[CML 024662] 五野井郁夫氏(高千穂大学准教授)のファシズムや社会排外主義を容認する無知と無知ゆえの「危険」な論について
higashimoto takashi
higashimoto.takashi at khaki.plala.or.jp
2013年 6月 2日 (日) 12:20:11 JST
いま「革新メディア」ラベル(たとえば雑誌「世界」)で売出し中の高千穂大学准教授の五野井郁夫氏については私はこちら(注
1)とこちら(注2)の記事で同氏批判記事をすでに紹介ずみですが、その五野井氏が彼の論を読む者にとって一見耳触りの
よい「やわらかな共同体」論を説きながら(西谷修・五野井郁夫「デモは政治を開けるか」『世界』臨時増刊、2013年2月号)、
その実、ファシズムや社会排外主義を容認する脆弱で無知な論の主唱者でしかないことに気がついている人はそう多くない
ようです。
注1:http://mizukith.blog91.fc2.com/blog-date-20130426.html
注2:http://mizukith.blog91.fc2.com/blog-entry-528.html
あるメーリングリストにそのことを例証する以下のような投稿がありました。投稿者はヘイトクライム(憎悪犯罪)など国際刑
事人権論、戦争犯罪論を主要な研究テーマとしている東京造形大学教授の前田朗氏です。
「5月31日、NHKの朝の番組『おはよう日本』で、7時ころにヘイト・スピーチ問題が放映されました。新大久保の
ヘイト・デモの様子を紹介し、五野井郁夫さん(高千穂大学)の、こういう発言を許しておく社会ではいけないという
趣旨の発言。ヘイト・ デモに反対する署名運動の金展克さんの紹介。『ウオールストリート・ジャーナル』など国際
社会からの批判。最後に、『人種差別禁止法の制定を』、『「民主主義と人格権が重要ならば、ヘイト・スピーチを
許さないのが表現の自由の本来の意味』という私の発言を紹介。(しかし)私の発言は唐突で意味不明です(略)。
ともあれ、NHKがはじめて、『人種差別禁止法の制定を』、『規制することこそ表現の自由」という主張を流してくれ
たのは良かったです(CML 024623)。
http://list.jca.apc.org/public/cml/2013-May/024516.html
上記で前田氏が指摘しているように「NHKがはじめて、『人種差別禁止法の制定を』、『規制することこそ表現の自由』という
主張を流し」たのはたしかにヘイトクライム問題に対するメディア総体の報道の流れとして一歩前進だと私も思います。しかし、
前田氏は、上記の同じ文で高千穂大学准教授の五野井郁夫氏のNHKでのインタビュー発言をニュートラル、もしくは好意的
に紹介して、その文に同氏への批判の眼差しはありません。前田氏もまた、五野井氏の論は、「ファシズムや社会排外主義
を容認する脆弱な無知の論」でしかないことに気がついていない少なくない人たちの中のひとりだといってよいでしょう。
五野井氏の思想がいかに脆弱な思想に基づくものであるか。戦後の日本の思想の歩みをいかに無視した無知の論であるか。
再度、しかし、今度は主題的にその五野井郁夫氏批判の論をご紹介しておきたいと思います。
おひとり目。広原盛明さん(元京都府立大学学長)の五野井郁夫氏批判。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「(『嘉田新党』の持ち上げについては)毎日の方はもっと肩に力が入っていた。『特集ワイド:「嘉田新党」を考える』
(12月3日)(注3)を組んで3人の識者を写真入りで登壇させ、嘉田新党の参戦で総選挙の構図はどう変わるか、
イタリアの『オリーブの木』のように既成政党に対抗することは可能なのかを特集する大判のインタビュー記事を掲
載した。そのうちのひとり、ある若手政治学者(引用者注:五野井郁夫高千穂大准教授)の発言が当時の雰囲気
(マスメディアの意図)を典型的にあらわしているので以下に紹介しよう。
注3:http://mainichi.jp/feature/news/20121203dde012010015000c.html
「『真の第三極』が現れたと言えるだろう。『真の』とは、脱原発を求める国民の声に寄り添い、将来のビジ
ョンを打ち出しているという意味だ。対照的に、日本維新の会は『偽りの第三極』の様相が露呈しつつある。
『偽り』とは、確固たるビジョンを持たないこと。世間受けする政策を掲げてはすげ替え、保守票も脱原発票
も欲しがっている印象だ。石原慎太郎代表の考えと党の公約が一致しているかも疑問だ」
「『未来』が発表した『びわこ宣言』は『経済性だけで原子力政策を推進することは、国家としての品格を失い、
地球倫理上も許されない』と述べている。非常にわかりやすく、国民の切なる願いに応えようという姿勢を感
じる。官邸前や経団連前などで脱原発デモが続いている。『未来』はこのような動きと連動し、選挙後は原発
政策の決定過程に大きく影響するポジションを得る可能性がある。これまで投票率の低かった若い世代が
『未来』に関心を示せば、イタリアの『オリーブの木』のように政党連合への躍進もありうる」
「確かに、自民を除く他の政党も、脱原発を打ち出してはいる。しかし民主はマニフェスト破りの過去があり、
政権与党として脱原発への踏み込んだ具体的プロセスを提示できていない。社民、共産に投票しても実効
性があるのか疑問に思う有権者も少なくない。『シングルイシューで政党が成り立つのか』という批判が出て
いるが、原発以外の基本政策も、消費増税の凍結、雇用の拡大、TPP交渉入り反対など明快だ。エネルギ
ー問題は国の最重要課題なので、そこで一致する政治家が集まるのは野合ではない」
(略)
マスメディアに迎合するだけの若手政治学者やその他の識者は、もっと勉強して主体性を確立してほしい。
(「新「オリーブの木」、あるいは「緑茶会」の提唱について ――広原盛明さんの「嘉田新党(日本未来の党)はなぜ失
墜したか~「極右第3極」の台頭、「保守補完第3極」の消滅~」という論攷に学ぶ」(弊ブログ 2013.04.26)参照)
http://mizukith.blog91.fc2.com/blog-date-20130426.html
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
おふたり目。金光翔さん(岩波書店社員。元「世界」編集部員)の五野井郁夫氏批判。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■西谷修・五野井郁夫「デモは政治を開けるか」(金光翔 私にも話させて 2013-02-21)
http://watashinim.exblog.jp/17869195/
『世界』臨時増刊号を拾い読みしていたら、五野井郁夫という人の以下の発言に遭遇して驚いた。
「近年のデモの参加者は無理をせず、行ける時に参加しています。また、官邸前の弁護団がよい例ですが、「接見
弁護があるから今日は行けません」とか「30分だけ行けます」とかいうのもあります。ここが気にくわないから出て行
く、だけれども戻って来られるという、やわらかな共同体。
実際、いいことか悪いことかすぐに判断はできませんが、鬱憤晴らしで極右のデモにも行くけど、反貧困
のデモにもコアメンバーとして参加するという人が出てきています。どちらも現代社会の犠牲者ではある
わけで、アイデンティティのクラスターが一つだけではなくなっていることは確かです。希望的観測ですが、
そうなると世界の見方も複数性を持ってくるから変わるのかなと思います。」(西谷修・五野井郁夫「デモ
は政治を開けるか」『世界』臨時増刊、第841号、2013年2月)
この発言は、この人物のいろいろな点を曝け出している。
・日本の極右が特定の人々や歴史的事実を排撃していることへの無関心・容認
・「現代の犠牲者」だと規定することで、その行為の責任性を問わない点に見られる、同情したふりをしながらの若
者への蔑視感情
・「反貧困」と「極右」を対立的にしか捉えられない無知。ファシズムや社会排外主義の問題性に関する認識の欠落
・極右デモへの参加も「世界の見方も複数性を持ってくる」可能性の一つとして肯定的に捉える破廉恥さ。(運動の
幅を広げるためには右翼の参加も許容しなければ、というよくある弁明ではなく(それ自体も問題であるが)、極右
デモへの参加がポジティブなものとして捉えられているところに、この五野井の<新しさ>がある)
・主張それ自体としては極右デモへの参加を肯定しているにもかかわらず、「いいことか悪いことかすぐに判断はで
きませんが」「希望的観測ですが」などと自己弁明する小心さとセコさ(前回記事で書いた、川崎市長のようである)
私が指摘した<佐藤優現象>とは、「佐藤が右派メディアで主張する排外主義を、リベラル・左派が容認・黙認する
ことで成り立つ」ものであるが(「<佐藤優現象>批判」)、五野井の発言は『世界』のそうした傾向が何ら変わって
いないどころか、排外主義への加担を肯定する発言が掲載されているという点で、より進化していることを示してい
ると言えよう。
(「あらたな『民主党応援歌』としての『世界』別冊2013年3月号について――革新内部の『右傾化』のひとつの実例
として読む」(弊ブログ 2013.02.22)参照)
http://mizukith.blog91.fc2.com/blog-entry-528.html
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
五野井氏はたしかに一方でヘイトスピーチを指弾する次のような記事も書いています。
■ヘイトスピーチに抗する市民の政治(下)――法規制に先だって今わたしたちにできることは何か(五野井郁夫 高千穂大
学経営学部准教授/国際基督教大学社会科学研究所研究員)
http://astand.asahi.com/magazine/wrpolitics/special/2013042600008.html?iref=webronza
その記事の論述の限りではその内容に私も反対ではありません。しかし、彼の論に内在するその主張する論の危険性につ
いて(上記の広原盛明さんや金光翔さんの指摘を参照)私たちはマスメディアの評価に惑わされることなくもっと自覚的であ
るべきでしょう。
東本高志@大分
higashimoto.takashi at khaki.plala.or.jp
http://mizukith.blog91.fc2.com/
CML メーリングリストの案内