[CML 033202] 辺見庸の「神奈川新聞社説」の引用と澤藤統一郎の「『前夜』に言寄せて」の檄文 ――時代に対峙する「われ=われ」(かつての小田実のネーミング)の「69年目の戦後の夏」の言葉

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2014年 8月 16日 (土) 21:04:02 JST


作家の辺見庸と弁護士の澤藤統一郎(元日本民主法律家協会事務局長)の「69年目の戦後の夏」の瞋恚。かつて私の年長
の友人の故松岡隆夫はそのまた友人の吉沢和泉の丹沢の川原での焼身自殺(1988年)の死を前にしてこう言った。「一声悲
鳥西窓前」、と。その言葉か。

     辺見庸「日録30」(2014/08/16)から。

     慰安婦問題にかんする1週間ほど前の神奈川新聞社説。論旨明快、阿諛便佞(あゆべんねい)の口吻毫もなく、姿勢
     毅然たり。まことに一読に値した。社説タイトルは「慰安婦報道撤回 本質は強制連行にない」。わたしはこの社説を支
     持する。情勢にかんがみ、以下、全文を紹介する。(原文には改行があるが、引用文では改行を省略した)(引用者注
     :読みやすさのためにさらに引用者が恣意的に改行しました)

     「朝日新聞が従軍慰安婦の報道の一部が虚報だったと認め、記事を取り消した。それをもって、慰安婦が強制連行さ
     れたとの主張の根幹が崩れたと唱える論が横行している。『木を見て森を見ず』のような、稚拙な言説である。朝日が
     誤りだったとしたのは『強制連行をした』という吉田清治氏の証言だ。韓国・済州島で朝鮮人女性を無理やりトラックに
     押し込め、慰安所へ連れて行ったとしていた。30年余り前の吉田証言は研究者の間でも信ぴょう性に疑問符が付けら
     れていた。旧日本軍による強制連行を示す証拠は他にある。日本の占領下のインドネシアで起きたスマラン事件の公
     判記録などがそれだ。だまされて連れて行かれたという元慰安婦の証言も数多い。研究者による公文書の発掘は続
     いており、新たな史料に虚心に向き合わなければ、歴史を論じる資格を手にすることはできないだろう。

     強制連行を否定する主張はさらに、誤った記事により日本がいわれなき非難を受け、不当におとしめられてきたと続
     く。しかし、国際社会から非難されているのは強制連行があったからではない。厳しい視線が向けられているのは、人
     集めの際の強制性のいかんに焦点を置くことで問題の本質から目を背け、歴史の責任を矮小化しようとする態度に
     である。問題の本質は、女性たちが戦地で日本軍将兵に性的行為を強要されたことにある。慰安をしたのではなく性
     暴力を受けた。兵士の性病まん延防止と性欲処理の道具にされた。その制度づくりから管理運営に軍が関与してい
     た。それは日本の植民地支配、侵略戦争という大きな枠組みの中で行われたものであった。

     歴史認識の問題が突き付けるのは、この国が過去と向き合ってこなかった69年という歳月の重みだ。国家として真摯
     な謝罪と反省の機会をついぞ持たず、歴史修正主義を唱える政治家が主流になるに至った。朝日が撤回した記事に
     ついて、自民党の石破茂幹事長は『国民も非常に苦しみ、国際問題にもなった』と、その責任に言及し、国会での検証
     さえ示唆した。過去の国家犯罪の実態を明らかにし、被害国と向き合う政治の責任を放棄し続ける自らを省みること
     なく、である。国際社会の非難と軽蔑を招く倒錯は二重になされようとしている」。

     二重の倒錯。そのとおりである。朝日関係者の国会招致の動きに反対する。(辺見庸「日録30」2014/08/16)
     http://yo-hemmi.net/article/403666987.html


     澤藤統一郎の憲法日記(2014年8月16日)から。

     69回目の戦後の夏、時代に向き合う-「前夜」に言寄せて (澤藤統一郎の憲法日記 2014年8月16日)
     http://article9.jp/wordpress/?p=3315

     今ならまだ間に合う。/ 明日では遅すぎる…かも知れない。/だから、今、声を上げなければならない。/ 今は、そ
     のような「前夜」ではないか。

     「前夜」に続く茶色の朝、/ 「改憲」が実現する悪夢の日。/ 歴史の歯車が逆転して、/いつかきた道に迷い込み、
     /その行きつく先にある、/ 「取りもどされた日本」。

     69年前、/ 戦争の惨禍というこの上ない代償をもって、/われわれ国民は、主権と人権と、なによりも平和を手に
     入れた。/それまでの大日本帝国とは断絶した、/ 新しい原理に拠って立つ新生日本国を誕生させた。

     「前夜」とは、/その新生日本国の原理が蹂躙される「恐るべき明日」の前夜。/邪悪な力による逆行した時代到来
     の前夜。/ 断絶し封印されたはずの過去が、新たなかたちでよみがえるその日の前夜。

     訣別したはずの過去において、/  主権は天皇にあった。/  天皇は神として神聖であり、/  天皇の命令は絶対と
     された。/  君と国とが主人であり、/  この地に生きるものは「臣民」であった。/  臣民には、恵深い君から思し召
     しの権利が与えられ、/  臣民はそのかたじけなさに随喜した。

     国が目指すは富国強兵。/  強兵こそが富国の手段で、/  富国こそがさらなる強兵を可能とする。/  「自存自衛」、
     「帝国の生命線防衛」の名の下、/  侵略戦争と植民地の拡大が国策とされた。/  そのための国民皆兵が当然と
     された。

     学校と軍隊が、国家主義・軍国主義を臣民に叩き込んだ。/  国定教科書が、統治の対象としての臣民に、服従の
     道徳を説いた。/  排外主義と近隣諸国民にたいする優越意識が涵養された。/ 
  男女平等はなく、家の制度が国
     家的秩序のモデルとされた。

     このような理不尽な国家を支えた法体系の一端は、/  大日本帝国憲法/ 
刑法(大逆罪・不敬罪・姦通罪)/  陸
     軍刑法/  海軍刑法/  徴兵令

     讒謗律1875(明治8)年/  集会条例1880(明治13)年/  新聞紙条例1875(明治8)年/  保安条例1887
  (明治20年)/ 集会及政社法1890(明治23)年/  出版法1893(明治26)年/  軍機保護法1899(明治32)
     年/  治安警察法1900(明治33)年/  行政執行法1900(明治33)年/  新聞紙法1909(明治42)年/  治
     安維持法1925(大正14)年/  暴力行為等処罰法1926(大正15)年/  治安維持法改正1928(昭和3)年/
     軍機保護法全面改正1937(昭和12)年/  国家総動員法1938(昭和13)年/  軍用資源秘密保護法1939
     (昭和14年)/  国家総動員法改正1941(昭和16)年/  国防保安法1941(昭和16)年/  治安維持法改正
     1941(昭和16)年/  言論、出版、集会、結社等臨時取締法1941(昭和16)年/  戦時刑事特別法1941(昭
     和16)年

     議会制の終焉を告げる大政翼賛会の結成は/ 1940年(昭和15年)10月。/その後1年余で、太平洋戦争が
     勃発した。

     今、歴史の歯車の逆回転を意識せずにはおられない。/ 日本国憲法が払拭したはずの旧体制の残滓が復活し
     つつあるのではないか。/ 自民党は、憲法改正草案を公表した(2012年4月)。/この草案自体が既に悪夢だ。
     / 立憲主義を崩壊させ、日本を天皇をいただく国にし、/ 堂々の国防軍をつくろうという。/そして、「表現の自
     由」圧殺を公言するもの。

     特定秘密保護法とは、/ 「国民には国家が許容する情報だけを知らせておけば足りる」/という思想をかたちに
     したもの。/ 国民が最も知らねばならないことを、知ってはならないと阻むもの。/国民の知る権利の蹂躙は、民
     主々義の根幹を破壊すること。/そして、議会制民主々義を形だけのものとすること。/ 衆参両院の議員は、こ
     の悪法の成立に手を貸したのだ。

     さらに、だ。/ 2014年7月1日集団的自衛権行使容認の閣議決定。/ 
 憲法の平和主義は後退を余儀なくされ
     てはいるが、/ 専守防衛の一線で踏みとどまっている。/ 今、自衛隊が外国で闘うことはできない。/これを突
     破しようというのが、集団的自衛権行使容認。

     防衛大綱は見直され、海兵隊能力が新設される。敵基地攻撃能力にまで言及されている。「軍国日本を取り戻す」
     まで、あと一歩ではないか。

     法律だけでは、戦争はできない。/ 他国民への憎悪をかきたてなければならない。/それには、教育とメデイアの
     統制が不可欠なのだ。/ 大学の自治も教育の自由も邪魔だ。/ 権力の煽動に従順な国民が必要で、権威主義
     の蔓延こそ権力の望むところ。/ 排外主義を撒き散らすヘイトスピーチ大歓迎なのだ。/ 「憲法を守ろう」という声
     には、/ 「政治的」というレッテルを貼って萎縮させることも。

     着々と、再びの悪夢の準備が進行しつつある。/いまこそ、あらゆるところで、声を上げよう。/その「恐ろしい明日」
     を拒絶するために、/ 今なら間に合う。声を上げられる。/ 明日では手遅れ、になりかねないのだから。


東本高志@大分
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