[CML 028627] 1994年から20年

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2013年 12月 31日 (火) 18:26:15 JST


 坂井貴司です。
 
 明日、2014年1月1日は私が重要だと思う事が起こってから20周年です。

 今から20年前の1994年1月1日、太平洋の向こうにあるメキシコ南部のチアパス
州できわめてローカルな行動でありながら、とてつもなくグローバルな意味を持
つ事件が起こりました。

 サパティスタ民族解放軍(EZLN)と名乗る集団が武装蜂起したのです。こ
の日に発行したアメリカ・カナダ・メキシコが参加する『北米自由貿易協定(N
AFTA)』を「先住民族に対する死刑宣告である」とし、撤廃を求めて蜂起し
ました。

 この事件に当時学生だった私は衝撃を受けるとともに、強い関心を持ちました。
何か大きな変化が起こっていると思いました。変わらないと思っていたことが変
わろうとしていると思いました。

 サパティスタ民族解放軍は政府軍と交戦したあと、ジャングルに潜みました。
そして根拠地であるラカンドンのジャングルから次々にメッセージを発しました。

 「我々は自分たちだけでなくあらゆる人のための自由、正義、民主主義を求め
る」
 「サパティスモは新しい政治イデオロギーでも、古いイデオロギーの焼き直し
でもない」
 「北米自由貿易協定に代表されるグローバリゼーションは、貧しき者をさらに
追い詰めている。それに対して武器を持って立ち上がった。武器がなければ誰が
我々の声に耳を傾けたというのか」

 当時の日本は1980年代の土地バブル崩壊後の不況に突入していました。一
方、アメリカはITバブルでした。アメリカにならって日本は構造改革をしなけ
ればならない、グローバススタンダードに合わせようという声が起こっていまし
た(今、それが実行されています)。これに対して左翼からに反撃はありません
でした。ソビエトが崩壊したことで、共産主義や社会主義は最初から間違ってい
た、マルクスは死んだ、という大合唱が起こっていました。レーニンは偉大なる
革命家から悪質な陰謀家とされました。誰もが『歴史の終わり』(フランシス・
フクヤマ)を唱えました。

 世界が資本主義で統一されようとしていたその時、メキシコのジャングルから
目出し帽をかぶった集団が出現しました。新自由主義、グローバリゼーション打
倒を掲げました。

 「飢餓、貧困、失業、教育の欠如などの苦しみは、『持てる者』だけが富を得
るグローバリゼーションによるものだ。もうたくさんだ!我々は生きる権利を守
るために闘う。」

とサパティスタ民族解放軍は叫びました。

 世界中が大騒ぎになりました。

 メキシコでは貧困層を中心にサパティスタ民族解放軍支持の声が圧倒的多数を
占めました。世論に押されてメキシコ政府は武力による鎮圧を一時停止し、恩赦
を発表しました。それに対してサパティスタ民族解放軍は「なにゆえ我々は許し
を請わなければならないのか。スペインの征服以来400年間苦しみ続けた先住民族
がか?」という声明を発表しました。これを読んだノーベル文学賞を受賞した詩
人で激烈な反共主義者であるオクタビオ・パスは「許しを請わなければならない
のは私達の方だ。先住民族の存在を無視してきたからだ」と発言しました。 
 
 そしてサパティスタ民族解放軍は、ラカンドンのジャングルから首都メキシコ
シティーへ行進し、目出し帽をかぶって国会で演説をすることまでしました。
100万人を越す民衆のデモ隊が支えました。
 
 サパティスタ民族解放軍はこの蜂起以後、銃ではなく当時普及し始めていたイ
ンターネットを使って次々にメッセージを発信しました。新自由主義やグローバ
リゼーションがもたらす貧困と暴力、それに対抗するオルタナティブな提案を示
しました。 スペイン語で書かれたメッセージはすぐに英語や日本語などに翻訳
され世界中に送られました。
 これらのメッセージは、グローバリゼーションや新自由主義に異議を申し立て
る人々に示唆と勇気を与えました。そして、1999年の世界貿易機関(WTO)シ
アトル総会を「粉砕」する動きを起こしました。

 その後入ってきた情報によれば、サパティスタ民族解放軍は1970年代に都
市部のヨーロッパ系の左翼学生が、武装闘争の根拠地を建設するためにチアパス
州の先住民族の村に入って組織化を図ったことから始まったということが判りま
した。最初は
「無知蒙昧な」先住民族をマルクス主義で教育して組織化しようとした所、先住
民族の智慧と伝統に触れ、「教育されるのは我々の方だ」と気づいたこと、20
年間にわたる対話によって、先住民族の現実に即した運動をする必要を理解した
ことでした。
 
 1994年1月1日の武装蜂起は、先住民族の突き上げによって決行されたこ
とが明らかになりました。
 蜂起前、このような議論が交わされました。

 「ソビエトは崩壊した。キューバは助けてくれない。資本主義の勝利は明らか
だと誰もが思っている。そんな中で武装蜂起するのは自殺行為だ」

 「ソビエトやキューバのことなんか知ったことか。北米自由貿易協定で安いア
メリカ産のトウモロコシがメキシコに入ってくる。そうなれば我々は失業だ。ア
メリカに移住するしかない。それに首都の金持ちやアメリカの大企業は、チアパ
スの豊かな資源を奪おうとしている。指をくわえてだまっているなんてできない。
もうたくさんだ!」

 それから20年が経ちました。

 北米自由貿易協定が発行してから、メキシコの状況はサパティスタ民族解放軍
の指摘通りになりました。アメリカ産の安いトウモロコシがメキシコに大量に入
ったことで、メキシコの農業は崩壊しました。失業した農民は首都へ、国境を越
えてアメリカに流れ込みました。ほとんどは違法移民としてアメリカ社会の最底
辺に押し込められています。モノとカネの国境を越えた移動は自由なのに、人の
移動は自由ではない状況になっています。
 アメリカの製造業は大挙してメキシコに工場を移しました。これによってアメ
リカ人労働者は失業しました。一方メキシコ人労働者は低賃金と長時間労働に苦
しんでいます。
 アメリカの要請を受け麻薬マフィア撲滅を掲げる「麻薬戦争」をメキシコ政府
が始めた所、マフィアの反撃が起こり、血で血を洗う抗争が繰り広げられました。
拉致、暗殺、拷問が横行し、治安が極度に悪化しました。今も続いています。
 
 「サパティスタ民族解放軍はローカルな動きに終わっている。世界的な広がり
がない」
という批判が一部の左翼から上がっています。それは一面真実です。しかし、サ
パティスタ民族解放軍のメッセージはきわめて「グローバルな」広がりを持って
います。メキシコ南部のチアパスという地域から国境を私たちに向かって問いか
けています。   
 
 サパティスタ民族解放軍なくして今のラテンアメリカの左翼政権の成立や、ヨー
ロッパの抗議運動の広がりはなかったと私は思います。火花になったとも思いま
す。

 明日はメキシコのジャングルからグローバリゼーションとの闘いを始めたサパ
ティスタ民族解放軍の蜂起から20年です。

参照

サパティスタ メキシコ先住民運動連帯関西グループ
http://homepage2.nifty.com/Zapatista-Kansai/index.htm#CONTENTS

坂井貴司
福岡県
E-Mail:donko at ac.csf.ne.jp
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「郵政民営化は構造改革の本丸」(小泉純一郎前首相)
その現実がここに書かれています・
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