[CML 025115] 日本軍「慰安婦」問題 改めて軍・官憲による暴行・脅迫を用いた「強制連行」性について――その軍・官憲の「組織的、直接的関与」を示す証拠の有無の問題について

higashimoto takashi higashimoto.takashi at khaki.plala.or.jp
2013年 6月 26日 (水) 14:07:52 JST


いわゆる日本軍「慰安婦」問題に関して、当時の軍・官憲の「強制連行」性について「組織的、直接的関与」を示す証拠を政府が
はじめて認めたという記事がしんぶん赤旗と東京新聞(「こちら特報部」)に掲載されています。

■「慰安婦」問題 赤嶺氏に回答 政府資料に強制証拠(しんぶん赤旗 2013年6月19日) 

http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2013-06-19/2013061901_01_1.html

      安倍内閣は18日、日本共産党の赤嶺政賢衆院議員が提出した質問主意書に対する答弁書で、「慰安婦」問題に関
      して日本軍による強制連行を示す証拠が政府の発見した資料の中にあることを初めて認めました。(中略)同記録は、
      日本軍がジャワ島セマランほかの抑留所に収容中のオランダ人女性らを「慰安所に連行し、宿泊させ、脅すなどして
      売春を強要するなどした」と明記。答弁書は「ご指摘のような記述がされている」と認めています。/答弁書は「強制
      連行を示す証拠はなかった」という安倍内閣の認識は「同じである」としていますが、その根拠が根底から覆される内
      容となっています。

■都議選惨敗の維新・橋下代表 従軍慰安婦問題「強制連行」資料あった(東京新聞「こちら特報部」 2013年6月25日)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokuho/list/CK2013062502000140.html
http://blog.livedoor.jp/shootque/archives/51901062.html#more

      旧日本軍による慰安婦の強制連行を示す証拠が、政府の発見した資料の中にあった。軍が抑留中のオランダ人
      女性を強制連行した事件の記録だ。安倍内閣は、この事実を認める答弁書を閣議決定した。2007年の第一次安
      倍内閣時の答弁書で「強制連行の資料なし」としたのを、自ら否定した形だ。強制否定派の最大のよりどころが揺ら
      いでいる。 (佐藤圭)

      しかし、これらの記事に関して、当時の軍・官憲の「強制連行」性を認める一部の良識派から、「『軍が抑留中のオラ
      ンダ人女性を強制連行した事件の記録』(いわゆる「スマラン事件」(白馬事件)に関するバタビア(現・ジャカルタ)臨
      時軍法会議の記録)は軍・官憲の「組織的、直接的関与」を示す証拠には当たらない。単に『スマラン事件が強制連
      行だ』というのは、軍・官憲の「組織的、直接的関与」を否定する『強制連行』否定派に対する有効な反論にはならな
      い」という反論が提起されています。

下記はその良識派に対する私の再反論の提起です。そして、結論を先に言っておけば、私の見解は、先の18日に政府がそ
の存在をはじめて認めた「バタビア(現・ジャカルタ)臨時軍法会議の記録」は「軍・官憲の『組織的、直接的関与』を否定する
『強制連行』否定派に対する有効な反論になりうる」というものです。

以下、私の再反論の提起。

Aさんはスマラン事件(白馬事件)について、「日本軍が組織的に強制連行したという証拠は見つかっていない」とする「否定派
の論理の大きな弱点」を指摘しながらも、「単に『スマラン事件が強制連行だ』というのは、「強制連行した理由が『国家・軍の
命令』ではなく、むしろ規律違反であった」とする否定派に対する有効な反論にはならない」というご意見ですが、私はそうは思
いません。重要な問題ですから、ひとこと私の見解を述べておきたいと思います。

スマラン事件について、上述の東京新聞特報記事は、「旧日本軍による慰安婦の強制連行を示す証拠が、政府の発見した
資料の中にあった。軍が抑留中のオランダ人女性を強制連行した事件の記録だ。」「その中には、旧日本軍による強制連行
をズバリと示す資料が含まれていた。法務省が保管していた『バタビア(現・ジャカルタ)臨時軍法会議の記録』だ」と、その会
議記録が軍・官憲の「組織的、直接的関与」を示す証拠だと同記事の全体的文脈から見て断定的に述べています。

東京新聞の佐藤圭記者がそう断定的に記述するのには理由があります。

上記特報記事で「慰安婦」問題研究の第一人者といってよい中央大学教授の吉見義明さんは、「河野談話は、誘拐や人身
売買による連行、慰安所での強制使役への軍関与を幅広く認めているが、安倍首相は、強制の問題を軍・官憲による暴行
・脅迫を用いた連行に極小化し、証拠は文書に限定して強制連行はなかったと言っている。だが、それだけ絞り込んでもス
マラン事件という反証がある」と述べていますが、吉見氏が「それだけ絞り込んでもスマラン事件という反証がある」と断言し
ているのは、吉見氏がかつてオランダの軍事裁判の報告を調査した同報告書には「当時スマランには既に慰安所があった
が、性病の蔓延から新たな慰安所の設置が計画された」こと。その「慰安所設置を要請された」のは「幹部候補生隊長」だ
ったこと。「バタビア臨時軍法会議でBC級戦犯として11人が有罪とされた」がその中には「(慰安所設置の)責任者である
岡田慶治陸軍少佐」「(慰安所設置の)中心的役割をはたしたと目される広島県生まれの陸軍大佐」が含まれていたことな
どが具体的に記されていたからです(「従軍慰安婦」吉見義明 岩波新書 1995。なお、吉見氏の同見解はwikipedia『白馬
事件』に簡便に整理されています)。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%99%BD%E9%A6%AC%E4%BA%8B%E4%BB%B6

当時スマランにおいて進駐の日本軍によって「性病の蔓延から新たな慰安所の設置が計画された」こと。「慰安所設置を
要請された」のは「幹部候補生隊長」であったこと。また、その慰安所設置に重要な役割を果たしたのが「陸軍大佐」であ
り、さらに「陸軍少佐」であった事実は雄弁に軍の「組織的」関与を示すものです。その「組織的」関与を示す「直接」的な
「国家・軍の命令」書などの書証はなくとも、幹部候補生隊長及び陸軍大佐、陸軍少佐は部下に直接命令を下せる立場
の軍人ですから、そこに「国家・軍の命令」があったことは客観的な明らかな事実とみなせるものです。現にオランダの軍
事裁判はその事実を認めて11人を有罪にしています。

強制連行は「国家・軍の命令」ではないとする否定派の論理はこの時点で崩れているというべきではないでしょうか。上記
の事実群は「否定派に対する有効な反論」になりうるというのが私の見解です。


なお、上記のしんぶん赤旗と東京新聞特報記事にある赤嶺政賢衆院議員(共産党)の質問主意書とそれに対する政府
答弁書は以下のとおりです。


平成二十五年六月十日提出  質問第一〇二号
強制連行の裏付けがなかったとする二〇〇七年答弁書に関する質問主意書 提出者 赤嶺政賢
http://www.shugiin.go.jp/index.nsf/html/index_shitsumon.htm

一 安倍晋三内閣総理大臣は、二月七日の衆議院予算委員会で、「さきの第一次安倍内閣のときにおいて、質問主
意書に対して答弁書を出しています。これは安倍内閣として閣議決定したものですね。つまりそれは、強制連行を示
す証拠はなかったということです。つまり、人さらいのように、人の家に入っていってさらってきて、いわば慰安婦にして
しまったということは、それを示すものはなかったということを明らかにしたわけであります。」と答弁している。この「答
弁書」とは、二〇〇七年三月八日衆議院議員辻元清美君提出「安倍首相の「慰安婦」問題への認識に関する質問主
意書」に対する答弁書(以下、「答弁書」という。)であり、「強制連行を示す証拠はなかった」ということを明らかにした
部分は、「同日の調査結果の発表までに政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接
示すような記述も見当たらなかったところである。」という部分であると考えてよいか。間違いがある場合は、答弁の
該当部分を示していただきたい。

政府答弁:お尋ねの「答弁書」とは、衆議院議員辻元清美君提出安倍首相の「慰安婦」問題への認識に関する質問
に対する答弁書(平成十九年三月十六日内閣衆質一六六第一一〇号。以下「答弁書」という。)を指しており、政府
の認識は、答弁書一の1から3までについてでお答えしたものと同じである。
http://www.shugiin.go.jp/index.nsf/html/index_shitsumon.htm

二 「答弁書」は、「お尋ねは、「強制性」の定義に関連するものであるが、慰安婦問題については、政府において、
平成三年十二月から平成五年八月まで関係資料の調査及び関係者からの聞き取りを行い、これらを全体として判
断した結果、同月四日の内閣官房長官談話(以下「官房長官談話」という。)のとおりとなったものである。また、同
日の調査結果の発表までに政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような
記述も見当たらなかったところである。」としている。「同日の調査結果の発表までに政府が発見した資料」とはどの
ような資料をさすのか。一九九三年八月四日には、慰安婦関係調査結果発表に関する内閣官房長官談話-いわ
ゆる河野談話とともに、「いわゆる従軍慰安婦問題の調査結果について」という文書も発表されている。同文書は、
同日の調査結果の発表までに政府が発見した資料の概要を明らかにしたものである。「答弁書」のいう「同日の調
査結果の発表までに政府が発見した資料」とは、この「いわゆる従軍慰安婦問題の調査結果について」で概要が
示されている資料をさしているのか。そうでない場合、「答弁書」のいう「同日の調査結果の発表までに政府が発見
した資料」と「いわゆる従軍慰安婦問題の調査結果について」で明らかにされた資料との間には、どのような違いが
あるのか具体的に明らかにされたい。

政府答弁:お尋ねの「同日の調査結果の発表までに政府が発見した資料」とは、内閣官房内閣外政審議室(当時。
以下同じ。)が平成四年七月六日及び平成五年八月四日にそれぞれ発表した「いわゆる従軍慰安婦問題の調査
結果について」において、その記述の概要が記載されている資料を指している。

三 一九九三年八月四日の「いわゆる従軍慰安婦問題の調査結果について」には、〔法務省関係〕(バタビア臨時
軍法会議の記録)がある。それは、1「ジャワ島セラマン所在の慰安所関係事件」、2「ジャワ島バタビア所在の慰
安所関係の事件」についての「被告人」「判決事実の概要」などを記したものである。この事実に間違いないか。

政府答弁:内閣官房内閣外政審議室が平成五年八月四日に発表した「いわゆる従軍慰安婦問題の調査結果に
ついて」において、御指摘のような記述がされている。

四 この〔法務省関係〕(バタビア臨時軍法会議の記録)は、1「ジャワ島セラマン所在の慰安所関係事件」につい
て、「判決事実の概要」を記しているが、そこには、「ジャワ島セラマンほかの抑留所に収容中であったオランダ人
女性らを慰安婦として使う計画の立案と実現に協力したものであるが、慰安所開設後(一九四四年二月末ころ)、
「一九四四年二月末ころから同年四月までの間、部下の軍人や民間人が上記女性らに対し、売春をさせる目的
で上記慰安所に連行し、宿泊させ、脅すなどして売春を強要するなどしたような戦争犯罪行為を知り又は知り得
たにもかかわらずこれを黙認した」などの記述がある。間違いないか。

政府答弁:三に同じ。

五 この「判決事実の概要」には、「一九四四年二月末ころから同年四月までの間、部下の軍人や民間人が上
記女性らに対し、売春をさせる目的で上記慰安所に連行し、宿泊させ、脅すなどして売春を強要するなどしたよ
うな戦争犯罪行為を知り又は知り得たにもかかわらずこれを黙認した」との記述がある。「上記女性」とは、「ジ
ャワ島セラマンほかの抑留所に収容中であったオランダ人女性」である。これらの記述は、「軍や官憲によるい
わゆる強制連行を直接示すような記述」にあたらないのか。

政府答弁:政府の認識は、答弁書一の1から3までについてでお答えしたものと同じである

六 一九九三年八月四日、政府は、いわゆる河野談話とともに「いわゆる従軍慰安婦問題の調査結果につい
て」を発表した。これは、「同日の調査結果の発表までに政府が発見した資料」の概要を明らかにしたものであ
る。そこには、〔法務省関係〕(バタビア臨時軍法会議の記録)があり、「一九四四年二月末ころから同年四月
までの間、部下の軍人や民間人が上記女性(「ジャワ島セラマンほかの抑留所に収容中であったオランダ人
女性」)らに対し、売春をさせる目的で上記慰安所に連行し、宿泊させ、脅すなどして売春を強要するなどした
ような戦争犯罪行為を知り又は知り得たにもかかわらずこれを黙認した」との記述がある。これが、「軍や官
憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述」にあたることは明白である。「同日の調査結果の発表まで
に政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかっ
たところである」とした「答弁書」は誤りであり、訂正するべきと考えるが、安倍内閣の見解を問う。

政府答弁:五に同じ。

右質問する。


東本高志@大分
higashimoto.takashi at khaki.plala.or.jp
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