[CML 009715] Fwd: 日本海洋学会 会長声明 / 海洋汚染モニタリングと観測に関する提言

M.Shimakawa mshmkw at tama.or.jp
2011年 5月 19日 (木) 18:04:54 JST


                                              [TO: CML, keystone, NoNuke, rml]

 (1) 学会長からの声明 (4/18)
 (2) 福島第一原子力発電所の事故に起因する海洋汚染モニタリングと観測に関する提言
     (5/16)
                                                         (改行位置等若干変更)
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<http://www.kaiyo-gakkai.jp/sinsai/seimei.html>

 学会長からの声明

声明前文
(略)
 
          東日本大震災と原発事故に関する日本海洋学会の活動について
 
                             日本海洋学会
                            会長 花輪 公雄
 
 2011年3月11日,マグニチュード9.0の「東北地方太平洋沖地震」により発生した
巨大津波は,東日本の太平洋岸を襲い,多くの人命を奪うとともに,住居など多く
の建物を破壊し,生活基盤と生産基盤を一挙に奪い去りました。日本海洋学会は,
亡くなられた方々のご冥福を心よりお祈りするとともに,被災地の一日も早い復興
を願ってやみません。
 
 今回の大震災では,地震の揺れと津波の襲来により福島第一原子力発電所が制御
不能の事態となり,大量の放射性物質が大気と海洋に放出されたことが分かってき
ました。その量は,国際原子力事象評価尺度の最高レベルである「レベル7」と認定
されるように,過去最悪の規模に達する恐れがあります。現在,放射性物質の大気
や海洋への流出と拡散に関する観測と監視,そして数値モデルによる予測は,政府
機関を中心として行われ公表されていますが,現状把握においても予測においても
今後の一層の改善と継続的な取り組みが望まれます。
 
 さらに,震災による人的,物的被害とともに,水産業の基盤をなす沿岸生態系の
破壊や,干潟や砂浜域の流出,そして大型藻類や底生生物の流出などが同時に起こっ
ていると想像されますが,その実態は全くと言ってよいほど分かっておりません。
 
 日本海洋学会は,海洋科学の振興を目的として1941年に設立された学術団体です。
本学会は上記の認識に立ち,学会の総力を結集し,海洋環境の現状把握と将来予測
に関して,情報の収集とその発信,そして提言や調査研究計画の組織化を通じて,
震災対応に取り組む社会への貢献を目指すことをここに宣言いたします。同時に,
専門外の会員および非会員の皆様にもなるべく分かりやすく,かつ,なるべく多く
の情報を発信することを心がける所存です。
 
 今回,本学会は,学会長を含む幹事会構成メンバー全員と各分野の専門家による
「震災対応ワーキンググループ」を設置しました。今後はこのワーキンググループ
を核として迅速な対応をすることとしております。会員の皆様におかれましても,
海洋学会を見守っていただいている非会員の皆様におかれましても,ご支援とご協
力のほどお願い申し上げます。

 (平成23年4月18日)

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<http://am6.jp/mgZF5D>

日本海洋学会 東日本大震災関連特設サイト
  
福島第一原子力発電所の事故に起因する海洋汚染モニタリングと観測に関する提言
kawai (2011年5月16日 18:07) | トラックバック(0)

                   震災対応ワーキンググループ
                                      観測サブワーキンググループ
モニタリング提言案(Wordファイル)

 
はじめに

 2011年3月11日に起きた東北地方太平洋沖地震と津波により福島第一原子力発電所
(以下、原発と略記)の冷却機能が停止し、炉心溶融、水素爆発、格納容器の損傷
などを引き起こし、ヨウ素-131、セシウム-137などの放射性物質が大気および海洋
に放出された。現在、その放出は収まりつつあるが、海洋においてはこれまで非常
に高い放射線量が観測されている。東京電力の公表データによれば、海洋への高濃
度汚染水の放出は現在までに3回読み取れ(3月25ー26日、3月29日ー4月1日、4月3ー
5日)、福島第一原発南放水口付近での測定最高値は180 Bq/mlに達している(図1)。
また、南放水口付近でのヨウ素-131/セシウム-137比は低下しつつあるが、半減期
から予想されるよりは低下が遅く、4月末においても若干の漏出が続いていると予想
される。沖合の観測結果においては、原発を中心に高濃度域が分布するが、東西よ
りは南北に伸長して高濃度域が広がっている(図2)。また、4月1日に北茨城の沿
岸域で採集されたイカナゴ(コウナゴ)からはヨウ素-131で4080 Bq/kgという高い
放射能値が報告された。

図1 福島第一原発南放水口付近における海水中放射線量の時間変化。縦軸は(Bq/ml)、
横軸は日付。東京電力の公表データより作図。 
図2 福島沖におけるセシウム-137の表面分布。スケールは Log[Bq/L]。黒点は観測点、
星印は福島第一原子力発電所の位置を示す。東京電力および文部科学省公表データより
作図。
 
現在、文部科学省主導のもと独立行政法人海洋開発機構(JAMSTEC)の船舶により沖
合30kmでの観測が定期的に続けられているほか、東京電力により原発放水口、海岸、
および15km圏内での観測が継続され、原発周辺でのおおよその放出と拡散の様子を
知ることができる。また、4月25日以降、沿岸付近や茨城県沖での観測点が増やされ
ている。海水や魚介類のモニタリング体制は充実しつつあり、海水の採取は、これ
までの48地点から105地点へと倍増させ、魚介類も、調査対象を沿岸のものだけでな
く、サバやサンマ、サケなどの回遊魚にも広げ、漁期が続く12月まで行うことが発
表されている。

 しかし、以下の理由により、これらのモニタリングは決して十分ではない。
1.東日本の各県および近隣国や環太平洋諸国を納得・安心させるに足る広域での
  観測がない。
2.汚染水は海岸にそって南下する可能性が高く、イカナゴの汚染はこれを強く支
  持するが、茨城、千葉北部での沿岸モニタリングが系統的に行われていない。
3.海水のみが測定対象になっており、放射性物質の海底への沈着、食物連鎖を通
  じた移動・濃縮を評価するための試料の測定がなされていない(4月29日よ
  り底泥の測定も行われている)。
4.迅速な測定が可能なガンマ線を出す核種に限られている。
5.安全性の確認が優先されるため、迅速測定法における検出限界以下の低レベル
  汚染の測定がなされていない。長期にわたる生物濃縮や蓄積を考えると不十分
  である。
 以上のような背景から日本海洋学会は以下のような提言を行う。
 
観測海域

1.広域観測

 事故から2カ月以上が経過し、海洋に放出された放射性物質はかなりの距離を運
ばれていることが予想される。数値モデルによる予測ではいったん南下したのち北
上するケースと、南下したのち黒潮続流に取り込まれるケースがある。また、モデ
ルの予測計算結果と比較するために、JAMSTECが4月上旬に沖合30km観測点で放流し
たアルゴフロート(漂流型測器)の大半は、南に移動したのち黒潮続流に取り込ま
れ、東の海域へと急速に広がっている(図3)。従って、汚染の全体像を把握するた
めに、広域観測が必要不可欠である。また、日本は加害責任国として、広域での放
射線核種の分布を把握し、水産資源や生態系への影響を考慮する際の重要なデータ
を近隣諸国に対して提供する責務がある。このような観点から、本州東方の黒潮続
流域を含むおよそ500km四方の海域で、約50km間隔のグリッド観測を行うことを強く
推奨したい。図4は、その一例であるが、実際の観測点の設定においては、過去のバッ
クグラウンド測定が行われている観測点と一致させることや、数値モデル研究の専
門家からの提言を組み入れる必要がある。
 
図3 4月上旬に投入されたアルゴフロートの軌跡。色はフロート投入後の経過日数を表
す。矢印は海流の速さと向きを表す。JAMSTEC公開データより。
図4 提案する沿岸観測(赤線)および広域観測点(案)。色は水深を表す。

2.沿岸観測

 沿岸漁業の盛んな当該海域において海産物への放射能汚染が懸念される現状では、
時空間に密で詳細な汚染情報を示すための沿岸部のモニタリングが最も重要である。
前述のように沿岸域イカナゴから高い放射能が検出されている他、海面水温の衛星
観測により低水温帯が沿岸に沿って南に延びる様子が示されており、高レベル汚染
水が沿岸に滞留・南下している可能性が高い。それにもかかわらず、当該沿岸域で
の海水や餌となるプランクトンの分析はほとんど行われていない。そこで、福島県
南部から茨城県、千葉県北部にかけて海岸から東に伸びる観測線を数本設け、1km間
隔で観測点を配置する。また、放射性物質の海水懸濁粒子への吸着、沈降、堆積が
想定され、それらは底生生物を経由して魚介類を汚染する可能性があるため、海底
堆積物がたまりやすい場所があれば、観測点を追加する。

3.主要港湾におけるモニタリング

 東日本の主要港湾施設において、外国船が放射能汚染を恐れて、バラスト水を積
めないといった事態が散見される。これら港湾水の安全性をモニタリングと情報開
示によって保証することは、海運による流通を保障するだけでなく、食の安全とそ
の啓発にも寄与すると考えられる。主要港湾における1週間に1度程度の計測とその
情報開示をすべきである。
 
観測頻度および期間

 現在維持されている観測ラインに関しては、2週間に1回程度の観測が必要である。
広域観測はできる限り早急に一度実施し、さらに半減期の長い核種の濃度がバック
グランドレベルに戻るまで継続する必要がある。沿岸観測は食の安全には最も重要
と考えられるので、ライン(定線)観測と同様の頻度が望ましい。チェルノブイリ
事故では、海水の汚染ピークからスズキで半年、底生魚類マダラでは1年後に汚染の
ピークが観察されている。すなわち、食物連鎖や、底泥の汚染を通じて、時間差を
持って汚染が長期化することが考えられるため、底泥やプランクトンに関してはよ
り長期(放出終了から2年以上)のモニタリングが必要である。時間分解型セディメ
ントトラップ(沈降粒子捕捉装置)は表層での汚染の連続モニタリングと汚染粒子
の沈降過程を知る上で重要な観測であり、できる限り早い時期に、原発沖1000m水深
地点およびその南北に複数投入すべきである。
 
観測項目

 海洋大気エアロゾル、CTDO2、採水(1000mまでの基準層)、植物プランクトン(
懸濁粒子)、動物プランクトン(0ー200m層)、マイクロネクトン(オキアミや小
型魚類など)、沈降粒子、海底堆積物、底生生物を対象とする。海水試料に関して
は低濃度の測定に対応した採集および処理を行い(分析に関する提言参照)で、ヨ
ウ素-131、セシウム-134および137以外の核種も対象とする必要がある。福島沖大陸
棚は主に砂質であり採泥には適さない可能性が高いが、水深130ー140m付近は比較的
粒度が細く、採集可能と考えられる。
 
観測体制

 現在の海洋におけるモニタリングは、東京電力のほか、文科省がJAMSTEC保有の調
査船と研究船を用いて実施している。しかし、その観測体制は、放射能汚染の全貌
を把握するには不十分であり、派遣している最新鋭船舶の観測能力を100%活用して
いるとも言い難い。上述のようなモニタリング観測を実施するためには、航海や観
測情報の開示を行った上で大学の練習船、各省庁、地方自治体の調査船などを協調
的に投入し、効率的な観測体制を構築する必要がある。なお、大学や独立行政法人
においては、近年の運営費削減、燃油代の高騰により船舶を派遣したくてもできな
い状況が垣間見られることを考慮し、全国レベルで、若干の資金を投入し、海洋国
日本の名に恥じない観測・モニタリング体制を構築・推進すべきである。縦割りに
ならない、観測・モニタリング体制が構築できれば、全体としては、燃料の有効活
用とより効率的なモニタリングが実施できよう。

おわりに

 上に述べた観測・モニタリングの実施や得られた試料の分析には、日本海洋学会
員をはじめとする多くの研究者の協力が必要である。日本海洋学会は、会員のネッ
トワークを通じて、航海、分析機器、人材などに関わる情報を収集・公開すること
によって、効率的なモニタリング観測の実施に協力したい。さらに、会員や関連機
関の信託が得られるなら、航海や観測の企画調整を行う決意である。
 
                                   付記
                    観測サブワーキンググループメンバー
                            津田敦(とりまとめ)
                                 池田元美
                                 岡英太郎
                                 神田譲太
                                 才野敏郎
                                 升本順夫
 
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