[CML 015526] グランサコネ通信―120306

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2012年 3月 6日 (火) 22:11:19 JST


前田 朗です。
3月 6日

グランサコネ通信―120306


1)	HRC国連人権理事会

5日の午前中は、先週金曜日の人権高等弁務官事務所の報告書の審議の残りを済
ませて、拷問問題報告書、人権擁護者報告書をめぐる議論に入りました。

フアン・メンデス拷問問題特別報告者の報告書は、チュニジア、キルギスタン訪
問調査報告書、各国拷問情報一覧などです。各国拷問情報一覧は、なんと590
頁。とうてい読めません。テオ・ファン・ボーベン報告者の時には100ページ
くらいだったかと思いますが、その後どんどん厚くなり、ついに590頁。数十
か国の情報が掲載されていますが、日本は取り上げられていません。メインの報
告書は、国内の拷問調査委員会の設置についてです。国際的には拷問等禁止条約
および選択議定書に基づいて委員会が設置されますが、それとは別に各国が拷問
の訴えをもちに調査する委員会を設置するべきだというものです。イスタンブー
ル・プロトコルで指摘されてきたことですが、具体的にどのような委員会とする
べきかの議論がなされてこなかったので、メンデス報告書で取り上げています。
その内容は、救援連絡センターの機関紙「救援」4月号で紹介する予定です。

つぎにマーガレット・セカッギャ人権擁護者特別報告者の報告。ジャーナリスト、
環境問題活動家、学生などの人権状況を取り上げて、71か国から234件の通
報があった、ジャーナリストが殺される事件が増えている、インドを訪問調査し
た、などの報告。

討論の中で、あるNGO男性メンバーが、議長に「マダム議長」と呼びかけて発
言しました。その時は男性副議長が進行を担当していました。たぶん、用意した
原稿に「マダム議長」と書いてあったのでしょう。今会期の正議長は女性のラウ
ラさん(ウルグアイ)だからです。みんな、クスクス笑っていましたが、この発
言が終わった時に、副議長が「ありがとう、マダム発言者」とお返ししたところ、
会場は笑いの渦。女性NGOメンバーは机をたたいて大笑いでした。

いくつかのMLで話題になっているように、フランスがマドモアゼルの使用をや
めたことが人権理事会でも話題になりましたので、みんな、敏感になっていると
ころです。そういう中で、副議長のユーモアが、爽やかな風となったわけです。
どこかの国の、一部のフェミニストなら「女性蔑視だ。許さない」とこぶしを握
り締めて騒ぐかもしれません。

午後途中から、失踪問題作業部会報告書、ハイナー・ビーレフェルト「宗教信念
の自由特別報告者」報告書のプレゼンテーションと審議に入りました。


2)	加藤典洋『3.11 死に神に突き飛ばされる』(岩波書店、2011年)

加藤典洋が脱原発に転向した、と話題になりましたが、その文章が1冊にまとめ
られました。結論は、原発はつなぎにとどめて、代替エネルギーに力を注ぎ、将
来的に原発廃止、というものです。特に核燃料サイクルについてはすぐに廃止、
です。核兵器問題や原発問題では吉本隆明に従ってきた著者ですが、福島原発事
故以後、自分なりの思索を深めて、吉本隆明から一歩距離を置くことになったよ
うです。

それにしてもストレートで明快な文章には驚きました。え、これが加藤さん?と
いう感じです。『敗戦後論』の頃は、とにかく何かひねり、ねじらせ、ずらすこ
とが自分の任務とばかりに、屁理屈がとぐろを巻いたような文章を書いていまし
たが、本書は違います。原発事故、放射能、子どもたちの被害をストレートに受
け止めて、それでは自分に何ができるのか、何を考えるべきなのかとまっとうな
問いを立て、理路整然と論述を進めています。

それでも原発維持をと唱える寺島実郎や立花隆への批判も見事です。よくある批
判のパターンも採用しつつ、そこにとどまらないのが著者です。特徴は、日本の
中で考えるべきことと、世界の中で考えるべきことを腑分けし、関連付けつつ、
論じていることです。おもしろいのは、アトムとゴジラの会話です。原爆被害を
受けたにもかかわらず原子力の平和利用に希望を託すアトムの物語と、ヒロシマ・
ナガサキ・ビキニの体験をもとに原爆の恐怖を体現するゴジラの物語の対比です。
戦後の被爆者運動が、なぜ原発反対に向かわず、原子力の平和利用に向かったの
かを解き明かす試みでもあります。この論点では、田中利幸論文を引き、田中さ
んに学びながら、さらに著者なりの観点で解釈をしています。

気になったのは、人道に対する罪について、従軍慰安婦問題では人道に対する罪
であるという国際的評価がなされ、2000年に女性国際戦犯法廷が開催され、
民衆法廷による責任追及がなされたにもかかわらず、原爆投下については、人道
に対する罪という国際的評価が定まっていないうえ、「右の例に見るようなどの
ような民衆法廷も、開かれて、米国の原爆投下を非難するとともに全核保有国の
核抑止政策を非難糾弾するというようなことは、行われていない」(175頁)
と断定していることです。著者が繰り返し引用している田中利幸さんが「原爆投
下を裁く国際民衆法廷」共同代表として、広島で民衆法廷を開催したのに。私も
証人として参加しました。

Chardonney La Nomade Geneve 2009.


3)カタール政府報告書(CERD/C/QAT/13-16. 13 September 2011)

 カタール憲法は二〇〇三年四月に人民投票で承認され、二〇〇五年六月に施行
されたそうです。憲法一八条が自由や平等を定めています。三四条は「平等の権
利と義務」を定め、三五条が法の下の平等と、性別、出身、言語、宗教による差
別からの保護を定めています。
 条約二条に関して、三五条に加えて、憲法五二条は、財産と人身の保護を定め
ています。ただし、「合法的に居住する者」の権利保障です。
 条約四条に関して、一九七九年の印刷出版法四七条は、社会に不和を引き起こ
したり、信仰、人種、宗教の争いを引き起こしそうな出版を、六月以下の刑事施
設収容又は三〇〇〇カタール・リヤルの罰金で、禁止しています。
 二〇〇四年の刑法二五六条は、啓示宗教を汚すこと、神や預言者(マホメット)
を侮辱すること、宗教施設を破壊することを犯罪としています。(1)イスラム・
シャリア法で保護された啓示宗教を汚すこと、(2)口頭、文書、画像、メッセ
ージその他の手段で預言者を侮辱すること、(3)啓示宗教の宗教儀式などに用
いられる建造物などを破壊すること、以上につき七月以下の刑事施設収容として
います。
 刑法二六三条は、イスラム教に対する侮辱を詳細に定めています。
 報告書は、カタール法は、イスラム教、キリスト教、ユダヤ教を差別していな
いとしています。宗教や預言者に対する侮辱の罪はイスラムだけでなく、キリス
ト教などにも成立します。
 報告書は以上のように述べていますが、これらは条約四条の要求する人種差別
煽動の禁止とは違って、実際はイスラム教の保護規定です。
 カタールには、条約二条にいう人種差別禁止法も、条約四条にいうヘイト・ク
ライム法もないようです。


4)セネガル政府報告書(CERD/C/SEN/16-18. 31 October 2011)

 報告書によると、二〇〇一年憲法は、人権尊重と、人種差別との闘いを掲げて
いるので、法律にも採用されています
 しかし、条約二条に関する記述がありません。条約一条に関する人種差別の定
義の記述のところで、一九八一年一二月一〇日の法律八一―七七号第三条が紹介
されています。「人種、皮膚の色、門地(世系)、国民的又は民族的出身に基づ
く区別、排除、制限又は優先であって、政治、経済、社会、文化その他の公的生
活領域において、人権と基本的自由の、平等の基礎での、認識、享受、行使を無
効にし、損なう目的又は効果を有するもの」。
 条約四条に関連して、一九七九年の民商法典が不法団体の結成を禁止していま
す。一九八一年法によって不法な政党も禁止。上記の一九八一年一二月一〇日の
法律で処罰規定が盛り込まれました。同法はプロパガンダの禁止も「その活動が、
人種、民族、宗教的差別と、差別の扇動を、全体として又は部分的に、目的とす
るもの」という形でこりこんでいます。
 刑法一六六条bis 「行政職員、司法職員、選挙で選ばれた公務員、公当局の
職員、又は国家公務員、国家・公的機関・国家団体・政府から財政援助を受けて
いる公私の団体の雇用者が、自然人又は法人に、正当な理由なしに、人種、民族
又は宗教的差別に基づいて、権利の行使を否定した場合、三月以上二年以下の刑
事施設収容及び一万以上二百万フラン以下の罰金に処す。」
 刑法二五六条bis 「次の者には、刑法五六条と同じ刑罰(一月以上二年以下
の刑事施設収容及び二五万以上三〇万フラン以下の罰金)を課す。人種的優越性
を主張し、人種的優越性又は人種的憎悪の感情を喚起し、又は人種、民族又は宗
教的差別を煽動する目的で、物又は映像、印刷物、文書、演説、ポスター、彫刻、
絵画、写真、フィルム又はスライド、写真カタログ、その複製、又は記章を、無
料であれ私的であれ、いかなる形態であれ、直接であれ間接であれ、投函し、展
示又は企画し、利用できるようにした者、又はいなかる方法であれ、配布し、又
は配布のために作出した者。」
 刑法二七七条は、これらの犯罪に用いられた物の没収を定める。
 刑法二八一条 「計画して、又は重罪の故意をもっと、又は人種、民族、宗教
的差別の動機で人を殺した場合、謀殺に分類される。」
 刑法二九五条、二九六条は傷害罪について同様に定めて、刑罰を加重している。
 セネガルには包括的な人種差別禁止法はないようですが、ヘイト・クライム法
があり、差別煽動を処罰しています。
 

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