[CML 013043] 福島と東日本の地に踏みとどまろうとする人 避難しようとする人 そのそれぞれの思いについて ――「広く共感をえられる論理の構築とはなにか・・・」という記事に対するコメントへの返信

higashimoto takashi higashimoto.takashi at khaki.plala.or.jp
2011年 11月 8日 (火) 19:39:14 JST


先に発信した「広く共感をえられる論理の構築とはなにか? ――広瀬隆氏の「福島 あんなところ」発言に
見られる他者を思いやる共感力が欠如した貧困なる思想としての論理について」という記事について、3・
11以後に「東日本から西へと避難」されたyaekoさんという方から下記の「参考」のようなコメントをいただき
ました。私の先の記事への反論、反感を綴ったコメントです。しかし、福島第1原発の事故によって「東日本
から西へと」追われてきた人のコメントです。その心情にはていねいに応答しておく必要を私は感じました。

「避難の権利」と「留まる権利」についてあらたな観点から論じている先の記事の補論的側面もあります。本
メーリングリストにもあらためて発信させていただこうと思います。

yaekoさん、はじめまして

3・11以後に「東日本から西へと避難」されてこられた、とのこと。たいへんなご決断だったと思います。私
はそのご決断はきわめて当然なご決断であろう、と思います。当然のことですが私はそのご決断は人間の
生きる権利(生存権)、そういう意味での根源的権利として最大限尊重されなければならないものだと思っ
ています。私は先の記事においても住民の生存権としての「避難の権利」について次のように書いていま
す。

「先に福島の人々の避難の権利の問題についていえば、先月の10月27日から経済産業省前で座り込み
を続けている福島県の女性たち(いまは全国の女性たちに引き継がれています)は『除染、除染というより、
子どもたちを一日も早く疎開させてほしい』と座り込みを始めた女性たちの総意として訴えています。私も
この福島県民の損害賠償を含む「避難の権利」は一刻も早く具体的なありようとして実現させなければなら
ないと考えています。」

その人間の根源的権利としての「避難の権利」についていささかでも批判をすることなど私には思いも及ば
ないことです。

さて、「『福島県という〈故郷〉に住み続けたいというのは一方で福島県民のなにものにも代え難い心の底か
らの叫びであり、願いなのです』と書かれていますが東本さんは福島に住んでいる人たちから直接聞いた
のですか?」というご糾問についてですが、いささか的の外れたご糾問であるように私は思います。

私が「福島県民のなにものにも代え難い心の底からの叫びであり」云々と書いているのは、そのフレーズの
前文で紹介している「除染徹底、被害賠償を要求=原発事故受け、1万人集会−福島」(時事通信 2011
年10月30日)という報道記事を承けてのものです。同記事には、先月の30日に福島市であった1万人規模
の集会では福島県浪江町の馬場有町長が「福島県内に1万4000人、全国に7000人が避難している。心
が折れないように、皆さんの気持ちを大切にしながら生き抜いていきたい」とあいさつするとともに「一日も
早く除染をし、3月11日以前の元の生活に戻してほしい」と訴えたとあります。また、その町長の訴えに対し
て「(1万人が集まった)会場から大きな拍手が起きた」とも書かれています。私は、左記の福島県浪江町長
の訴えは「心の底からの叫びであり、願い」と解釈して誤りないものだと思いますし、その町長の訴えに
「(1万人が集まった)会場から大きな拍手が起きた」わけですから、このことを「福島県民のなにものにも代
え難い心の底からの叫びであり、願い」と表現してもこれも誤りある表現になっているとは思いません。「直
接聞いた」かどうかをここで糾問される筋の問題ではないだろう、と私は思います。

そうして「直接聞いた」かどうかの問題に関連してもうひとことほど申し上げておきますと、私は3・11以後
に福島の地を訪れたことはありませんのでもちろん「福島に住んでいる人たちから直接聞いた」わけでは
ありません。が、本エントリ記事でも紹介している毎日放送(MBS)の『放射能汚染の時代を生きる〜京大
原子炉実験所・“異端”の研究者たち〜』( http://youtu.be/hvi6GaecKM8 )というドキュメンタリー番組に
は3・11原発震災以後に生まれたばかりの生後5か月の乳呑み子を含めて3人の子どもの子育てをして
いる福島市に住む赤井マリ子さんの原発被災地の福島で生き抜こうと決意した姿が紹介されています。

赤井さんは言います。

「4月、この子がまだお腹の中に入っていて8か月の頃に車を運転していたときちょうどいつも通る同じ道
に桜が咲くところがあるんですね。その桜を見てなんか違うく映ったんですね。上のお兄ちゃんたちは小
さい頃外で遊ぶということを経験してきたので、だんご虫にアリに・・・春になるとアリの巣を探してアリの巣
をほったりとか。でも、この子はできないんだなあなんて、なんでここまで福島県が背負わなければいけな
いんだろう、背負うものが大きすぎるななんて思って運転している車の中で涙が知らず知らずツーと垂れ
てくることがよくありましたね。」(37分34秒頃)

子どもたちのこれからの成長のことを思うと少しの放射線量の数値の上がり下がりにも気になる赤井さん
ですが、しかし、赤井さんは福島の地で生きようという決意をします。「夫と相談して住み続けることに決め
ました。不安もありましたが、住むと決めたからにはどうすればより快適に暮らせるかに気持ちを切り替え
ている」といいます。「やっぱりね福島に。好きなんだと思うんです、ここがすごく。でも、好きでもご自身の
判断で避難されている方はまた辛いんだと思うんです。私は避難している方とかここにいるのがどっちが
正しくてどっちが間違っているのかもわかりませんし、それぞれの判断で、ね・・・」

この赤井さんの決断も「自分の生まれ育ったところ、また父母祖の地である福島県という〈故郷〉に住み続
けたいというのは一方で福島県民のなにものにも代え難い心の底からの叫びであり、願い」であるひとつ
の例となっているといえないでしょうか? 「安全、安心をふりまかれ」、ただ騙されて福島に留まっている
人たちばかりではない、という。

また、同じく上記のドキュメンタリー番組の中で映し出されている小出裕章さんの福島での講演を食い入る
ようにして、また歯を食いしばるようにして聞き入っている福島の人たち(画面で見る限り女性が多いです
ね)の姿もいまの福島の状況を正しく認識した上で福島に留まるべきか避難するべきかを真剣に模索して
いるいるたくさんの福島県民がいることのもうひとつの例証になりえているようにも思います。

さらにもうひとつの例としてこの8月にNHKで放送された「徐京植:フクシマを歩いて――NHKこころの時
代、私にとっての『3・11』」という秀逸なテレビ・ドキュメンタリーで紹介されていたスペイン思想研究者の
佐々木孝さんご夫妻、また、農業者の清水初雄さんのことも。彼らもまた福島における放射線被爆の危
険性について正確な知識を持ちながら、それでもなお自らの意思として福島の地に留まることを決意した
人たちでした。

上記は私が「福島に住んでいる人たちから直接聞いた」例とはもちろんいえませんが、映像を通じてこの
目で見た、あるいは聞いた例です。「直接」性だけを厳密に求めるとすると、私たちの視野、情報はごくご
く限られたものでしかありえなくなってしまうでしょう。メディアを通じた情報でもある程度の「直接」性、また
「真実」性を担保できることはあります。だから、むしろ問題にすべきは私たちの「真実」性を見抜く目であ
る、ということになるのではないでしょうか?

上記で紹介した「徐京植:フクシマを歩いて・・・」で徐さんはユダヤ系イタリア人作家、プリーモ・レーヴィの
『溺れるものと救われるもの』(朝日新聞社 2000年。原著 1986年)を援用して「同心円に近い人たちの現
実を直視することを避けようとする」心理について、逆に「同心円的に遠ざかっているからこそ恐怖や不安
を自覚することができる想像力」ということについて語っていました。この徐さんの話も、私は、「『真実』性
を見抜く目」ということについて語っているひとつの例だろうと思います。
(参照: http://mizukith.blog91.fc2.com/blog-entry-330.html )

参考:yaekoさんのコメント
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始めまして
広瀬氏の「あんなところ」発言について書かれているのを読んでこちらにきました
私は東日本から西へと3月に避難した者です
「ある福島県という〈故郷〉に住み続けたいというのは一方で福島県民のなにものにも代え難い心の底
からの叫びであり、願いなのです」と書かれていますが東本さんは福島に住んでいる人たちから直接聞
いたのですか?
健康も命の保証もない場所になってしまっているのだとわかれば、例外はあってもそんなところに住み
続けたいとはほとんどの人が思わないと思います。安全、安心をふりまかれ、本当なのかと漠然とした
不安を持ちながらも、そこに住み続けるしかないのです。国がきちんとした補償をしてくれれば安心して
くらせるところに移りたいと沢山の人は思っているはずです。だいたい都会は故郷を捨てた人たちで成
り立っているのではないですか、なぜ福島の人間だけが故郷を捨てられないと決めつけるのですか、貴
方こそ決めつけはやめてください
(yaeko 2011/11/06 Sun)
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東本高志@大分
higashimoto.takashi at khaki.plala.or.jp
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