[CML 033410] 空き家活用陳情

林田力 info at hayariki.net
2014年 8月 25日 (月) 23:29:52 JST


希望のまち東京in東部は2014年7月7日に江東区長宛陳情「若者の自立支援政策を目的とした区内の空き家の実態調査とそれに基づく施策策定の陳情」を提出した。同種の陳情は葛飾区長及び足立区長にも提出した。

 陳情は「モデルケースとして、高齢者の人口比率が高い地域(たとえば大島や亀戸)を指定して、空き家(部屋)の全数実態調査」ことを求める。その上で実態調査結果に基づいた施策として「家賃補助などと組み合わせた単身若年層への住居の斡旋」や「シェアハウス、非営利団体などによる空き家(部屋)の活用推進」の検討を求める。

 空き家の増加が大きな問題になっている。地方自治体の取り組みは老朽空き家の撤去が中心である。これはスクラップアンドビルドの開発優先社会の延長線上の発想である。これに対して希望のまち東京in東部は空き家の有効活用を求めている。

 空き家問題は国政テーマとも重なる。実はアベノミクスとも問題意識は重なっている。安倍政権は中古住宅の流通促進という面から取り組んでいる。2013年6月14日に閣議決定した日本再興戦略では2020年までに中古住宅流通市場・リフォーム市場規模を2倍(20兆円)に拡大させるという目標を掲げた。

 「我が国の住宅流通に占める中古住宅のシェアは、平成20年時点で約13.5%となっており、アメリカ(77.6%)やイギリス(88.8%)といった欧米諸国と比べて圧倒的に低い状況にある」(不動産流通市場活性化フォーラム『「不動産流通市場活性化フォーラム」提言』2012年、2頁)。

 日本の住宅市場は新築住宅偏重であり、中古住宅流通市場の拡大は有意義な政策である。但し、日本の住宅政策の問題点である持ち家偏重からは抜け出せていない。希望のまち東京in東部は空き家を賃貸住宅として活用しようというものである。住まいの貧困に苦しむ人々の助けになる住宅は分譲住宅ではなく、賃貸住宅であるためである。

 以下の指摘もある。「家賃補助などを適切に講じることで、空き家を公営住宅の代わりとして、あるいは公営住宅を補完する目的で活用していく必要がある」(米山秀隆「空き家対策の最新事例と残された課題」富士通総研経済研究所・研究レポートNo.416、2014年、20頁)

 今回の陳情には二つの特色がある。若年単身層へのフォーカスとモデル地区を指定しての調査である。前者は若年単身層が住まいの貧困に苦しみながらも住宅セーフティネット法(住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律)の直接の保護対象になっていないという制度の不備を埋めるものである。

 若年層の住まいの貧困は江東区議会も認識を同じにする。江東区議会では2007年(平成19年)12月13日に「若年層の雇用と生活の確保に関する意見書」を採択し、若年層支援として住宅確保を求めている。

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厚生労働省は、就職と家の確保ができる支援を同時に進めることが必要として、住居と就職機会の確保を柱とした支援策を平成20年度から実施するとしている。しかしながら、厚生労働省の調査結果を踏まえると若年層を取り巻く環境は大変厳しい状況にあることから、より一層の支援強化に取り組む必要があると考える。よって、本区議会は、国会及び政府に対して、雇用法制を見直し、若年層の雇用機会の促進を図るとともに、住宅の確保等の支援策を緊急に実施することを強く求めるものである。

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後者は「空き家は点在しているため、それぞれの地域では大きな問題という共通理解がない」という空き家問題の難しさに対応したものである。その対策として「問題が切実で共通目標を立てやすい地域でモデルとなる事例を作る(モデル事業の実施)」と指摘されている(平竹耕三「コモンズ論―総有の事例と課題」第14回東京ベイエリア産学官連携シンポジウム「建築許可を中心とした都市法改正案と現代的総有の試み」芝浦工業大学2012年9月29日)。
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林田力(『東急不動産だまし売り裁判 こうして勝った』著者)
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