[CML 027335] 韓国の元徴用工裁判をどうとらえるべきか ――貴重な問題提起としての1本の記事と1本の論攷及び名古屋三菱・朝鮮女子勤労挺身隊訴訟弁護団意見書 

higashimoto takashi higashimoto.takashi at khaki.plala.or.jp
2013年 10月 30日 (水) 18:50:05 JST


韓国人の元徴用工たちが訴えた裁判(元徴用工裁判)で韓国の司法が日本企業に賠償を命じる判断を相次いで示していること
がいま注目されています。この元徴用工裁判問題(日本企業への賠償命令・「日韓請求権協定」問題)をどうとらえるべきか。以
下の2本の記事及び論攷(「名古屋三菱・朝鮮女子勤労挺身隊訴訟弁護団意見書」付き)が貴重な問題視点を提起してくれてい
ます。以下、ご紹介させていただこうと思います。

1本目。

東京新聞特報記事「元徴用工裁判をどうとらえるべきか 韓国で相次ぎ原告勝訴」(2013年10月28日付)。

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■【特報】元徴用工裁判をどうとらえるべきか 韓国で相次ぎ原告勝訴(東京新聞 2013年10月28日)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokuho/list/CK2013102802000135.html

 日本の植民地時代に強制労働の被害を受けたとして、韓国人の元徴用工たちが訴えた裁判で、韓国の司法は日本企業に
賠償を命じる判断を相次いで示している。来月一日にも、元「女子挺身(ていしん)隊」が訴えた裁判で同様の判断が出そうだ。
従来の日韓両政府の見解は、一九六五年の日韓請求権協定で解決済みというもの。こうした両政府の見解を飛び越えた韓
国司法の判断をどう受けとめたらよいのか。 (出田阿生)

 元徴用工の原告たちは日本でも裁判を起こし、敗訴が確定していた。

 異変が起きたのは昨年五月。元徴用工らが韓国で三菱重工や新日鉄住金を訴えた裁判で、韓国の最高裁が「元徴用工の
個人請求権は消滅していない」という初の判断を示した。判決は「日本での原告敗訴判決は植民地支配を合法化」したものと
まで言い切った。

 その結果、今年七月にソウルと釜山の両高裁であった差し戻し審では、原告が逆転勝訴した。

 こうした判断に日本企業や政府は驚いた。日韓基本条約とともに結ばれた請求権協定は、対日請求権の放棄が柱。これと
矛盾するからだ。

 協定では日本からの経済協力金のうち、無償三億ドル(当時の千八十億円)に補償金が含まれると解釈された。韓国側は
二〇〇五年以降、「慰安婦とサハリン在留者、被爆者は対象外」と見解を変えたが、元徴用工については言及しなかった。

 一連の高裁判断に日本企業側はすぐに上告。新日鉄住金はいったん「賠償に応じる意向」と報じられたが、同社は「現段階
であり得ない。上告審で正当性を明らかにするだけだ」と否定した。

 だが、年内か年明けに予想される最高裁判決でも、結論が変わる可能性はほぼない。敗訴が確定し、日本企業側が賠償支
払いを拒めば、韓国にある資産が差し押さえられる。両社とも韓国に生産設備こそないが、同国の企業との提携や取引があり、
本業への影響は避けられそうにない。

 日本政府も「日韓請求権協定で完全に最終的に解決済みだ」(菅善偉官房長官)と主張はしているものの、一民間企業の賠
償支払いにストップをかける権限はない。

 仮に日本側が国際司法裁判所に訴えても、韓国側が応じなければ、裁判は開かれない。 


 日本のネット上には、こうした韓国司法の判断について「反日判決」という言葉が飛び交った。今年に入り、韓国の裁判所では
「靖国神社への放火容疑がある中国人を日本側に引き渡さない」「日本の寺から盗まれた仏像を返還させない」といった判断が
出ており、そうしうた流れも事態を感情的にさせている。

 しかし、元徴用工の代理人を務める張完翼(チャンウンイク)弁護士は「『反日判決』と言い放つのはあまりに性急だ」と話す。

 「左派系の判事が反日判決を出した」との報道もあったが、同弁護士は「裁判官は保守派で知られた人物。反日感情によると
いう指摘は当てはまらない」と強調した。


 一方、韓国国内では、この問題への関心は日本ほどは高くない。大手新聞もあまり紙幅を割いていないのが実情だ。

 山口大の浅羽祐樹准教授(韓国政治)は「過去に合法であったにせよ、『現在の理念に照らして違法』という判決は、韓国では
決して珍しくない」と指摘する。

 韓国では近年、八〇年代後半までの軍事独裁政権時代の法的な清算が次々とされている。最近でも、七〇年代に政治犯と
されていた人々が再審を請求。当時の政府が弾圧目的で講じた「緊急措置」について、憲法裁判所が「国民の基本権を過度
に侵害した」とみなし、違憲判決を出した。

 「日本では『悪法も法』とみなされるが、韓国では過去の法の断罪は『社会の進歩』の証明。しかも政治に従属的とされる日本
と違い、司法の独立性が高い。政治の変動で憲法が頻繁に変えられるが、同時に司法判断も政治を動かす」

 さらに最高裁と憲法裁の権限争いとみられる側面もあって、「注目を集めるような違憲判決を両裁判所が競って出す傾向にあ
る」という。

 今回の元徴用工裁判について、日本弁護士連合会で戦後補償問題に取り組む川上詩朗弁護士は「韓国憲法は、日本からの
独立戦争で国家が成立したとうたっている。つまり、植民地支配=不法という解釈が憲法理念にまでなっているという点をまず
認識しなければならない」と助言する。

 川上弁護士によると、「植民地支配は非人道的行為」として、加害国の責任を求める昨今の国際司法の影響も見逃せないと
いう。たとえばイタリアの最高裁は〇八年、ナチスに虐殺された遺族によるドイツ政府への損害賠償請求を認めた。

 新潟国際情報大の吉沢文寿教授(日朝関係史)は「軍事独裁政権で抑圧されてきた被害者たちが、民主化による人権意識の
高まりでやっと訴え出られるようになった面がある」と分析する。

 韓国国内では、請求権を放棄した朴正煕(パクチョンヒ)政権は経済復興を急ぐあまり、賠償を求める反対運動を弾圧して協
定の締結を急いだ、という理解が一般的だ。実際、日本の提供資金は道路や港湾などインフラ整備に回され、多くの被害者は
韓国政府からの十分な補償を受けられなかった。吉沢教授は「日韓協定による日本の資金提供は、戦後補償といえる性質の
ものではなかった」と指摘する。

 川上弁護士は「日本は協定ですべて終わったとし、植民地時代の国際法上の違法行為を具体的に検証してこなかった。その
ツケが回ったのが今回の判決だ」とみる。

 ただ、そうにせよ、国同士の約束事が互いの内政事情でコロコロ変えられてはたまらない、という意見は根強い。

 韓国政府が強制労働の被害を認定したのは約二十二万人。際限なく賠償請求が続くかといえば、元徴用工裁判の支援者は
「実は被害者の訴えは多くない」と明かす。韓国での元徴用工の訴えは現在計六件。弁護士が八月末に電話相談窓口を設け
たが、問い合わせは四十数件にすぎなかった。

 高齢化した被害者にとっても、日本企業にも裁判の負担は大きい。「賠償請求のたびに支払う」「韓国政府が補償を充実させ
ればいい」「財団や基金を創設し、戦後補償問題を解決する枠組みをつくる」…。どの提案も「即決は難しい」という点では似たり
寄ったり。妙案はなく、しばらくは迷走が続きそうだ。


デスクメモ

 日本人が被害者になった例はシベリアでの強制労働だ。旧ソ連は謝罪こそしたが、支払いを拒んだ。国内での空襲被害もし
かり。視角を国同士から国家と民衆に移せば、どの国家も民衆には冷淡極まりない。福島原発事故も一例だろう。新たな戦前
が準備されているいま、史実をもう一度振り返りたい。(牧)
                                                 (「vanacoralの日記」2013年10月29日付より)
                                                 http://d.hatena.ne.jp/vanacoral/20131029
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上記の東京新聞特報記事を全文引用しているvanacoraさん(「vanacoralの日記」主宰者)は記事の最後に「やはり一般の韓国・
朝鮮人に負担を押し付ける、日韓請求権協定はゼロベースで見直すべきであります」と付言しています。

2本目。

「街の弁護士日記」ブログさんの「民族と被害 だから私は嫌われる」(2013年10月29日付)という論攷と同記事に添付されてい
る「名古屋三菱・朝鮮女子勤労挺身隊訴訟弁護団/同訴訟を支援する会」の「強制労働関係韓国裁判所の判決に関するマス
メディアの論調に関する意見」(2013年10月14日)。

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■民族と被害 だから私は嫌われる(街の弁護士日記 2013年10月29日)
http://moriyama-law.cocolog-nifty.com/machiben/2013/10/post-5735.html

僕が、15年にわたって、関わってきた韓国の強制労働被害者の損害賠償請求事件の判決が11月1日に韓国光州地方裁判
所で言い渡される予定だ。

強制労働による損害賠償を求める事件で、日韓の裁判所で結論が食い違うことが、民族的な対立を生んでいる。
僕は、極めて不本意だ。
日韓の民族的対立が煽られることは、日本の将来にとっても、決して好ましいとは思わない。

僕が知る限り、日本の裁判所の多くは真摯に被害に向き合い、一部の判決は、不法行為の成立を認めていた。
請求を排斥した理由は、時効や、企業再建整備法等によって新会社と旧会社に分割したので、加害企業と現在の企業は別法
人であるとか様々だった。

最終的には、日韓請求権協定によって、「裁判所に訴える権利」がなくなったとする理由に落ち着いた。
(この理由付けは日中共同声明に関する中国人被害者の例と同様である)
請求権は存在するが、「裁判所に訴える権利」だけはなくなったというのである。
韓国の裁判所は請求権があるから勝訴させている。
結論ほどには、日韓の裁判所の判断は開いていない。
むしろ、日本の裁判所の判断の方が、不法行為による損害賠償請求権の存在を認めながら、「裁判所に訴える権利」だけを否
定している点で、特殊技巧的であり、政治的な配慮を感じさせる。
しかし、なかなかそうした実態が伝わらず、結論の違いだけが、大きく取りざたされる。 

そして日韓の間の感情的な対立に発展している。
(感情的対立に発展するように仕組まれている)

日本で裁判をしていた頃、日経や読売を含め、ほぼ全ての新聞は、原告らの被害に共感を寄せて多くの記事を書いてくれた。

僕は、せめてもう一度、被害者個人の立場に立って、ものを考えるだけの寛容性を日本社会が取り戻してくれることを願ってい
る。人権という観点からすれば、何らかの救済が必要なまま推移してきたのは、否定しがたい事実だと考えるからだ。

そうした考えに基づき、以下の文書を弁護団は発表している。

ここでは、具体的には述べていないが、日本政府、日本の加害企業、韓国政府、受益企業(請求権資金で潤った企業をいう)
の4者、それぞれに責任があることを踏まえ、4者の拠出する基金による被害救済という問題の抜本的解決を構想している。
提訴が相次ぐような事態を避けたい筈の加害企業の予測可能性を担保する上でも、こうした基金構想は有益でる。ドイツの
『記憶・責任・未来』基金などの先例もある。
この基金による解決の構想は、むしろ韓国の弁護団から提示されており、日韓の弁護士や運動体の間では共通の構想とな
っている。

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                                          2013年10月14日
                                          名古屋三菱・朝鮮女子勤労挺身隊訴訟弁護団
                                          名古屋三菱・朝鮮女子勤労挺身隊訴訟を支援する会

  強制労働関係韓国裁判所の判決に関するマスメディアの論調に関する意見

  1 問題の所在
    戦時中、日本に徴用された韓国人労働者が新日鐵、三菱重工業に損害賠償を求めた裁判で、韓国の高等裁判所が相
次いで賠償を命じたことが、議論になっている。
    国内世論は、徴用工などの問題は、日本の裁判で最高裁で敗訴が確定しているのだから、このような矛盾した判決は日
韓の間に新たな緊張をもたらすものとして、批判的な論調が一般的だ。批判の根拠は判決の結論的な食い違いのほか、日
韓請求権協定で日韓両国間及び日韓両国民の間の権利及び請求権の問題が、完全かつ最終的に解決したと明記されてい
ることを根拠とするものが多い。
    私たちは、一貫して人権尊重の立場から韓国の強制労働被害者の救済に取り組んできた。被害者の人権の観点から意
見を表明したい。

  2 日韓請求権協定における「5億ドル」について
    まず、多くのメディアが、事実関係として誤解を生みかねない報道をしていることを指摘したい。
    多くの場合、強制労働被害者の問題が解決したとされる根拠に日本が日韓請求権協定に従い、韓国政府に3億ドルを供
与し、2億ドルを低利で貸し付けたことが挙げられる。5億ドルの提供と引き換えに被害者の請求権問題は解決したとする論
調であるが、この点は多分に誤解を招きかねないことを懸念する。
    5億ドル提供の事実は、韓国政府が責任を負うべき立場にあることを指摘する理由にはなるが、個々の被害者に対して、
加害企業や日本政府の責任を免責する十分な理由にはならない。
    日韓請求権協定では5億ドルは現金で払われるものとされていない。「日本国の生産物及び日本人の役務」で提供すると
されている。5億ドル相当の円に等しい「日本国の生産物及び日本人の役務」が提供され、あるいは貸与されるとしている。し
かも、「前記の供与及び貸付けは、大韓民国の経済の発展に役立つものでなければならない。」とされており、少なくとも法的
には、5億ドルは被害救済に充ててはならない経済協力資金である。被害者に対する賠償に充てられる余地のない「経済協
力資金」の枠組みは日本政府が主導したと言ってもよい。
    「日本国の生産物及び日本人の役務」で5億ドル相当を供与・貸与するのであるから、当然、経済協力資金によって、どの
ような事業を行うか両国の協議が必要となる。日韓請求権協定では、実施のための日韓合同委員会を設置することを定める
とともに、実施のための取り決めを別に行うことを規定している。経済協力資金によって展開される事業については日本政府
も関与する仕組みになっていたのである。
    つまり、日韓請求権協定上、5億ドルは、個人の被害の回復とは全く無関係である。 

    5億ドルは、ダム、道路などインフラの整備に当てられ、日本の生産物及び日本人の役務が提供され、貸与された。韓国
最大の製鉄所である浦項製鉄所はこの請求権資金を使って築造され、築造工事は強制労働加害企業である新日鐵株式会
社の前身に当たる会社が受注している。加害企業は、韓国人に強制労働を強いて利益を挙げ、請求権資金によってさらに
利益を挙げたのだ。
    高度成長を実現して、政権基盤を確立した韓国政府に強制労働被害者の救済のため相応の責任を果たすべき責任が
あることは明らかである。しかし、韓国一般の社会生活が向上したのだから、人権侵害の被害者である個人に対して、日本
政府や加害企業の加害責任の問題が解決されたというのは無理がある。
    韓国政府は強制労働問題については相応の責任を果たすことを表明している。また経済協力資金によって利益を受け
た代表的な韓国企業であるポスコも強制労働問題の解決のために資金を提供することを明言している。問われるのは日本
政府及び日本の加害企業の姿勢である。

  3 サンフランシスコ平和条約
    それでは、日韓請求権協定による「解決」が、なぜ被害者を排除するような「日本国の生産物と日本人の役務」で行われ
ることになったのだろうか。
    この問題は、戦後日本が主権を回復して国際社会に復帰したサンフランシスコ平和条約までさかのぼらざるを得ない。
日本の判決も、日韓請求権協定はサンフランシスコ平和条約による枠組みに沿うものであると指摘している。
    サンフランシスコ平和条約では、日本には戦争賠償を負担するだけの経済力がないことが確認され、賠償問題は被害国
と日本との二国間で解決すべきものとされた。その結果、アメリカを初めとする多くの西側先進国は日本に対する賠償を放棄
した。また、対日賠償を求める場合でも、「日本人の役務」による形式に限定された。 

    その後、日本は主として東南アジア諸国との間で二国間の賠償交渉を進めたが、これらの賠償は、いずれも日本人の役
務提供によりダムや発電所などのインフラの建設などの形で行われた。また、これらの事業を受注する中には日立や東芝、
三菱等、戦争により利益を得た企業が含まれ、これらの企業に製品の製造を注文して発電機等を製造させて被害国に無償
で輸出し、被害国に発電所を建設するといったことが「賠償」であった。
    いうまでもないが、ここには、戦後秩序に関するアメリカの思惑が作用している。 

    サンフランシスコ平和条約と同時に発効した日米安全保障条約により、アメリカは、日本の独立後も全土に米軍基地を置
くことを可能にした。他方、日本を駐留米軍の補給基地とするためには日本の経済復興が必要であった。そのためにアメリカ
は、日本に対する戦争賠償を大幅に軽減させた上、経済復興に有益な役務賠償の方法に限定したのである。

  4 結論
    以上のように、サンフランシスコ平和条約の枠組みによる限り、戦争被害者個人に対する賠償は基本的になされない仕
組みになっていた。
    被害者の人権は置き去りにされたのである。
    とりわけ直接的に甚大な人的被害が発生していた韓国や中国における問題は深刻である。両国との国交回復に当たって
は、両国が何ら関与していないサンフランシスコ平和条約の枠組みが適用されたことから、多数の被害者の救済が置き去り
にされた。被害者の人権が基本的に回復されないまま長い期間が推移したのは厳然たる事実である。
    ここに、戦後70年近くを経て、なお私たちが韓国被害者の訴えに直面せざるを得ない根本的な理由がある。
    サンフランシスコ平和条約を初めとする冷戦下のアメリカの対日政策が、いわば冷戦の果実として日本の経済的繁栄を
支える一つの要因となった。
    アメリカの国力が相対的に低下し、アジア諸国が台頭する中、私たちは多極化が想定される新たな世界秩序に直面しよう
としている。
    近隣諸国との友好関係の確立は決定的に重要である。
    人権という普遍的価値を再確認し、人権を基本的価値とする友好関係を韓国との間で結ぶことができるかは、私たち自身
の切実な課題でもある。
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東本高志@大分
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