[CML 021816] 〈耕論〉ふたたび安倍政権 朝日新聞から

BARA harumi-s at mars.dti.ne.jp
2012年 12月 28日 (金) 02:21:33 JST


新聞記事につき そのまま転載は NG

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安倍晋三首相が誕生した。唐突な辞任劇から5年3カ月。
物価上昇率の目標設定を日銀に迫り、積年の夢である憲法改正にも突き進む。
前回にも増して前向きで、絶好調に見えるが、慎重でもある。
なぜ安倍首相は再登板できたのだろうか。支えているのは何だろう。

ヤンキー社会の拡大映す/斎藤環さん=精神科医

――ぐっと右傾化して、自民党が政権に復帰しました。

 「自民党は右傾化しているというより、ヤンキー化しているのではないでしょうか。 

自民党はもはや保守政党ではなくヤンキー政党だと考えた方が、いろいろなことがクリアに見えてきます」

 ――ヤンキー……ですか。

 「私がヤンキーと言っているのは、日本社会に広く浸透している『気合とアゲアゲのノリさえあれば、
まあなんとかなるべ』という空疎に前向きな感性のことで、非行や暴力とは関係ありません」

 「自民党の政権公約では『自立』がうたわれています。気合が足りないから生活保護を受けるようなことになるんだ
、気合入れて自立しろという、ヤンキー的価値観が前面に出ています。
経済やふるさとを『取り戻す』と言っても根拠は薄弱で、要は気合があれば実現できるという気合主義を表現しているに過ぎません」

 「自民党の憲法改正草案が天賦人権説を否定していると話題になっていますが、義務を果たした人間にだけ権利が与えられる、
秩序を乱さない範囲内で自由を認めるといった発想は、まるでヤンキー集団の掟(おきて)のようです」

 ――しかし安倍晋三さんはヤンキーとは縁遠い気がします。

 「ヤンキーに憧れていたけど、ひ弱でなれなかった、という感じですかね。しかし心性はヤンキー的です。
『新しい日本を』『国防軍』と威勢のいい発言を繰り返したり、『ヤンキー先生』こと義家弘介氏を大事にしたりするのはその証左でしょう」

 「安倍さんは月刊誌に『新しい国へ』という政権構想を発表しましたが、『維新』を英訳したら『restoration=復古』だったのと同じで、
『新しい国』と言いながら古い国に戻そうとしているのではないか。
何しろ安倍さんは、伝統的な子育てを推奨する『親学』を推進する議員連盟の会長でしたから。
伝統的子育てには虐待などの問題も指摘され、それがすべて良かったなんて完全なフェイクです。
ヤンキーは伝統を大事にするというイメージがありますが、それはフェイクとしての伝統で、さかのぼってもせいぜい3代前。
本当の伝統だと勉強しなくちゃ理解できませんから」

 「ヤンキーには、『いま、ここ』を生きるという限界があって、歴史的スパンで物事を考えることが苦手です。
だから当座の立て直しには強いけれども、長期的視野に立った発想はなかなか出てこない。
自民党が脱原発に消極的なのは、実は放射能が長期的に人体に及ぼす影響なんて考えたくないからじゃないか。
『まあどうにかなるべ』ぐらいにしか捉えていない節がある。
原発は廃炉にするにしても100年スパンで臨まなければいけないので、もっともヤンキーにはなじまない課題です」

 ――えーっと、要はあまりお勉強が好きではないということでしょうか。

 「あえて知性を捨てているのでしょう。保守は知性に支えられた思想ですが、ヤンキーは反知性主義です。
言い方を変えれば、徹底した実利思考で『理屈こねている暇があったら行動しろ』というのが基本的なスタンス。
主張の内容の是非よりも、どれだけきっぱり言ったか、言ったことを実行できたかが評価のポイントで、
『決められない政治』というのが必要以上に注目されたのもそのせいです。
世論に押されて実はヤンキー化しているマスコミがその傾向を後押しし、結果、日本の政治が無意味な決断主義に陥っています」

 ――変わりませんか。

 「100年やそこらでは変わらないでしょうね。
いま全国の中学校で何が流行しているかご存じですか? 
北海道の中学校で不良を立ち直らせたという伝説の『南中ソーラン』です。
ソーラン節をアップテンポにした踊りで、多くの中学校が取り入れています。
衣装は『竹の子族』風、踊りは『一世風靡(ふうび)セピア』風と極めてヤンキー度が高く、薄い毒を予防的に注入して
強力な毒になるのを防ぐというワクチン的な効果を発揮し、思春期の子どもの反社会性をうまく吸収しています」

 「そうやって成長した若者たちは地元に残り、地元の祭りの担い手となり、『絆』を重んじるヤンキー的な保守として成熟し、
うまくすれば地域の顔役になったり地方議員になったりする。
要するに、不良になりそうな連中がソーラン節や祭りによって保守にロンダリングされるのです。
こんな強力な回路は日本以外にはありません。しかもこの回路は治安維持に役立っている面があるので簡単には手放せません」

 「自民党の足場はここにありますから、それは強い。
政権交代が起きても地方議会は自民党が圧倒的に強い。
ヤンキーは行動力があるので、選挙となればどぶ板でフル稼働する。
ニヒリスティックに棄権する知性派なんて選挙では何の役にも立ちません」

 「民主党議員を見ても、選挙に強い人はヤンキー度が高い。
マスコミの多くは選挙結果に戸惑っていましたが、サイレントマジョリティーたるヤンキー層のことが全く見えていません。
積極的ではなかったにせよ彼らの支持があったから自民党は圧勝した。
もはや知性や理屈で対抗できる状況にはありません。ある種の諦観(ていかん)をもって、ヤンキーの中の知性派を
『ほめて伸ばす』というスタンスで臨むしかないというのが私の結論です」(聞き手・高橋純子)

     ◇

■さいとう・たまき 61年生まれ。爽風会佐々木病院診療部長。専門は思春期・青年期の精神病理学。
近著に「世界が土曜の夜の夢なら」「原発依存の精神構造」。

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ネット右翼ともたれ合う/小林よしのりさん=漫画家

――安倍さんの育ちの良さは、小林さんの漫画「おぼっちゃまくん」の主人公並みですね。

 「生き方は全然違うぞ。
おぼっちゃまくんはカメに乗って好き放題やっているが、安倍氏は『名門政治家の家系』にこだわり、周囲の期待に懸命に応えようとしている。
持病の潰瘍(かいよう)性大腸炎はストレスが悪化要因の一つとされる。
今はよくても、首相として必ず困難な局面が訪れる。仮に病状が悪化しても、今度は決して『病気で辞める』とは言えないだろう。
本人が極端に追い込まれかねない」

 「安倍氏と朝日新聞がNHKの番組改変問題で対立した時、わしが漫画で朝日の記者を叱ったら、安倍氏から『ありがとうございました』と電話があった。
いい人なんだろうが、そんなことぐらい放っておけばいいのに、とも思った。
批判に弱いから、自分に味方してくれると心底うれしいんだろう。
そんな安倍氏が今、精神的に依存しているのが、ネットを中心にわき上がる愛国心のバブルだ」

 ――小林さん自身、世の中を右傾化させた火付け役の一人では?

 「確かにわしは自分の漫画で、世の中をもう少し右に寄らせてやろうとした。
だが、今はそれが限度を超えたバブルとなり、ネット右翼と呼ばれる人々が出現している。
安倍氏の首相辞任について、『腹痛でやめた』『ちょっと大人げなかったね』と発言したテレビ番組を、安倍氏がフェイスブックで『意図的な中傷』と批判する。
するとネット右翼らがテレビ局に抗議の電話を殺到させ、キャスターを謝罪に追い込む。 

安倍氏はそれを『ネットの勝利』と持ち上げる。
安倍氏は『味方がいる』という安心感を得られるし、ネット右翼は『安倍氏に頼られる自分』に価値を見いだす。
だからこそ、安倍氏は党首討論もネット上でやりたがる。弱者と弱者のもたれ合いだよ」 


 ――安倍さんだけではなく、ネット右翼も弱者ですか。

 「グローバリズムや小泉構造改革の影響で、安定した仕事につけず人間関係でも孤立した人々が激増した。
そんな人々の一部が『誰からも必要とされない無価値な自分』に履かせるゲタとして愛国心を使い、他人をたたいて憂さを晴らしている。
『国を愛し、行動する自分は、そうでない人々より価値がある』というわけだ」

 「わしは漫画で安倍氏を批判しているから、わしがネットで生放送をすると大挙して押し寄せ、中傷のコメントで画面を埋め尽くしてしまう。
まるで暴走族だよ。
現実との接点が乏しいから、陰謀論にもはまりやすい。
安倍氏自身、テレビで痴漢逮捕のニュースの際に自分の顔写真が誤って流されると、『サブリミナル効果を狙った世論操作』と騒いだぐらいだ」

 ――安倍さんが口にし、ネットの人々が支持する愛国心は、小林さんの愛国心と違うのですか。

 「靖国神社に言及するだけでは国を愛する証明にはならない。
愛国心とは郷土の自然と共同体、祖先の歴史を愛し、子育ての環境を守ろうとする思いだよ。
それを目指すには、歴史や社会のすべてに目配りしないと。『中国や韓国に負けるか』というマッチョイズムだけで、全体を捉えられるわけがない。
高度成長時みたいに金をばらまいて公共事業で経済成長、というのも時代錯誤のマッチョ。 

わしに言わせれば安倍氏は『マッチョに憧れての身もだえ』だな」

 ――そうは言っても、安倍さんは小林さんと同じく改憲を目指しています。一致点もあるのでは?

 「わしが改憲するなら沖縄の米軍を自衛隊に代える。
対米従属が前提の安倍氏とは違う。このままでは言葉だけのタカ派自民党による一党独裁になってしまう。
わしは対立軸としてリベラルな政党をつくりたい」

 ――小林さんが「リベラル」ですか!

 「今、愛国心を体現する政党があれば、リベラルと呼ばれるだろうな。
共同体を失って砂粒のようにばらばらにされ、他人に認められたい願望がまったく満たされない。
そんなネット右翼のような人間たちの個をどう安定させるか。
それを政治家がやらなければならないのに、安倍氏は逆にネット右翼に癒やされている。情けないよ」(聞き手・太田啓之)

     ◇

■こばやし・よしのり 53年生まれ。89年「おぼっちゃまくん」で小学館漫画賞。 

92年から「ゴーマニズム宣言」で社会や思想を論じる。近作に「ニセモノ政治家の見分け方」。 



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