[CML 026071] 中沢啓治著「はだしのゲン」の利用制限について(松江市教委への要望)/日本図書館協会 図書館の自由委員会

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2013年 8月 24日 (土) 21:21:34 JST


平成25(2013)年8月22 日

松江市教育委員会委員長 内藤 富夫 様
松江市教育長 清水 伸夫 様

(社)日本図書館協会 図書館の自由委員会
委員長 西河内 靖泰

中沢啓治著「はだしのゲン」の利用制限について(要望)

  松江市立小中学校52校のうち39校の学校図書館が中沢啓治著「はだしのゲン」の
単行書全10巻を所蔵しています。
報道によれば、昨年8月に一市民が市議会に「子どもたちに誤った歴史観を植え付
ける」として同書を学校図書館から除去することを求めて陳情し不採択とされたところ、 

松江市教育委員会は 12月の校長会で、旧日本軍が中国大陸で中国人の首を斬ったり
性的暴行を働く「過激な描写」が「子どもの発達上、悪影響を及ぼす」として、学校
図書館において児童生徒への提供を制限するよう要請し、現在、全学校図書館が
全10巻を書庫に入れ、児童生徒が閲覧するには教員の許可を、校外貸出しには校長
の許可を得なければならないとされています。

  貴委員会は「閲覧や貸出しの全面禁止でなければ、(日本図書館協会が表明する)
図書館の自由を侵さないと独自に判断」されたと報道されています(「中国新聞」8月19日)。
  しかしながら、日本図書館協会「図書館の自由に関する宣言」(1979年、総会決議)は、
図書館は国民の知る自由を保障することを最も基本的な任務とし、図書館利用の
公平な権利を年齢等の条件によって差別してはならず、「ある種の資料を特別扱い
したり、書架から撤去したりはしない。」と明記しています。

各国の図書館專門機関による国際図書館連盟は、図書館はすべて利用者に資料と
施設の平等なアクセスを保障しなければならず、年齢等の理由による差別があっては
ならないとしています(IFLA Statement on Libraries and Intellectual Freedom 
1999)。
学校図書館の蔵書についての紛争や裁判を数多く経験するアメリカ合衆国の図書館
協会は、年齢によって図書館利用を制限することを戒め、貴委員会と同種の提供制限
措置を「目立たない形の検閲」であるとしています(Intellectual Freedom Manual 
2010)。
  学校図書館において利用が制限されている蔵書を読みたい子どもが、教師さらに
校長の許可を求めることの心理的負担は、とても大きいのではないでしょうか。

子どもたちはその本を読むことが教師や校長から良くないことだと思われると受け
止めるのではないでしょうか。
そして場合によっては、読むことを諦めるのではないでしょうか。
子どもたちは、学校図書館を、蔵書の内容によっては自由に手に取り、読むことを
抑制する場であると受け止めるのではないでしょうか。
学校図書館の自由な利用が歪むことが深く懸念されます。

  「児童の権利に関する条約」(1989年11月20日,国連総会採択.1994年3月29日
国会承認)第13条は、子どもは「表現の自由についての権利」と「あらゆる種類の
情報及び考えを求め、受け及び伝える自由」を保障されるとしています。
同条第2項は、この保障が除外される場合として「法律によって定められ、かつ
次の目的のために必要とされるものに限る」として「(a)他の者の権利又は信用の
尊重 (b) 国の安全、公の秩序又は公衆の健康若しくは道徳の保護」としています
が、本件図書はこの除外要件には該当しないでしょう。

  子どもの読書活動の推進に関する法律(平成13年法律第154号)は、「子どもの
読書活動は、子どもが、言葉を学び、感性を磨き、表現力を高め、創造力を豊かな
ものにし、人生をより深く生きる力を身に付けていく上で欠くことのできないもので
あることにかんがみ、すべての子どもがあらゆる機会とあらゆる場所において
自主的に読書活動を行うことができるよう、積極的にそのための環境の整備が
推進されなければならない。」として、その推進を国や地方公共団体に求めています。 


  貴委員会におかれては、いちはやく全小中学校の学校図書館に専任の職員を配置
され、子どもたちの読書活動の環境整備に努められています。
  子どもたちの「自主的な読書活動」を尊重する観点から本件措置を再考され、読書
活動の環境整備をよりいっそう推進されますよう、お願い申し上げます。 



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