[CML 022577] 追いつめられて:入社半年、「予選」の重圧 燃える希望、消され自殺

BARA harumi-s at mars.dti.ne.jp
2013年 2月 11日 (月) 17:15:48 JST


新聞記事
朝日新聞2013.2.8
http://digital.asahi.com/articles/TKY201302070602.html

2008年10月、気象情報会社ウェザーニューズで働く男性(当時25)が、千葉市の自宅で練炭自殺した。

 4月に正社員として働き始めたばかり。「希望に燃えて会社に入ったのに」。京都市に住む兄(34)は悔しがる。

 兄が思い出すのは、小学3年生のころの弟の姿だ。

 「お兄ちゃん、こんなに積もったよ!」

 弟はそう言ってはしゃぎ、庭先に積もる雪を物差しで測った。
「気象観測」は冬の日課。大学ノートに毎日の天気や積雪、明日の予想をメモした。

 大学生の時に気象予報士の試験を受けたが、不合格。
卒業後に入社した電子部品メーカーは1カ月でやめ、再び試験に挑戦。
合格して、ウェザーニューズの社員になった。テレビで放送される天気予報の原稿づくりを担当した。

    □    □

 「弟を追いつめたのは、社内で『予選』と呼ばれた人事制度だった」。兄はいう。

 ウェザーニューズによると、新入社員は社内で「ポッシブル・ウィナー(勝者になることが可能な者)」と呼ばれる。
入社後半年間は、会社と社員との「相互評価期間」とされる。
その期間に、経営全般に関わる「経営職」になるか、勤務時間や仕事内容を限定した「契約スタッフ職」になるかが決まる。
新入社員30~40人のうち、年に1人か2人が「契約スタッフ職」になるという。

 「予選通過。必死」。兄によると、弟が仕事で使っていたノートには、こうあった。 


 弟の携帯電話に残ったメールや同僚の話をまとめたところ、弟は午前8時に出社。
ほぼ毎日、午後11時以降まで働いた。
午前2時ごろまで働くことも多く、6、7月の残業時間は200時間を超えた。

 ところが、上司の評価は厳しかった。
9月には「なんでこの会社にきたのか。迷い込んできたのか」と問い詰められた。
同僚に「死にたい」ともらすようになった。

 入社半年後の10月1日、上司から「予選通過は難しい」と告げられた。
亡くなったのは翌日だ。

 兄は話す。「好きな仕事をするための社内競争は仕方ない。
でも、苦しむ仲間を支える仕組みはなかったのか」

 10年6月、千葉労働基準監督署は、弟の労災を認めた。
兄はその後、会社に損害賠償を求める裁判を起こした。
会社は再発防止を約束し、和解した。
ウェザーニューズ広報・IR担当の北川堅グループリーダーは「社員カードでオフィスへの入退出時間を記録するシステムを始めた。
メンタルヘルスに関する研修も行っている」という。

    □    □

 入社早々から多くの仕事を課し、結果を出すように求める。
若手を即戦力として使おうというのが企業の思惑だが、働き手にとっては過度な重圧にもなる。

 愛知県の20代女性が働いていた大手衣料品販売会社では、入社後の半年間は、「店長を全力で目指す期間」だ。

 新入社員は「店長候補者」と呼ばれ、各店舗に配属される。
レジ打ちや接客から人件費の管理まで、店で必要な仕事をすべてこの期間で覚えなければいけない。

 その半年後に、店長になれるかどうかの試験がある。
マニュアルをもとにした筆記テスト、店舗での働きぶりの評価、幹部による面接、という三つの関門をクリアすれば、店長に昇進だ。
不合格の場合は、半年おきの試験で店長を目指す。
2年以内に店長になる資格を得ないと、降格することもある。

 「店長にならないなんてあり得ない。
そんな雰囲気があって、どんどん追い込まれていった」と女性は話す。

 10年春に入社し、東海地方の店舗に勤務した。
朝8時に出勤し、夕方5時半までが通常の勤務。
終業後、仕事を覚えるために2時間ほど店に残り、帰宅後もマニュアルを覚えるために3時間勉強した。
ベッドで眠ると寝坊してしまいそうで、床の上で横になった。

 入社2カ月後、朝起きると涙が出るようになった。
勤務中もうわの空で、レジ打ちなどを頻繁にミスした。
「こんな状態ではやっていけない」。
店長への試験は受けたが、自分から不合格にしてもらった。
医師に「うつ状態」と診断され、11月から休職。翌年に退職した。

 店長に昇進し、楽しそうにバリバリと働いている同期もいる。
「私は弱かったのか」。今も悩み続ける。退職後にほかの仕事を始めたが、忙しくなると涙が流れてくる。

 (牧内昇平) 



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