[CML 015350] 光市母子殺人事件、死刑確定後の実名報道の違和感 林田力、権力犯罪をマスコミは放置している

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2012年 2月 29日 (水) 22:29:34 JST


死刑廃止は理想としては支持できます。権力犯罪を追及すべきという点にも賛成です。しかし、それを光市母子殺害事件の文脈で主張することには疑問があります。光市母子殺害事件に対する私のスタンスは昔から以下の通りです。 

「私は硬直的な司法制度と戦い続けた本村洋氏を尊敬する。私自身、民事訴訟であるが、マンションの売買契約をめぐって東急不動産と裁判闘争をした経験がある(林田力『東急不動産だまし売り裁判 こうして勝った』ロゴス社、2009年)。 

引渡しが終わった不動産取引では契約の白紙撤回が認められることは難しいと指摘されたが、泣き寝入りしなかった。消費者契約法に基づく契約取消しを貫き通し、売買代金の全額返還を勝ち取ることができた。新たな先例に踏み出させることの大変さを実感しているため、本村氏の活動には感服する。」(林田力「オーマイニュース炎上史(4)光市事件中編」PJニュース2010年8月15日) 

オルタナティブの世界では普通に酷い問題が逆に問題とされずにスルーされてしまうことがあります。今はヒステリックにハシズム批判の大合唱です。ハシズムを擁護するつもりはありませんが、官民格差への怒りなど支持される理由を直視しなければ、既得権を守るための批判に映ってしまいます。普通に酷いものを酷いと言う感覚は持ち続けたいものです。東急不動産だまし売り裁判も「マンションだまし売りは酷い」という感覚が出発点でした。 

死刑廃止論からは「いかなる残虐非道な犯罪者であろうとも国家が死刑を科すことは許されない。故に元少年も死刑にすべきではない」という結論になります。犯罪者憎しで世論が沸騰する中で上記の議論を展開するならば、その勇気を認めます。しかし、光市母子殺害事件の弁護団は異なりました。「殺意はなかった」などの不合理な主張を展開することによって死刑を免れようとしました。 

現在の判例の枠組みでは死刑が合法であることは固まっています。それ故に弁護団が死刑の非人道性や違憲性を格調高く論じたところで、勝てる見込みは限りなく低いものです。それ故に法廷戦術として殺意を否認したのでしょうが、遺族感情や世論を無視した独り善がりな主張でした。嘘のつき得になっている日本の裁判において、最高裁判所が主張の不合理を理由の一つに認めたことは支持できます。 

弁護団の反社会性は散々批判されていることですので、もう一つの視点を追加します。弁護団の所業は裁判闘争に真面目に取り組む市民をも嘲笑するものです。現在の枠組みでは可能性は限りなく小さいことを知りながらも日本国憲法の可能性を信じて闘っている市民がいます。現行の法律や判例の枠組みでは否定されていても、日本国憲法上の幸福追求権や平和的生存権などの人権を拠り所として、日本国憲法の実質的な適用を求めて闘っている市民は大勢います。 

たとえば東急電鉄・東急不動産主体の再開発・二子玉川ライズの差し止めを求める裁判が最高裁判所に係属中です。ここでも憲法第13条の生命・自由・幸福追求権や第25条の生存権を基礎とする良好な環境の下に生活し続ける権利、環境権、まちづくり参画権を拠り所にして判決の見直しを求めています(林田力「二子玉川ライズ反対運動が学習決起集会開催=東京・世田谷」PJニュース2011年5月9日)。 

http://www.pjnews.net/news/794/20110508_4 

マスメディアは権力犯罪を大いに追及すべきという点は賛成しますが、やはり光市事件と比較する文脈で述べるものではありません。被害者遺族を目の前にして「犯罪者を憎むよりも東京電力を憎め」とは言えません。 

また、権力犯罪という言葉にも難しいものがあります。小沢一郎氏の政治と金の疑惑を延々と追及するジャーナリズムも当人達にとっては権力犯罪を追及しているつもりです。戦後日本で最も有名な権力犯罪の追及は田中金脈問題ですが、これも今の小沢氏と同じく対米従属派による田中角栄追い落としの一環という見方もあります。 

ベースとなる社会観が備わっていない状態で、単純に権力犯罪にシフトさせるだけでは、かえって危険な結果になる可能性もあります。その点では『東急不動産だまし売り裁判』著者としては消費者問題など身近な企業犯罪にも目を向けて、生活者の視点を養ってほしいと考えています。 

実名報道については、マスメディアというものは制約がなければ実名で報道したがるものです。権力の陰謀以前の問題として、5W1Hを明確にするように訓練されています。

林田力『東急不動産だまし売り裁判 こうして勝った』
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