[CML 023562] 刑法解釈の方法について Re2: 人間として「アンチ朝鮮人デモ」をもはや等閑視することは許されない!!
maeda at zokei.ac.jp
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2013年 4月 7日 (日) 17:09:48 JST
前田 朗です。
4月7日
東本さん
疑問点のご指摘ありがとうございます。
2つの問題を一括してお書きになっています。
1)在特会や、問題の女子高生の発言を、現行刑法で処罰しうるか。
2)在特会や、問題の女子高生の発言に、私たちはいかに対処するべきか。
分けてお返事差し上げます。今回は1)についてです。
先の私の書き方は必ずしも分かりやすいものではなかったかもしれません。
むしろ、次のような説明をしたほうが、東本さんにも十分ご理解いただけるので
はないかと思います。
次のAとBを比較願います。
A 例えば共謀罪のような悪法が提案された時、弁護士や私たち刑法学者は「こ
の法律案は不明確であり、拡大解釈の恐れがある」と言って批判します。その時
は、実際に<拡大解釈>して見せます。こんなにひどい法律だということをわか
りやすく示すためです。
B その悪法が国会を通過して、法律になってしまった時、弁護士や私たちは
「この法律は、憲法に従って、人権侵害のないように、限定的に解釈するべきで
ある」と主張します。その時は、実際に<拡大解釈>を批判して、<限定解釈>
して見せます。不当な人権侵害を抑止するためです。
同じ人間がAとBを使い分けています。しかし、これは単なる矛盾ではありませ
ん。そのように解釈しないと、人権侵害がまかり通ってしまいます。おそらく、
東本さんも、同じようにAとBの使い分けをされてきたのではないでしょうか。
同じ一つの条文でも、解釈主体が持っている問題意識によって、まったく異なる
解釈を施すことがあるのです。
今回の弁護士たちの申し立てにおける解釈は、このAとよく似ているのです。
C 在特会の発言や行動は、刑法(騒乱罪、脅迫罪、侮辱罪など)に当たる可能
性があると、彼らの行為の悪質性、被害の重大さを示すために、刑法を<拡大解
釈>して見せているのです。こんなにひどいことをしているんだと示すためです。
しかし、刑法学の圧倒的多数説も、裁判所の解釈も、一部の例外を除いて、<拡
大解釈>を採用していません(「一部の例外」と書いたように、不当な拡大解釈
をする場合もあります。たとえば、公務員の政治活動を弾圧する場合)。裁判所
でさえ、建前上も、そして実際に多くの場合に、<限定解釈>を採用しています。
実務が<限定解釈>を採用しているのに、わざわざ<拡大解釈>をして、しかも
東本さんのように捜査機関への告訴告発を呼びかけるのは、刑法解釈としては間
違いという以外にありません。
弁護士たちの申し立ては、そのことをわかっていながらやっていることでしょう。
何よりもまず彼らの蛮行を止めなければならないという思いから、彼らがやって
いることはこんなにひどいことなのだと理解をしてもらうために、あえて<拡大
解釈>をして、騒乱罪や脅迫罪を持ち出しているものと思います。
----- Original Message -----
> 前田さん
>
> 「ですから、人種差別禁止法とヘイト・クライム法が必要なのです」という結
論に到るご説明はよく理解できましたし、前田さんの
> 法律解釈も抽象レベルではそのとおりなのでしょう。しかし、なにか釈然とし
ませんね。前田さんの法律解釈論では、私たちは、
> これほどの「憎悪」をむき出しにした文字どおり「犯罪」と呼ぶほかない排撃
的な言語暴力としての朝鮮人・韓国人差別を目の
> 前にしてもなんら為す術もなくただ拱手傍観して立ち竦むほかないということ
にならざるをえないからです。どう考えても理不尽
> です。
>
> 私が先に紹介した弁護士有志12人が物した「人権救済申立書」中の「『よい
朝鮮人も悪い朝鮮人も、みんな殺せ』(甲6)『韓
> 国≠悪、韓国=敵 よって殺せ』(甲7)『朝鮮人、頸つれ、毒飲め、飛び降
りろ』(甲8)以上のような発言及びプラカードは、明ら
> かに常軌を逸しており、とりわけ、大量殺人の煽動は刑法の騒乱罪(刑法10
6条)、営業妨害は威力業務妨害罪(234条)、
> 歩行者や店員に対して向けられた発言は、脅迫罪(刑法222条)、侮辱罪
(231条を構成する」という文言は、同じく弁護士有
> 志の「声明」中の「5 また、上記の集団行進や周辺への宣伝活動において一
般刑罰法規に明白に違反する犯罪行為を現認
> 確認したときは、当該実行行為者を特定したうえ、当該行為者と背後にある者
に対して、その責任追及のためのあらゆる法的
> 手段に及ぶことを言明する」という決意の言葉とセットになっている言説であ
ろうと思います。
>
> すなわち、前者の文と後者の文は一対の関係にあって、前者の文によって犯罪
の一般的な該当用件を示した上で、その具体
> 論を後者の文で示すという構成になっているように思います。「一般刑罰法規
に明白に違反する犯罪行為を現認確認したとき
> は、当該実行行為者を特定したうえ、当該行為者と背後にある者に対して、そ
の責任追及のためのあらゆる法的手段に及ぶ
> ことを言明する」、と。
>
> その弁護士有志の「犯罪」特定に到る(到ろうとする)論理構成を「はい。間
違いです」と一蹴するのはそれこそ「間違い」という
> べきではないでしょうか。同じことの繰り返しになりますが、前田さんの論で
は私たちは「ヘイトクライム法」が成立するまでは拱
> 手傍観するほかないということにならざるをえないのです。
>
>
>
> 東本高志@大分
> higashimoto.takashi at khaki.plala.or.jp
> http://mizukith.blog91.fc2.com/
>
> ━━━━━━━━━━━━Original Message Started━━━━━━━━━━━━
> From: maeda at zokei.ac.jp
> Sent: Saturday, April 06, 2013 10:42 PM
> To: 市民のML
> Subject: [CML 023542] Re: 人間として「アンチ朝鮮人デモ」をもはや等閑視
することは許されない!!
> 前田 朗です。
> 4月6日
>
> 東本さん
>
> はい。間違いです。
>
> 第1に、性質の異なる犯罪類型を次々と列挙している点で、理解に苦しみます。
> 社会的法益も個人的法益もごっちゃになっています。
>
> 第2に、騒乱罪について言えば、大須事件、吹田事件、メーデー事件から新宿
騒
> 乱事件に至る判例を知っていれば、このような書きかたができないことは、す
ぐ
> にわかることです。刑法理論をご存じない東本さんに説明するのはなかなか難
し
> いのですが、刑法総論や刑法各論の教科書をご覧になれば、「危険犯(抽象的
危
> 険犯、具体的危険犯)」という概念で説明されていますので、ぜひご覧になっ
て
> ください。
>
> もし、東本さんの主張をいったん認めてしまえば、労働争議で団交要求のため
に、
> 無責任に逃げ回る社長宅前に行ってシュプレヒコールをあげることができなく
な
> ります。
>
> なお、「殺人の教唆(煽動)」にもあたりません。個人に対する殺人の教唆
(煽
> 動)ではないので、被害者を特定できないためです。
>
> 他方、国際刑法では「ジェノサイドの煽動」が犯罪です。しかし、日本にはジ
ェ
> ノサイドの罪がありません。仮にあったとしても、本件で「ジェノサイドの煽
動」
> が成立すると考える法律家はいないでしょう。具体的危険性の概念が問題にな
り
> ます。
>
> 第3に、威力業務妨害罪について言えば、個人又は法人が被害者になりえます。
> 京都朝鮮学校事件で在特会メンバーが有罪になったのは、学校の前で大騒ぎし
て
> 授業を妨害したからです。被害者は京都朝鮮学校です。「犯行者の認識におけ
る
> 攻撃対象」と「実際の被害者」とが一致しています。一致がなければ、立件は
困
> 難でしょう。
>
> 第4に、「通りかかった歩行者に対する脅迫罪」などということは、法律家な
ら
> 考え付きません。政治論として主張しているに過ぎないでしょう。脅迫罪は、
暴
> 行罪と並んで議論されます。刑法各論の教科書をご覧になれば、「暴行・脅迫
の
> 概念」という項目があります。4つの概念が区別されていますので、ぜひご覧
に
> なって勉強してください。4つのうちどの概念に相当するのかを考えることが
重
> 要です。法学部の2年生なら何度も読んで勉強している話です。なお、「通り
か
> かった歩行者が抗議してきて、その歩行者に対して直接脅迫がなされた場合」
は
> 話が別です。
>
> 第5に、侮辱罪について言えば、京都朝鮮学校事件で在特会のメンバーは侮辱
罪
> で有罪になっています。朝鮮学校の「法人」が被害者です。朝鮮学校の前で
「朝
> 鮮学校はスパイ学校」と叫んだから、被害者を特定できたのです。鶴橋で「朝
鮮
> 人を殺せ」と叫んだ場合は、被害者を特定できません。歩行者や店員が被害者
と
> いう解釈を認めてしまえば、恐るべき事態になります。
>
> 何度も繰り返して恐縮ですが、刑法総論と刑法各論の教科書をぜひ一度ご覧に
な
> ってください。
>
> 東本さんが引用されている申立書は「運動」(被害者救済、被害拡大防止)と
い
> う意味でとても重要なもので、私もあちこちに転送して宣伝しています。弁護
士
> 12人のうち11人は直接知り合いで、かねてから尊敬する弁護士たちです。
>
> しかし、そこに書かれている刑法解釈は、刑法学者にも検察官や裁判官にもち
ょ
> っと通用しません。書かれているのは、何とかして被害を食い止めたい思いで、
> 使える法律はないかと次々と並べてみたというものです。被疑者、被害者、被
害
> 事実の特定がなされていませんし、まして犯罪成立要件の検討もなされていま
せ
> ん。
>
> ロート製薬事件では直接の被害者に対する強要罪が成立しました。京都朝鮮学
校
> 事件では、威力業務妨害罪、器物損壊罪、侮辱罪が成立しました(現在、民事
訴
> 訟が続いています。私は弁護団の要請で、裁判所に出す意見書を書いていると
こ
> ろです)。水平社博物館差別街宣事件では、立件されませんでした(民事訴訟
で
> 水平社博物館が勝訴しましたが)。その意味で、何か使える刑法の条文はない
か
> と探すことは必要ですが、犯罪成立要件を満たしているかどうかきちんと検討
す
> るべきです。
>
> また、在特会の桜井誠こと高田誠会長はずっと以前から、何十回と「朝鮮人を
殺
> せ」「朝鮮人を海に叩き込め」と叫び続けています。これが日本では犯罪にな
ら
> ないと知って叫んできたのです。何も最近になって始まったことではありませ
ん。
>
> 残念ながら、こういう人物を刑務所に入れることがなかなかできません。京都
朝
> 鮮学校事件の被告人の一人は有罪で執行猶予中に水平社博物館事件を引き起こ
し
> たので、実刑で刑務所に入れるチャンスだったのですが、奈良県警、奈良地検
が
> 動きませんでした。
>
> ですから、人種差別禁止法とヘイト・クライム法が必要なのです。
>
> もっとも、私は法制定を主張していますが、この間の、朝日新聞、毎日新聞、
東
> 京新聞の記事をご覧になれば、「法規制よりも表現の自由を」という主張が並
ん
> でいます。「表現の自由」のはき違えも甚だしいのです。
>
> ではまた。
> ━━━━━━━━━━━━Original Message The end━━━━━━━━━━━━
>
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