でし
た。その戦争犯罪者どもが戦争末期に採用した「特攻戦術」が宮部を妻と子から引き
離したのです。
 「戦争」と「人のいのち」とが対立構造にあることはもう一つの場面でもはっきり
と表現されています。それは操縦に失敗して死んだ部下を宮部が擁護し、それに逆上
した上官が宮部を殴りつける場面です。殴りつける上官は、日本の国家主義の理不尽
さを体現しており、明らかに「人の命を踏みにじる国家主義者」への憤りが、観客の
心に宮部への共感を生み出しているのです。
この映画が感動を呼び起こす理由は、人命を国家の犠牲にする事を何とも思わない
「国家主義者の命令」よりも「人の命、家族を大切に思う心」の方が気高く美しいか
らです。この事に多くの観客・読者が気づき、自分の流した涙の意味はそこにあった
のだと理解した時、この映画は「反戦映画」として高く評価され、「国家主義」への
強い拒否の気持ちを育ててゆくだろうと信じています。





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