[CML 015464] グランサコネ通信―120304

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2012年 3月 4日 (日) 22:17:30 JST


前田 朗です。
3月 4日

グランサコネ通信―120304

1)市川寛『検事失格』(毎日新聞社、2012年)

 「私はこうして冤罪をつくりました」「元“暴言検事”が実名告白。検察庁の内
部・教育体制を暴く。“冤罪加害者”による衝撃ノンフィクションが登場!」「机
の下から蹴るんだ。“特別公務員暴行陵虐罪”をやるんだよ」「割れ!立てろ!」
「やくざと外国人に人権はない!」――佐賀市農協背任事件の主任検事として、被
疑者に暴言を吐く不当取調べをしたことが発覚し、検事を辞職した著者によるノ
ンフィクションです。

徳島地検時代の経験を次のように書いています。
「この日、僕がやったのは取調べではない。署名を強要していただけだ。/ひた
すら署名をもぎとるためだけに、被疑者を怒鳴りつけ、なだめすかし、泣き落と
し、あるいは詐欺師まがいの嘘もついていたと思う。・・・・・僕はあくまで
『署名ぶんどり機』としてふるまっただけだった。・・・僕はとうとう、被疑者
が一言も話していないのに、勝手に作文を調書にし、署名をもぎとってしまった。
・・・僕はこうして被疑者をしとめたことでついに『検事』になった。検察庁が
求めるところの検事に改造されたのだ。」

ここから暴言・不祥事への道はまっすぐです。佐賀事件で不当取り調べをし、マ
スコミに騒がれ、被告人は無罪となり、2005年に辞職。現在は弁護士。被害
者にお詫びをし、公開シンポジウムなどにも身をさらして、自分の責任について
発言してきました。なお、実名告白とあるのは自分の実名です。佐賀地検のデタ
ラメ次席検事や検事正の実名は出していません。この2人の公文書偽造罪を暴露
しているのですが。

著者は、白門の後輩です。私が大学院の時期に同じ八王子キャンパスに通ってい
ます。どこかですれ違ったことでしょう。いや~~情けない後輩、と思いました
が、本書で、検事の人間関係や、取り調べの問題点など教えてくれました。大坪
弘道・元大阪地検特捜部長は私の先輩で、市川寛・元佐賀地検“特捜ごっこ”三席
検事は後輩です。どちらも情けない奴、と思いましたが、本当の問題は大坪・市
川ではなく、彼らを生み出し、そして切り捨てた検察庁そのものにあります。


2)人権理事会

3月1日朝にシリアの人権状況の決議。その後はハイレベル・セグメントといっ
て、各国の首相や外相の演説です。午後から障害者の権利のパネルになって、障
害者権利条約29条の政治的権利、特に選挙権をめぐる議論が行われました。ナ
ヴィ・ピレイ人権高等弁務官、ラウラ・ラサレ人権理事会議長、テレシア・デゲ
ナー障害者権利委員会報告者など、女性が仕切っていました。

3月2日朝は人権高等弁務官事務所の年次報告書をめぐる討論。ピレイ人権高等
弁務官の年次報告書の紹介の中で、死刑に触れたとき、中国、アメリカに続いて、
「日本では1年間執行がなかった」と発言していました。午後も人権高等弁務官
事務所作成の各種報告書の紹介と審議。マイノリティ、HIV、障害者、路上生
活の子ども、テロの被害者、発展の権利、平穏な抗議、性的志向とジェンダー・
アイデンティティ、拷問被害者基金、極貧、恣意的国籍剥奪、環境などの報告書
が出ています。


3)	パウル・クレー・センター

週末はベルンのパウル・クレー・センターに行ってきました。もう何度目になる
のか。10回くらいです。ベルン美術館時代に、何度もクレーを見に行きました
が、2005年でしたかクレー・センターができてから、年に2回くらいは通っ
ています。昨年前期には授業で「パウル・クレー」をやりました。ベルンの町と
クレー、クレーへの道、バウハウスのクレー、クレーの天使、クレーの指人形な
どさまざまな視点でクレーを取り上げました。昨年はちょうど日本で大規模なク
レー展「おわらないアトリエ」もありました。クレー作品の秘密を解き明かす、
ひじょうに専門的な展覧会が、しかし、一般にも人気でした。あれを見て、分か
った人がどれだけいたのやら。

3~4日は、パウル・クレー・センターで「デザイン・メッセ・ベルン」が開か
れていました。インテリア・家具・照明の展示で、スイスの14のデザイン会社・
事務所が出品・販売していました。いかにもスイスらしく、実用性、機能性重視
のデザインですが、とても素敵なものも。なかにはアイデア倒れじゃないかと思
うような照明もありました。家庭用の室内照明で、3つのライトが交錯し、光の
向きも交差するものですが、いったい何の意味があるのやら。

1階の大ホールは常設展示です。クレー作品が百数十点。とはいえ、ざっと3分
の1は入れ替わっていて、初めて見るものもいくつもありました。なにしろ、セ
ンターにはクレー作品が4000点も収蔵されていますから、いくらでも入れ替
えができます。うれしかったのは「LIVIATHAN」です。晩年の1939年、クレ
ーが膨大な作品を作り、かつ天使シリーズに力を入れていた時期に、LEVIATHAN
という作品を描いたことは知っていましたが、画集などにも掲載されていないの
で、今回初めて見ました。感動。解説も何もなかったので、なぜリヴァイアサン
なのか、わかりませんが、ナチスに追われて亡命し、その後、病魔に犯され苦し
み、時代が戦争に突入する中で、不安、恐怖を描いていたクレーは、一方で天使
シリーズを描きつつ、LEVIATHANです。美術史家よりも、思想家による論評を知
りたいところです。

地下のホールでは「Eiapopeia: The Child within Klee」という展示でした。家
族、子どもらしさ、子どもの肖像、愉しみ、恐怖などのキーワードごとにクレー
作品と、ルミエール制作の映像を展示していました。

3月10日から大ホールでは「Unheimlich: Hexen,Geister und Dämonen bei 
Paul Klee」展だそうです。う~ん、失敗、来週行けばよかった。また、10月
にはクレーの天使勢揃いの「天使展」のようです。史上初の全点勢揃いを狙って
いるようです。8月にしてほしかった。10月だと見に行けません。そういえば、
今回、天使シリーズが姿を消していました。どこかに貸出し中かも。もっとも、
指人形の「死神夫婦」は、並べて置いてありました。

読めもしないのに、フランス語とドイツ語の本を購入。
Alessandro Fonti, Paul Klee, Angeli 1913-1940, Franco Angeli, 2005.
Werner Vogt, Engel vom Stern, Toni Pongratz, 2010.
Boris Friedewald, Die Engel von Paul Klee, DuMont, 2012.
Tanikawa Shuntaro, Fels der Engel, Waldgut, 2008.
講談社から出た谷川俊太郎「クレーの天使」の翻訳です。日本語版は昨年の私の
授業でも使いました。


4)	CERDヨルダン政府報告書

人種差別撤廃委員会はヨルダン政府報告書(CERD/C/JOR/13-17. 21 September 
2011)の審査でした。ヨルダン報告書は13~17回で、13は本来1999年のはず
です。ところが、遅れに遅れた報告書であるにもかかわらず、わずか17ページの
スカスカ。大使は、プレゼンテーションの最後に、次回は締め切りに間に合わせ
ます、なんて言っていましたが。傍聴のNGOは6~7人。ヨルダンのNGOは
いません。ソンベリ委員が担当でしたが、あまり突っ込みません。NGOからの
情報がないためです。と思ったら、デグートもアミールもディアコヌもクリック
リーも、委員たちはみななぜか甘い発言。よくわかりませんが、中東で難民受け
入れに苦労しているヨルダンをいじめないことにしたのかも。何しろ、パレスチ
ナ、イラク、チェチェン、アルメニア、クルドの難民を受け入れているところに、
最近はシリア難民まで来ているのですから大変です。平等と非差別をヨルダン国
民に限っているのは、地理的歴史的条件があまりに大きいからです。

2006年6月15日の法律によって人種差別撤廃条約は国内法に統合されまし
た。

1952年憲法は、人種、言語、宗教による差別を禁止しています。平等規定も
ありますが、ヨルダン国民についてのものです。2002年に国立人権センター
が設立されました。しかし、総合的な人種差別禁止法はないようです。

条約4条について。刑法150条は、「異なる信仰集団や他の国民構成員の間に、
信仰や人種の対立を引き起こし、紛争を作り出す意図や効果をもって、著述、演
説または行動を行った場合、6月以上3年以下の刑事施設収容及び50ディナー
ル以下の罰金に処する」としています。

刑法130条は「戦時又は戦争が勃発しそうな時に、国民感情を弱体化させ、ま
たは人種又は信仰の対立を引き起こすためにプロパガンダを広めた者は、一定期
間の重労働の刑罰に処する」としています。戦時のもので平時ではありません。
また、国民感情の弱体化が主題であって、必ずしもヘイト・クライムに関連する
とは言えないかもしれません。

刑法80条は、煽動、参加、従犯などを定義しています。

団体禁止については、刑法151条が、150条に規定された基準で設立された
団体に所属した者に、同じ刑罰を科すとしています。当該団体は解散です。

オーディオヴィジュアル法20条は、放送におけるテロ、人種主義、宗教的不寛
容を禁止しています。印刷出版法7条は、ジャーナリストの行動規範を定めてい
ます。

刑法278条は、他人の宗教感情を害する印刷物の配布などを処罰しています。
刑法276条は、宗教儀式の妨害・攻撃を処罰します。刑法277条は、墓地や
宗教施設への攻撃を処罰します。刑法273条は、預言者や伝道師に対する侮辱
を犯罪としています。

ヨルダン法はヘイト・クライムと重なる面もないわけではありませんが、かなり
違う文脈で構成されています。


5)CERDトルクメニスタン政府報告書(CERD/C/TKM/6-7. 13 September 
2011)

 憲法18条の下で、権利と自由の不可分性、保障が定められ、憲法2条により、
人種差別を支援、擁護しないとし、憲法30条で、人種・民族主義政党を禁止し
ている。公共団体法、印刷その他メディア法、刑法などで差別を禁止しているが、
包括的な人種差別禁止法はない。
 刑法145条は、ジェンダー、人種、民族性、言語、出身、財産状態、公的地
位、出生地、宗教、信仰又は公共団体所属に基づいて権利や自由を侵害すること
を犯罪としている。刑法168条はジェノサイドの罪を定めている。
 条約4条について、刑法177条は、社会的、国民的、民族的又は宗教的憎悪
または敵意をあおり、民族の名誉を害し、宗教、社会的、国民的、民族的または
人種的背景に基づいて、市民に優越的地位や劣等性を帰するプロパガンダを行う
故意の行為について刑事責任を定めている。この規定は、異なる国民性、民族的
背景、または人種の市民の間に対立が生じて、暴力、身体的報復、その威嚇、財
産破壊、追放、隔離、権利制限などが起きるかもしれないことを想定している。
 憲法30条のもとで、戦争の唱導、人種的国民的宗教的憎悪の唱導は禁止され
ている。
 その他、人身売買の禁止やテロの犯罪化に言及している。


6)辻隆太朗『世界の陰謀論を読み解く――ユダヤ・フリーメーソン・イルミナテ
ィ』(講談社現代新書、2012年)

タイトルをみただけで、著者の「世界」が「欧米中心主義」であることが判明し
ますが、現代の陰謀論の中心がアメリカであることから、やむを得ないとされて
います。「陰謀論の中心がアメリカ」という以前に、「陰謀の中心がアメリカ」
なのですが、こういうと途端に「陰謀論」になってしまいかねません。そうした
難しさをきちんと自覚して、陰謀論に陥らないためにどうすればいいのかを本書
は教えてくれます。ユダヤ、フリーメーソン、イルミナティがそれぞれ区別され
ながらも、しばしばひとつながりにされて、陰謀論の世界がつくられていきます。
これまで知られているところをやや詳しく書いているといったレベルです。日本
では、オウム関連や、東日本大震災関連が引き合いに出され、フルフォードー、
コシミズ、太田竜なども登場。もっとも、アウシュヴィツ関連の日本を代表する
陰謀論者は登場しません。9.11陰謀論関連も一部だけ取り上げて、残りは無
視。中国や北朝鮮関連も触れられません。このあたりの取捨選択がよくわかりま
せん。著者が宗教学専攻なので、そちらにかかわるものに絞ったのかも。アメリ
カ中心に欧米の陰謀論を知るためには便利な一冊。日本や世界の陰謀論を知るた
めには役に立ちません。



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