[CML 015407] 言葉をつぶす人、言葉をつくる人(2)

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2012年 3月 2日 (金) 18:07:06 JST


前田 朗です。
3月2日

前便(池田さん、上田さん、萩谷さん宛)で、<第1>として書いたことの続き
です。

マドモアゼル、フロイライン、父兄などの言葉が消されていくのは、単にたまた
ま一つの言葉が消されていくことではなく、同様にいくつもの言葉が消されてい
く過程です。

PCが必要なことはもちろんあります。差別用語の扱いももっと議論されるべき
です。安直なPC、低級なPCには要注意です。言葉を消したり、安直に言い換
えることで問題が解決したなどと思わないことです。ヘイト・スピーチの場合は
差別的表現こそが問題ですが、通常の差別では差別的表現が真の問題なのではな
く、現実に存在する差別それ自体が問題です。いずれにしても現実の差別構造の
解体こそが課題です。差別をなくさずに、差別的表現だけを消しても、問題がか
えって深刻になることさえあります。単なる言葉狩りが逆効果になることも。

さて、<第1>の問題です。

それは「言葉をつくる人」について、池田さんたちが全く反応しなかったことで
す。「言葉をつぶす人」には反応しても、「つくる人」には無反応です。

その前の私の投稿では、表現の豊かさが失われる問題という形で指摘したことで
す。この点に前向きの反応を示したのは「あえて」の東本さんだけです。「さす
が」の池田さんは無反応。

差別的表現ではなく、より豊かで優れた表現を試みてきた人は、もちろんたくさ
んいます。

差別的表現を消すことではなく、差別的表現を逆用することによって差別の現実
を告発してきた文学者も少なくありません。告発ではなくても、差別表現をずら
して用いること、デリダ風に言えば脱構築することで、異なる表現世界を提示し
た文学者もいます。

「差別用語を使うと抗議されるから、やめておこう、無難な表現にしよう」とい
う人もいるでしょうが。

さて、日本の権力による安直低級なPCの代表例が「伏字」です。徹底した言葉
のつぶし方です。

でも、治安維持法の時代に、「奴隷の言葉」で巧みに真実を伝えようとしたり、
伏字を逆用して権力の不正義を告発しようとした例もあります。

前回は「造字」でしたが、今回は伏字です。というのも、私は最近、「伏字」を
活用した表現を試みました。全部で6回の「井上ひさしの遺言」シリーズです。
たとえば、下記をご覧ください。

井上ひさしの遺言(2)
http://www.mdsweb.jp/doc/1212/1212_06m.html
井上ひさしの遺言(4)
http://www.mdsweb.jp/doc/1216/1216_06m.html

井上ひさしは言葉の魔術師ですから、井上ひさしについて書くからには、こちら
も言葉の実験をしなくてはなりません。その一つとして、伏字の活用です。

高橋敏男さんの井上ひさし論、『希望としての笑い』には、井上ひさしの本を1
50冊並べながら書いた、とありました。私の研究室の机の上には井上ひさしの
本が160冊。数だけは負けていません(笑)。もっとも、半分しか読んでいま
せん。残りもなんとか読まなくては。

言葉をつぶしながら、読みかえる。定義しなおす。新しい字をつくる。新しい表
現方法を工夫する。新しい言葉をつくる。

繰り返します。単に言葉をつぶすだけではなく、よりよい表現を工夫するほうが
ずっと生産的であり、文化的です。楽しいし。

ではまた。





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