[CML 009582] いま問うべきこと、加害責任と被害者補償

Yasuaki Matsumoto y_matsu29 at ybb.ne.jp
2011年 5月 13日 (金) 22:07:01 JST


《いま問うべきこと、加害責任と被害者補償》

5月12日
松元保昭@パレスチナ連帯・札幌 

もし、ある工場が爆発して街が炎上し死者も出て避難民が続出したとしよう。路頭に迷う避難民の救済に行政が動き、司法は管理責任、過失責任と被害者の補償を問うことになるだろう。工場経営者は刑法の業務上過失致死傷罪で逮捕され、経営陣はその補償・賠償に追われるだろう。もし大量の毒物を撒き散らしたとなれば、毒物の住民にたいする現在と未来の健康被害と影響を医学的・科学的に調査して、その予見しうる範囲で現在と未来にわたる補償を被害者は企業に求めることになるだろう。破壊された公共物は行政が当該企業に補償を要求し、近くに田畑があって火災や毒物によって作物や土壌に被害を及ぼしたならこれらの農業者も住民と共に当該企業に補償・賠償を要求するだろう。さらに「風評被害」なども含めて、考えられる二次被害、三次被害、多重災害についても当該企業への責任追及と損害賠償が求められるだろう。

素人としての民衆は正当にもそのような要求を加害企業に突きつけ、命と生活と健康の被害を補償させるだろう。まっさきに取り組まれるのは、責任主体の明確化と緊急な被害者救済、そして補償・賠償である。

いま東北地方では、突然故郷を奪われ、現実と将来を奪われて路頭に迷う何十万人の避難民、生業を奪われた農民、漁民、食品流通業者など自営業者、水産物や農畜産物の輸出業者、温泉などの観光業者、友だちを奪われ校庭や山や海で遊べなくなった子どもたち、など計り知れない人々が被害者になっているはずである。さらに全国に広がる被曝を恐れる幾百万の人々をあげれば、その被害補償と賠償は東電の全資産がいくつあっても足りないだろう。しかしいまその責任と賠償、救済の範囲はまったく目処が立っていない。

1984年にインド・ボパールで米国ユニオン・カーバイド社の現地資本の殺虫剤工場から何千トンもの有毒ガスが流出し、町を一瞬のうちに汚染した。事故直後に7000人以上が、その後1万5000人以上が死亡し被害者は50万人以上にのぼったにもかかわらず、30年以上経ったいまでも汚染物質は残ったまま、流出事故の正確な被害は調べられておらず10万人以上が必要な医療を受けられていないという。

この「ボパールの悲劇」の直後、同社は工場地域の汚染を十分に除去せずボパールを去り、2001年ダウ・ケミカルの子会社となって企業責任は曖昧のままである。1991年、ボパール裁判所がユニオン・カーバイド社のウォーレン・アンダースン社長に過失致死の容疑で出頭を命じたものの、米当局は同社長の身柄引渡しを拒否。同社は、インドの裁判所には「米国のような適正手続の基準がない」と主張。2004年から始まったインドの公益訴訟で、高裁は政府にボパールの汚染除去と救済を命じたが、政府は実行していないという。結局、50万人以上の被害者は、泣き寝入りさせられたままなのである。

かように企業責任を問うことは容易でない。今回、原子力損害賠償法の但し書き免責事項がひとつの焦点ではあるが、多重広域にわたる被害範囲の責任主体はまだまったく不明のままである。被害者の救済と賠償こそが問題であるが、放射能被害の法的未整備に加え、「挙証責任」や「立証責任」をともなう民事訴訟が待ち構えており、今回のような広域多重災害の場合、おそらく法律家もその困難を予想しているのではないだろうか。さらに、今回の原発事故は国策として推進してきた日本国政府と電力業界全体、プラント製造大資本にも及ぶ構造的な過失責任でもある。大量の被害民衆は、国家と日本経済の中核的大資本を相手に、国家賠償法という高いハードルを乗り越えて納得のいく正当な補償と賠償を勝ち取らなければならない。

敗戦間もないころ全国各地に米軍の空襲が続いた。東京、名古屋、大阪をはじめ地方都市のほとんどが空襲を受けとうぜん住民に甚大な被害を及ぼし塗炭の苦しみに突き落とした。そしてその無差別爆撃はヒロシマ、ナガサキの原爆投下というかたちで頂点に達した。東京大空襲をはじめ何十万という犠牲者、何百万という被災者がその後補償・賠償されたという話はきかない。25万人もいるという原爆被爆者でさえ戦後半世紀の闘いで原爆症認定のようやくわずか1パーセントにも満たない2200人が被爆者援護法の支援に与っているだけである。無論、被爆した朝鮮人、韓国人、中国人は除外されたままである。

一方では、孫子の代までつづく手厚い軍人軍属の「恩給」と「遺族年金」が年間一兆円も支出されていて、日本支配層最大の支援団体日本遺族会がはたした役割は周知のことである。結局ここでも日本の民衆は泣き寝入りさせられ、その後の原爆訴訟、水俣訴訟、あるいは数々の戦後補償を要求した訴訟のように、半世紀もの長い闘いにもかかわらず獲得したものは僅かか皆無に等しい。それほどに国家に責任をとらせることはむつかしい「民主主義」の国なのである。

こうした政治風土は明治の大日本帝国から根をおろし、日本の民衆が「国家責任」を追及しきれず「天皇免罪」「一億総懺悔」の曖昧さに貶められた「戦後」もなおこれを引き継いでいる。すなわち「挙国一致」でなしたことは「無答責」であるという歴史的な一大経験が、日本では本当に国民の底から問われたことがないのである。だから憲法施行後70年も経とうというのに、底辺からの国家の責任追及はついに為し得なかったという似非「民主主義」の国として生きてきた。アイヌ、沖縄、在日という「他者」を犠牲にしてきた歴史の必然的な姿である。

今回のようにすでに半世紀にもわたって歴代政府が「国策」として推進してきた原子力行政の「責任者」は誰であるかと問われると、政権を支持受容した「国民」であるほかなくなるというわけである。子どももふくめて国民は、国家の既存の施策を放射能もろとも黙って飲み込んで受忍せよといわんばかりである。このように、この国の「民主主義」は民衆がそれを獲得しようとすると、司法権力などで押しつぶされ、国家施策の「方便」として利用されてきたのが実態である。

たとえば、原発の危険性については専門家もふくめ全国各地で多くの人々が合理性と妥当性をもって長年公然と指摘し反対してきた。内閣府原子力委員会などがいまさらながら国民の意見など集めなくとも、れっきとした市民たちが堂々と反原発、脱原発を訴え主張してきたことなのだから、虚心に拾い集めて勉強するのは内閣府のほうなのだ。「民主主義」の振りをして、何千億ものカネを浪費してみずから捏造した「安全神話」で市民の声を圧殺してきたのは、政府や原子力委員会ではなかったのか。

しかも三拝九拝して毎年数千億円も貢いでいる同盟国の親分(米国)が「民主主義」の名のもとにカイロのタハリール広場に集まっている大群衆を支持しているのに、この危難のときに街頭に出て子どもでも納得する「原発反対」を訴えている若者を逮捕するような国家が、どうして民主主義なんかであろうか!

このたびもまるで「責任者」がいないかのような論法が事故直後からあった。案の定「未曾有の災害」「想定外の事故」と叫び、「今は被害者も加害者もない、国を挙げて困難を乗り切ろう」と「がんばれ!日本」のキャンペーンをすぐに始めたのはほかでもない政府と推進派の連中だ。一致したねらいは、まさに責任の曖昧化。

「責任」が明確でないところでは、とうぜん「反省」も「補償」も「賠償」も曖昧にされる。今回の政府、東電の一貫した「過小評価」と「情報隠蔽とデータ隠し」「放射線量、放射性物質の計測サボタージュ」などの情報操作には、つぎのようなねらいが潜んでいるとみるべきである。その戦略は、原発推進政策の存続と被害者賠償の最小化、そして責任主体の曖昧化である。内部被爆や低線量被曝を「基準値」から除外しているICRPやIAEA、そしてWHOでさえもその疫学調査をサボタージュして民衆被害に背を向けている現状では、民衆が望むような賠償責任を「立証」することはとてつもない困難をともなうだろうことは火を見るよりも明らかである。

いま大事なことは、大気中、海洋に放出され続けている累積する大量の放射能汚染から出来る限り住民のいのちと健康を守ることであり、避難民をはじめ農水畜産業者の緊急生活救済であり、広範囲におよぶ多重災害の責任主体の明確化である。これらのために、法律家や医師、原子力研究家をはじめ「知識」に従事してきた専門家と呼ばれる人々は、災厄に見舞われている民衆救済を手助けする義務があると、私は思う。加えれば、繰り返されている過小、隠蔽、すり替え、誤魔化しなどの言説批判も文系専門化にはお願いしたいところだ。

いまこそ民衆のちからが試されている。この苦難の人々を救う手助けができるかどうか、市民運動も試されている。いま必要なことは、国民を騙して原発を推進してきた政府、電気事業者、プラント製造企業、それらに巣食ってきたメディアからヤクザまで、これらのものの責任を明確にする作業であり、被害賠償要求の広範囲の集約と団結であろう。あるMLでは国民投票が提起されたりしているが、いま求められていることはそのような目先の効果論ではなく、上記のような原則論に着手することであると私は思う。すでに政府は増税を、東電は料金値上げで、国民にツケを回すかたちで乗り切ろうとしている。その前に、本来あるべき責任の所在と広範な補償と賠償の要求を突きつけることこそ、私たち民衆の役割ではないか。「反原発放射能被害者全国同盟」のようなものを早急につくって被害者救済に着手すべきときだ、と私は思う。


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