[CML 024915] アベノミクスに欠けるもの/ジョセフ・スティグリッツ

BARA harumi-s at mars.dti.ne.jp
2013年 6月 15日 (土) 15:46:27 JST


*アベノミクス支持で注目のスティグリッツ。その真意のようなものとして 広く読まれるといいですね。
格差是正・再分配・消費税やTPPについても述べられています

新聞記事
朝日新聞2013.6.15朝刊

格差是正への配慮、再分配を工夫せよ/ジョセフ・スティグリッツ(アメリカ・コロンビア大学教授)

豊かさを分かちあえる経済社会への変革を説くノーベル賞経済学者、ジョセフ・スティグリッツ教授が安倍政権の経済政策
「アベノミクス」支持を表明し、注目を集めた。
だが、単独インタビューで浮かび上がったのはむしろ「格差なき成長」への厳しい注文だった。
アベノミクスに抜け落ちたものは何か。混迷が続く世界経済の処方箋は。

 ――アベノミクスをなぜ評価しているのですか。

 「欧州は政府債務を減らそうとして緊縮財政に陥り、与野党の激しい対立が続く米国も節約を余儀なくされています。
そのなかで日本が経済成長を優先する政策に打って出た意義は大きい。
アベノミクスの3本の矢、すなわち大胆な金融緩和と財政出動、成長戦略を組みあわせた包括的な政策は、日本経済を
立ち直らせる正しい取り組みだと思います。
欧米が学ぶべきものです」

 ――巨額の財政赤字を考えれば、日本も欧米も財政の引き締めは避けられないのでは。 


 「経済を成長させてこそ、国内総生産(GDP)に対する政府債務の比率を下げることができます。
財政再建を優先し経済成長を犠牲にするやり方では、財政赤字を減らせません。
歳出削減と増税を急ぐ緊縮財政は、つねに失敗してきました。弱含みの経済を悪化させ、税収を減らすからです。
いまは欧州がひどい失敗に陥っています」

 ――東京市場で株価暴落も起きました。
金利が急騰し国債相場が暴落すれば、日本は金融危機や政府債務危機に陥りかねません。 


 「市場はつねに不安定なものです。
短期的な動きに目を奪われるべきではない。
株価は下がったが、半年前より高い。
国債相場や金利は基本的に、中央銀行が市場介入によって調整することができます」

 ――円安で輸出産業の採算が回復した半面、輸入物価の上昇が生活を直撃しています。 

アベノミクスが目指す2%の物価上昇や、消費増税で暮らしはさらに圧迫されます。

 「アベノミクスが成功すれば、やがて人びとの実質所得が増えていくでしょう。
経済成長率が高まれば、増税にも対処できるようになり、暮らしはよくなるはずです」 


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 ――しかし、成長でみんなが豊かになれるとは限りません。

 「そこが重要な点です。
格差(不平等)の問題に向きあわなくてはいけない。
GDPが増えても、大半の人びとの暮らしが悪化すれば、幸せになれません。
そういう事態が米国で起きた。
2009年から11年までの景気回復で、GDPの増加分の1・2倍ものお金を、所得上位1%の富裕層が手に入れて
しまったので、99%の人びとは、一層貧しくなりました。
日本もそうならないよう、所得再分配を工夫しなければなりません。
3本目の矢は、単なる成長戦略ではなく、格差是正に配慮することが欠かせないのです」 


 「成長は、それ自体が目的ではないし、GDPは豊かさの尺度として欠陥が多い。
重要なのは環境保全も含めて、すべての市民の生活の質や福祉水準を高めることです。 

だからこそ所得の分配と、誰が政策の恩恵を受けるかということに、私たちは敏感でなければいけません」

 ――近著「世界の99%を貧困にする経済」で、所得再分配がみんなを豊かにすると説いていますね。

 「所得上位1%の人は下位の人に比べ、収入を消費に回す比率が低いので、所得再分配をしたほうが経済を刺激できます。
再分配は経済を刺激し、成長させるための有効な手段のひとつなのです」

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 ――消費増税については。

 「消費税は、貧しい人びとの負担がきついという逆進性を持つ悪税です。
しかもデフレを悪化させます。
日本は来春の消費増税を計画していますが、おそらく時期尚早でしょう。
まずは経済の成長を回復し、それから増税するのが順当なやりかたです。
増税するなら消費税ではなく(化石燃料の消費に課す)炭素税を導入すべきです。
逆進的ではないし、二酸化炭素の排出を減らしたり、エネルギー効率をよくしたりするための技術開発や設備投資が進むから、
経済にもプラスです」

 ――それでも消費税を引き上げるとしたら、何をすべきでしょう。

 「増税による税収の増加分と同じ額だけ支出を増やせば、経済への打撃を避けることができます。
これは、均衡予算乗数という考えです。
そのさい、低所得の人びとへの再分配につながる支出をすれば、消費やGDPをいっそう増やす効果があります。
企業減税で刺激をというのでは、効果を期待できません」

 ――安倍政権が交渉参加に踏み切った環太平洋経済連携協定(TPP)については。 


 「日本の人びとは気をつけてほしい。
TPP交渉に臨んでいる米政府関係者は必ずしも米国民の利益を反映しておらず、製薬企業や娯楽産業といった業界の利益を
代弁しがちなのです。
しかもTPPは自由貿易というより管理貿易的で、多角的自由貿易体制を傷つける恐れがあります。
中国が参加していないこともあって、TPPで(中国と分断されるなど)アジアの部品供給網や域内貿易が損なわれかねません」

 「米政府の主張の問題はほかにもあります。
日本にコメの保護をなくすよう求めてきましたが、米国の農産物保護はなくそうとしない。
知的財産権の保護強化で、人びとが安い後発医薬品を入手しにくくなる恐れもあります。 

遺伝子組み換え食品の情報公開には後ろ向きで、これは米国民の利益にも反します」

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 ――欧米と日本の中央銀行は、かつてない金融緩和をおこなって国債を買い支え、金融危機と政府債務危機の歯止め役を
演じています。
これは今後のインフレやバブルの温床ではありませんか。

 「いや、米国では量的緩和の効果は、比較的穏当なものにとどまっています。
信用供与の不足や不動産市場の低迷という問題を、まだ解決できていないということもその一因ですが。
しかも財政出動が不十分で、構造改革の政策がない。
金融緩和だけでは効果が出ないのです」

 「欧州では、緊縮政策を転換しないと失業問題を解決できません。
政府が産業政策や研究開発促進、インフラ整備などで成長を促す戦略が必要です。
また、金融危機を封じ込めるために、共通の監督制度と預金保険制度を持つ『銀行同盟』をつくらねばなりません」

 ――主導国のない「Gゼロ」と呼ばれるような世界経済の混迷は、どうやって収拾できますか。

 「難しい質問ですね。
世界のお金は、必要とされないところに回っていて、必要とされるところには回っていません。
そういうことを直せるグローバルな統治(ガバナンス)を実現するには、各国が主権の一部を放棄するような協調が必要です」

 「たとえば、欧州では欧州連合(EU)の弱すぎる機能を高めることです。
アメリカ合衆国のような強固な中央政府をつくるべきだというのではありません。
でも、欧州のGDPの1~2%しか支出できない現在のEUでは弱すぎます」

 ――ドルに代わる世界通貨をつくるという提案もしていますね。

 「私がかねて提案してきたのは、国際通貨基金(IMF)の特別引き出し権(SDR)を拡大し、やがてドルに代わる準備通貨を
主要通貨のバスケット方式でつくることです。
長い時間がかかるでしょうが」

 ――世界中で、若者をはじめ多くの人びとが失業や貧困に苦しんでいます。解決策は。 


 「まずは経済成長によって全体の失業率を下げることが有効です。
しかしそれだけではなく、教育制度を改善することが必要です。
いまの教育は、すでに存在している職業を意識してつくられていますが、仕事の現場は変革の波に洗われています。
生涯学習という観点で取り組みを強化しなければなりません」

     *

 Joseph Stiglitz 米コロンビア大学教授 43年生まれ。世界銀行副総裁を経て00年から現職。
01年ノーベル経済学賞。近著「世界の99%を貧困にする経済」


 <取材を終えて>

 「アベノミクス」の応援団のような発言が目立つスティグリッツ教授だが、単独インタビューでは、所得格差是正への配慮が
必要だと、鋭い注文をつけた。
国民の所得を増やす経済成長は必要だが、企業や「1%」の富裕層だけが潤って、「99%」の人びとの生活が改善しなければ
無意味という立場だ。

 米国経済は、回復過程でも格差が拡大している。
その現状に対する教授の批判は、小泉政権や第1次安倍政権下での「実感なき景気回復」にも、あてはまるだろう。

 名目3%成長ができれば、「1人あたりの国民総所得は10年後には150万円以上増やせる」と語った安倍晋三首相や
その周辺は、教授の懸念を理解していないように見える。
「家計が潤う」と口では言っても、格差是正や貧困対策に冷淡なら、教授を失望させる日も近い。

 一方で消費増税を先送りすれば、国債相場の急落も起こりかねない。
安倍政権は教授の提言を参考にして、増税による税収を雇用創出や貧困対策に投入すべきではないか。
格差縮小に役立つし、景気の失速を防ぎつつ、財政再建への確かな一歩にもなる。(小此木潔) 



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