[CML 025248] アラブの春とメディア アルジャジーラ前主幹ワダー・ハンファルさん

BARA harumi-s at mars.dti.ne.jp
2013年 7月 4日 (木) 13:33:07 JST


新聞記事
朝日新聞・WEB
2013.7.4
アラブの春とメディア アルジャジーラ前主幹ワダー・ハンファルさん
http://digital.asahi.com/articles/TKY201307030672.html?ref=pcviewer

カタールの衛星放送アルジャジーラ。
中東の独裁者にとって、これほど目障りなメディアはないだろう。
当局の弾圧が続く中、対抗策として積極的に活用したのが市民ジャーナリストやソーシャルメディア
(SNS)だった。
同志社大学の招きで6月に来日した前主幹ワダー・ハンファル氏に「アラブの春」とメディアの可能性を
聞いた。


 ――「アラブの春」のなかで、アルジャジーラはどんな役割を果たしたのでしょうか。 


 「アルジャジーラは1996年の放送開始以来、権力支配の概念を変えようと努力してきた。
ニュースを批判的に見る方法を持ち込んだ。
人々はこれまで疑いもしなかった公式発表の出来事について考え、分析し、判断できるようになった。
アラブ世界の覚醒を促し、それが『アラブの春』につながったといえる」

 「だが、最大の要因は人々だろう。
アラブ民衆は現実を受け入れることを拒み、前へ進むことを決めた。
インターネットやSNSによって考えを交わし、将来のあるべき姿について想像力を働かせるようになった。
党派性を持たず、イデオロギー的なものでもない想像力を身につけた新たな世代こそが、沈黙の壁、
独裁の壁を破ることができたのだ」

 ――アラブの指導者、独裁者たちはSNSの影響力についてどれくらい認知していたのでしょう。

 「長年、大衆との接点を失っていた彼らはSNSの衝撃についてほとんど理解していなかった。
高齢化した専制的な人々で、自分たちのことしか考えられなかったのだ。
ブロガーを逮捕し、特定のニュースをウェブ上に報じないよう圧力をかけたが、人々の関心を
政治から遠ざけ、ゲームや友達づくりに仕向けることができるとも考えた。
彼らが適切な理解を欠いていたことはある意味、幸運だった」

    ■     ■   

 ――エジプトのムバラク前大統領は、アラブの春についてムスリム同胞団の陰謀だと信じていました。

 「SNSをする人たちを子ども呼ばわりしていた。
インターネット上でゲーム遊びをしている人という意味合いです。
その子どもたちが世の中を変えることなどできないと思っていた。
野党勢力を含む政治的なエリート層全体も、SNSや若者らの運動を大規模な変革とは見ていなかった。
彼らはともに高齢化した過去の存在になっていた」

 ――政権側の弾圧には、どう対処したのですか。

 「支局の閉鎖、記者の拘束、取材活動への制限。
こうしたことがアルジャジーラに対して頻繁に起きる中、ある政府にとって微妙な問題を含む話を報じる
とき、記事そのものの中身だけでなく、彼らがどう対応するかも考慮せざるを得なかった」

 「残念ながら、アラブ世界のような地域では、報道への制限が全くないことを前提に行動するといった
ことはできない。
一つの報道が特定の政府から、とてつもない弾圧を招くかもしれない。だから何らかのバランスがある
意味、必要なのです」

 ――SNSとの連携はどう始まったのですか。

 「我々のカメラマンや特派員が現場から追放されるなか、フェイスブック、ユーチューブ、ツイッターと
いったSNSの活動家たちに連絡を取り、彼らから情報を得るようになった。
情報収集の手段がプロのジャーナリストから突然、市民ジャーナリストに変わった。
これは開局以来初めてのことで、当初、自分を含めてニュースルーム(編集局)の編集者たちには
不評だった。
自分たちのスタッフが現場にいることこそ、最善だと思ってきたのだから」

 「でも、現場から記者が追放されるなか、情報収集の選択肢はほかになかった。
エジプトでは支局が閉鎖され、衛星放送から除外されたが、特派員の代わりに『我々の若者たち』が
情報を投げてくれた。
それが予想以上にうまく機能した」

 ――我々の若者たち、とは。

 「実は2006年から、アルジャジーラの研修所でSNSの活動家や市民ジャーナリストを対象に無料の
研修を組織的に実施してきた。
(アラブの春が起きた)11年までに、我々は彼らを組織化し、連絡先をつかんでいた。 

エジプトやチュニジアで何百人もの若者と電話やメール一つで連絡を取ることができた。 

彼らはジャーナリストとしての基礎知識を持ち、専門的な技能もある。編集者が情報源さえチェック
できれば、とても役に立つシステムになった」

 「SNSやブログについて、当初から我々にとっての脅威ではなく、むしろ同志だと思っていた。
専制や検閲に対して孤立奮闘してきたアルジャジーラとともに、ニュースを民主化してくれるはずだと。
だから、ブロガーのだれかが逮捕されれば、大きく報道して、彼らを擁護してきた。
そのことで、ある種の信頼と相互利益が生まれた」


 ――新聞社もSNSとの連携を探っています。

 「新聞社の経営者らはSNSやニューメディアの到来で収入源を奪われ、メディア産業が没落していくと
感じている。
私はそうは思わない。
むしろ、我々にとって大きなチャンスではないか。
我々は、彼らを自分たちのシステムの中に統合していく必要がある」

 「その際、ピラミッド型の組織では生き残れないだろう。
キャップ、デスク、部長、局長と6、7段階もの階層があるような旧来の報道スタイルでは、報じるまで
時間がかかりすぎるうえ、人件費もかかりすぎる。
水平型のネットワークでは、ウェブ管理者と呼ばれる管理者は必要だが、だれもが平等であり、
階層はない。
より民主的に参加できると感じられるために反応が早く、よりダイナミックで、しかも安上がりだ」

 ――メディアの新しいモデルが必要になるということですね。

 「たとえば情報収集といった、これまでジャーナリストが担ってきた仕事は今後、SNSの活動家らが
するようになるかもしれない。
エジプトに2、3人の特派員がいても、数百カ所の現場に行くことはできない。
でも、活動家らはすでに現場にいる。
つまり数百人のリポーターがいるということになる。
彼らを少し訓練すれば、旧来のネットワークに代わる『スマート・ネットワーク』になるはずだ」

 「今後、ニュースルームを強化する上で必要なのは、分析力、状況に当てはめて説明する力、
優先順位をつける力、だ。
本社にいる編集者は同時に研究者、アナリストでもなければ務まらない。
なぜか。
SNSの活動家たちにも弱点がある。
ニュースの価値判断ができない。リアルタイムで報じても、それを全体状況と結びつけられない。
編集者が、SNSから得た情報に欠けている部分を補い、付加価値を持ったニュースに変えていく。
編集局をシンクタンクに転化させる必要がある」

 ――ご自身もジャーナリストになる前は研究者でしたね。

 「ヨルダンで機械工学を学んだ後、南アフリカで国際政治を学び、マンデラ氏が大統領になった
1994年にアフリカと中東の関係を調べるシンクタンクを立ち上げた。
研究者としての経験が役に立った。
深い研究力を持たないジャーナリストは危うい。
人々を誤解させたり、情報の位置づけを誤ったりするかもしれない。
データは『正確なウソ』かもしれないのです。
これからの報道局長には、学問的な深みや歴史認識といったものがますます必要になる」 


 「残念ながら、外国メディア、西側メディアには表面的な報道が目立つ。
速報と簡略化だ。
国際的なバランス・オブ・パワー(大国間の勢力均衡)を変えるかもしれないシリア紛争を、1分半で
まとめられるはずがない。
必要なのは調査報道であり、ドキュメンタリーだろう。
長時間の議論や分析によって、視聴者に知らせるべきことを伝える必要がある。
最大140字というツイッター文化は、ニュースの深みという点で悪影響を与えていると思う。
ジャーナリズムは、たった140字で語れるようなものではないはずだ。
旧来のメディアの人に言いたいことは、変化は急速で不可逆的だ、ということです。
それを受け入れなければ、メディア全体が敗北する。
受け入れには、編集者の変革や失業を伴うでしょう。
でもそうすれば、産業として生き残れるはずです」

    *

 Wadah Khanfar 68年、パレスチナ・ジェニン生まれ。
2006~11年にアルジャジーラ主幹を務め、同局を世界的なメディアに育てた。


 ■民主化の波と報道中立性のはざまで 取材を終えて

 ワダー・ハンファル氏は、米外交誌フォーリン・ポリシーが2011年に「世界の知識人100人」の
トップに選ぶなど、メディア界の最先端を走る寵児(ちょうじ)だ。
同年にアルジャジーラ主幹を退任した後、カタール政府系NPO「シャルク・フォーラム」の代表に
就任。
中東政治やメディア関連の国際会議で世界中を飛び回る一方、アラブ諸国の若い世代に社会参加を
促す活動を続けている。

 記者としての経歴は、南アで始まり、アフガニスタンとイラクの計3カ所、期間は96年からの
8年間に過ぎない。

 だが、03年に35歳で副主幹に就任してから主幹を退任するまでの8年間に、英語版の創設や、
「アラブの春」取材でのソーシャルメディアとの連携を通じて、中東カタールのアラビア語衛星放送を
世界的なメディアに育て上げた。
「編集者(エディター)は、知識人であり、シンクタンクであるべきだ」という持論は、彼自身の
経歴とも重なる。

 中東・イスラム圏の報道に力を入れる同局のスタッフは、同胞団やイスラム主義者との近さも指摘
されるが、「専制的な政府系メディアに同胞団がひとりもいないことの方が不自然。
うちのスタッフの国籍は55カ国に上る」。BBCやCNNなどから有力記者を引き抜くことも多い。

 11年の突然の退任は、理由をめぐって臆測も呼んだが、本人は「副主幹時代を含め、8年間
走り続けた。
後進に譲るときだ」。
アルジャジーラとは現在も良好な関係を保っており、「近く米国内向けの放送を開始する」とも明かした。

 国営メディアが多い中東世界で、アルジャジーラの報道は異彩を放ち、存在感を示す一方、紛争の
一方の当事者になっているとの批判もある。
通信手段を絶たれたシリア反体制派とスタジオとのやりとりで、「どうやっていま、私たちと話しているのか」と
いうキャスターからの問いかけに、反体制派が「この衛星携帯はあなた方がくれたもの」と答えたことがある。
報道における「中立性」にこだわるべきか、「専制に対するメディアによる民主化」としてそれを肯定的に
位置づけるべきか。
回答は容易ではない。

 ひとつだけ確実にいえるのは、独裁者にとって、同局がない中東の方が好都合だったという点だろう。
(国際報道部長・石合力)


 ◆キーワード

 <アルジャジーラ> 
ペルシャ湾岸カタールを拠点に同国政府が資金の大半を拠出する非営利の衛星放送。
1996年に開局。特に中東、イスラム諸国の取材を重視する。
アラビア語版のほか、2006年には英語版も始まった。


 <アラブの春>
 2010年12月にチュニジアで始まった民主化要求デモ。
アラブ諸国に波及、チュニジア、エジプト、リビアなどで長期独裁政権が崩壊した。
フェイスブックなどソーシャルメディアの役割が注目された。



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