[CML 030607] 続・「台湾ひまわり学運」のゆくえ:カリスマ学生リーダーの登場はアジアを変えるか+30枚の現場写真で考える台湾の学生蜂起

uchitomi makoto muchitomi at hotmail.com
2014年 4月 2日 (水) 16:54:36 JST


続・「台湾ひまわり学運」のゆくえ
カリスマ学生リーダーの登場はアジアを変えるか
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20140401/262088/?n_cid=nbpnbo_bv_ru
福島 香織
>>バックナンバー2014年4月2日(水)
 台湾で久々に、カリスマの登場だな、と感じた。
 30日午後1時から8時まで、台北の立法院から総統府までの凱達格蘭大道を覆い尽くした「反サービス貿易協定」デモを主催した学生グループのリーダー・台湾大学政治学研究所研究生(院生)の林飛帆である。
「馬英九総統よ、出てきて答えよ!」
 先週のコラムでも紹介した学生による立法院占拠「ひまわり学運」の指導者のひとりであり、18日からずっと立法院の中に立てこもっていた。その彼が、この8年来最大規模の主催者発表50万人、警察発表11万6000人の集会に登場し、17分間の見事な演説を披露し、「馬英九総統よ、出てきて答えよ!」と呼びかけた。わずか25歳の若者が、立法院占拠を成功させ、世論を味方につけ、心に響く演説をして、総統を相手どり、対話せよ、と呼びかけるのである。私も現場にいながら、すごい若者が出てきたな、と感じ入っていた。
 台湾の民主化は学生運動によって勝ち取られてきた。台湾における学生のパワーは、今も肯定的に受け止められ、期待が寄せられている。だが、こういう風に突出した一人に注目が集まることは珍しい。30日のデモはこの8年の間で最大規模のものとなった。
 私はこの「ひまわり学生運動」が従来の台湾の学生運動とはずいぶん違うような気がして、それを確かめようと26日に台北にはいり、27日に占拠中の立法院で、「神帆」(神のような飛帆)との呼び名もある林飛帆と、ナンバー2と目される台湾清華大学社会学研究所研究生(院生)の陳為廷(24)にそれぞれ30分ずつ、インタビューした。「立法院占拠」という常軌を逸した方法をとりながら、世論の大多数を味方に「成熟した学生運動」と注目されている「ひまわり学運」のリーダーの横顔と策略について、紹介したい。
 「この13日間、僕らは涙を流した。血を流した仲間もいた。じりじりとした焦りの中で、多くの仲間たちは、家に帰りたいと言ったこともあった。だけど、僕らは帰ることができない。頑張り続けなければならない。…政府に告ぐ。台湾の未来は2300万の台湾人民のもので、台湾の未来は我々自分たちで決めなければならない」「僕らの要求は四つ。第一、サービス貿易を撤回。第二、両岸(中台)で監督条例を設立。僕らは法に従うのであって、行政命令に従うのではない。まず(打ち切りになった)審議を再開せよ。これは立法院占拠初日からずっと堅持し続けてきた要求である。第三、公民会議を開くこと。政府はすでに統治の正当性を失っている。公民が望む台湾各界、政治、社会の代表をもってこそ、現在の硬直した状況を解決できる。第四、国会に回帰せよ。与野党立法委員と人民が一緒に立ち上がり人民の支持を求めるべきだ」
台湾の歴史の新たな1ページに
 「なぜ、僕らが立法院を占拠したか。台湾の現行の代議政治は、個人の意思によって蚕食され、民意にこたえるすべを持たない。…馬総統は昨日の記者会見で、言葉は耳にやさしく、笑顔を浮かべていたけれど、僕らが受け入れられるようなものではなかった。馬総統は何も答えていない。よって、国会占拠行動をやめることはできない」「今日が終わりではなく、この50万人が街頭に立った今日、台湾の歴史の新たな一ページになる!」
 30日午後7時半、前日の雨のおかげでときおりさわやかな風も吹く宵闇の中で、林飛帆は立法院占拠の継続を宣言した。馬英九に退陣せよ、とこそ言わないが、その正当性はないと言い切った。要求も明確で、交渉の余地があり、無理難題を押し付けるわけではない。実にクールだ。彼の風貌は理知的で、冷たいと感じるくらいに落ち着いている。疲れた顔はしているが余裕があり、群衆はまるでスターの登場を見るかのような熱い声援を送った。
 私は肉眼ではなく、少し離れたネットのつながる場所で、ネット中継でその様子を見た。しかしデモ隊数十万人分の熱が風にのって届く距離である。
 その3日前の、彼へのインタビューを思い返しながら、この「ひまわり学運」の異例さを改めて考えてみた。
 まず、その命令系統とロジスティック管理のものすごさである。占拠されている立法院内に入って驚いた。一瞬被災地の災害対策指揮所かと思うような指揮系統ができている。総指揮部の下に渉外部門、物資管理部門、メディア対応部門、ボランティア医師による医療部門、学生らによるネット・動画サイト・フェイスブックなどを使った世界への広報・情報発信部門、果ては、35か国語対応の通訳部門まである。すぐにでも政党が作れそうな人材の充実ぶりだ。
 議場は八つの入り口に、警官らが入ってこられないように、内側から椅子などを積み上げたバリケードでふさがれていたが、その様子がまるで議場内のいたるところに張られたポスターやスローガンと相まって前衛アートのようだった。バリケードの隙間から議場内に入るのだが、そのとき、手を消毒され、体温を測られる。感染症対策がしっかりしている。議場内はメディアを含め数百人が出入りしているが、それなりに整理整頓が行き届き、ゴミは分別収集され、トイレも清潔だ。王金平立法院長が学生の占拠を黙認したため、電気、水は通常どおりで、空調もまずまず効いている。弁当は支援者から差し入れられ、食事、水自体は問題がない。4月に期末試験があるためか、後ろの方で勉強している学生たちもいた。民進党の立法委員ら、警備の警官、支援者らが出入りしている。立法委員が議場にいる以上、立法院の独立性は尊重され、警察が干渉できないのだという。清華大学や台湾大学の教授たちも、応援に毎日のように通っている。台湾教授協会の呂忠津会長は「これほど素晴らしい学生運動を行うとは、この子たちは私たちの誇りです」と目を細めていた。教育部、教授組織、大学学長らはほぼ全面的に学生支持である。
どこまで計算通りだったのか?
 立法院の周辺は1〜2万人の座り込みが常時行われ、その座り込み学生、市民らの生活を支えるためのあらゆる支援がボランティアで賄われている。炊き出し、簡易トイレ、簡易シャワー、ゴミ収集、理容やマッサージ、メンタルケアのブース、教授・講師たちによる出張講義まである。反サービス貿易協定の学生運動に賛同する全国の小売・サービス業者が持ち出しで支援している。だが、全国から集まる支援物資やボランティアをうまく配置し機能させているのが、学生たちの総指揮部であるとしたら、これも大したものである。ロジについては、プロが学生たちのアドバイザーについているという話もあり、世界の被災地で素晴らしいボランティア活動を見せている組織がいくつも台湾にあることを思えば、このくらいお手の物なのかもしれない。
 いったい、これほどの展開がどのように行われたのだろうか。どこまで計画され、どこまで計画通りだったのか。
 林飛帆と陳為廷によれば、サービス貿易協定の強行採決が決められた17日午後に、中心メンバー十数人が討論を開始。この十数人は2008年の野草苺学運以来の主な学生運動、社会運動にともに参画してきた、いわば学生運動のプロともいえる同志だった。討論の末、立法院占拠方針を決めたのは18日当日の午後だったという。「問題は国会にある。つけは国会に」という判断だった。実行部隊は40人以上。立法院の三つの門(北門、正門、南門)から分かれて突入。この時、北門がなぜか警備が手薄で、林らは北門から侵入、南門は30分ぐらい群衆が門を揺らしていると、倒れてなだれこむことができた。正門には5年来毎日抗議活動を続けている台独派の市民団体がやはり激しい抗議活動を行っていたが、立法院の警備はこの市民団体の方を警戒し、警備を正門側に集めていたという。この市民団体と林飛帆側はもともと面識がなく、偶然に連携したかっこうとなったという。
 林飛帆も陳為廷も2012年の総統選挙の民進党候補だった蔡英文サイドで選挙応援活動を行ったことがあり、民進党側も今回の学生運動に対して、かなり積極的に支援物資や資金を提供しているようだ。だが、学生運動自体に政党色はほとんど出さず、政治運動ではなく公民運動のスタイルをとった。民進党の発展と深く関係がある過去の台湾の学生運動に影響を受けているかという質問をあえてすると、「僕が生まれたのは1988年ですから、ほとんど知りません」と林飛帆。むしろ1960年代の日本の学生運動や韓国の学生運動、最近では香港の学生運動が参考になっている、と語った。「日本の学生運動の方が台湾の学生運動よりも強烈です」。彼の父親が非常な民進党支持者であったことはかつて本人がメディアに答えているのだが、この運動については政党の色を付けたくないようだ。
 立法院占拠という手法は一見過激だが、学生運動自体には「非暴力」運動のイメージが浸透している。行政院占拠と強制排除という流血沙汰は起きたものの、それは学生の暴発よりも警察の暴力を社会に印象付ける結果になった。
 そのせいか、学生支持者は国民党派側やサービス貿易協定でむしろ得をしそうな業界にも少なくない。どの世論調査も七割前後が学生支持という結果を出している。サービス貿易協定の問題に焦点を当てながらも「(サービス貿易協定は)台湾の民主制度の問題であり、両岸(中台)関係の問題でもある。(台湾と中国が)国と国の関係による協定なのか、あるいは特殊な国と国による関係なのか。その両方の方策を同時にやらないといけない」と語り、経済・政治にとどまらない、台湾民主の問題、中台関係と幅広い問題を提起。台独派からノンポリまで幅広い層の関心と支持を呼んだ。
学生運動、アジアを変えるか
 中核メンバーは、およそ2008年暮れの野草苺学運に参加したのが、学生運動と本格的にかかわり始めたきかっけだった。「このとき、初めて警官が学生に暴力をふるうのを見た」と林飛帆。
 林飛帆は以来、主だった学生運動、社会運動に関わってきた。昨年8月、25万人を集めた徴兵青年の虐待死抗議デモや昨年暮れの反メディア独占運動にもかかわってきている。「今は学生運動の転換期。過去の運動がなぜ失敗したか。その構造的問題を考え、学生運動をより成熟させ、発展させ、新しい方向性を模索しいく。学生運動の力が試されている」
 わずか数年だが、その経験の蓄積が確実に「ひまわり学運」に昇華されているといっていい。多くの老民主化活動家が口々に「われわれより優秀」「見たこともない成熟した学生運動」と絶賛する。
 林飛帆は、ひまわり学運はまだ成功していなけれども、と断りながらも、「香港の学生運動幹部ともずっと連絡を取り合っている。立法院占拠二日目に香港も連携してアクションを起こしてくれた。中国の学生との交流は少ないが、この運動が香港と中国に影響を与えると思う」と言い、ひまわり学運の広がりに期待した。
 果たして、立法院占拠がいつまで続くか、今は学生たち自身もわからない。「馬英九総統が譲歩するまで」とリーダーたちは言う。今の台湾では、野党の現役政治家たちは非力で、国会は審議の場として機能できない。民意をもっとも遂行しているのは学生たちだ。だから、ふつうならばありえない、と思えることも、このカリスマ学生たちならば、もしやと期待してしまう。立法院の議場で、林飛帆や陳為廷らリーダーたちが頭を寄せ合って何やら相談している姿に、周りの学生たちが信頼を込めた視線を送っていた。外国人の私まで、この新しい形の学生運動が巻き起こすインパクトが日本を含めた東アジア地域にどんな影響をもたらすか、期待と好奇心を抑えることができない。


30枚の現場写真で考える台湾の学生蜂起
学生リーダー・林飛帆氏インタビューとルポルタージュ
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20140331/262051/?rt=nocnt


池田 信太朗
>>バックナンバー2014年4月1日(火)

 台湾では、3月18日以来、立法院(国会議事堂に相当)が学生らに占拠されるという異常事態が続いている。

 発端は、台湾が中国と昨年6月に締結したサービス協定に関する審議だ。台湾・馬英九政権は、2010年から中台間の貿易自由化を段階的に進めてきた。サービス分野の市場開放を目指す同協定もそのうちの1つだ。これを承認するための審議が立法院で進んでいた。

 同協定は、必ずしも台湾に不利に設計されたものではない。開放する分野は中国の方が多く、また中国は、他国には門戸を開いていない電子商取引や病院サービスなどの分野も開放する。だが、台湾内には、中国資本の流入によって台湾地場の中小企業が淘汰されるといった懸念や、出版や報道も門戸が開かれることから、中国資本の支配によって言論の自由も失われるのではないかといった不安が根強い。

 中国と台湾との間の有利不利というよりも、台中間で経済が一体化していくことに対する危機感と言っていいだろう。1949年以来となる中台閣僚級会談が2月に実施された。その場でも中国側から上記協定の批准を急ぐよう求められたと報じられており、これを中国側からの「圧力」と感じた台湾市民が反発を一層強めた。

 賛否両論が飛び交う中で立法院では議論を重ねて来たが、18日、馬政権は審議を「時間切れ」として打ち切り、強制採決に踏み切った。これに憤った学生たちが立法院に突入し、抗議の意思を示した。

 学生たちにとって幸運だったことに、そして馬総統にとっては不運だったことに、占拠された立法院の院長は、与党・国民党内での馬総統の政敵・王金平氏だった。王氏は「これは立法院内の問題」だとして学生の行動を追認。台湾では5院(立法、司法、行政に加えて、人事院に相当する考試院、公務員弾劾などを司る監察院がある)が分立しており、立法院の長が拒めば行政権をもってしても容易には強制力を及ぼすことができない。

 こうして、台湾憲政史上、前代未聞となる学生による立法院占拠が実現したのだ。

バリケードの向こうに足を踏み入れる

 29日午前10時、記者はバリケードを越えて、封鎖されている立法院に足を踏み入れることを許された。以降、写真をメーンに、封鎖された立法院の中で何が起こっているのかをお見せしていきたい。

 立法院は、台北駅から歩いて5分ほどの場所にある。目の前の通りは青島東路。完全に通行止めになっており、車両は進入できない。ぎっしりと学生たちが座り込んでいる。水や食べ物が無料で配られている様子をよく見る。カンパで集められた物資を配っているのだろう。以下が立法院の外観。


封鎖された立法院には「民主主義を守れ」などと書かれた垂れ幕が下がる(写真は以下全て的野弘路)
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正面入り口は警官と学生によって封鎖されている
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