[CML 020644] 朝日新聞「孫崎享『戦後史の正体』書評」(9月30日付)訂正事件雑感

higashimoto takashi higashimoto.takashi at khaki.plala.or.jp
2012年 10月 25日 (木) 23:36:00 JST


私もその著書の大の批判者のひとりである『戦後史の正体』(注1)は孫崎享氏著者自らの解説によれば「発刊2月にして二〇万部
の増刷」(注2)になるほど売れているそうです。しかし先日、共同通信が地方紙各紙に配信した岡留安則氏(元『噂の眞相』編集長)
の同著書評(同氏の書評は次のようなもののようです。「これこそ、歴史の正体を暴いた新しい『日本戦後史』教科書であり、同時に
消費税増税、原発再稼働、オスプレイ配備、TPPに至るすべての謎が解ける絶好の文献といえる一冊である」(注3)。「絶賛」といっ
てよいでしょう。『噂の眞相』時代からの「タブーなきジャーナリスト」を自称するこの人物の見る目のなさ、あるいは「読む」目のなさ、
あるいは世間に伝説されている彼の「思想性」なるものの無根拠、あるいは暗愚性、あるいは虚仮威し、を物語っている一文という
べきでしょう。注4)など一、二の例外を除けば概して大手紙メディアからは「完全に無視」(注2)されているようです。

しかし、大手紙メディアから「完全に無視」されているのはおそらく孫崎氏が上述ツイッタ―で憤っているような理由からではないでし
ょう。 北大教授の山口二郎氏がツイッタ―で『戦後史の正体』について「孫崎さんの本はおおざっぱな断定があると思う。陰謀論と
科学主義の中間的リアリズムの言説を提供するのが政治学者の仕事だと痛感した次第」と中庸の徳なる精神でもって(すなわち、
中途半端にということですが)批判していますが、大手紙メディア(の書評欄担当記者)も山口氏とほぼ同様の判断から書評以前の
著作とみなしていた、というのが実情だったでしょう(このあたりの私の判断は「kojitakenの日記」の情報によるところが大です)。
https://twitter.com/QooAta/status/249510056658341888

そういう中でもう1か月前のことになりますが、朝日新聞が9月30日付けの「売れてる本」という書評欄に「自立への一助にできるか」
という佐々木俊尚氏(ジャーナリスト)の『戦後史の正体』評を掲載しました(注5)。朝日の「売れてる本」欄というのは『Valdegamas
侯日常』ブログの筆者によれば「イキのいい評論家やライターの類に書店に平積みされるベストセラーを読ませては酷評させ、亜イ
ンテリの溜飲を下げせしめるという中々趣味の悪い欄」(注6)らしいのですが、たしかに佐々木氏の『戦後史の正体』評は酷評その
ものでした。同書評の書き出しは次のようなものでした。

    「ロッキード事件から郵政民営化、TPPまで、すべては米国の陰謀だったという本。米が気にいらなかった指導者はすべて検
    察によって摘発され、失脚してきたのだという。著者の元外務省国際情報局長という立派な肩書きも後押ししているのか、た
    いへん売れている。しかし本書は典型的な謀略史観でしかない」。
    http://toracyan53.blog60.fc2.com/blog-entry-3083.html


標題の「朝日新聞『孫崎享『戦後史の正体』書評』訂正事件」とはこの佐々木氏の酷評に著者の孫崎氏が噛みつき、朝日がその孫
崎氏の抗議を受け容れ、訂正記事を出したことを指します(注5)。孫崎氏の抗議は次のようなものでした。

    「戦後史の正体・朝日新聞書評:30日朝日新聞が「戦後史の正体」の書評を出した。目を疑う位低レベルの書評だ。朝日新
    聞は「この書評は適切でなかった」とお詫びの文書を掲載すべきだ。余りに馬鹿馬鹿しいから、全体を論ずることなく、最初
    の数行をみてみたい。冒頭「ロッキード事件から郵政民営化、」
    https://twitter.com/magosaki_ukeru/status/252197854033113088

上記の孫崎氏の抗議文だけではその抗議の内容がいまいち掴みきれないので孫崎氏を擁護する立場から佐々木氏の『戦後史の
正体』評を批判する郷原信郎氏の「孫崎亨著『戦後史の正体』への朝日書評の不可解」という論を下記に援用してみます。郷原氏
は佐々木氏の書評を次のように批判しています。

    「孫崎氏自身もツイッターで批判しているように、同書では、「米が気に入らなかった指導者はすべて検察によって摘発され、
    失脚してきた」などとは書いていない。同書が取り上げている、アメリカの意図によるとする検察による政界捜査は、昭電疑
    獄とロッキード事件だけであり、検察問題を専門にしている私にとっても、従来から指摘されている範囲を出ておらず、特に
    目新しいものではない。」
    http://akb.cx/L30

要するに郷原氏は、孫崎氏は「米が気に入らなかった指導者は『すべて』検察によって摘発され、失脚してきた」などとは書いてい
ない」。それを佐々木氏は「『すべて』は米国の陰謀だった」「米が気にいらなかった指導者は『すべて』検察によって摘発され、失
脚してきた」などと書いている。佐々木氏の書評はウソの論で成り立っている、と佐々木氏の書評を批判しているわけです。

この郷原氏の指摘は正しい、と私も思います。佐々木氏の書評がウソ、あるいは誇張の論で成り立っているのであれば、同書評
の著者の佐々木氏も同書評を掲載した朝日新聞もその不明を詫びて謝罪するのは当然だろうと私は思います。この点について
「きまぐれな日々」ブログ主宰者の古寺多見氏は彼の第二ブログである「kojitakenの日記」で「ヘタレ朝日、橋下の次には孫崎享
のトンデモ本への酷評も訂正(呆)」「朝日は橋下徹に謝罪して恥をさらしたばかりなのに、今度は孫崎享にも屈服した。ヘタレにも
ほどがある」などと朝日新聞を批判していますが、私とは日頃政治認識を同じくすることの多い古寺多見氏ですが、私はこの古寺
氏の批判には与しません。今回の朝日新聞の孫崎氏に対する謝罪は真実を追求するべき言論人、あるいはメディアとして当然の
謝罪というべきものであるだろうと私は思います。
http://d.hatena.ne.jp/kojitaken/20121022/1350833136

とはいうものの、上記の郷原氏の指摘も一面的にすぎるところがあり、私は郷原氏の指摘にも賛成しません。郷原氏の指摘が一
面的にすぎるとは、『戦後史の正体』において孫崎氏はたしかに「米が気に入らなかった指導者は『すべて』検察によって摘発され、
失脚してきた」などとは書いていませんが、同書には佐々木氏のような読解を許す「ほのめかしのレトリック」(「Valdegamas侯日常」
ブログ)が同著の全編にわたって採用されているからです。そのレトリックを通じて孫崎氏は明らかに意図的な「アメリカ謀略」論を
展開しています。孫崎氏は謀略史観流布の責を免れることはできない、というのが私の決定的な判断です。ただし、この辺りの批
判は「Valdegamas侯日常」の「郷原・佐々木双方のある種の正しさ―孫崎享『戦後史の正体』を読む・補遺」の論に詳しいので、あと
は同論の説得的な主張の展開に譲りたいと思います。私のこれまでの論は単なる雑感にすぎません。
http://d.hatena.ne.jp/Donoso/20121007/1349577963

追記:
石原慎太郎が東京都知事を辞職して国政に再度進出するというニュースが大きく流れています。なにがこの石原慎太郎の増長を
許しているのか。また、許してきたのか。私は日本の「サヨク」と「左翼」の右傾化が大きくこのことと関係しているだろう、と嘆息、慨
歎していますが、孫崎享『戦後史の正体』出版の「サヨク」と「左翼」の歓迎事件はその日本の右方向への急激な斜傾化を端的かつ
強烈に示す格好の事例というべきものだろうと見ています。このことについては今後さらに論を深めていくつもりです。いや、深めて
いかなければならない、と思っています。


注1:
■孫崎享氏(元外務官僚・元防衛大学校教授)の新著『戦後史の正体』の小沢派評論家たちの「前評判」への違和感(弊ブログ 2012.07.08)
http://mizukith.blog91.fc2.com/blog-entry-444.html
■孫崎享『戦後史の正体』の対米自主・自立の〈正体〉について――孫崎享氏の『戦後史の正体』についての講演ビデオを観る―― (弊ブログ 2012.08.04)
http://mizukith.blog91.fc2.com/blog-entry-453.html
■古寺多見(kojitaken)氏の孫崎享『戦後史の正体』批判に共感する(弊ブログ
2012.08.23)
http://mizukith.blog91.fc2.com/blog-entry-458.html
■孫崎享『戦後史の正体』をオーソドックスに読み解くひとつの書評――「過剰に大きな星条旗―孫崎享『戦後史の正体』を読む」(弊ブログ 2012.08.23)
http://mizukith.blog91.fc2.com/blog-entry-459.html
■「孫崎享『戦後史の正体』にかぶれる読者の見識を疑う」 ――古寺多見氏の孫崎氏批判は正論だと私は思う(弊ブログ 2012.09.28)
http://mizukith.blog91.fc2.com/blog-entry-466.html
■「孫崎享『戦後史の正体』にかぶれる読者の見識を疑う」 ――古寺多見氏の孫崎氏批判は正論だと私は思う(2)(弊ブログ 2012.10.14)
http://mizukith.blog91.fc2.com/blog-entry-470.html
注2:孫崎享ツイッタ―(2012年10月20日付)
https://twitter.com/magosaki_ukeru/status/259781551519322112
注3:https://twitter.com/ekonoko/status/252201845819322369
注4:岡留安則氏については私は彼の思想性のお粗末さについて次のような批判記事を書いたことがあります。「ジャーナリスト? 岡留安則氏(「噂の
真相」元編集長)の軽口と喜納昌吉氏のこと ――喜納氏の県知事選出馬騒動とも関連して(弊ブログ 2010.10.16)
http://mizukith.blog91.fc2.com/blog-entry-81.html
注5:http://toracyan53.blog60.fc2.com/blog-entry-3083.html
注6:「郷原・佐々木双方のある種の正しさ―孫崎享『戦後史の正体』を読む・補遺」(Valdegamas侯日常 2012-10-07)
http://d.hatena.ne.jp/Donoso/20121007/1349577963


東本高志@大分
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