[CML 020079] 「孫崎享『戦後史の正体』にかぶれる読者の見識を疑う」 ――古寺多見氏の孫崎氏批判は正論だと私は思う

higashimoto takashi higashimoto.takashi at khaki.plala.or.jp
2012年 9月 27日 (木) 21:16:17 JST


古寺多見氏の孫崎氏批判は次のようなものです。一部に情緒過多(通俗を批判する自らがその通俗の言葉の発する負のナルシスに
十分に反省的ではない、ということです)のスラング風の言葉遣いがあって、その点に難点を感じるところがあるものの、有馬哲夫『原
発と原爆「日・米・英」核武装の暗闘』と対比的に孫崎氏批判を述べる論の中身は正論だと私は思いますし、その論からも当然導き出
されることになるわけですが、古寺多見氏の政治の現状に対する認識(★)にも私はおおいに共感します。

★孫崎氏の論の一番の問題点は、彼が日本の「対米追従」からの脱皮をその論の中核的課題として措きながら、その「対米追従」を
推し進めてきた当の政党(主に自民党)の領袖(すべてではないにしても)を「対米自立派」として位置づけし(その根拠とするところも
一面的、すなわち彼の主観を超えるものではありません)、評価していることです(たとえば右記論攷参照。 http://akb.cx/I70 )。彼の
政治の現状への関わり方を見ても、その「対米追従」の姿勢において多くの識者からしばしば「第2自民党」と酷評される民主党を評
価し(たとえば下記に紹介している「2012/07/24 政権公約を実現する会(鳩山グループ)勉強会 講師 孫崎享氏」の講演ビデオの冒頭
部分参照)、なかんずく決して「対米自立派」とは言えない小沢一郎氏を「対米自立派」と位置づけ、評価していることからも彼の「対米
追従」からの脱皮の主張(それがほんものの「対米追従」からの脱皮の主張だとして)と彼の実際の行動との間には大きな矛盾と破綻
があることは明らかです(小沢氏が「対米自立派」の人では決してありえないということはたとえば私の右記の論などを参照。
http://akb.cx/570 )。同じ外務省出身者でやはり日本の「対米従属」の姿勢を問題視する浅井基文さんの「民主党評価」などとは180
度の違いがあります(たとえば浅井基文さんの右記の論攷の一節<「第二自民党政権」である民主党政権>などを参照。
http://akb.cx/870 )。

先に私は「孫崎享『戦後史の正体』をオーソドックスに読み解くひとつの書評――『過剰に大きな星条旗―孫崎享『戦後史の正体』を読
む』」(弊ブログ 2012.08.23)をご紹介しましたが、その孫崎享『戦後史の正体』批判第2弾のご紹介ということになります。
http://mizukith.blog91.fc2.com/blog-entry-459.html

なお、孫崎享氏の『戦後史の正体』の序章と第一章(100頁)は下記で読むことができます。
http://www.sogensha.co.jp/pdf/preview_sengoshi_ust.pdf

私は孫崎享『戦後史の正体』は古寺多見さんと一緒で「駄本」だと思っていますので、買ってまで「読むつもりは全く」ありません(「きま
ぐれな日々」2012.08.20付)。これも先にご紹介している下記の孫崎享氏の講演ビデオ(「2012/07/24 政権公約を実現する会(鳩山グ
ループ)勉強会 講師 孫崎享氏」)を観れば十分です。
http://iwj.co.jp/wj/open/archives/24018
、
以下、古寺多見氏の孫崎享『戦後史の正体』批判の文。

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■「キッシンジャーの『寵児』」だった大の親米政治家・田中角栄はなぜロッキード事件で失脚したか(kojitakenの日記 2012-09-25)
http://d.hatena.ne.jp/kojitaken/20120925/1348585088

昨今は、孫崎享のトンデモ本『戦後史の正体』によって、歴代の総理大臣を「自主派」と「対米追随派」に分類し、前者に高い評価
を与えて後者をこき下ろすという粗雑なステレオタイプ的歴史観が蔓延している。孫崎本の歴史観は噴飯ものの一語に尽きる。何
度も書くけれども、そんな孫崎のバカ本にかぶれる読者の見識を疑う。

そんな人たちに読んでもらいたいのがこの本。

原発と原爆 「日・米・英」核武装の暗闘 (文春新書)
http://www.amazon.co.jp/dp/4166608738/?tag=hatena_st1-22&ascsubtag=d-bqbu

作者: 有馬哲夫
出版社/メーカー: 文藝春秋
発売日: 2012/08/20

著者の有馬哲夫は、孫崎享と同様「保守」の人だと思うが*1、孫崎のステレオタイプ的な歴史観とは大違いで、資料に当たって
歴史的事実を浮き彫りにしていく研究者である。

たとえば、孫崎享が称揚する岸信介が、「日本が戦術核を保有(さらには使用)することは違憲でない」と述べたことは、岸信介の
孫にして明日自民党総裁に返り咲くであろう安倍晋三が2002年5月13日に早稲田大学における講演会で述べたことによって最近
でもよく知られているが、岸は現実にアメリカとの外交において、この「核カード」でアメリカと交渉した。この本のタイトルが示して
いるように、原発を持つことは核兵器を作る能力を持つことを意味する。

著者は、「日本はアメリカの陰謀で原子力発電を導入し、そのアメリカ製の原子炉に欠陥があったために、爆発事故と放射能漏
れが起きた」という「陰謀論」を厳しく批判する。現実にはアメリカは日本に核兵器製造能力を持たせまいとしたから、正力松太郎
はそれに対抗する意味でイギリスの原子炉を導入したのである。正力松太郎と岸信介がともに夢見たのは日本の核武装だった。
その意味で、岸信介は確かにアメリカの言いなりになるのをよしとしない「自主派」の保守(というより右翼)政治家だった。なにし
ろ、単なる軍備増強にとどまらず、核武装まで視野に入れていたのだから。

さらに著者は「田中角栄は独自のエネルギー政策(ウラン供給源の多様化)を進めようとしてとしてアメリカの虎の尾を踏み、CIA
に失脚させられた」という俗説にも厳しい批判を加える。事実は、田中のエネルギー政策はアメリカの「言いなり」だった。著者は
田中のエネルギー政策は田中の創作ではなく、官僚が時間をかけて研究して用意したものを実行したに過ぎないと指摘する*2。

そもそもニクソン政権の国務長官だったキッシンジャーは、孫崎享が「自主派」に分類した、日本の立場を強く主張するタイプの
福田赳夫*3よりもアメリカの言うことをよく聞く田中角栄を好み、「ポスト佐藤」の自民党総裁選(1972年)では田中の勝利を望ん
だとのことだ。

ロッキード事件にしても、1972年当時懸案だった日米貿易不均衡是正において、日本がアメリカの航空機を買わされたことに端
を発しているが、この時の交渉で首相・田中角栄と通産相・中曽根康弘がアメリカから購入する品目として最重視したのは濃縮
ウランであり、次いで自衛隊の武器の購入だった。航空機の優先順位はそれらよりも下だった。

この日米貿易不均衡是正のための日米協議で、田中と中曽根はアメリカに言われるまま、濃縮ウラン、エアバス、武器と輸入品
目と金額を次々と積み増していったというが*4、著者はそれを田中内閣の懸案だった日中国交回復を成し遂げるための障害と
ならないよう、アメリカをなだめる必要があったためではないかと推測しているようだ。 


著者は、この日米協議でアメリカから購入させられた品目のうち、田中がもっとも乗り気でなかった航空機の購入をめぐって田中
が収賄事件を起こしてしまったとする。よくある「田中角栄は『自主派』だったためにアメリカの怒りを買ってロッキード事件で陥れ
られた」という「陰謀論」には根拠など全くなく、事実は田中がアメリカの言いなりになった航空機の購入で田中は汚職事件で自滅
したのだった。著者は、必死にアメリカの機嫌をとろうとしていたものわかりのよい彼ら(田中角栄と中曽根康弘)をアメリカ側が
失脚させようと思うだろうか、と痛烈な皮肉を放っている*5。孫崎享は田中角栄を「対米追随派」に分類し直すべきではなかろうか
(笑)

なお、1970年代の日本で「ロッキード事件はアメリカの陰謀」などというトンデモ言説を開陳したのは、近年稲田朋美の応援団長
を買って出、今行われている自民党総裁選では安倍晋三を応援している極右の渡部昇一くらいのものだった。そんなトンデモ陰
謀論を、今では少なからぬ「リベラル・左派」が信奉している。嘆かわしい限りだ。

重ねて書くが、このような悪しき風潮を助長する、現在では「小沢信者」に成り果てた老元外交官・孫崎享に「洗脳」されてしまった
人には、是非この本の一読をおすすめする。

最後に書いておくと、正力松太郎と並んで日本に原発を導入した張本人である中曽根康弘を通産相に任命したのは田中角栄で
ある。あの「電源三法」は、田中曽根(第2次田中内閣)時代の1974年に制定された世紀の悪法であることはいうまでもない。そう
そう、すっかりごぶさたになったスローガンを復唱しておこう。

*1:この本を読めばわかるが、有馬哲夫は原発を決して否定していないし、日本の核武装についても態度を保留している。

*2:同様のことは小沢一郎についてもいえ、『日本改造計画』で小沢が打ち出した新自由主義的な諸政策は、小沢のブレーンだ
った官僚が作ったものだといわれている。もちろんそんなことはこの本には書かれていないが。

*3:有馬哲夫も福田赳夫に対して同様の評価を下している。「自主派」とは保守のタカ派政治家を表す言葉ともいえるだろう。

*4:1990年の日米構造協議における小沢一郎のアメリカへの徹底的な譲歩を思い出させる。小沢は師の角栄に倣ったのだろう
か。

*5:本書176頁
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東本高志@大分
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