[CML 014745] Re: 原発震災に対する支援とは何か―福島第一原発事故から10ヶ月後の現状の整理

higashimoto takashi higashimoto.takashi at khaki.plala.or.jp
2012年 2月 3日 (金) 17:27:05 JST


萩谷さん

ご紹介の猪飼周平さん(一橋大学・社会学教員)の「中間報告」を読みました。
http://ikai-hosoboso.blogspot.com/2012/01/10.html

猪飼さんの論は「専門家としてではなく、自分自身でドブさらいや草むしりするだけでも少しは役立つこともあるだろう
くらいのつもりで始めた」という一ボランティアの視点から福島の「現状」を考察したもので、それだけに「現状」を見る
目線も地に這いつくばっていて少しも上ずったところがありません。もちろん、学究としてのなどという気負いも衒いも
感じられません。自然体の論だと思いました。

猪飼さん自身、ご自身の立場を定義して次のように言っています。
  「その意味では、この文章の著者の主要な属性は、有体にいえば、被災地福島の住民の代弁者としての資格
  をもたないヨソモノの1人であり、かつ原子力や放射線医学に関して専門性を持たないボランティアの1人とい
  うことになる。」
ただ、猪飼さんは次のようにも言います。
  「私自身は、医療・福祉領域に関わるところで、生活を支援することの意味を理解する、ということを自分の研
  究テーマの部分としてもってきた社会科学者であるということもあって、福島を中心とする原発震災に遭った
  人びとの生活をどのように支えることができるのかという観点から、この問題を見てきたということはある。と
  すれば、もしかすると、私のような社会科学者としての背景を持っている人間だからこそよく見えるということが
  あるかもしれず、その場合には、私から見えている震災の構図を伝える努力をすることに多少の意味はある
  かもしれない。私がこの文章を素人ながらに書いたのはそういう理由からである。この文章をお読みの方には、
  この点を踏まえてお読みいただきたいと思う。」
社会学者としての猪飼さんの視点にも私は共感するところ大です。猪飼さんの視点は社会学者だからこそのもの、
と言い直してもよいかもしれません。問題になっている急所の掴み方が社会学的に鋭いのです。

特に猪飼さんが「2.汚染地域に暮らすか、離れるか」で考察されている部分に私は全面的に共感します。以下、同
2の全文を引用します。猪飼さんが福島の「現状」を正確に分析して問題提起されている箇所です。脱原発論者こそ
肝に銘じて読むべき猪飼さんの指摘であろう、と私は思います。
  「2.汚染地域に暮らすか、離れるか

  福島第一原発の事故によって、放射能汚染地域の住民は、汚染地域で暮らすことを選択するか、離れるかの
  選択を強いられることとなった。2011年10月の統計をみるかぎり、住民票を移した人びとの割合は数%に留ま
  っている。これは、最終的に福島に戻ることを諦めた人びとの数がまだ少数であるということにほぼ対応して
  いると考えられる。また、県外に避難した避難者数は、概ね6万人弱程度とみられている。全体として避難者
  は15万人程度とみられていることから、県内に避難した人びとが比較的多かったことが想像されるが、今のと
  ころ、避難者数を把握することは難しく、正確なところはわかっていない。また状況は時間の経過とともに変化
  してゆくとも考えられる。だが、いずれの指標をみても、それらは、ひとまず放射能汚染地域の住民の大部分
  が、避難もせずに現地に住んでいるということを示している。

  この結果は、東京をはじめとする域外の人々にとっては意外なものだったといえるだろう。というのも、大手メ
  ディア情報などをみても、好んで行われてきたキャンペーンは、たとえば福島市の渡利地区(同市で大波地区
  と並んで最も空間線量の高い地域の1つ)の住民は避難したいのに避難できず、「自治体に見殺し」にされよう
  としている、といったものだからである。だが、渡利小学校父母と教師の会によるアンケート調査は事態がもっ
  と複層的であることを示している(注1) 。調査自体の技術的問題もあって含意を読み取りにくいが、少なくとも
  比較的積極的に現地に住み続けることを希望する人から、とりあえず住み続けようとしているひと、さらには
  避難を希望する人まで様々な人がそこに混在しており、積極的にせよ消極的にせよ多くの人びとは土地に留
  まることを選択しているということである。

  このようなことは福島市だけで起こっているのではない。飯舘村は計画避難に対して最後まで抵抗したし、南
  相馬市では人口約7万人のうち6万人が一旦避難をしたと言われているが、その後順次人びとが戻ってきて、
  現在では5万人程度まで人口が回復しているとみられている。さらに、11月20日の大熊町長選では、帰還を訴
  えた現職が再選されている。

  なぜ福島の人びとがかくも土地を離れないのか。この理由を知ることは、私たちが福島の人びとに対して何を
  なすべきかを理解する上できわめて重要なことだが、今のところはっきりしたことが言えるわけではない。ただ
  し、それでもはっきりしていることはある。それは、被曝の危険という、土地を離れる強い動機づけにもかかわ
  らず、多くの人びとがこれまで生活してきた地に依然としてしがみついているということであり、したがって、今
  次の原発震災へのアプローチは、このことを踏まえた上で行われなければならないということである。

  私は福島を離れて避難や移住をした人びとが重要でないと言っているのでは決してない。にもかかわらず、
  私がここで福島に留まる人びとの存在を強調しているのは、特に、東京を始めとする域外で発言する人びと
  が、避難こそが「人道」に叶っていると考える傾向があるようにみえるからである。そもそも、今日の論争の
  構図である「避難か除染か」という2項対立自体、避難する人と留まる人が両方あるという前提を踏まえてい
  ない。そして、上のような避難論者は、少なくとも現状では少数派の選択肢に肩入れしている。とすれば、彼
  らは2重に実態を踏まえていないということになる。その意味では、私たちにとって、まず福島県の人びとが、
  「遊牧民」的な東京人よりははるかに「定住的」であるということを踏まえることが何より重要であるといえる
  だろう(注2) 。」


東本高志@大分
higashimoto.takashi at khaki.plala.or.jp
http://mizukith.blog91.fc2.com/

-----Original Message----- 
From: hagitani ryo
Sent: Friday, February 03, 2012 4:00 AM
To: CML ; diplo-j ; pmn
Subject: [CML 014731] 原発震災に対する支援とは何か―福島第一原発事故から10ヶ月後の現状の整理

萩谷です。知り合いの方々にBCCでお送りします。
知人に教えてもらったのですが、福島に行って支援活動に携わっている猪飼周
平氏(医療、福祉にかかわる社会学ないし社会史の研究者としておきま す)
の、これまでの福島での経過に関する、中間報告とでもいうべきもの です。長
文ですが、どうぞご覧ください。
http://ikai-hosoboso.blogspot.com/2012/01/10.html


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