[CML 023970] 「みる・きく・はなす」はいま 敵がいる:1-3(在日・北朝鮮・沖縄)

BARA harumi-s at mars.dti.ne.jp
2013年 4月 30日 (火) 13:43:25 JST


新聞記事
朝日新聞2013.4.28-30朝刊
http://digital.asahi.com/articles/OSK201304270133.html
http://digital.asahi.com/articles/OSK201304290116.html
http://digital.asahi.com/articles/OSK201304280124.html

「みる・きく・はなす」はいま
「敵」を見つけ、暴力的な言葉を浴びせる人々がいる。
それを容認し、駆り立てる空気がある。
朝日新聞阪神支局で記者2人が殺傷された事件を機に、時代の言論状況を見つめてきた企画の第38部。
不寛容な社会の危うさを追う。

在日攻撃 牙をむく言葉(敵がいる:1)

【石橋英昭】3月の日曜、昼下がり、東京・新大久保。

 「在日特権を許さない市民の会」(在特会)の桜井誠会長(41)が、先導車から拡声機でコールする。

 「新大久保のゴキブリの皆さんこんにちは! こちらは『全日本・社会の害虫を駆除しよう清掃委員会』のデモ隊です」

 「変態民族を撲滅しましょう!」

 「在日韓国人をテポドンにくくりつけ、韓国に撃ち込みましょう!」

 なぜ、こうも激しい言葉を投げつけるのか。桜井会長はこう言う。

 「韓国や北朝鮮の振る舞いに本気で怒ってるから、殺せとまで言うんです。単に排外主義と決めつけないでほしい。怒りを間違えないでほしい」

 「在日韓国・朝鮮人が不当な特権を得ている」と主張する市民団体だ。
外国人への参政権付与や生活保護の受給、朝鮮学校生の授業料無償化。次々と抗議の的を見つけては、過激なシュプレヒコールで練り歩く。
2006年末の結成で、会員は公称1万2千人。

  反対側の歩道には、デモへの抗議に集まった人たちのプラカードが並ぶ。指を突き立て「ザイトク帰れ」と叫ぶ一団も。
韓流の街・新大久保で2月以降、繰り返されている光景だ。

 雑踏に隠れるようにして見ている眼鏡の男性(39)がいた。仮に生主(なまぬし)さん、と呼んでおく。

 在特会や同種の右派系市民団体のデモや街宣に、過去65回参加した。外から見るのは初めて。涙が出そうだった。

 在特会を知ったのは、数年前のこと。

 メーカー勤めのころ、海外との取引で日本が不当におとしめられている、と思うことが多かった。
歴史問題でも領土でも外国に責められてばかりではないか。

 そんな時、ネットで在特会の動画を見つけた。
自宅でパソコンに向かっては、興奮で机をバンバンたたいていた。後に妻から、そう聞かされた。

 生主さんが初めて参加したデモは11年8月、フジテレビへの抗議。韓流ドラマが多いのは偏向と訴えた。
10月、民主党本部前の座り込みに加わった。政府が中国や韓国に弱腰なのが、許せなかった。

 デモの後の居酒屋では、気の合う仲間が何人もできた。
会社員もいれば、主婦もいる。生主さんも脱サラして事業を起こし、小学生の子が2人いる。

 やがて、ニコニコ生放送の「生(なま)放送主(ぬし)」を引き受けるようになる。 

パソコンとカメラを手にデモを追いかけ、ネットで動画を中継する。頼まれれば全国どこへでも車を駆った。

 中継画面はいつも視聴者のコメントで埋まる。「そうだあああああああ」。多くの人が机を鳴らし、そして路上に出た。

 
 「日本を、取り戻す」

 昨年12月の総選挙結果は地方のデモの帰り道、車中で知った。安倍政権誕生に「高揚感がありました」。
日の丸持参で街頭演説に出かけた仲間もいる。

 生主さんはその後、目標を見失った気がした。
仲間うちのツイッターのつぶやきも急に減る。デモでより激しい言葉が使われるようになるのは、それからだ。

 中継のとき、デモ参加者と通行人との温度差は、前から気になっていた。飲み会で主張と少しでも違うことを言うと、みなすぐに激高した。

 でもその「怒り」の根拠って何だろう。

 「ネットで都合よい情報ばかり集めては、身内でそうだそうだと盛り上がっていただけではないか」

 立場の異なる人が書いた本を読んでみた。在日韓国・朝鮮人がなぜこの国にいるのか。歴史的な経緯を初めて知った。

 2月。自分は行かなかった大阪のデモで「朝鮮人を殺せ」と連呼するのを、動画で見た。

 ビールをあおった。

 3月、新大久保でのデモの前夜。迷いに迷った末、「決別宣言」を、自宅からニコ生で放送した。

 「殺せ、ゴキブリと言いながらのデモには、もう賛同できない。スタンスの違う人からは、モンスターに見えるのではないか」

 灰皿には吸い殻の山。

 「怒りを伝えるためにタブーを破るんだという。でも、あんな言葉を使わないとできないのか」

 1時間で5471件のコメントが殺到。「お前は在日認定」「氏(し)ね~~」

 言葉が今度は自分に刺さってきた。

 ただただ、怖かった。

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「北朝鮮」触れられぬ空気(敵がいる:2)

【清水大輔】3月5日、石川県議会の自民党役員室。紐野(ひもの)義昭・県連幹事長(57)がつぶやいた。

 「空気読んどらん」

 同席した議員4人が続いた。「見過ごせん」「止めたもんはいなかったのか」

 前日の新聞記事。オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)音楽監督、井上道義さん(66)の北朝鮮入りを伝えていた。

 井上さんは、県と金沢市が設立したOEKに招かれて以来、クラシックの音楽祭誘致に尽力してきた。
今回の訪朝は3月8日に平壌で国立交響楽団と公演するのが目的とあった。

 北朝鮮の核実験の強行後の2月末、北朝鮮に抗議する決議案が全会一致で県議会で可決された。案は県連の議員が作成した。

 3月7日。本会議で自民党議員2人が井上さんの訪朝をとりあげた。
「社会の常識から逸脱した異常な行動」「北朝鮮の広告塔としての発言をさせてはならない」。
見解を求められ、谷本正憲知事が答弁した。「一人ひとりそれぞれいろんな考えがある」 


 地元では「訪朝『許されることではない』」と報じられた。県連の議員はさらに井上さんに関する質問を通告した。

 12日。予算委員会で再訪朝する場合の対応を問われ、知事が言った。「監督としての立場を十分考え、自重していただくようお願いしたい」

 14日。同じ質問が繰り返された。知事は答えた。「こういう中で訪問するのは常識的にあり得ない」

 知事の答弁は、1週間前の質問で自民党議員が訪朝を問題視した中身と同じだった。答弁はなぜ変わったのか。
複数回にわたり取材を申し入れたが、知事は「コメントはしない」と文書を寄せた。

 井上さんは帰国後、取材に語った。「ぼくは政治家にできないことをしてきたつもりだ」

 
 川崎市。阿部孝夫市長は2月、朝鮮学校の補助金の一部を削り、学校に通う児童らに配る拉致問題の教材に充てると表明した。
核実験の後、各地で補助金支給の見送りを決める動きが広がっていた。

 4月初め、阿部市長に真意を聞くと、自身の体験から語り始めた。

 旧自治省出身。1973年から数年間、在サンフランシスコ日本総領事館へ出向した。 

そこで戦時中に強制収容所に入れられた日系人とも交流した。
国同士が争う責任を、地域に住む人たちに負わせるのはおかしいと思ってきた――。

 「しかし、だ」

 市内には拉致被害者横田めぐみさんの両親が暮らす。
「国民感情からも、何らかの意思表示をしないわけにはいかない。北朝鮮の味方をしているのかと受け止められかねない」


 4月20日、東京・渋谷のミニシアター。公開初日の様子を見届ける李鳳宇(リボンウ)さん(52)の姿があった。

 スクリーンには抱き合って喜ぶ主人公の2人の女性。
映画「ハナ~奇跡の46日間~」は、韓国と北朝鮮が卓球の統一チームを作り、世界選手権の団体で優勝するという実話をもとにした作品だ。

 上映は大手含め数社の映画会社から断られ、2月の予定がずれ込んだ。「『北朝鮮』ですよね、これ」「何が起こるかわからない」と言われた。

 李さんは数々の韓国映画を配給してきた。「シュリ」や「JSA」は北朝鮮が前面にでてくる。在日朝鮮人が主人公の作品も手がけた。
批判や中傷もあった。「それでも『二分(にぶ)』は残しておこうという余裕が10年前はまだあった」

 「村八分」でさえ生ぬるい。李さんはそんな空気を感じている。
 
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沖縄攻撃 ゆがみ増幅(敵がいる:3)

【岩崎生之助】1月27日、東京・銀座。米軍輸送機オスプレイの配備撤回を訴え、デモ行進する沖縄県の市町村長や議員、労働組合員らに
沿道から罵声が浴びせられた。
「売国奴!」「日本から出て行け!」

 その様子を撮影した動画が3日後にネットに投稿された。
愛知県の50代の主婦は自宅のパソコンで見つけ、コメントを書き込んだ。「公務員はいい身分で、反日活動ご苦労様」

 領土問題で中国の脅威が高まっているのに、デモは日米安保に水を差す利敵行為だ。中国は反基地運動に資金を出している――。
女性は記者に力説した。

 昼は税理士事務所で働き、ガーデニングとインターネットが趣味。沖縄には行ったことはないが、ネットで「正しい情報」を集めているという。

 デモをつぶせと集結を呼びかけたのは、女性団体「そよ風」など。動画はネットに多数投稿され、拡散した。
「沖縄左翼はシナの工作員」「活動資金を受け取っている」。根拠不明の書き込みが続いた。

 「オスプレイに反対しているのは在日朝鮮人」。40代男性も動画を見て書き込んだ一人。
記者がメールを送ると「大半の沖縄県民はアメリカの駐留を嫌がっていない」と返信があった。

 だが、デモの中心にいた首長や議員は沖縄の人々が選挙で選んだ代表だ。「会いたい」と再びメールを送ったが返事はなかった。


 沖縄タイムスは、デモの周囲で配備反対を訴える特別版約1千部を配るのをやめた。社員の安全が確保できないと判断した。

 怒声に包まれた現場で平良武・編集局次長(51)は「僕が知っている本土とは明らかに違う」と感じた。

 沖縄ブームと言われた十数年前、東京支社に勤務した。今も在日米軍基地の74%が集中する沖縄へのまなざしはもう少し温かかった。
取材したベテラン政治家たちは、基地を押しつける後ろめたさを口にした。

 デモの2日前のこと。近くのギャラリーで戦後の沖縄で起きた米軍機事故の写真展を開いた。
取材で分かった死者は32人、負傷者は234人。危険と隣り合わせの歴史を本土に伝えたかった。

 ほどなく20人ほどの男女が会場に現れた。
ぐるっと見て回った後、平良局次長らに「オスプレイ反対のための展示か」と詰めよった。
先導したのは政治団体「頑張れ日本!全国行動委員会」。
取材に水島総(さとる)幹事長(63)は「どんなことを発表しているかみんなで見に行った。抗議でも何でもない」と言った。

 沿道でののしる人たちは極端な一部の集団なのか。平良局次長は沖縄への関心が薄い本土の空気と無関係ではないと思う。


 3月、「琉球独立論」を主張する沖縄出身の松島泰勝・龍谷大教授(50)のもとに1本の電話があった。

 電話の主は中部地方に住む男性。「殺されるぞ」「無責任なことを書くな」。不在の教授に代わり応対した職員のメモに、むき出しの敵意が残る。

 「国益」の名の下で米軍基地を押しつけられ、本土は同じ痛みを引き受けてくれない。いっそ独立してはどうか。
沖縄では「琉球独立論」が注目を集める。松島教授も「沖縄返還の日」の5月15日、仲間と独立論の研究会を立ち上げる。

 松島教授のもとには批判のファクスやメールがいまも届く。

 「中国脅威論にあおられた人たちが『日本を裏切るのか』と攻撃してくる」

 松島教授は思う。裏切られ続けてきたのは私たち沖縄ではなかったか。 



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