[CML 025778] 核といのちを考える 孤立する日本:上)非人道声明、署名せぬ被爆国

BARA harumi-s at mars.dti.ne.jp
2013年 8月 5日 (月) 18:30:44 JST


新聞記事
朝日新聞・WEB
2013.8.4

核といのちを考える 孤立する日本(上)
人道声明、署名せぬ被爆国
http://digital.asahi.com/articles/SEB201308020091.html?ref=comkiji_redirect

4月24日午後4時、スイス・ジュネーブ。
2年後の核不拡散条約(NPT)再検討会議に向けた第2回準備委員会で、
核兵器の非人道性を訴える共同声明が発表された。
南アフリカやスイスなど最終的に80カ国が賛同したが、日本は署名しなかった。

 しかし直前までは日本も賛同するはずだった。

 「主要な提案国が日本の修正要請を受け入れそうだ」。
与党議員は2時間前、外務省幹部から電話で伝えられた。

 日本は南アフリカなどの提案国に対し、文中の「核兵器が二度といかなる状況
でも使われないことが人類生存の利益になる」との部分の修正を求めていた。
北朝鮮の核開発など周辺の脅威には米国の核抑止力に頼る実情を踏まえ、
「いかなる状況でも(under any circumstances)」の3語は、米の行動を
制限しかねないと考えた。

 岸田文雄外相は日本代表団に「3語を削る修正を」と指示していた。

 24日午後、現地の代表団は南アフリカから「修正で合意できる」との情報を得た。 

しかし声明発表の40分前、事態は一変する。南アフリカのアブドゥル・ミンティ
大使は、天野万利(まり)軍縮大使に「当初の文案で発表する。変えることは
できない」と告げた。

 日本の関係者は「土壇場で修正を受け入れない国があった」と証言する。
取材すると、交渉の舞台裏が見えてきた。

 ■「3語削除」疑念招く

 外務省関係者によると、「いかなる状況でも」の3語削除をめざす岸田外相の指示は、 

準備委員会が開幕する4月22日、天野大使ら代表団に伝えられた。

 岸田氏は被爆地の広島が地元。朝日新聞の取材に書面で回答を寄せ、「日本は
唯一の戦争被爆国。だからこそ私自身、直接指示し、関係国とぎりぎりの調整を
した」「賛同できなかったことは大変残念」と説明。一方で「安全保障環境は厳しさを 

増し、米国の核戦力を含む日米同盟の抑止力で自国の安全を確保する必要がある」
と強調した。

 日本の要求はどう受け止められたのか。提案国のノルウェー政府関係者は
「なぜ3語が重要なのか。(日本の真意が)理解できなかった。交渉はゲームのように 

感じた」と語る。
日本の「本気度」を疑っていた。

 24日午後2時すぎ。日本側は修正合意の感触をつかんだと思ったが、修正を想定
していない国もあり、提案国側の認識は日本とずれていた。
ある提案国の外交官は「日本は修正を求めつつ、3語を削れば声明に賛同すると
確約していなかった」と証言する。

 文案を変えるなら、提案国の同意が必要だが、日本が修正を条件に賛同を確約
したのは発表1時間前の午後3時前後。修正協議の時間は残っていなかった。
南アフリカのアブドゥル・ミンティ大使は振り返る。

 「複数の国が文案の変更は難しいと感じていた。日本の提案は遅すぎた」



 ■「抑止論に日本固執」

 ジュネーブの政府間会合を見守った、NGO「ピースボート」の川崎哲共同代表
(44)は日本政府の姿勢を批判する。「被爆国の日本は核兵器の非人道性を最初に
主張した。しかし核抑止論に固執し、多くの国が核の非人道性を訴える新たな
潮流の中で、置きざりにされつつある」

 国際会議で「核兵器の非人道性」がキーワードに浮上したのは、2010年の
NPT再検討会議の合意文書だ。
「核兵器使用がもたらす壊滅的な人道上の結果に深刻な懸念を表明」との表現
が盛り込まれた。
核保有国のパワーバランスに傾いていた議論に対し、核の使用は人道的な惨事を
招くとの共通認識が芽生えた。

 これに、核保有国による「段階的核廃絶」が進まないことに不満を抱くスイスや
ノルウェーなどが着目。
昨年から今年4月、核兵器の非合法化や非人道性に言及する共同声明が3回、
国際会議で採択された。
しかし日本は、核保有国やドイツ、韓国などと一連の声明への賛同を見送ってきた。

 ■プラハ演説後、依存加速

 「核兵器を使ったことがある唯一の核保有国として行動する道義的責任がある」。
オバマ米大統領は09年4月、プラハで「核なき世界」へ向けた核軍縮への決意を
語った。だが皮肉にも、日本の核抑止力への依存は、この時からさらに深まった。

 防衛省幹部は、オバマ氏の戦略について「米ロの核軍縮が進めば、米の核の
信頼性は低下する。同盟国を軽視するのかと思った」と語る。日本が懸念したのは
核開発を進める北朝鮮や中国の動き。
不安を裏付けるように北朝鮮は翌月、2度目の核実験に踏み切った。

 核の傘の保証は冷戦時代、日米首脳の共同声明や政府間の文書で確認される
だけだった。
だが、日本は「核抑止の維持」の確約を取り付ける必要を感じ始めた。
一方、米側も「日本を核武装に走らせないためにも、同盟国の不安を和らげる
ことが必要」(元外務省幹部)と考えていた。

 日米は09年7月、外交や防衛の実務担当者が直接対話する「拡大抑止協議
(EDD)」の設置で合意した。
日本もミサイル防衛などを担い、米国の抑止力の一角に加わることを想定していた。
09年9月には民主党政権に交代するが、EDDは引き継がれる。
当時の岡田克也外相は、EDDについて「核がある以上、政府には国民を守る
責任がある。ただ米国にお任せではなく、互いに理解して中身を話し合うべきだ
と考えた」と話す。

 両国の協議は、いまの安倍政権のもとでも着実に進められている。

 今年4月。米・シアトルに近いキトサップ海軍基地で、5回目のEDDが開かれた。 

核ミサイル原潜の母港で、米国の核戦略の重要拠点のひとつだ。

 米側からは国務・国防両省の次官補代理ら、日本からは外務・防衛両省の
審議官級幹部らが参加。
出席者らによると、北朝鮮が日本を核で「恫喝」した事態も想定し、航空機や
ミサイルによる核攻撃も含めた対応を協議した。

 防衛省幹部は言う。「核の傘が自動的に差しかけられた冷戦時代と違い、
日本が直接、核の脅威に向き合う時代になった。
これが最善の選択と信じている」

 (谷田邦一、武田肇)

     *

 核依存を深め、世界から「孤立」する日本の姿を2回の連載で報告する。

 ■核廃絶と核抑止力をめぐる動き

09年4月 オバマ大統領が「核なき世界」を表明

   5月 北朝鮮が2度目の地下核実験

   7月 日米が拡大抑止協議(EDD)の設置で合意

   9月 民主党に政権交代。鳩山内閣発足

12年5月 ウィーンでNPT再検討会議第1回準備委員会。
               「核兵器の非合法化」の共同声明に日本は賛同せず

  12月 自民党に政権交代。安倍内閣発足

13年3月 ノルウェー・オスロで核兵器の非人道性をテーマにした初の
             国際会議。127カ国が参加

   4月 ジュネーブでNPT再検討会議の第2回準備委員会。
「核兵器の非人道性」の共同声明に日本は賛同せず

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核といのちを考える 孤立する日本(下)
たまり続けるプルトニウム
http://digital.asahi.com/articles/OSK201308030191.html?ref=comkiji_redirect

 「人類滅亡まで5分」。米国の科学誌「ブレティン・オブ・ジ・アトミック・サイ
エンティスツ」は1月、科学者らが核戦争の危機を訴える「終末時計」について、
福島第一原発の事故などを理由に「5分」とした昨年に続き、今年も同じ
刻限にすると発表した。

 「2013年のうちに米国は日本に六ケ所の稼働を諦めさせるべきだ」。
同誌は「5分」とした理由を述べたオバマ・米大統領宛ての公開書簡で提言した。

 六ケ所とは、青森県六ケ所村にある使用済み核燃料の再処理施設。
近く始まる検査が済めば、本格稼働させる準備が進む。

 なぜ、使用済み燃料の再処理が核戦争の危機につながるのか。
再処理で、燃料にも核兵器にも転用が可能なプルトニウムが抽出できるからだ。
日本は英仏両国に再処理を委託し、すでに約44トンのプルトニウムを
ためこんでいる。

 核不拡散条約(NPT)のもとで、日本は核兵器の主要保有5カ国を除けば
唯一、核燃料の再処理やリサイクルを進める「核燃料サイクル」の技術開発を
認められてきた。
核利用を監視する国際原子力機関(IAEA)に全面協力し、核兵器を持たずに
平和利用を進める日本は「NPTの優等生」と言われてきた。

 だが、福島の事故後、原発50基の大半が運転を停止。
もう一つのプルトニウムの使い道となる高速増殖炉も実用化のめどが
立たないまま再処理に突き進む日本には今、国内外から冷たい視線が向け
られている。

 ■「潜在的な核抑止力」

 4月10日、米ワシントン。トーマス・カントリーマン国務次官補は、原子力
政策を巡り意見を交わした内閣府原子力委員会の鈴木達治郎委員長代理に
こう警告した。
「日本が不拡散分野で果たしてきた役割、国際社会の評価に大きな傷が
つく可能性もある」

 日本側は保有分や再処理で発生するプルトニウムを原発の燃料として
使うと説明。
しかし米側は六ケ所での再処理推進が北朝鮮やイランの核開発に口実を
与えかねないと懸念していた。

 核問題アナリストの田窪雅文氏は「米国が生産した軍事用プルトニウムは
約100トン。
消費するあてもなく再処理を進めれば、これに匹敵する量を日本が持つこと
になる」と指摘する。

 日本は被爆国として核軍備には手を出さずにきた。
ただ、原子力技術が安全保障上の「潜在的な核抑止力」を担うとの主張は
繰り返されてきた。
昨秋から自民党幹事長を務める石破茂衆院議員は11年10月、雑誌の
インタビューで原発を維持する意義をこう述べた。
「核兵器を作ろうと思えば一定期間のうちに作れるという『核の潜在的抑止力』に
なっている」

 ■核開発「海外が懸念」

 民主党政権が「原発ゼロ」を模索していた11年11月。
脱原発の是非を議論する経済産業省の専門家会合で、原子力研究の重鎮、
山地憲治・東京大学名誉教授は原子力開発の維持を主張した。
「核兵器を保有せずに抑止力を持つこと。
(中略)これはやはり核の時代において国際的に重要ではないでしょうか」

 平和利用を担ってきた科学者として「抑止力」を口にした理由について、
山地氏は取材に「核は本質的に軍事的な側面を備えている。
核武装の能力があると周辺諸国から認められることは、安全保障上の
意味がある」と語った。

 反原発の立場で経産省の会合に出席した伴英幸・NPO法人原子力資料
情報室共同代表は指摘する。
「存亡の危機に直面して、原子力ムラの本音が出たと感じた。
日本がいつか核開発に乗り出すのでは、という海外の懸念もそこにある」

 1988年に改定発効した日米原子力協定で、日本は米議会から毎年
了承を得ずに核燃料の再処理ができるようになった。
2018年に期限切れを迎えるが、政府や電力業界関係者の中にも、
日本が保有するプルトニウムを減らす具体策を示せなければ、協定の
維持は難しいとの見方がある。

 80年代の日米原子力交渉に携わった元外交官の遠藤哲也氏は「米国は
同盟国の韓国には再処理を認めておらず、大量のプルトニウムを抱えた
日本に従来通りの再処理を認めるかどうか。
日本側がきちんと説明できなければ、厳しい交渉になるだろう」と語る。

 (永井靖二) 



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