[CML 026446] シリア危機の構図・黒木英充さん

BARA harumi-s at mars.dti.ne.jp
2013年 9月 10日 (火) 18:39:55 JST


新聞記事・
朝日新聞・
9月10日朝刊
http://digital.asahi.com/articles/TKY201309090560.html?ref=pcviewer

■早急に交渉テーブルの用意を 黒木英充さん

 シリア内戦の基本構図は、よく言われるようなシーア派の分派アラウィ派と、スンニ派の
宗派的対立より、「大都市部の既得権層」対「農村部の貧しい層」という図式です。
スンニ派は両方にいる。

 反政府運動は、2011年3月にヨルダン国境に近いダルアで情報機関が子どもを拷問
したことへの抗議として始まりました。
その後、大都市の知識人層も呼応したが、地方から火が付いた。

 60年代から70年代初めにかけてバース党が権力を握った当初は、大土地所有を廃止
して土地を分け与えるなど、特権的富裕層の利益を貧しい階層に回す社会主義的政策を 

とった。
その後も政治的な自由は許さなかったが、90年代から経済はかなり開放的にもなった。 


 <根底に格差対立> ただ、完全な自由競争ではなく、権力にぶら下がる人たちと、 

そこから排除される人たちの格差が拡大し、農村部は大半が置いていかれた。
結果として社会の二極分解が起き、内戦につながった。

 シリアが「アラブの春」のチュニジア、エジプトと決定的に違うのは、反体制運動に暴力が
伴ったことです。
チュニジアやエジプトでは市民が非武装で抗議した。シリアでも最初はそうでしたが、すぐ
治安部隊への襲撃が始まった。

 原因は外国の扇動と介入です。
トルコ、ヨルダン、レバノン、イラク経由で、サウジアラビアやカタールなど各地から武器と
カネと人が入ってきた。
背景には湾岸諸国とイランの対立があります。
シーア派のイラン、シーア派が強いイラク、レバノンのシーア派組織ヒズボラ、アラウィ派が
権力を握るシリアはゆるやかな連合体を形成している。
そこにくさびを打ち込む意図が湾岸諸国にある。

 当初、宗派的な対立はそれほどなかったが、内戦が続く中で対立感情が高まった。
アラウィ派、スンニ派双方の村で虐殺が起き、ジェノサイド的な側面が出てきた。
外部から入ってきたアルカイダ系組織が増殖し、各地のキリスト教会が襲撃され、司祭や
住民が殺されたり、拉致されたりしている。

 <双方に勝利なし> もう、政府側も反政府側も、完全な勝利は得られない状況になって 

います。
政府軍には、広大な領域にちらばる反政府組織を一掃する余力はない。
自国民を万単位で殺傷した以上、もはや「国民軍」と名乗ることはできません。

 反政府側にも弱点が多い。一千以上あるといわれる民兵組織の多くは統制のとれない 

暴力集団と化している。
今のままでは、「シリア国民連合」のような組織が国外で物事を決めても、民兵組織に 

対する強制力は働かないでしょう。

 このような状況で軍事介入しても百害あって一利なしです。
反政府側が一時的に勢いづき、内戦がさらに激化するだけ。「化学兵器使用に対処した」 

という言い訳的な介入にしかならない。
そもそも化学兵器を使ったのが政府側かどうかさえ現時点では不明です。
状況からして動機が説明できない。

 9月1日のアラブ連盟の外相会議で、シリア攻撃を支持する決議案に対し、イラク、 

レバノン、アルジェリア、チュニジアに加え、新政権のエジプトも反対した。
「軍事介入はシリアだけでなく、アラブ全体に対する攻撃だ」というとらえ方が出てきた。
攻撃を限定的なものにとどめても、多くの国で反米感情がさらに高まるでしょう。
いったん戦争が始まれば、「限定的」に終わる保証はない。

 このままシリアが破綻すればイラク、レバノン、ヨルダンが一気に不安定化し、
その影響は計り知れない。
いま必要なのは、政府側と反政府側を一刻も早く交渉のテーブルにつかせることです。 


 ただ、それですぐに内戦が止められるわけではない。
反政府側はバラバラなので、一度に止めることは難しい。
まず関係諸国が一致協力して、停戦を条件にカネと武器の流入をストップさせるべきです。
特にサウジアラビア、カタール、トルコの協力は必須です。

 交渉には仲介者が不可欠だが、米国やロシアは利害がからみすぎている。
欧州で期待できるのはドイツとイタリアです。
シリア移民が多いブラジルも可能性がある。
日本もこの方面でこそ貢献すべきです。どんなに困難でも、交渉による政治解決をめざ 

すしか道はありません。

 (聞き手・尾沢智史)


 くろきひでみつ 東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所教授 61年生まれ。
専門は中東地域研究、東アラブ近代史。東京大学助手などを経て現職。
編著に「シリア・レバノンを知るための64章」など。



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