[CML 022579] 限界にっぽん第2部・雇用と成長 大阪から:8 削られる生活保護

BARA harumi-s at mars.dti.ne.jp
2013年 2月 11日 (月) 17:26:15 JST


新聞記事
朝日新聞2013.2.11
http://digital.asahi.com/articles/TKY201302100453.html

●職ないのに「働け」給付されず

 「あなたの資力に応じて、どの程度の援助ができるか、ご回答ください」

 大阪市内の実家を離れて奈良県の大学に通う学生(19)のアパートに昨年10月、生活保護を受けている姉にお金を出して「扶養」するよう求める
文書が役所から届いた。

 離婚した姉が母子家庭になり、生活保護を受けていたのは聞いていた。
だが「自分はまだ学生」。週に数日、コンビニでの深夜のバイトで得る7万円は、家賃や生活費で消える。
「余裕がないことは、市もわかっているはずなのに」。乾いた文面を読み返しながら、怒りがこみあげた。

 生活保護を受ける人の割合が政令指定都市で最も高い大阪市では、こうした親族への「調査」のほかにも、警察OBを入れた「不正受給監視チーム」を
つくるなど、政府の先をいく生活保護費の削減策が進む。

 そのあおりで、大阪府岸和田市に住む旧三洋電機(現パナソニック)の元派遣社員(40)は生活保護の受給申請を何度も「却下」され続けた。
「怠けているかのようなレッテルをはられ、悔しかった」

 会社の経営悪化で「雇い止め」になり、生活保護を申請したが、市の窓口では「若いのだから仕事を探してください」と門前払い。
その後も申請しては「却下」の繰り返しで、6回目にようやく認められた。最初の申請から1年数カ月たっていた。

 その間、日雇い派遣の仕事や借金でしのぎながら、約30社の面接を受け、ハローワークにも通った。
だが、市側の対応は「3日に1日ほどの求職活動では、真摯(しんし)に求職活動をしているとはいえない」と、冷ややかなものだった。

 板挟みになっているのが、生活が苦しい人の相談を市から委託されているケースワーカーだ。
「役所からは『申請が出ても、求職活動が足りないという形にしてなるべく生活保護にならない状況を作れ』といわれる。
雇用がひどい状況だから生活保護に頼るのに、ただ『働け』というだけでは」

 だが、政府や自治体の対応は、これからもっと厳しくなりそうだ。

 昨年7月、大阪市が橋下徹市長の名で厚生労働省に出した生活保護制度の「抜本的改革の提案」は、不正受給を繰り返した人のほか、
働くことができる世代や高齢者も生活保護の対象からはずすことを求めた。「なんでもかんでも生活保護でというのでは、
制度がもたない」と市の川勝洋一保護課長は説明する。

 自治体に呼吸を合わせるかのように、政府は先月末、新年度予算案で、給付水準の引き下げなどで生活保護費の伸びを670億円削ることを決めた。

 大阪のタレントの母親の「不正受給」問題をきっかけに進んだ保護削減の動き。貧困問題に取り組んできた小久保哲郎弁護士は
「生活に余裕がなくなった人が増える中、(生活保護を受ける)弱い立場の人をたたいて留飲を下げる。そんなムードに政府も悪のりしている」と心配する。


 ●特区、弱者排除の恐れ

 日雇い労働者の街、大阪市西成区のあいりん地域では、1万人弱の生活保護受給者や高齢の労働者を街から追い出すことになりかねない
構想がくすぶる。

 橋下市長が唱える「西成特区構想」がそれだ。税の減免などで大学を誘致したり、小中一貫校をつくったりして、子育て世代を呼び込む。
ビジネス街として再開発し、関西空港と結ぶ長距離バスターミナルをつくる計画もある。 


 「大阪都構想」では、市内の24区を特別自治区に再編する。ところが、西成区との合併を、多くの区がいやがった。

 「あいりん地域があるから企業も来ないしマンションも立たない。
そこと一緒になれば、イメージが悪く地価も下がると、押し付け合いだった」。再編の素案作りに参加してきたある区長は打ち明ける。

 そんな中での特区構想に、地元では反発が広がった。「あいりん地域をなくそうという『スラム・クリーニング(貧困街の一掃)』の発想じゃないか」

 昨年10月、住民も参加した有識者座談会の報告書では、再開発事業は「将来に向けての事業」などとして事実上先送りし、
生活保護の受給者や日雇い労働者の就労支援などを優先するよう提言した。

 「思いつきのトップダウンの構想を、みんなで押し返す」。
漫画「カマやん」の作者で、「釜ケ崎のまち再生フォーラム」の事務局長をするありむら潜さんはいう。
町会やNPOが、生活保護の受給や就労、医療・介護の支援をしてゆるやかに支える町づくりを進める。
「ここの現実にあったやり方がある」との思いからだが、「西成特区構想」の行方はまだ見えない。


 ●「自助」か「底上げ」か

 新しい人や資金を呼び込んで自立を促す「自助」か、いま暮らす人の生活水準を引き上げて活気づける「底上げ」か――。
地域の再生をめざす二つの考え方が、西成で対峙(たいじ)する。
それは、国の関与を減らして市場経済の効率性を重視する「小さな政府」にすべきか、NPOとも協働して福祉を充実させる「大きな政府」がよいのか、
といった日本社会が結論を出せていない対立軸の映し絵だ。

 大阪府・市の特別顧問をする上山信一慶大教授はいう。
「我々がやろうとしているのは、小泉改革の続き。個人にも企業にも自立を促す。府と市の二重行政をやめるなどして行政の効率を上げる。
そうすれば、地域経済の生産性ももっとあげられるし、成長できる。生活保護も減らせる」

 「年越し派遣村」などで貧困問題に取り組んできた湯浅誠さんは昨夏から活動拠点を大阪に移した。
派遣社員やニートと呼ばれる若者の交流などに取り組む。

 「橋下市長らの政策は、ばりばり仕事をするサラリーマン男性だけで社会が回るようなイメージ。
だが現実は、高齢者や障害者、社会に適応できない若者など様々な人がいる。
みんながそれぞれに頑張れる多様性を組み込まないと、経済も社会も活性化しない」

 産業革命期の英国では、貧困や失業は個人の生活態度などの問題ではなく、産業システムが抱える問題だとして、政府の責任で克服をめざした。
その考え方は、欧州を中心に多くの先進国で受け継がれてきた。

 先進国の成長が止まり、雇用が生めなくなったいま、どんな社会をめざすのか。
生活保護の問題はまさに、政府の責任と役割を問い直す格好の機会になる。

 (編集委員・西井泰之) 



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