[CML 016315] ガバン・マコーマック論考「北朝鮮衛星発射にあたり、朝鮮半島の問題を歴史的にとらえる必要性」

Yasuaki Matsumoto y_matsu29 at ybb.ne.jp
2012年 4月 10日 (火) 23:36:27 JST


みなさまへ    (BCCにて)松元

引き続きPeacePhilosophyに掲載された、「北朝鮮衛星発射にあたり、ガバン・マコーマック論考-朝鮮半島の問題を歴史的にとらえる必要性」(田中泉訳)を紹介させていただきます。

先月末執筆の論考ですが、視野狭窄、米国追随一辺倒の影で自国の責任に頬かむりする日本人には、身に着けなければならない歴史的理性的態度です。

●出典:Peace Philosophy
http://peacephilosophy.blogspot.com/

======以下、全文転載======

Tuesday, April 10, 2012
北朝鮮衛星発射にあたり、ガバン・マコーマック論考-朝鮮半島の問題を歴史的にとらえる必要性 Gavan McCormack: "North Korea's 100th –
To Celebrate or To Surrender?" Japanese version

『アジア太平洋ジャーナル:ジャパンフォーカス』に4月2日掲載されたガバン・マコーマック氏(オーストラリア国立大学名誉教授)の論考は、北朝鮮「ミサイル」騒ぎを利用し大規模な戦争ごっこ体制を展開する日本政府と恐怖を煽るメディアに囲まれた日本の人たちにバランスの取れた視点を提供する重要なものである。@PeacePhilosophy

関連記事:
世界を破滅に導くミサイルの発射実験をしているのは誰か:『クリスチャン・サイエンス・モニター』誌クリーガー&エルズバーグ論説
http://peacephilosophy.blogspot.ca/2012/04/krieger-and-ellsbers-call-for.html

天木直人のブログ「米国はとうの昔に知っていた北朝鮮のミサイル発射方針」、目取真俊のブログ「南に打ち上げるからミサイルという嘘」も参照。(追記:天木直人有料メルマガ4月8日付け「北朝鮮の衛星発射騒ぎをここまで大きくしたのは米国である」も許可を得てこの投稿のコメント欄に転載しています。)


■北朝鮮建国100周年-祝典か? 降服か?

ガバン・マコーマック
翻訳 田中泉

Gavan McCormack, "North Korea's 100th – To Celebrate or
To Surrender?"

The Asia-Pacific Journal, Vol 10, Issue 14, No 2, April
2, 2012.
http://japanfocus.org/-Gavan-McCormack/3732

北朝鮮は2012年3月16日、建国者キム・イルソンの生誕100周年と、国家が「強盛大国」の地位に到達したことを記念して、クウァンミョンソン (ロードスター) 3
号と名付けられた地球観測衛星をウンハ搭載ロケットに乗せ、4月12日から16日までのいずれかの日の午前7時から正午の間に発射すると発表した。国の北部、中国との国境付近の基地から行われる発射は南向きで、一段階目のロケットは韓国のビョンサン半島の南西約160kmの黄海へ、二段階目はフィリピンのルソン島の東約140kmの海に落下する。発射予告は海事・航空・通信分野の適切な国際機関(IMO、ICAO、ITU)に対して通知されたほか、この記念に科学者のオブザーバーやジャーナリストも歓迎すると北朝鮮は発表した。北朝鮮の暦では建国100年目にあたる4月15日という日付が国の歴史上重要な意味を持つということはかねてから宣言されており、発射はそのクライマックスを飾るイベントとして計画されているようである。

気象用地球観測衛星(多機能だが気象予測が中心)には極軌道型(極軌道環境衛星/POES)と静止型がある。今回のものは「先端的静止型気象衛星データ受信機」であることを北朝鮮は追って明らかにした(3月26日、KCNA)。

極軌道型衛星は高度約800kmで地球の北と南をむすぶ極径を毎日14.1周する。一方、静止型衛星は高度約33,880kmで30分毎に地球を一周する(そのため高度なロケット技術が要求される)。その高度ゆえ、周回する地球に対して静止したままとなる。どちらの型も多機能である。米国海洋大気庁(NOAA)の言葉を借りれば、「土地、海洋、大気に関わる用途のために世界中のデータを日々更新しながら収集することが可能。・・・気象の分析・予知、気候の研究・予測、世界の海面上の温度の計測、大気中の気温と湿度の分析、海洋動力学のリサーチ、火山噴火のモニタリング、森林火災の検知、世界の植生の分析や探索・救出などが含まれる・・・」のだそうだ。

観測衛星は軍事用も民生用も毎年たくさん打ち上げられている。米国は静止型を3つ稼働させているし、ロシア、日本、欧州、中国、インドも静止型衛星を稼働させている。2010年7月には韓国も加わった。日本は種子島宇宙ステーションからわりと定期的に[観測衛星を]発射しており、その情報収集能力の一部を北朝鮮に対するスパイ行為に使っている。

観測衛星はどちらの型でも科学技術の進歩と経済発展の印である。北朝鮮は特に近年、地球温暖化に起因するとされる激しい天候異変に苦しんできた。そして観測衛星を稼働させている国に囲まれている。そのような国として、選ばれし者の集まりに自らが加わることに強い関心を抱いているのだ。誇りと威信にかかわる動機と科学的・経済的な動機の両方があるだろう。隠された軍事的目的、つまり大陸間弾道ミサイル能力の開発を推察することもできるかもしれない。というのもロケット技術はどちらもほぼ同じで、異なるのは搭載物と軌道だけだからだ。だがそれは、観測衛星を発射するすべての国々に当てはまることである。

北朝鮮は2009年に宇宙条約(1966年採択)の加盟国になった。単に民生用と軍事用の技術が似ているからという理由で世界の国々の中でも北朝鮮だけが宇宙の科学的探査への普遍的権利を否定されなければならないのはおかしい、と現在抗議している。

しかし発射予告が3月に発表されるやいなや、世界の大半の国々からは爆発的な非難が起き、一刻も早い計画の取りやめが要求された。韓国は「重大な挑発」と呼んだ。米国国務省は、発射が2006年の国連安保理決議1718号および2009年の1874号の下で北朝鮮に課せられている義務に違反することになると言い渡した(どちらも「ミサイルに関連する行為」または「弾道ミサイル技術を用いる」発射を禁止している)。国連の事務総長もほぼ同様のことを述べた。日本政府はPAC3パトリオット・ミサイル一式を沖縄本島とその周辺の島々に防衛のため急いで配備し、日本の領土に侵入するどんな物体に対しても撃墜命令を出すと外務大臣が脅した。オバマ政権の幹部はオーストラリアに飛んで「オーストラリア、インドネシア、フィリピンの間ぐらいの」地域が影響を受けるかもしれないと警告し、オーストラリアの外務大臣は「地域の安定とオーストラリアとに対する、真の、確実な脅威」と宣言した。シドニー・モーニングヘラルド紙は北朝鮮の攻撃が迫っていることを示唆する見出しをつけた記事を載せた。(1)

世界のメディアが観測衛星の発射について伝えたのは、北朝鮮政府による発表の後に過ぎなかった。しかし北朝鮮は米国に対して、かなり前からその意図を通達していた。少なくとも2011年12月15日までには伝えていた。当時の国家指導者だったキム・ジョンイル氏の死亡(12月17日だったとされる)の数日前である。(2)

だが理由は何であれ、米国は一切の公式声明も抗議文も出さず、その代わり北京での一連の二国間協議を受けて2012年2月29日には新たな二国間合意を結ぶに至った。北朝鮮は長距離ミサイルの発射や核実験、核開発の停止措置を実施し、それを遵守しているかどうかを検証し監視するためにIAEAの査察員が戻ることに同意する。それと引き換えに米国は「24万トンの食糧援助を保証する。また米国にはいかなる“敵対的な意思”もないこと、“主権と平等を相互に尊重する精神”で二国間の関係を改善する手順を踏む準備ができていることを述べた」のである。(3) 

尊敬、主権、平等というこれら3つの言葉は、この合意に関するメディア報道の中でほとんど触れられることもなかったが、北朝鮮にとってはこれらこそが肝心だった。そのような基盤に基づいて米国との関係の「正常化」を実現すること、半世紀以上に渡って苦しんできた制裁の解除を確実なものとすること、1953年の「一時的な」停戦合意を平和条約に転換することが、過去数十年間の北朝鮮外交政策の目標だったからだ。

またその2月29日付の合意の中で米国は、2005年9月19日付の共同声明の約束を守ることを再確認した。この一見取るに足らない一文はあまりに重要だった。朝鮮半島の問題について包括的に触れ、その解決に向けた道筋を提示するという約束する内容だったからだ。外交的・経済的な関係正常化と交換に、北朝鮮の非核化を導く段階的で順を追ったプロセスを取ることになっていた。(4) 

米国は2005年、攻撃的な意図はまったく持っていないと表明した。そしてすべての当事者(米国、韓国、中国、ロシアおよび日本)が、朝鮮半島を非核化する原則、核エネルギーの平和利用の権利に関する北朝鮮の主張の“尊重”、そして北朝鮮への軽水炉供与の見通しを適切なタイミングで議論するという合意を支持した。

その合意にはまた、段階的に関係を正常化するという日本側の約束、直接の当事者たちが「朝鮮半島における恒久的な平和体制[の構築に向けて]交渉する」こと、またそれは”相互の尊重と平等”の精神で行うということが含まれていた。実際、6ヵ国協議(2003年に開始)の間はこれらの言葉が北朝鮮の強い要請で入れられ、繰り返し用いられた。

最も消極的な当事者は米国であった。2005年も、そして協議の進行中を通してもそうだった。かつて国務省で北朝鮮問題に関する随一の専門家だったジャック・プリチャード氏は米国のことを「一者からなる少数派・・・他の4つの同盟国や友人たちから孤立していた」と述べている。米国は「署名するか、さもなければ協議が物別れに終わることへの責任を取れ」と、中国代表から最後通牒をつきつけられていた。ところが9月19日にしぶしぶ署名を済ませると、9月20日には北朝鮮の政権打倒を狙った経済制裁を開始した。それは署名したばかりの合意に明白に違反していた。

したがって2012年になって米国が2005年の原則を守ると述べた際、北朝鮮はその保証を話半分で受け入れるしかなかったはずだ。 北京での多国間交渉の失
敗と2005年(そしてのちに2007年)の北京合意の行き詰まり(それに今や2012年の合意もおそらく加えられなければならない)に関しては、北朝鮮と少なくとも同等に、他の当事者たちにも非があるといえる。

北朝鮮は2009年4月5日に、現在組み立てようとしているロケットの前の型であるクウァンミョンソン第2号を発射した。この時にもやはり大騒動があった。(6)  敵対的な
国々は、イージス艦9隻に加えて潜水艦、偵察機、人工衛星およびレーダーシステムからなる強力な軍事力を集結させたが、結果的に軍事的介入は起きなかった。3段階目のブースターが故障したらしく、ロケットは3800km飛んだのちに太平洋の西に落下・沈没したのだ。ただし北朝鮮はロケットが軌道に乗り、以来「キム・イルソン将軍の歌」と「キム・ジョンイル将軍の歌」を放送していると強く主張している。

安全保障理事会はそれを非難したが、メキシコ出身のクロード・ヘラー安保理理事長による声明は驚異的だった。 北朝鮮が発射したものが何だった
かを特定する言葉がまったく入っていなかったのだ。理事会はそもそも何を非難しているのかを決める力に欠けていたのに「非難する」「要求する」などと命令調の口調を使っていて、なんともちぐはぐだった。とどのつまり安保理は「あなた方が発射したものが何だろうと、やるべきではなかった。二度とやってはならない」と言ったわけである。

しかしその発射寸前に、米国諜報部が発射物体は恐らくミサイルではなく観測衛星だと思われると示唆していたし、まもなく韓国の防衛省も、飛しょう経路は観測衛星を軌道に押し上げるために調整されているようだと述べた。 つまり北朝鮮はその目的の実現には失敗したかもしれないが、予告通りのことを実行したと見える。発射前まで「飛翔体」という曖昧な用語を使っていた日本だけが、政府もメディアもさっさと「ミサイル」という用語を採用する方へ傾いた。

北朝鮮は非論理的で攻撃的な国ということになっている。「普通の国とはいえない。 むしろ国家規模で組織的犯罪を実行している」
といった具合だ(シドニー・モーニングヘラルド紙による描写)(7)。しかし、北朝鮮はそのような国にしては平等と尊重という倫理的目標の追及にかけて驚くほど一貫性がある。近年の歴史をみると、北朝鮮は他の当事者らが北朝鮮の核・ミサイル計画に焦点を狭めようとすると交渉に対して後ろ向きになっているのだが、包括的な[関係]正常化、朝鮮戦争終結のための条約、多国間経済協力、植民地支配に対する日本側の補償が交渉のアジェンダに含まれると意欲的になっている。

レオン・シーガルは2009年に次のように書いている。「北朝鮮は、米国が自らに課せられた義務を守らない時はいつでも素早く報復に出る。1998年にはウラン濃縮と長距離テポドンミサイルの発射実験を行う手段を求めて動いた。2003年にはプルトニウム計画を再開した。2006年にはテポドンの発射実験と核実験を行った。また昨年8月にはヨンビョンの核施設の無力化を中断し、プルトニウムの製造を再開すると脅した」。(9) 

最先端の軍備を維持しておくことほど米国の注意を惹きつけるのに効果的なものはないどころか、それによって渋々ながらの尊敬の念すら得られることを、北朝鮮は経験から学んだようである。そのような策略は反抗、恐喝、好戦性の表れというよりも、米国(と日本)の威嚇に対する計算された応答と見た方が良いのではないか。

北朝鮮がきわめて不快な独裁政権であることに疑いの余地はないけれども(10)、北朝鮮が[東アジア]地域を侵略の脅威にさらしているという見方にはほとんど根拠がない。北朝鮮は[自国の]安全保障と敵国からの攻撃を受けない絶対的保証の追求に執着し、ある種の「ヤマアラシ国家」になった。つまりその針を延ばしたり荒れ狂わせたりするのではなく、硬直させることで外国勢に抵抗するのだ。

正体はわからないが北朝鮮がもうすぐ発射する何かに世界の関心が集中していた間、米国と韓国による巨大な戦争ゲーム、戦争のためのリハーサルが北朝鮮の海岸線から目と鼻の先の場所で行われていた。(11)  北朝鮮による4月の発射行為が日本と米国に
とっては挑発であるのと同様、北朝鮮政府にとってそれは挑発だった。

この原稿を書いている現在(2012年3月30日)、いくつかの可能性が存在している。可能性は低いだろうが、北朝鮮政権は、圧力に屈して発射を取りやめるかもしれない。そんな風に弱腰な態度を取って前代の指導者の偉業を放棄すれば、国内で予想不可能な影響があるだろう。しかも屈服することによって北京協議の参加各国からの要求がさらに強まる可能性も高い。だが、もし北朝鮮政権がすべての圧力をはねのけて発射を行った場合は、発射が成功するかしないか、そのどちらかしかない。

もし「先端的静止型気象衛星」がちゃんと軌道に乗ったら、世界は覆すことのできない事実に直面することになる。先端的な科学・産業発展を遂げた国々の仲間入りをしているのだという北朝鮮の主張にとっては、経済制裁や貧困、国際的孤立にもかかわらず追い風が吹くだろう。そして敵対する諸国は遅かれ早かれ2005年9月の綱領、つまり朝鮮半島の和解と正常化という包括的な綱領に戻らなければならなくなる。

その一方、もし発射がうまく行かなかったり、ロケットが破損したりミサイルの軌道に入っていったりした場合、北朝鮮は国内でのメンツを大きく失うし、国際的にも敵対意識の高まりを食らって6ヶ国協議の早期再開は難しくなるはずだ。やぶれかぶれになった北朝鮮は核実験を再開するかもしれない(2009年、失敗に終わったロケット発射を安保理に非難された時のように)。政権の支配力はおそらく弱まるだろう。 そ
して「北朝鮮問題」の解決は以前にも増して難しくなりかねない。

北朝鮮は世界のほぼ全ての国々から容赦なく睨みつけられているが、これは論理だけで説明のつくことではない。ロシアと中国の視線はやや緩やかだというのはその通りだが、今回は両国とも、北朝鮮に発射の取りやめと「挑発」を避けるよう促す敵対諸国連合に参加しているように少なくとも見える。

ところが世界の大半にとって北朝鮮は、究極的な「他者(Other)」の役目を果たしているのである。これほど国際的な同情や連帯を欠いた国は他にない。この半世紀間の大半を通じてそうだったし、冷戦終結以降は確実にそうであった。

米国と日本は、他国にも北朝鮮を非難して欲しがっている。非難する理由を見つけるのはたやすいことだし、非難したからといって国際社会で他の国を怒らせることもない。世界の大国による大規模な侵略や暴力を名指しにして追及する真剣な試みなどと比べたらずっと容易なことだ。

だから、過去に朝鮮半島の問題についてまったく関心を示した事もなければ、歴史的背景への理解もなく、北朝鮮から世界への叫び声の中に詰まっている正当性の核心も解っていないようなオーストラリア政府が、迫りくる発射によって自国が脅されているとして発射の取りやめを要求したりしたところで、誠に陳腐で空疎なパフォーマンスに過ぎないのである。

「北朝鮮問題」が、北朝鮮の核ないしはミサイルへの野心、そしてその持ち前の暴力性と理不尽さをいかに抑え込むかという問題として定義づけられているあいだは、根本的な原因よりも現象の方に焦点が当てられることになろう。私が他の著書に書いてきたように(12)、
“北朝鮮の核問題”….というまさにその言葉が、重要な問いをはぐらかしているのである。「非論理的で攻撃的で、核に執着していて危険なのは北朝鮮であり、かたや倫理的で、世界に対する責任感を背負って北朝鮮の異常行為に対応しているのは米国」という想定に立っているからだ。問題の枠組みをこのように矮小化するのは、過去一世紀の歴史の基盤である植民地主義、分割、半世紀間つづく朝鮮戦争、冷戦、核拡散と核による威嚇を無視することである。それは、「北朝鮮の核兵器計画」と呼ばれるものへの対処は朝鮮戦争と冷戦、さらには日本の帝国主義という未解決の諸問題を無視してもできるのだと想定することである。

この「北朝鮮問題」の公式化が無視しているのは、私が「米国問題」と呼んでいる、米国による攻撃的で軍国主義的な覇権主義と国際法の軽視だ。北朝鮮は広く「ならずもの国家」とみなされ、世界の大半から軽蔑されている。しかし、北朝鮮が侵略戦争を行ったり、選挙で民主的に選ばれた[他国]政府を倒したりしたことは、過去50年間一度もない。核兵器で隣国を脅したり、何かの条約を破棄したりしたこともない。拷問と暗殺を実行し、それらを正当化しようとしたこともない。2006年のミサイル発射実験と核実験は挑発的で愚かだったが、どちらとも何の法も犯していなかった。それに、どちらとも極端な挑発行為を受けて行われたものだった。

北朝鮮の国家は自国市民の権利に関して明らかに暴虐の限りを尽くしている。しかし北朝鮮が1948年の建国以来、孤立と貧困化と転覆を目的とした世界の超大国からの集中砲火を浴びるという、きわめて異常な状況下におかれてきたことは自ら望んできたことではない。主要な国際機関から爪弾きにされ、金融・経済制裁の標的にされ、なおかつ「悪魔(Evil)」(贖いは不可能)という原理主義的な言葉で非難されてきた北朝鮮は、猜疑心を持ちながら怖気づいているしかなかっただろう。猜疑心と恐怖は、国家でも個人でも、好戦性に表われ出ることが多い。ことに、北朝鮮は半世紀以上に渡って核による滅亡の脅威に直面してきたのである。ある民族の気を狂わせ、その中に結束と生存への執着を誘発し、国家安全保障の必須条件に核兵器を選ばせるようなものがもしあるとすれば、それはこのような経験に違いない。核の脅しを除去してほしいという北朝鮮の要求は疑いもなく正当的だったのに、知っての通り、世界から無視されてきた。北朝鮮が最終的に問題の自己解決を図ろうとするまでは。

北朝鮮についての国外での一般的な見方は、核の脅威またはミサイルの脅威がある国、もしくはその両方がある国というものである。だが北朝鮮の国内では、より強大な国々にいつもいじめられてきた小国で、なにより、地球上の他のどの国よりも長く核による脅しに直面してきたという意識が圧倒的多数なのだ。

北朝鮮がこれほど長く生きながらえている大きな原因は、「抑止力」の開発に集中してきたことである。北朝鮮は安全保障に対して無理もない執着を持っている。公的な和平協定と外交関係の正常化について北朝鮮が保証を得られない限り(得るまでは)、核やミサイルのカードを放棄する可能性も低い。

真の問題は、あまりにも長く続きすぎている朝鮮半島の「一時的」停戦状態である。やるべきことは南北関係の正常化であり、北朝鮮と過去の植民地支配者である日本および62年間の仇敵である米国との関係の正常化であり、国際的孤立という「冷気」の外に北朝鮮を招き入れることである。「国際社会」(米国とその同盟国を指す)が北朝鮮の首を絞め、強制的に服従させることに集中すればするほど北朝鮮政府は防備を固めるだろう。そして強力な同盟によって自国が脅されていることについて、説得力ある追及を可能にするだろう。朝鮮半島の関係、そして北朝鮮と日本および米国の関係がいったん正常化されたとなれば、北朝鮮は自国民に奉仕し、そのニーズを満たすことによって自身を正当化しなければなるまい。過去半世紀の間、経済制裁を受け、深刻な国際的孤立を生きてきたにもかかわらず宇宙計画と核計画を実施できている国なのだから、才能と可能性をふんだんに持っているのは明らかだ。北朝鮮の核兵器計画を懸念するなら、北朝鮮の安全保障について真の国際的な保証を行うべく交渉をし、米国の核の脅威を除去すべきである。また北朝鮮の宇宙計画を懸念するなら、国際的な協力を深めて、国際的な承認とともに
[朝鮮半島]地域の発射センターを提供するべきだ。


ガバン・マコーマック
オーストラリア国立大学名誉教授で、『アジア太平洋ジャーナル:ジャパンフォーカス』のコーディネーターを務める。東アジア現代史・近代史に関する多くの著書がある。2004年に出版されたTarget North Korea: Pushing North Korea to the brink of
Nuclear Catastropheは、日本語と韓国語に翻訳されている(邦訳:吉永ふさ子訳『北朝鮮をどう考えるのか――冷戦のトラウマを越えて』平凡社, 2004年)。2008
年と2009年、韓国の京鄕新聞で月に一度の連載を行った。2012年の展望に関するジョン・ダワーとの対談はNHK衛星放送のお正月番組(「巻頭言2012」)で放映された。2012年7月には乗松聡子との共著Resistant Islands: Okinawa Confronts Japan and the
United States(Rowman and Littlefield)が出版される(日本語版は法律文化社から2012年内に出版予定)。


原注

(1)     Peter Hartcher, "North Korea directs missiles
towards Australia," Sydney Morning Herald, 24 March
2012.

(2)     Kyoko Yamaguchi, "DPRK 'told US about plan on
Dec 15'," Daily Yomiuri Online, 25 March 2012.

読売新聞2012年3月25日『北発射計画、金総書記が決定?…死去直前に伝達』(山口香子記者)

(3)     米国国務省広報官Victoria Nuland氏による2012年2月29日付の声明 "State Department on US-North Korea Bilateral Talks"

(4)     詳細は、拙考"North Korea and the Birth Pangs of
a New Northeast Asian Order"を参照。North Korea:
Towards a Better Understanding (Sonia Ryang編著、Lexington
Books, Rowman and Littlefield、2009年) の23-40頁。(またやや古い版が2007年10月24日付のJapan Focusにも掲載されている。)

(5)     "Joint Statement of the Fourth Round of the Six
Party Talks," Beijing, 19 September 2005. 外務省による仮訳:第4回六者会合に関する共同声明

(6)     これ以降の議論は、2009年の拙考"Security Council
Condemnation of North Korean "UFO" Deepens Korean
Crisis"、2009年4月13日付京鄕新聞(韓国語)による。英語版は2009年4月15日付のJapan Focusに掲載。邦訳: 『朝鮮の危機を深める北朝鮮
の“UFO”についての安保理の非難 ガバン・マコーマック』(日刊ベリタ、鳥居英晴翻訳)

(7)     Peter Hartcher, North Korea doing what it
pleases – with a twist," Sydney Morning Herald, 27
March 2012.

(8)     拙著Target North Korea: Pushing North Korea to
the Brink of Nuclear Catastrophe(NY、Nation Books、2004年)邦訳:『北朝鮮をどう考えるのか――冷戦のトラウマを越えて』(吉永ふさ子訳、平凡社, 2004年)を
参照。

(9)     Leon Sigal, “What Obama should offer North
Korea” 2009年1月、Bulletin of the Atomic Scientists 

(10)   北朝鮮体制の内実についてはTarget North Korea『北朝鮮をどう考えるのか――冷戦のトラウマを越えて』の第3章及び第4章でかなり述べた。

(11)   2月27日から3月9日までの「キー・リゾルブ作戦」と3月1日から4月30日までの「フォール・イーグル作戦」

(12)   前掲書"North Korea and the Birth Pangs"

(13)   ガバン・マコーマック "Criminal States: Soprano
vs. baritone — North Korea and the United States"(Korea 

 Observer Vol. 37 No. 3、ソウル、韓国史研究所、2006 年秋、487-511頁。韓国語ではBeomjoegukga: Bukhan Geurigo Migukの第1章、ソウル、
Icarus、2006年、15-40頁。)



(以上、転載終わり)


------------------------------------
パレスチナ連帯・札幌 代表 松元保昭
〒004-0841  札幌市清田区清田1-3-3-19
TEL/FAX : 011-882-0705
E-Mail : y_matsu29 at ybb.ne.jp
振込み口座:郵便振替 02700-8-75538 
------------------------------------ 



CML メーリングリストの案内