[CML 021845] 宇都宮けんじ政策のユニークさ

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2012年 12月 29日 (土) 20:22:16 JST


東京都知事選挙での宇都宮けんじ候補者の政策にはユニークな内容が含まれている。投票結果は惨敗と形容できる宇都宮候補であるが、ユニークな政策の浸透が今後の発展の鍵になる。 

第一に「無駄な公共事業からの撤退の制度づくりを進めます」である(選挙公報)。日本の行政には一度計画を立てると前に進むだけで見直して改めることを知らないという悪癖がある。加えて公共事業では利害関係者の抵抗が強固である。それ故に「撤退の制度づくり」が必要である。 

それがなければ目立つ問題一つを世論の追い風を受けた政治力で中止に追い込んだとしても、土建国家体制は残存してしまう。青島幸男・都知事(当時)は世界都市博中止を断行したが、それ以外は官僚の言いなりで終わってしまった。 

「コンクリートから人へ」を掲げた民主党政権も八ッ場ダム中止を華々しく打ち出したが、それ以外の事業見直しは鈍かった。開発反対のロビー活動では「八ッ場ダム中止を官僚に認めさせるバーターとして、他の事業は存続となった」という話を聞かされた。 

しかも、八ッ場ダム中止も立ち往生の挙句、撤回された。これも「撤退の制度」が未熟であったためである。巨大公共事業は人々の生活に大きな影響を及ぼす。それ故に着手は慎重になされるべきであるが、進行中の計画が中止されることで普通の住民の中にも生活設計が狂う人も出てくる。 

住民生活を無視して自然保護を唱える観念的な開発反対論では住民の支持は得られない。公共事業徹底見直しを実現する院内集会(2012年11月16日)ではダム建設予定地住民から「ダムを作らなくても生活再建が可能になるダム中止特措法に期待していた」との声が出た。「撤退の制度づくり」は民主党「コンクリートから人へ」迷走の教訓を活かした政策である。 

しかし、「撤退の制度づくり」は選挙戦では深められなかった。代わりに外環道や築地市場移転など個別開発案件の見直しや凍結が強調された。開発問題は畑違いの宇都宮氏が個別開発案件の見直しを掲げたことは素晴らしいことである。「人にやさしい街づくりをめざし、宇都宮さんを応援する会」呼び掛け人としては喜ばしい限りである。会メンバーからは宇都宮氏が「100パーセントの候補者」との表現も出たほどである。 

一方で個別開発案件の見直しをスローガン的に聞かされた人々には「反対だけの左翼」という悪印象を与えた可能性がある。 

第二に住まいを基本的人権の一つであるとして、家賃補助に言及したことである。これは「東京を変えるキックオフ集会」で発言された。日本は「住まいは人権」との意識が低く、住宅政策は貧困である。住宅政策の貧困が住まいの貧困を作り出していると言える。 

家賃補助は、これまで蚊帳の外に置かれた大多数の民間賃貸住宅の賃借人を住宅政策の対象にするものである。分譲住宅の購入者には住宅ローン控除などで優遇されているが、政策的に優遇する必要性は分譲購入者よりも賃借人の方が高い。むしろ分譲購入者優遇は不公正な富の逆配分である。 

そもそも住宅ローン控除は住宅政策ではなく、景気対策を目的としたものに過ぎない。しかも分譲住宅の購入促進による消費拡大効果は疑問視される(林田力「住宅購入促進は景気回復に役立つか」ツカサネット新聞2009年8月5日)。家賃補助は日本の住宅政策で画期的な制度になり得る。 

しかし、家賃補助は選挙戦では深められなかった。代わりに「都営住宅の新規建設を復活」など都営住宅の拡充が強調された(人にやさしい東京をつくる会 政策集)。低所得者向け住宅を都営住宅など公共セクターが供給することは正当であるが、日本の現状は民間セクターが圧倒的である。地道に改善していくしかないが、現状では都営住宅入居者は相対的に恵まれた立場である。公営住宅入居を既得権益のように批判する立場も浸透している。 

本来ならば公営住宅供給が乏しい日本の住宅政策の貧困が批判されるべきではあるが、公営住宅入居者への不公平感は実感として存在する。この状況で都営住宅中心の住宅政策に偏るならば、特定の人々にだけ優しい政治を目指すのではないかという批判を強めてしまう。 
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第三に「都が『新エネルギー会社』を創って脱原発を具体化する」である(希望の政策)。電力会社が地域独占を保障され、経済合理性が働かなかったことが挙げられる。それ故に電力会社の地域独占を崩すことが脱原発への道である(林田力「保坂展人世田谷区長は世田谷電力で脱原発!?」リアルライブ2011年6月28日)。 

新エネルギー会社は観念的な原発反対から一歩進んだ原子力ムラ解体の具体策になる。伝統的な革新勢力は原発には反対しても、電力自由化は語りたがらない。一般論としては公共セクターの民営化を意味する自由化に反対する立場であるためである。そのようなロジックは公務員利権擁護と批判される原因になる。その意味で宇都宮氏が新エネルギー会社を掲げたことは大胆であった。 

しかし、新エネルギー会社は選挙戦では深められなかった。代わりに被災地の瓦礫焼却の凍結や都内各地の放射能汚染状況の調査が強調された。これは理論的には「原発をどうするか」とは別次元の問題である。電力自由化による脱原発を志向する人々は猪瀬直樹氏に流れる結果になった。 

文書図画の頒布が制限されている選挙戦ではユニークな政策を一から有権者に説明することは難しい。私も子どもの頃は名前の連呼しかしない選挙カーに対して「有権者を馬鹿にしている」と思ったものであるが、実際に活動してみると名前を覚えてもらうことの重要性を認識した。 

逆に長々と演説する人は弁士に向いていない。その意味で政策アピールも「築地市場移転見直し」「都営住宅新設」などスローガン的なものに偏ることは止むを得なかったが、それが生活保守の大多数の都民に以前と変わらない平凡な革新系候補と映ってしまった。 

過去の対立を踏まえるならば今回の東京都知事選挙の枠組みは画期的なことであり、大きな前進である。しかし、革新系が足の引っ張り合いをしている間に世の中は進んでしまい、改めて一致団結したところで都民には既に色あせたものと映っている。宇都宮氏の政策の中には従来の革新系には乏しいユニークなものも含まれているだけに、それが浸透できなかったことは残念である。これらの政策を深めることが次の選挙戦の鍵になる。

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林田力『東急不動産だまし売り裁判 こうして勝った』
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