[CML 016870] Re: 芝田進午氏の復活−核時代第二期の芝田進午

櫻井 智志 sa104927 at yahoo.co.jp
2012年 5月 6日 (日) 14:30:35 JST


前田さん
 
櫻井智志です。
今回の貴兄の論考には、重要な事柄が見事な論点と研究史とが
まとめられて、大変参考となりました。とくに付け加えることがない
ほどです。
 
関連しての事柄のみ一点。
戦後に学生生活をおくった芝田氏は、雨後の竹の子のように次々
に巻き起こる左翼運動のなかで、最初は正統派共産主義思想を
吸収していました。
ある時期から、自分の頭で考える、自主的な思考を重視すること
に思い至りました。私は「大衆社会論争」がきっかけになっている
と思います。松下圭一氏らとの論争で幅広く論争は行われました。
政治的には六全協が、学問的には大衆社会論争が。
『人間性と人格の理論』では、武谷三男、宇野弘蔵、さらには黒田
寛一の名前さえ見あたります。まあ1960年前後の革マル派は
70年前後の内ゲバほどひどくはなかったでしょうが。
対象に関する招集しうるかぎりの資料を集めて、自分の見解と対立
する相手の論文にも虚心坦懐にたちむかっています。
芝田学とも言えそうな学問論について、中途ですが、いったん区切
ります。
ありがとうございました。

--- On Sun, 2012/5/6, Maeda Akira <maeda at zokei.ac.jp> wrote:



前田 朗です。

5月6日

櫻井さん

ご教示ありがとうございます。

近現代における人権思想の発展の複雑な過程は、なかなか一筋縄ではいきませ
ん。自由権を基軸にする立場と、社 会権を基軸にする立場は、未だに対立して
います。両者を総合止揚しようとする立場も、現実世界では頓挫したままです。
先に書いた個人の権 利と団体の権利でも、平和への権利にアメリカ政府が頑強
に反対しているのは、やはり人権は個人のものでなければならないという断乎た
る思 想ゆえです。人民の自決権、発展の権利、環境権などが認められてきてい
るのに。

国際人権法についても、日本では「欧米中心主義だ」などと非難する人々が未
だに多数います。世界人権宣言草案原案をつくったのは、アメリカのハンフ
リー、中華民国のチャン、レバノンのマリクの3人だということさ え、法律家
でも知っている人は1%もいません。世界人権宣言の国連での審議も、中国(台
湾)、ソ連、ウクライナ、サウジアラビア、南アフ リカ、ホンジュラス、イエ
メンなどが加わっています。日本は「国連の敵」ですから、加わっていないし、
まったく情報がありません。世界人 権宣言に関する30年前の日本の研究書を
見ると、今から考えると相当稚拙な間違いを犯していたりします。情報不足の故
です。今はイン ターネットで国連人権機関の情報にアクセスできますから、随
分と様変わりしました。

人権思想や平和思想の大きな流れの中で、現実をどのように位置づけて理解する
のか、とても難しいと言うか、全 体の文脈を踏まえることができないのが一般
的です。芝田さんの「にんじんの理論」が画期的だったのは、歴史と理論、現実
と理念、特殊と普 遍等々といった当時でさえすでに手あかが付き始めたカテゴ
リーを、「人・人」という局面で全面的に再構成して手あかをきれいに落としな
が ら、思考の将来展望を切り開いたからです。

その後、芝田理論に匹敵するような人権論を思想の分野で送り出した人がいるで
しょうか。たぶん、いないでしょ う。個別の論文で優れたものはあるでしょう
が。今村仁司さんのように労働論、人間論、身体論をさまざまに展開した方で
も、人権体系論には 踏み込まなかったように思います。グローバリゼーション
のもと世界大での人間切り捨て、労働者切り捨て、アフガンやイラクの戦争、ア
フリ カ深奥部におけるジェノサイド、「中東革命」などの現実を前に、時代の
先を見据えた人権体系論が必要なのですが。

青木書店にはお世話になっています。5冊出してもらいました。法律分野では
青木から本を出すのはあまり多くありません。歴史や哲学が中心ですから。私は
たまたま縁があって『戦争犯罪論』を出してもらい、以後、お 付き合いが続い
ています。もっとも、青木書店から出したために、私の本の多くが法律文献目録
に掲載されず、困っていました。毎回、自分で 宣伝しておかないと忘れられて
しまいます。数年前、刑法学会の場で久しぶりに会った同窓の先輩から「君は最
近全然勉強してないね」と言わ れてしまいました。彼らは5〜10年に1冊、
他方、私は毎年1冊出版しているのに(苦笑)。



> 前田様
>  
> 丁寧な返信をありがとうございます。櫻井智志です。
> 泊原発、11時3分に止まりました。よかったですね。
> これで全て解決でないとしても、重要な一歩です。
> このために、多くの市民運動、住民運動の人々が
> 努力した成果ですよね。
>  
> 私は前田さんのような大学人でないので、学問的に
> 詳細なことはわからないのですが、私にもわかるよう
> に書いてくださり、お礼申しあげます。
>  
> 芝田先生のセミナーのなかで土曜セミナーとよばれる
> 土曜夜に大きなビルを使ったセミナーがありました。
> そこに沼田稲次{z氏がゲスト講師として来られました。
> 印象的だったのは、国連人権規約A条約とB条約に
> ついて話されたことです。
>  
> 芝田さんは、労働と実践を重視して学問を研究されま
> した。労働過程は、組織的過程と技術的過程の統一
> としてとらえ、そこから生産様式の概念を再構成して
> いかれました。労働は同時に生きることを前提として
> おり、さきほどの図式でも根底に「生きる権利」を据え
> て、労働権、生存権から体系化していると思います。
> 間違っていたら御教示ください、びしびしと。(^^;)
> 芝田さんは大月文庫からアメリカ合「州」国の独立
> 革命を重視して、『生きる権利』を出しています。
> そこには、学生時代以来の交流の厚かったアリス
> ・ハーズ夫人の抗議の焼身自死の衝撃も大きかっ
> たのですが、学問的に労働、生存を深く対象化して
> いたことと、アメリカの独立宣言やキング牧師、ジョ
> ン・サマヴィル、アリス・ハーズなどの思想をフランス
> 革命、アメリカ独立革命としてとらえる欧米人権思想
> の根底を流れる思想の脈絡でとらえていたようです。
>  
> その延長上で、沼田稲次郎氏と同様に、国連人権規
> 約など世界人権宣言などのマニフェストを重視されて
> いました。
> 前田さんの学問の方向性と芝田さんの方向性は、
> 私見では、違う方向ではないと考えます。
>  
> なお、前田さんのご著作はここのMLで存じ上げて
> おりました。なかなか現代的な斬新な構成感じまし
> た。ご指摘のように、青木書店には、私も親近感が
> あります。
> 1971年から1980年にかけて青木書店は、季刊雑
> 誌「現代と思想」を出版されました。読者投稿欄に
> 三度ほど掲載させていただいたので、当時学生でし
> たが、神田の編集部を訪ねて当時の江口十四一
> 編集長にあいさつに行きました。江口さんは、古在
> 由重氏が御逝去された時に、九段会館で「偲ぶ集い」
> が挙行された時に、岩波書店の当時の社長緑川亨
> 氏や同時代社の川上徹氏らとともに実行委員のお
> 一人でもあったかと思います。
>  
> 長丁舌となりましたので、ここらで休みます。
> どうもありがとうございました。
>



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