[CML 015375] グランサコネ通信―120301

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2012年 3月 1日 (木) 17:57:03 JST


前田 朗です。
3月 1日

グランサコネ通信―120301

2月25日の原発民衆法廷、26日の東アジア宣言運動の『文明と野蛮を超えて』
(かもがわ出版)出版記念会をおえて、昨日ふたたびジュネーヴへ来ました。3.
1事件の3月1日です。

1)	国連人権理事会

24日で諮問委員会が終わり、27日から人権理事会が始まっています。人権理
事会は、人権委員会が改組されたもので、47か国の政府が委員となっています。
安保理事会や経済社会理事会と並ぶ理事会です。日本のメディアは安保理事会し
かあまり報道しませんので、一般に知名度はかなり低いです。先週終わった諮問
委員会は、人権理事会から諮問されたテーマを研究する専門家委員会です。人権
理事会は政治・外交の舞台ですが、諮問委員会は一応専門家による国際人権法の
論議の場です。それでも政治的性格を免れませんが。

今回の人権理事会のテーマや報告書を事前に見ておく余裕がなかったので、まっ
たく何もわからない状態です。2月の諮問委員会で審議された平和への権利は、
今回ではなく、6月の人権理事会で審議されます。今日は様子見。

2)CERDカナダ政府報告書

かなり日がたってしまいましたが、2月22日にカナダ政府報告書の審査があり
ました。傍聴者は50人以上いました。パレ・ウィルソンの会議室の傍聴席は、
机があるのが35席、椅子だけのが20ほどで、ほぼ満席です。数年前の日本政
府報告書審査の時は日本人が多すぎて入りきれないために、パレ・ウィルソンで
はなく、パレ・デ・ナシオンの広い会議室に変更になったと聞いています。カナ
ダの時はギリギリ入れました。傍聴の3分の1は先住民族の人たちで、男性5人
が例の派手な見事な羽根飾りの帽子をかぶっていました。開会前に記念撮影して
いました。帰国してから報告に使うのでしょう。先住民族の5人の羽根飾り帽子
の横に一人だけ変な男が座っています。私(笑)。

第19・20回カナダ政府報告書(CERD/C/CAN/19-20)のプレゼンテーションは、
司法大臣アシスタントのカトリーナ・タプリーさん。彼女は、カナダのバイリン
ガル教育の成果を実証すると称して、報告を英語と仏語でやりました。3分ほど
英語で話し、続きを仏語にして、また英語、また仏語と頻繁に変えながら45分
間2か国語による報告をしました。自信満々得意絶頂になっている「エリート女
性」の優秀さはよくわかりましたが、いったい何の意味があるのか、NGOメン
バーはかなりしらけていました。傍聴席最後列では、口々に「馬鹿じゃないの?」
と言ってました。英語と仏語、変わるたびに、通訳もばたばたとやっていました。
人種差別撤廃委員会の場ですから、すぐにみんな考えます。「そういう教育を受
けられるのは誰か?」と。本人は「完璧なバイリンガルの実証」のつもりかもし
れませんが、「経済格差・教育格差の実証」でしかないのです。「ここにきてい
る先住民族たちが、あなたのように完璧なバイリンガルでないのはなぜか」と委
員が質問すればいいのですが、さすがにそういう質問はしません。委員もエリー
ト紳士と淑女たちですから。

カナダ政府報告書は、2条に関連して、ジェンダー暴力、法執行の訓練、被害者
支援をテーマに各種情報を列挙しています。先住民族女性に対する暴力について
の報告がありますただし、それは家庭内暴力が中心です。つまり、人種主義暴力
が主題ではなく、ドメスティック・バイオレンスです。先住民族女性は、そうで
はない女性よりも暴力被害が3倍あるということですが、加害者の属性が特定さ
れていません。

国連人権理事会はUPRで、カナダに人種主義暴力に対処する立法を促しました
が、カナダはうけいれていません。カナダは人種主義暴力を通常の刑法で犯罪と
しているからとしています。暴行、傷害などの暴力行為は犯罪とされており、暴
力行為の扇動も、暴力行為が実際になされたか否かを問わずに、犯罪とされてい
ます(独立教唆)。刑法718条2(a)(i)は、刑罰加重事由として、犯罪が、
人種、国民的または民族的出身、言語、皮膚の色、宗教、性別、年齢、心身の障
害、性的志向その他類似の要因に基づいた偏見、予断、憎悪に動機を持つ場合を
掲げています。

刑法430条(4.1)は、偏見、予断、憎悪に基づいて、主に、協会、モスク、
シナゴーグ、寺院、墓地などの宗教施設のために用いられる財産を破壊する特別
の犯罪を規定しています。

なお、カナダ反人種主義行動計画の一部として全国憎悪犯罪標準情報収集が行わ
れており、2008年以後、カナダ司法統計センターが報告を出します。200
8年のヘイト・クライム警察統計によると、1036件報告されています。20
06年が892、2007年が765でした。2008年から全国統計を取るよ
うになったわけですが、数が増えていると指摘されています。ただし、犯罪全体
の中で占める比率は低いとも書かれています。2008年のヘイト・クライムの
動機は、人種・民族が55%、宗教が26%、性的志向が16%です。

ヘイト・スピーチについては1970年以来、刑法で対処しています。刑法31
8条は、皮膚の色、人種、宗教、民族的出身または性的志向によって「識別され
る集団」に対するジェノサイドの首長や促進を禁止しています。

刑法319条1項は、公共の場で平穏を侵害するような発言で、「識別される集
団」に対する憎悪を扇動することを禁止しています。

刑法319条2項は、私的な会話以外の発言で、「識別される集団」に対する憎
悪を恣意的に促進することを禁止しています。

検事総長は、「識別される集団」とは、皮膚の色、人種、宗教、民族的出身また
は性的志向によって区別される公衆であるとし、「発言」とは、広く「語られ、
書かれ、電気的または電磁的に記録され、またはその他の言葉並びにジェスチャ
ー、サイン、その他の可視的表現」であるとしています。

インターネット上の憎悪プロパガンダについては、2001年の刑法改正により、
刑法320条1項が置かれました。憎悪プロパガンダがオンラインに乗せられた
場合に裁判所が削除命令を出すことができます。当該情報を投稿・記載した人物
は、裁判官の面前で、削除するかいなかの判断のために聴問の機会を与えられま
す。これは刑事訴追とは別の手続きです。投稿者が不明の場合や外国からの投稿
の場合にも削除できます。

カナダ人権法13条は、差別的慣行として、人種、国民的または民族的出身、皮
膚の色、宗教、年齢、性別、性的志向、婚姻状態、家族状態、障害又は赦免され
た有罪判決をもとに、人を憎悪または侮辱にさらすようなことを、電波放送また
はインターネットを通じて繰り返し伝達することを掲げています。最高裁は、1
990年のカナダ対テーラー事件判決において、第13条によってカナダ権利自
由章典(憲法の一部)の表現の自由を制約することを正当だと判断しました。

2008年、カナダ人権委員会は13条とインターネットに関連して「月報告書
Moon Report」を出して、13条を廃止して、ヘイト・スピーチを刑法で禁止し、
暴力を主張、正当化、威嚇する表現を禁止する提案をしました。2009年6月、
人権委員会がカナダ議会に提出した特別報告書では、13条を廃止するのではな
く、憎悪や侮辱の定義を追加する提案をしました。

3)	大坪弘道『勾留百二十日――特捜部長はなぜ逮捕されたか』(文藝春秋、2
011年)

大阪地検特捜部・証拠改ざん事件で、証拠を改ざんした部下から報告を受けなが
ら、部下をかばうためにもみけそうとした犯人隠避容疑で逮捕された元特捜部長
の獄中手記です。前田恒彦検事によるフロッピーディスク改ざんを朝日新聞がス
クープしたのが2010年9月21日でした。最高検は前田検事を即日逮捕する
という迅速な対応をし、23日から大坪部長と佐賀元明副部長を取り調べ、2人
が前田検事から改ざんの報告を受けていたのに、もみけそうとしたとして、10
月1日に逮捕しました。検察官による証拠改ざんという前代未聞の大事件で大騒
ぎだったのはつい昨日のことのようです。(もっとも、検察による証拠改ざんな
どいつものことで、今回大騒ぎになったのはそれが発覚し、隠しきれなかっただ
けのことです。)

本書は、9月21日のスクープから、逮捕、そして120日の勾留に至る間の獄
中日記をもとに書かれた手記です。保釈され、記者会見をしたところまでの記録
です。本書では、前田検事の改ざんを知らなかったこと、前田検事から改ざんの
報告を受けていないこと、それゆえ犯人隠避もありえず、最高検は、検事による
証拠改ざん事件の幕引きのために大坪・佐賀両名を切り捨て、責任を2人に押し
付けることで組織防衛を図ったと繰り返し書かれています。当時の報道を見てい
れば、大坪・佐賀もとんでもない検事ということになりますが、本書の記述のほ
うが信用できそうに思えます。最高検の筋書き、当時のマスコミ報道の筋書きは
不自然です。むしろ、最高検が組織防衛のために、前田検事に巻き込み供述をさ
せ、前田検事自身、自分の責任を軽減するために大坪・佐賀を巻き込む供述をし
たと見るほうが合理的に思えます。大坪・佐賀の裁判経過を知らないのですが、
この3月に大阪地裁判決が出るようです。

著者は、白門の2年先輩です。30数年前、同じ駿河台キャンパスで青春を過ご
しました。どこかですれ違っていたかもしれません。報道だけに接していた時は、
いや〜恥ずかしい先輩かも、と思いましたが、節を曲げず、最高検と闘っている
のは大したものです。

また、本書では触れられていませんが、2002年の三井環大阪高検公安部長事
件を担当したということです。高検公安部長を逮捕し、犯罪者に仕立て上げる側
だった大坪検事が、のちに特捜部長になりながら、部下の事件で逮捕され、犯罪
者に仕立て上げられたという凄い因縁。

4)	高階秀爾『誰も知らない「名画の見方」』(小学館101ビジュアル新書、
2010年)

大ヴェテラン美術史家による名画案内です。フェルメール、ダ・ヴィンチ、ゴッ
ホ、ベラスケス、ゴヤ、ミレー、ボス、ピカソ、ゴーガン、ボッティチェリ、セ
ザンヌ、クリムト、ルーベンスといった超有名画家を取り上げての案内で、読む
までもないかと思いましたが、「もっともらしさ」の秘訣、見えないものを描く、
枠を越えた美の探究者、新しい時代を描き出す、などのテーマごとに3人の画家
を素材に、名画の謎に迫るという構成はおもしろそうだったので、空港で買って
機内で読みました。表紙はフェルメールの「真珠の首飾りの少女」。本文も、い
ま日本で一番人気のフェルメールというところがいささか安直ですが、これは編
集者の要望でしょう。それぞれの画家について新しい情報があるわけでもなく、
絵画論として斬新というわけでもありませんが、素人が名画を見るときの視点を
どうすればよいかというアドバイスとして楽しめる本です。





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