[CML 027744] 『安倍政権の改憲・構造改革新戦略』

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2013年 11月 19日 (火) 19:36:37 JST


渡辺治『安倍政権の改憲・構造改革新戦略 2013参院選と国民的共同の課題』は2013年の参議院議員選挙の分析と日本国憲法改正を阻む立場からの提言である。参院選の選挙結果から自民党の大勝と共産党の躍進に注目する。その上で「良心的保守層」との長期的な共同、対抗軸としての「新たな福祉国家」の提示を提言する。 

本書の問題意識は管見と重なるところが多い。社共共闘・革新共闘の限界を指摘し、より広汎な層の国民共闘を目指す。男性正規労働者を中心的担い手とした「旧い福祉国家」ではなく、非正規労働者や女性労働者、高齢者らを主な担い手とする新しい福祉国家を志向する(178頁)。これには大いに賛成する。 

一方で著者が構造改革・新自由主義を主敵としていることにはギャップがある。著者が構造改革・新自由主義と考えるものを主敵とすることは支持できる。しかし、純理論的な構造改革・新自由主義は必ずしも否定されるものではない。官僚主導・業界団体横並びの業界構造は消費者の犠牲によって成り立っている。建設業偏重・公共事業依存などの日本の産業構造は転換が必要である。これらを打破することは支持できる。 

小泉構造改革が熱狂的に支持された要因も構造改革の肯定面があるためである。現実の構造改革・新自由主義路線の問題は新自由主義を富裕層・権力層に都合よく解釈し、歪曲することにある。郵政民営化で東急リバブルが沖縄東風平(こちんだ)レクセンターを僅か評価額1000円で取得した「かんぽの宿」問題のように、構造改革を悪用した国家利権主義が問題である(林田力「【かんぽの宿問題】東急リバブル転売にみる民営化の問題」ツカサネット新聞2009年2月6日)。アベノミクスも構造改革的な面よりも、国土強靱化に見られるように旧来の土建政治の復活強化が問題である。 

著者の目指す「新しい福祉国家」も男性正規労働者中心の「旧い福祉国家」とは別物を志向する。そのためには既得権打破という構造改革的な要素も必要である。本書が構造改革路線の対立軸と位置付ける脱原発も、電力自由化という構造改革が不徹底のために原発という非効率で不経済な発電方法が温存されたためと見ることができる。 

この点を踏まえるならば「良心的保守層との長期にわたる共同」にも疑問符がつく。良識的保守層とは「悲惨な戦争をもたらした戦前の経験を繰り返してはならない」という「伝統的保守」を指す。彼らとの「日本の地域を再建し地域を主体とする経済発展をめざす戦略的な共同」を提言する(175頁)。 

しかし、伝統的保守は地域のムラ社会を形成し、マジョリティにのみ手厚い福祉を提供する「旧い福祉国家」を支え、女性らマイノリティを抑圧している面がある。「新しい福祉国家」を目指すならば、伝統的保守よりも、既得権益の打破を目指す真性の構造改革・新自由主義論者との共闘が必要になると考える。 

そのようにならない理由は「悲惨な戦争をもたらした戦前の経験を繰り返してはならない」という点で伝統的保守と価値観を共有すると著者が認識しているためである。これはイデオロギーよりも戦後との連続性を肌感覚として有しているかという世代的な要因に依存するように感じる。第三極よりも伝統的保守に親近感を抱く理由は第三極が比較的若いというジェネレーションギャップもあるのではないか。 

この点こそ「若い人はどうして参加しないのか」(192頁)への回答になる。「いつか来た道」的な反戦平和や護憲への過剰な思い入れは、現役世代や若年層を左翼から遠ざける要因になる。平和は大切な価値である。しかし、ブラック企業や貧困ビジネスに苦しめられている若年層に「昔は赤紙一枚で徴兵されたが、平和憲法のお陰で今は平和だ。だから平和憲法を守ろう」と呼びかけても、反発を受けかねない。 
http://www.hayariki.net/home/32.htm
運動の出し方を考えて欲しいと願うものの、多くのシニア左翼運動家にとって反戦平和や護憲が根本価値であり、それを抑えられたならば運動に取り組む意味がないとなってしまうほどの思いを抱えている。共闘の構築は難題である。 

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