[CML 023602] アントニオ・ネグリ「現代の代表制は民主主義を実現しない」
BARA
harumi-s at mars.dti.ne.jp
2013年 4月 10日 (水) 01:05:41 JST
新聞記事
朝日新聞2013.4.9朝刊
http://digital.asahi.com/articles/TKY201304080519.html?ref=pcviewer
選挙制度や議会のあり方を巡る議論が盛んだ。
背景には、選挙で民意を政治に反映できるという強い信頼がある。
そんな中、「現代の代表制は民主主義を実現しない」と主張するのがイタリアの政治哲学者アントニオ・ネグリ氏だ。
国際文化会館と日本学術会議の招きで初来日したネグリ氏に単独インタビューで真意を聞いた。
――代表制民主主義の何が問題なのですか。
私が言う民主主義とは、自由、平等、すべての人の幸福を保障するシステムです。
これに対して選挙を通じて現在、実現されているのは、結局は豊かな階層の人たちの意向。
米国ウォール街の占拠運動が掲げた「私たちは99%だ」というメッセージがわかりやすい例だ。
1%のための政治になってしまう。
日本でも同様です。
脱原発運動が広がり、世論調査を見ても多くの人が支持するのに、選挙の結果はそうならない。
民主主義に不可欠なコミュニケーションもゆがめられている。
例えば「原発をなくすと生活が立ちゆかなくなる」などと、国家は恐怖を植え付ける。
――ならば、政治家を選ぶのでなく、インターネットを使い政策ごとに投票して決めるのはどうですか。
それはただの世論調査による政治。
最近、イタリアでもそういう意味での直接民主主義的な手法を求める声が出ているが、解決方法ではない。
民衆の意思と、その時々の要因に左右される世論とは違うものです。
――代議制もだめ、直接投票もだめというと……。
私が提案しているのは、統治のかたちをコミュニケーションのあり方を通じて変えていくことです。
17世紀オランダの哲学者スピノザの「絶対的民主主義」という考えが参考になる。
彼は、代表制民主主義のように個人を孤立した一票の存在と捉えない。
個人は、相互関係のネットワークの中に位置づけられる開かれた存在。
そのすべてが代表される民主主義を考えた。
私は、イタリアの刑務所にいた時、彼の本を読んでこの考えを知った。
(著書で提唱している)「マルチチュード(多様な人々の群れ)」とはこうした結びつきを意味します。
ホッブズに代表される一つの主権を持つ政府が多数の市民を支配するという考えではなく、多様な主体が国家と対立しながら現場で
協働して統治にかかわっていく。
こうした共同体的な方法が民主主義なのです。
私は、富を共有するという意味で「共和国(コモンウェルス)」という考えに関心がある。
そこでは普遍的な一つのルールが統治するのではなく、例えば個人の財産や権利のあり方も、自分たちで「共に」作り替えていくのです。
――現実に可能ですか。
可能どころか、歴史はそう動いてきた。
例えば、かつて南米諸国では、ソ連型の古い社会主義に対して、市民から自発的な民主化運動が広がった。
原住民の権利回復や農民の土地獲得運動など、内容は様々。
政府(ガバメント)という一つの権力による統治から、現場で協働した市民による統治(ガバナンス)へとはそういう意味です。
私が提案するのは、国家の廃絶ではない。
コミュニケーションのあり方を変えることで、私有財産や私的な権利を今とは違った位置づけにすること。
参加と協働を基盤に、市民が「共に」統治する社会です。
具体的にどうすべきかは、私は(哲学者であって)発明家ではないので答えられない。
だが、世界は「帝国」の支配下で、明らかに国民国家の再組織化という方向に進んでいます。
(聞き手・高久潤)
*
Antonio Negri 1933年生まれ。欧州を代表する左派知識人。
2000年に共著で「〈帝国〉」を発表。
グローバル企業やIMF(国際通貨基金)などの国際機関、米国などが、国民国家を超える「帝国」とも呼ぶべき世界的な権力を
作っているという見取り図を示した。
こうした権力に対抗するものとして、多様な個人がつながった集まりを意味する「マルチチュード」を提唱した。
ウォール街のオキュパイ運動の参加者たちが彼の本を手にしていたことでも知られる
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叛逆―マルチチュードの民主主義宣言 (NHKブックス No.1203)
https://www.nhk-book.co.jp/shop/main.jsp?trxID=C5010101&webCode=00912032013
ウォール街占拠から脱原発デモまで
目指すべきものは何か?
2010年代初頭、「アラブの春」に始まる直接抗議運動が世界中に広がった。
専制的な政府、強欲な金融業界、民意を無視する政治に対して立ち上がり、支配体制を揺さぶった人びとこそ「マルチチュード」である。
かれらが見せた新しいヴィジョンとは何か?
代議制の機能不全はどう克服されるのか?
〈帝国〉論で絶対的民主主義を説いた論者が、満を持して放つ具体的提言の書。
単行本(ソフトカバー): 216ページ
出版社: NHK出版 (2013/3/26)
ISBN-10: 4140912030
ISBN-13: 978-4140912034
発売日: 2013/3/26
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